特異点の勇者達、更新してます。
アバンタイトル
「ハアッ、ハッ・・・・・・ハッ・・・・・・!!」
1人の女が無我夢中で駆けていく。
視界は不良。濃い霧に囲まれた都は、もうずっと冷ややかだ。
「何なの、この霧・・・!からだの・・・力が、どんどん・・・抜けて、いく・・・・・・」
とうとう膝から崩れ落ちて、固い地面に体が叩きつけられる。
荒い呼吸を繰り返す体では、起き上がることすら出来なくて。
「――――ごめんね」
声がする。
ぶわりと倍増した恐怖と、震えを増した四肢。
「えっ・・・い、いつの間に・・・・・・?あ、ああ・・・・・・。・・・・・・いや、いや、来ないで・・・・・・」
ずっと自分を追ってきていた、誰か。
ずっと自分を見ている、何か。
「あああ、いや、来ないでよぉ・・・・・・!何なの・・・・・・何なのよ!」
「ごめんね、おかあさん。ごめんね」
振りかぶられた影の形に、声にならない悲鳴が飛び出る。
「でも帰りたい・・・・・・。帰りたい、帰りたい、帰りたい、帰りたい、から・・・・・・」
「いや――――やめて、やめてやめてやめてやめて!」
「わたしたち・・・・・・とっても、とっても・・・・・・帰りたいから、ね・・・・・・?」
地面を汚す、赤い液体。
腹を裂かれた、女の亡骸。
「ごめんね」
ぱちん、とシャボン玉が弾けるように。
立香の意識は浮上した。
「――――おはようございます、先輩」
「・・・・・・ましゅ?おはよう・・・」
顔をのぞき込んでくる後輩に、立香はとろりとした返答を返す。
もぞもぞと起き上がる様子を確認してから、マシュは再び口を開いた。
「・・・よかった。なんだか、うなされていたようですので・・・。またお目覚めにならなかったら、どうしようかと・・・・・・」
「そう?・・・心配かけてごめんね。フォウくんも居るから、もう大丈夫だよ」
「それなら、良かったです。今朝はミーティングの予定が入っていますので、朝食はお早めに」
監獄塔から帰ってきて、早数日。
ベッドに潜り込んで一緒に寝ていたフォウが、眠たそうに鳴く。
先に食堂へ向かったフォウとマシュを見送って、立香もゆっくりとベッドから立ち上がった。
「ねえ、アヴェンジャー。怖い夢を見たよ。ホラー映画の導入みたいな・・・」
「意識だけが飛んだか?どちらにせよ、今のお前に干渉できることではない。忘れておけ」
ずるり、と影から男が現れる。
監獄塔から帰ってきた夜、夢の中で再会したアヴェンジャーだ。
「ずっとおまえの側に居る。何かあればオレを呼べ」
そう言って、英国紳士のようなキスを手の甲へ送られた。
驚きと恥ずかしさで勢いよく目を覚ました立香は、しばらくベッドから起き上がれなかったものだ。
それにどうやら、カルデアのサーヴァントとして現界している訳ではないらしい。
カルデアのデーターベースには、立香が話した情報しか記録されていなかったからだ。
言った方がいいのかな?とも思ったが、千里眼持ちの英雄王が何も言ってこないのだ。ジャンヌ・オルタと所長にだけ話し、あとは秘密。女の子の秘密にした。
・・・そういえば、なんで監獄塔に行ったんだっけ?アヴェンジャーは時系列の因果が乱れているから、忘れるのは道理って言ってたけど。
「おはよう、諸君。まずは前回得た情報の解析結果からいこうか」
「七十二柱の魔神・・・・・・そう呼ばれる召喚術を使ったという、ソロモン時代の観測、ですね?」
「そうだ。結論から言うと、ソロモン王時代に異変はなかった。紀元前10世紀頃に特異点は発生していない。これがどういう事かというと・・・・・・」
早朝の管制室には、サーヴァント達も集まっていた。
新たに召喚されたケイローン、アスクレピオス、項羽、についてきた虞美人。
「まことに遺憾だけど、ロマニの言うとおり、七十二柱の魔神を名乗るモノたちとソロモン王は無関係という事さ」
「もしソロモンが七十二柱の魔神を使役しているのなら、必ずその痕跡が観測される。紀元前10世紀から未来に向けて使い魔を放っている、という流れがね」
しかしソロモン王の時代には何の異常も見られない。
つまり彼の時代は“正しい人類史”のままだ。
「だから――レフ・ライノールや魔神を名乗る連中は、まったく違う“何処かの時代”から現れている。なのでソロモン王と彼らは無関係だ。まあもっとも――――」
「・・・・・・ソロモン王がサーヴァントとして誰かに使役されていた場合は別、ですね?」
マシュがすっと挙手をして発言する。
ダ・ヴィンチちゃんが頷いて、言葉を続けた。
「そうそう。立香ちゃんのように、自分の時代でソロモン王を使い魔にすればいい。そうすれば“七十二柱の魔神”も配下に出来る」
「でもそれは・・・、七十二柱の魔神なんて使い魔が、本当に実在するのなら、の話でしょう?」
「だいたいソロモン王がそんな悪事に負担するとはボクは思えない」
「やけにソロモン王を庇うわね。サーヴァントは基本、マスターには従うものだと思うけど」
オルガマリーの指摘に、ロマニはどことなくもどかしそうに唇をとがらせた。
「カルデアの召喚システムはマスターと英霊、双方の同意があってはじめて成立するものだ。そんな悪人にソロモン王は呼べないよ」
「ああ、それはそうか。私も同意したからカルデアに来たのだし」
「ダ・ヴィンチちゃんは第三号だっけ?」
「そうそう」
うろ覚えの記憶だが、なんかそんなこと言ってたような気がする。
「第二号は君の目の前に居る。マシュちゃんだ。第一号は・・・・・・現時点では不明だね」
「? 所長も知らないの?」
「・・・・・・第一号と第二号は機密事項として扱われています。詳細は先代所長しか知りません」
探しても探してもその資料は出てこなかった。
おそらく先代の死と共に、闇に葬り去られたのだろう。
なんとなくこわばった空気になってしまった。払拭するようにロマニが声を張る。
「さて!どうあれ残り四つの特異点、このいずれかに黒幕が潜んでいる可能性は高い。では今回のオーダーの詳細を説明しよう。第四の特異点は十九世紀だ」
文明の発展と
産業革命という、決定的なターニングポイント。
絢爛にして華やかなる大英帝国。首都ロンドン。
「いいなぁロンドン。霧の都。可能なら、ボクも行ってみたかったなあ。シャーロック・ホームズに会ったらサインとか」
「ロマニ。旅行ではありません」
「う、うん。分かってますよ所長」
「それと、もう一つ。シャーロック・ホームズは架空の人物です」
「マシュだってファンじゃないか!」
「・・・ファンではありません。その頭脳を尊敬しているだけです」
それは・・・ファンなのでは?
ケイローンにひっそり耳打ちすると、そうですねと微笑まれた。
『アンサモンプログラム スタート。霊視変換を開始 します
レイシフト開始まで あと3、2、1・・・・・・
全行程
グランドオーダー 実証を 開始 します』
第四特異点 死界魔霧都市 ロンドン