「スコットランドヤードは残念だった。旅を続けていれば、こんな出来事もあるでしょう。君たちが責任を感じすぎることはないよ」
「・・・うん」
「Pに逃げられたのはムカつくが、相手の戦力が削れただけよしとするか」
濃い、濃い血の匂いがする警察庁は、霧に冷やされて温度を無くしていく。
分厚い霧の向こうには、きっと夜空が広がっているのだろう。星も照らしてくれない帰路を、四人は歩いて進む。
○騎士 その前にモードレッドが爆発しそうだな。気難しい子だ
○奏者のお兄さん まあ・・・簡単な子ではないよね
「おいマシュ。なに辛気くせぇ顔してやがる。こっちの気分まで落ちるだろーが」
「・・・すみません、モードレッドさん」
「どうしたのマシュ。つらい?」
歩き始めて数分も経たずに、マシュの暗い雰囲気を感じ取ったモードレッドが詰め寄る。
マシュが沈んだ声で謝罪を返すと、さらに苛立ったように舌打ちをした。
「オレが何かしたみてーだろ!うじうじしやがって」
「モードレッドが怒ってどうするの。マシュ、私にも話せないこと?」
「いえ、先輩。そんなことは。・・・・・・あの、わたし」
「うん」
今にも導火線に火が付きそうなモードレッドを、立香が二人の間に割り込むことで抑える。
マシュは二人の顔を交互に見て、ゆっくりと口を開いた。
「先ほどの戦いで、先輩のことを守りきれなくて、すみません・・・・・・」
「・・・確かにキャスターがフォローに入らなかったら、コイツやばかったな」
「え、でも、・・・んん」
「立香。こちらにおいで。二人で話させてあげよう」
立香が返答に困ったのを見て、キャスターが声を掛けた。
少女は呼ばれた方に顔を向けて、迷うような瞳を見せる。それでも手招きすれば、側に寄ってきた。
「デミとはいえサーヴァントだろ。こんなんでこの先マスターを守りきれんのか?」
「・・・っ」
「その盾構えろ。鍛え直してやるよ」
言うが早いか、剣が唸る。
反射的に盾で受け止めて、衝撃を体で散らした。
「生意気にもオレの初撃を受けやがったか!ようやくらしい使い方をしやがったな!」
「モードレッドさん・・・!」
「戦え!強くなれ!死んでからじゃ遅ぇーぞ!!人間の命は1つしかねぇんだ!」
「――――――」
「お前は立香のサーヴァントなんだろ?なら命がけで守りやがれ!その盾を持っておいて、守れませんでしたは通用しねぇぞ!!」
ちりっと灯った炎は悔しさ?まだ死んでない瞳が燃える。
噛み切れない後悔なぞ捨て置けよ。お前ならきっと出来るから。
「・・・マシュ!頑張れ!」
「・・・はい!マシュ・キリエライト、戦闘を開始します!」
○災厄ハンター 熱い展開だな・・・
「それでいい。行くぜ盾ヤロウ!仲間を守るときは限界より常に一歩前に出る、だ!その宝具を使うってんなら気合いを入れろ!先輩サーヴァントとして、徹底的に鍛えてやる!」
○ウルフ 青春じゃねぇか・・・
魔力放出で加速する太刀筋。今までに戦ってきたどの剣士とも違う。
あえて近いものを上げるとしたら、ジークフリートやパーシヴァルだろうか。しかしその二人は剣(槍)の型が体に染みついている。モードレッドのように乱暴にはなれない。
ひたすら実戦本位の効率的な剣技。蹴るし踏むし投げる。形に囚われない、といえば聞こえはいいが、騎士としての礼節はかなぐり捨てている。
それでも圧倒的に強いから、円卓の騎士であるのだが。
「くたばりやがれ!」
「くっ・・・!」
ヘクトールに習った守り。ケイローンに教わった動き。ヘラクレスの攻撃よりは受け止められる!
訓練の通りに。トレーニングと同じように。
知らず知らずのうちに少女の中に積み重なっている経験が、困難に立ち向かうたびに発芽する。
鈍い音がぶつかり合う、戦闘音は長く続かず。モードレッドが剣を構えた。
「耐えるじゃねぇか。いくぞ盾ヤロウ!蹂躙してやる!」
「はい!宝具、展開します――!」
赤雷。魔力が迸る。
誇り、執念、怨念、憎悪、怒り。
モードレッドの全てがこの剣にはある。一言でも二言でも言い表せない激情。
でもそれは、いつかの誰かに受け止められたのだ。
もう顔も思い出せない、気高き獅子よ。お前が探していた勇者の魔法はなかったし、煌めく聖杯も手に入らなかったけど。
この誓いが確かに、お前とオレの戦いの証明。いつか勇者に出会えたら、お前の分もサインを貰っといてやるよ。
「我は王に非ず、その後ろを歩む者。彼の王の安らぎの為に、あらゆる敵を駆逐する!
「真名、偽装登録。
かつては、ブリテンを守った城。
かつては、ブリテンを滅ぼした邪剣。
ぶつかり合うのは誇りと意地。どちらも引かぬ。諦めぬ。
――――しかし終わりはやって来る。モードレッドの宝具は持続力ではなく、爆発力の宝具である。
赤雷は収束し、突き刺すような殺意が収まる。どれほど膨大な魔力の奔流であっても、白亜の盾は揺らぎもしなかった。
「はあ・・・・・・ぁ、っ・・・・・・!」
リンクの後ろに庇われていた立香は、いつの間にか彼の腕を強く握っていた。
マシュが負けるなんて思っていなかったけど、それでも不安が完全に消えるわけではない。固唾をのんで見守っていた。
「せん、ぱ、い――――良かった。見ていてくれました、か・・・・・・?」
「うん・・・!見てたよ、マシュ・・・!」
「戦闘、終了、です――わたし、ちゃんとモードレッドさんの剣を、受け切れて――――」
呼吸が荒くて、でも、晴れ晴れとした顔の少女がそこに居る。
管制室ではパーシヴァルが目頭を押さえていた。色々と堪えきれなかったらしい。
「で、どうだマシュ。その宝具の使い方、少しは分かったか?」
「はい・・・ありがとう・・・ございます・・・。なにか、こう――心の枷がひとつ、外れた気がします。クー・フーリンさんの魔術以来の、スパルタでした・・・」
○うさぎちゃん(光) もうエンドロールが流れそう
○りっちゃん いや泣く・・・
「ったく。他人に剣を教えるなんてオレの柄じゃねぇぞ」
照れ隠しなのか、ぷいと顔を背けてさっさと歩き出す。
その後を追いながら、立香がマシュの元に駆け寄る。管制室ではなぜかネロとティーチがもらい泣きをしていた。感動したらしい。
カップからふわりと湯気が立つ。窓の外が魔霧に満たされていても、時計の針は止まらない。
長針と短針が文字盤を泳ぐのを、リンクは頬杖を突いて見守った。
「勇者様はお眠かしら」
「どちらかというと、お暇かな。こんなことを言ったら、怒られてしまうかもしれないけど」
「そんなつまらんことをいう奴がこの部屋にいるものか。・・・というか、お前の話はどれもこれも面白いな。いや分かってはいた。分かってはいたんだ」
「ペンがずっと動いてるね」
「このオレがだぞ!?自分で自分が信じられん!締め切りもないのに!自主的に文字を紡いでいる!」
膝の上に乗せたナーサリーの髪を梳きながら、リンクは欠伸を噛み殺す。
立香達が仮眠を取っている間、リンクはアンデルセンのインタビューを受けていた。創作意欲が大いに刺激された大作家は、先ほどからイキイキと手を動かしている。
「この原稿は必ず座に持ち帰るぞ。それくらいの報酬はあって然るべきだ」
「書き終わったらぼくも読んでいい?」
「私も読みたいわ!アンデルセン版“ゼルダの伝説”なんて、きっと雲雀も飛び起きるわ!」
ナーサリーとリンクがそう言うと、アンデルセンはまんざらでもなさそうな顔をした。
「まあもし書き終わったのならば。どうしてもと言うのなら、読ませてやらんこともない」
「うん。頑張ってね先生」
「――――――なんだよフラン。そんなに引っぱんなって」
扉の向こうから話し声。
壁に耳も障子に目もないが、なんとなくこの後の出来事が予想できて、リンクはナーサリーを抱えて座り直す。
「ウゥー」
「あん?」
「こんばんは、モードレッド」
開いた扉の向こうに鎮座する、うつくしい男。
手を引いてくれたフランの純白のドレスが、視界の端できらきらと光った。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ふぇっ?」
フランがモードレッドをリンクの前に連れてくる。
リンクが彼女と出会った当初は、背中からずっと出てこなかったのに。
今、ぐいぐいと遠慮無くモードレッドを引っ張る姿は、世話焼きの姉のようだ。
記憶の底にもないのに、生前だから霊基に刻まれてもいないのに。それでも心は反応している。――――いい傾向だ。きっと。
○小さきもの モードレッドが動かなくなっちゃったよ
○守銭奴 カチコチに固まってしまったよ
○騎士 ポジティヴだった
「突然現れた正体不明のキャスターの正体は、何とぼくでしたー!大空の勇者のリンクです。よろしくね」
生前はただの知識の1つとしてしか履修しなかった、伝説の物語。
サーヴァントになってから改めて読み直した、勇者の人生。
それが今、目の前に居た。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・か、」
「か?」
「かっっっっけー・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ウー!」
モードレッドは、輝く瞳でそう呟いた。
ヒーローに憧れる子供のように。
憧れのヒーローが助けに来てくれた大人のように。
体が震えるのは歓喜か?武者震いか?
空気を読んでぴょんと膝から降りたナーサリーが、優しい目で唇を綻ばせた。
「ゆ、勇者リンク・・・」
「うん」
「あの・・・オレ、・・・・・・オレと・・・」
「ゆっくりでいいよ」
「っ、手合わせしてくれ!!」
「ほほう?」
○奏者のお兄さん ほほう?
○ウルフ 違うパターンきたな
「オレ・・・思ってたんだ。選定の剣を抜けば、強くなれるんだって。王になれるんだ、って。でも・・・それは違ったんだ」
人々を守りたいから、王になった
大切な人の力になりたくて、剣を抜いた
剣を抜こうとする少女を讃える者は誰もいない。居るのはただ、未来を知る魔術師だけ。
剣を抜こうとする青年を讃える者は誰もいない。居るのはただ、女神に使わされた精霊だけ。
なのにどうして、結末が違う。
「オレは王になりたかったんじゃない。オレは父の孤独を癒やしたかった。王であるが故にあの人が捨てたものを抱えていたかっただけだ」
あまりに寂しい伝説の
あまりに静かな伝説の
曇り空にひっそりと輝く三日月のようだった。
偉大な大空だった。大地を、水底を、世界を駆ける、緑の勇者。
「父に対して怨みがない――と言えば嘘になるけど。でも、今度こそ、違う関わり方ができるんじゃねえかって思うんだ。その・・・・・・、サーヴァントの身で何を、と思うかもしれねぇけど」
王であるが故に、背負い、捨てた
勇者で無くとも、背負い、拾い集めていただろう
きっと父も無意識のうちに諦めていた。自分は勇者ではないのだから。
「父はアンタによく似ている。けど、絶対的に違うんだ。父には我欲がなくて、アンタにはある。でも父だってヒトなんだから。ただのヒトなんだから。欲してもいいって、他人のためじゃなく自分の為に、生きてもいいんだって」
未練と弁解。惨めで哀れだ。
でも言いたいんだ。やっと気づけたんだから。
「もうオレもアンタもサーヴァントなんだから、好きに生きていいんだって、言いたいんだ。・・・・・・でも、オレの言葉なんて、きっと父は聞いたりしない。・・・・・・オレは叛逆の騎士だから」
「・・・・・・」
「だったらせめて強くなりたい。父の敵を全て倒すために。父が苦しむ前に、その原因を絶てるように。少しでも、安らぎの時間が多くなるように。――――だから!」
緑色の目をしたホムンクルスは、今、
「オレを鍛えてくれ!アンタに授かった経験なら、きっと座に戻っても消えない!」
「――――――言ったな?騎士モードレッド。ぼくはこうみえて厳しいよ」
「! あ・・・りがとう、ございます!」
○騎士 泣くが?
○厄災ハンター (´;ω;`)
○海の男 こんなん卑怯やん
アンデルセンのペンのスピードが増し、ナーサリーとフランが顔を見合わせて笑う。
どこかで小夜啼鳥が愛を歌う、透き通った夜だった。
魔霧の下で、空を見上げる人がいる。
次元を超えて、事象を超えて、赤い橋を超えて。
その騎士王は辿り着いた。
目深くかぶったフードの下で、きんいろが輝いている。