「・・・・・・ったく。また来たぞ。宝具を好き勝手にぶっ放せりゃあな」
「ここは街中です。すみませんが、短気は抑えて下さい」
「わかってるよ盾ヤロウ。ああもう、何か、おまえに言われると変な気分だ」
「待ってください。盾ヤロウ、とはわたしの事でしょうか・・・!?」
この程度の戦闘は手慣れたものだ。
それでも、次々に来られると辟易してしまう。
「あー?だって盾ヤロウだろ、おまえ。盾で守って、盾でぶん殴ってるんだから。それとも盾オンナの方がいいか?」
「モードレッド卿、彼女の名前はマシュ、ですよ。妙な呼び名を付けては失礼です」
「うるせーぞ槍ヤロウ!黙って敵を片付けてろ!」
「(反抗期の兄と妹・・・?)」
場所がロンドンならば―と挙手をしてきたパーシヴァルを加えて、一行は敵を蹴散らしつつ進む。
左右からの
「・・・あの、少しだけお話し、良いでしょうか。・・・・・・ええ、と」
「何だ。ハッキリ言え。言いたいことがあるならまず言えって」
「・・・・・・はい。あなたに質問があります。あなたは、何故、ここで戦っているのですか?」
その言葉に、立香とパーシヴァルも視線を向ける。
「ミスター・ジキルは故郷の都市を守るため、と。では、あなたは何のために――」
「父上の愛したブリテンの都市、ロンディニウムの危機に馳せ参じた。に決まってるだろ?」
「ええ、と・・・その・・・・・・。はい、それはそうなのでしょうが・・・」
言葉を選ぶように、マシュが視線を彷徨わせる。
マシュが何を言いたいのかをかすかに理解して、パーシヴァルは胸中で苦い顔をした。
「怒らないで聞いて欲しいんですが、何故か、私・・・・・・何か・・・違うような気がして」
それはマシュの中に居る、サーヴァントの言葉だったかもしれない。
モードレッド卿がそんなに素直で安直な理由で来るわけないだろう、という経験則からの。
「・・・・・・ったく。わかったよ。ジキルにも言ってねぇんだけどな、コレ」
まあ
モードレッドはいっそ軽快な笑みを浮かべて、朗らかに言った。
「オレは――ああ、
「・・・・・・」
「モードレッド卿・・・・・・」
絶句する立香と、難しい顔をして眉間を揉むパーシヴァル。
そんな2人を見て、モードレッドは得意げに笑った。
「貴公がそういう人格で・・・そのような性質の英霊であることは理解していたつもりだったが・・・・・・」
「
「いいの?」
「ああ。オレは叛逆の騎士モードレッド。でもな、今回は特別に守る側に回ってやる」
目を閉じれば思い出す。
欲と憎悪に満ちた母の顔。理想の王ではあったけれど、父ではないと拒絶したヒト。
飢えと戦で傷ついていく大地で、人々が縋っていたのは聖杯ではなく、たった数冊の小説。
誰も彼もが、勇者の再来を待ちわびた。けれどこの地に君臨しているのは、魔王ではなかったから。
「ようやく持ち主に相応しいのがやってきたんだ。聖杯はくれてやるよ」
「??」
「卿、貴公は・・・」
「それ以上言うな。お喋りはこのへんで終わりだ。蒸し返すなよ」
「――ええ。マスター、敵が接近しているようです」
「了解。マシュ、行こう」
そうあるべきと造られた。我こそは叛逆の騎士。予言通りにブリテンを穢して死んだ。
けれど、それは生前の話だ。
悲しいかな。あの物語のすごさに気づいたのは、勇者の偉大さに気づいたのは、死んでサーヴァントになった後。
いつかの誰かと、駆け抜けた聖杯戦争の最中。
選定の剣を
「よっし、到着したな。このでかい建物がヴィクターのじいさんの屋敷だ。ジキルみたいな半端な奴とは違って、正真正銘の魔術師だから気を付けろよ」
大きな門ごしに見る限りでも、結界やらトラップやらが所狭しと仕掛けられている。
これではサーヴァントでも痛い目を見るだろう。なかなか、肝の据わりすぎた用心深い老人が住んでいるらしい。
「まずは入り口の扉だ。ほら、見ろよ。でかい扉の―――、・・・――クソ、遅かったか」
「マスター、私の後ろへ。サーヴァントです」
「あれは
大柄で威圧感のある男が、建物の入り口に立っていた。
角の生えた帽子に、紫の髪。原色だけを使った奇抜な衣装。青い口紅の塗られた唇が、軽薄に歪んでいる。
「おい、そこのカカシ。それともリビングスタチューか?どっちでもいいや。おまえさ、アホみたいに匂うぞ。血と臓物と火の匂いだ。後、じいさんの好きだった元素魔術の触媒」
モードレッドが剣を構えた。パーシヴァルが槍を向け、マシュがサポートできる位置に動く。
三騎から警戒と殺気を受けても、男の笑みが崩れることはない。
「殺したな、おまえ。ヴィクター・フランケンシュタインを」
「ええ、はい――ああいえ、どうでしょうか。少しお待ちくださいませ。確かに、確かに。かの老爺は二度と口を開かず歯を磨かず物を食べず、息をしないでしょうけど」
くるくると目玉が動く。
ぺらぺらと口が回る。
「ええ、ええ、有り体に言えば絶命しているのでしょう。残念なことです。彼は「計画」に参加することを最後まで拒んだ。しかししかし。だが、けれどもしかし。誰がヴィクター・フランケンシュタインを殺したか?」
大げさに手を広げ、政治家のように明るく語る。
憂いたように肩を落とし、沈痛な面持ちで語る。
「それはとても難しい質問かもしれません。何故なら、彼は
「・・・・・・ッ!」
『爆発・・・!?』
「おやおや。美しいお嬢さんを怖がらせてしまいましたか?これは失礼いたしました。わたくし、見ての通りの悪魔でございます――というのは冗談でして、ご期待に背くようで残念ですが、英霊にございます」
人をおちょくり絶望に落とす。当たり前のように裏切って殺す。
まさしく悪魔。最悪の悪魔!
「貴方様と同じくサーヴァント。クラスはキャスターでございます。・・・・・・おや?おやおや皆様、おわかりでない?」
「もういい、黙れ」
「いえいえ、おわかりでしょう。何故わたくしこうも容易くクラスを明かしたか?この聖杯戦争ならぬ聖杯戦争では道理というもの。少なくとも、そちらのお嬢さんはおわかりでしょう!」
けたけたけた、悪魔が笑う。
勝っても負けても怪人は困らない。
人心をかき乱し、顔を歪ませ、その愉悦に浸れれば!
「遭遇!すなわち即座の総力戦!我らはマスターなきサーヴァントなれば、およそ地上に在って最強の戦力と呼べましょう。しかし・・・そちらには哀れにもマスターがいる模様。ようくお守りなさい。でなければ、あっという間に・・・・・・」
「御託はいい。そのニヤけた口元を今すぐに
「はい?」
「ニヤニヤニヤニヤと!鬱陶しいんだよ!ジジイを殺るのがそんなに楽しかったのか!」
苛立った顔のモードレッドが、地面を踏み鳴らした。
鈍い金属音が男を責める。悪魔はこてりと首を傾げて、邪気のない声で言った。
「まあ、ええ。我らの計画を拒む者なれば、まあ、言ってみれば仕事のようなものでしたので」
「計画・・・?」
「ねばならない、というのは、また、これでなかなかに厄介なもの。ええ、実に。ですがそれでも、極力、楽しむ。仕事をたのしむ。そのためにあれこれ苦心しましたから。最後の瞬間のあの、表情。生から死への切り替わりを理解してしまった人間の顔!」
段々と大きくなっていく声が、怪人の感情の高ぶりを表している。
「絶望!嘆き!ああ!それこそが――!というわけで、まあ、ええ――――退屈しのぎ、程度には?なりました、でしょうか?」
「・・・・・・そうか。移民だろうが何だろうがあのジジイもブリテンの民だ。いいか、それを、テメェは・・・無断で
「はて?」
「おまえを殺す、って言ってんだよ。道化野郎!」
言い終わる前に悪魔が飛び退く。
煽るような大げさな仕草。
「いやはやなかなか!殺しますか、私を!殺せますか、私を!貴方様は血の気の多いお人であるようだ!よろしい、ええとも、ではご期待には応えましょう!せいぜい、爆発にはお気を付けくださいませ!我が宝具は既に設置済み!」
「・・・!マシュ!防御を!」
「我が真名メフィストフェレスの名に懸けて!皆様を面白可笑しく絶望に叩き込んでくれましょう!」
モードレッドが魔力放出でメフィストフェレスに飛びかかるのと、パーシヴァルが立香から飛び退くのはほぼ同時だった。
破裂音が耳を劈く。マシュの盾の中に庇われた立香は、爆風に肩をすくめた。
「時に煙る白亜の壁――。マスター、ご無事ですか?」
「うん・・・何がおこったの」
「モードレッドさんとパーシヴァルさんの付近・・・体内・・・?で、爆発が起こったように見えました」
『霧のためか敵の能力なのか、感知不可能!立香、マシュから離れないで!』
「了解・・・!」
爆発により加速を止められたモードレッドが、忌々しそうに舌打ちをした。
「パーシヴァル!敵を引きつけろ!」
「了解!
「イヒヒヒヒ!お言葉に甘えてェェェ!」
刀剣のように鋭く、刃の異様に長いハサミがパーシヴァルを切り刻むために振るわれる。
槍で捌き、弾いて、胸を貫くための突きは、感じた悪寒にすんでの所で止められた。
「イヒヒヒィ! ヒヒ、勘がよろしいことぉ!」
「くっ・・・!」
「さァァて! ご覧あれ!
「させるかよ!!」
フィールドに仕込まれた宝具――
魔術回路やサーヴァントの霊基に意図的なバグを仕込み、衝撃を与えることで破裂させる呪術の一種だ。
呪いに対する耐性で判定を行うため、パーシヴァルもモードレッドも体内のものは一つしか爆発しなかったが、フィールドに設置された分は別だ。いつの間にか周りを囲まれている。
「オシリスの塵――。モードレッド、お願い!」
「おうよ。くたばりやがれ!ゲス野郎!」
「ヘェーッヘヘヘヘヘェ!」
呪術などものともせず。モードレッドが踏み込む。
突撃、一閃!道化師の首が落とされた。
怪人の体がぐらりと傾き、倒れる。同時に宝具も消えていく。
「ふふふはははっ死は終わりではない死は消滅ではない死はぁ――――」
「マスター、無事ですか?」
「うん、マシュが守ってくれたから大丈夫」
メフィストフェレスは笑っている。悲しそうに嬉しそうに。
「実に、実に・・・口惜しい・・・・・・!今回の現界ではそれほど楽しめませんでしたね・・・。やはり、マスターは必要なのでしょう・・・。そう、マスターとサーヴァントの絆の力がどうこう・・・ではなくて。ええ、そうではなくて」
「・・・・・・」
「切なる願いを叶えると決めたマスターに子供1人くらいは手に掛けさせなくては、ね。聖杯戦争の醍醐味を味わえないというもの。ああ、貴方様が妬ましい・・・盾のサーヴァント・・・」
突然水を向けられて困惑したマシュを庇うように、パーシヴァルが立つ。
モードレッドが剣を向けても、怪人の口は止まらない。
「貴方は、これから先、幾度でも・・・・・・。マスターを裏切り、絶望へ落とす機会がある・・・・・・!なんと・・・妬ましい・・・!」
「黙れ」
「そうだね。悪魔にこんなことを言っても無駄だと思うけど、負け惜しみにしてはみっともないよ」
涼風のような声が、淀んだ空気を吹き飛ばした。
霊子の粒となって消えていく、悪魔を見送る者は誰もいない。女性とも男性とも思われる声に、皆一斉に意識を向けたからだ。
「こんにちは、皆さん。こんばんは、かもしれないけど」
「・・・・・・ええと、こんにちは・・・・・・?」
金髪青目の佳人、青髪青目の少年、銀髪ゴスロリ少女、白いドレスを着た虚ろな瞳の少女が、現れた!
○ウルフ 一応理由を聞いていいすか。なぜ女性に?
○災厄ハンター 俺もそのスキル持ってるんですけど
○奏者のお兄さん 俺も・・・・・・
○うさぎちゃん(光) ボクも持ってる
○フォースを信じろ 性別を誤認されたことのある三銃士!!
「まず伝えなくてはいけないことがあります。ヴィクター博士は生きてるよ」
「えっ」
「あのサーヴァントが屋敷を襲っているところに、ぼくたちが通りかかってね。博士を死んだふりで逃がしたんだ。その際に託されたのがこの子、人造人間のフランちゃんです」
「ちょ、ちょっとまって。早い早い。話が早い」
金髪の佳人にくっついている桃髪の少女は、人造人間らしい。人造人間?
確かにその情報も大事だが、その前に聞かなきゃいけないことがある。立香は両手をぱたぱたと振って、少女達に尋ねた。
「貴女たちは、サーヴァントでいいんだよね。フランさん・・・はともかく」
「そうだよ。ぼくはキャスターさ。そしてこっちが――」
「ハンス・クリスチャン・アンデルセン。なかなかいい戦いぶりだったぞ。円卓の騎士の名は伊達ではないな」
「こんにちは、素敵なあなた。夢見るように出会いましょう?わたしは
○災厄ハンター まあいいんじゃないすか。女性のほうが有利なときもあるし
○フォースを信じろ 淑女の服を普段着にしてたタイプの勇者!!
○奏者のお兄さん 確かにマスターも女性の方が安心することもあるだろうし
○海の男 顔の良さで人生を乗り切ってきたタイプの勇者!!
○うさぎちゃん(光) リンクが美しいのは世界の共通認識なので
○いーくん ドレスを堂々と着れるタイプの勇者!!
取りあえず、落ち着くためにもジキル博士の所に帰ることになった。