「さあ――――吾輩を召喚せしめたのはどなたか!キャスター・シェイクスピア、霧の都へ馳せ参じました。と、言いたいところなのですが。どうやらこれは聖杯戦争による召喚ではない模様。さあ、これは困ってしまいましたね。神よ、吾輩が傍観すべき物語は何処にありや?」
しんと静まりかえっていた路地裏を、歌うような声が通り過ぎていった。
霧に塗れた世界に洒脱な衣装を身に纏った男がいる。
「答えはない。答えはない。ああ、神は私を見放したか。血湧き肉躍り、心震い魂揺らす物語は何処にありや!ならば吾輩はこう言うしかないでしょう。ああ、『
○フォースを信じろ たくさんお喋りしてえらいね
○りっちゃん 生きているだけで褒めてくれるbot?
「・・・・・・・・・・・・ハズレだ。次」
「おお、これは。異様な霧の中にて、今度こそ貴方とこうしてお目に掛かれようとは」
「お知り合いですか?その、彼・・・・・・キャスター・シェイクスピアと?」
「知らん。こいつはハズレだ」
髭を蓄えた伊達男――シェイクスピアは、立香達を見つけるとつかつかと近寄ってきてニコニコと話しかけてくる。
その躊躇いのなさ・・・もとい妙な人懐っこさは、さすが世界一高名な劇作家と言えるだろう。好奇心を隠しもしない。
「マスターが存在しないことは不幸ではありますが、こうして貴方達にお会いできました。これも運命でしょう。今は貴方達の物語を紡ぐとしましょう。噂に違わぬ物語を期待していますよ」
芝居ぶった台詞で喋り倒すシェイクスピアに、管制室も微妙な空気になる。作家というものはみんなこういう感じなのか?
どいつもこいつもクセが強いな・・・。
「・・・・・・おや。お客さんが来たみたいだよ、みんな」
「一度逃げ帰った割には度胸があるじゃねぇか。なあ!」
敵の気配に、リンクとモードレッドが真っ先に反応した。
薄暗い霧の中からあらわれたのは、幸薄そうな顔をしたキャスターだ。
「・・・・・・遅かったですね。新たに現界したサーヴァントは、そちらに確保されてしまったようです」
『魔霧から現界したサーヴァントを確保・回収し、自分たちの仲間にしていた、といったところかしら』
『なるほど。理屈は簡単だ。だが、言うほど容易いことではないはずだよ』
氷の魔――――の振りをした男は、不敵に不気味に微笑んだ。
まるで暴かれることを望んでいるかのように。断罪されることを願っているかのように。
『英霊を自分たちの思うがままに動かすなんて、それは、聖杯でもなければ不可能だ』
「――正解、とまずはお返ししましょう。その通りです。我々は、我々にとって必要な者がこのロンドンへと現れるのを待ち続けているのです」
キャスターはすらすらと語る。
いつの間にかペンを取り出しているシェイクスピアは、なにやらさらさらと書き出している。
「貴方達を確保できなかった事、本当に、本当に、この私には残念でありません。きっとよい友人になれたでしょう。私たちは。お互いに」
「・・・たらればの話は止めようか。私たちは貴方を止めるよ、キャスター」
そう言う立香の姿が、希望に満ちた瞳が、いつかの少女と重なった気がして。
「今度は逃がさん!切り捨てられる前に名乗ってみろ、魔術師!」
キャスターはとても、とてもとてもとても、己の弱さに耐えきれなくなったのだ。
「私は、ヴァン・ホーエンハイム・パラケルスス。四大の精霊を操る者にして、真なるエーテルを望む者。もっとも、今は・・・望むものは異なりましょうがね」
「マスター、対サーヴァント戦闘です!指示を――――!」
明らかに戦意を失っていることに気づいたのは、リンクとモードレッド。そして類い希なる観察眼を持つシェイクスピア。
だからといって加減はしない。裁かれたい人間を裁いてやることも、許しの1つであるのだ。
「おらあっ!」
「風よ」
モードレットが剣を振りかぶって迫る。パラケルススは避けられないと判断し、魔術で防壁をつくり出した。
パラケルススの周囲に、大きな宝石のような形をしたエレメンタルが浮かぶ。
エレメンタルとはパラケルススの作り出した五大属性の元素塊、各属性を凝縮した人工霊だ。
「立香、あれが宝石魔術だよ。パラケルススといえば人類史と魔術史の双方に名を残す稀有な人物。・・・それがどうして、ああも暗い目をしているのか」
「・・・きれいだね」
「うん。綺麗だ。・・・ぼくも出るよ。フォローは任せて」
モードレッドの激しい追撃を、複数属性の魔術をもって相手取る。
彼こそが「土」「水」「火」「風」「空」の五つの属性を併せ持つ、アベレージ・ワンの魔術師。
純粋な戦闘力、戦闘経験で劣っていても、それをカバーできるほど魔術の才が高い。
「土よ。水よ。炎よ」
「
避けている間も惜しいとばかりに突っ込んでくるモードレッドに、パラケルススの体力も削られていく。
ここは己の神殿ではない。長期戦は不利だ。
それにあの金髪のキャスター。一体どこの魔術師なのだろう。
なにか底知れぬものを感じる。それは単純な魔力の量ではなく。もっと偉大な、大いなる、何か。
「(・・・いいえ、考えても詮無きこと)」
強い自責の念が目を眩ませる。
とある
そして今も聖杯に操られ、悪逆を続ける己が、一体何を語れるのか!
「
多くの物を愛している。
愛しているけど。
それを貫き通すには、あまりにも己は弱かった。
抗う、という選択肢を持てなかったのは、なまじ多くを知る魔術師としての頭脳を有していたからだろうか。
「お見せしましょう・・・・・・我が、光を」
「マシュ、宝具が来るよ」
「はい。宝具、展開します――!」
あの緑の魔法使い以上に、輝く星を知らない。
この世の真理に触れたであろう存在。世界を救い、人々を慈しみ、知識も技術も惜しまず伝え、希望と願いを次世代に託した人。
魔術師は時に人道を外れた超越者であると語られるが、
パラケルススの夢の形そのもの。美しき魂。――――貴方のように、なりたかった。
「真なるエーテルを導かん・・・・・・我が妄念、我が想いの形──
「真名、偽装登録。
これこそがパラケルススの魔剣、アゾット剣の原典。
宝具本来の効果は魔術の増幅・補助・強化だが、五つの元素を触媒に用いることで、一時的に神代の真エーテルを擬似構成し、放出する。
しかし、単純な破壊は副次効果にすぎない。
「この魔霧によって、貴女の盾を砕きましょう」
この刀身を形成する“賢者の石”による超規模の多量並列演算能力、大規模儀式魔術レベルの神秘の即時行使。
敵対者の放った魔力を即座に解析、対応、侵食し己の物として奪い取る、
そしてこの空間には、濃厚な魔力を含んだ霧が漂っている。燃料には事欠かない。
「くっ・・・!」
「私すら滅ぼせぬ者に、聖杯を手に入れることなど出来ませんよ」
○銀河鉄道123 根暗なお兄ちゃんだな
○いーくん 根暗て
「モードレッド、攻撃力を上げてあげよう。
「オシリスの塵。やっちゃえ、モードレッド!」
「任せろ。マシュ、後ろは頼んだぞ」
「はい!」
大空のカリスマ。リンクのスキルが発動する。
最後尾にいるシェイクスピアの筆はノリノリで動いている。
赤雷が迸る。邪剣、再閃。全力の魔力放出。
砕けた。
「――――――――――あぁ」
宝具の魔剣ごと、キャスターの霊核が消し飛ぶ。
魔剣の吸収力を上回る膨大な魔力。いつかも
「・・・・・・それでこそ、剣を持つ英雄です」
我が心の師であり父である、麗しき魔法使い。星の勇者よ。
獣に敗北した醜い私をお許しください。
貴方のように誇り高いままでは居られなかった、愚かな私をお許しください。
悪逆に身を落とし、慈しむべき人々を害し、聖杯に捧げようとしている私を。
どうか、許さないでください。
「この世すべての悪を
魔術王という絶望的な力に屈してしまった、哀しい男がいる。
ただ。
「貴方たちの行く手に・・・どうか・・・」
勇者は
「どうか・・・真なる、光・・・・・・を・・・・・・」
○ファイ イエス・マスター。パラケルススの座と接続します
「・・・・・・敵性サーヴァントの消滅を確認しました。先輩、わたしたちの勝利です」
「くそ、何の手がかりも残さず消えやがった。最後まで胸くそ悪い魔術師だったぜ」
「・・・・・・まあ、彼にも色々あるんでしょう」
リンクのフォローに、モードレッドは唇を尖らせる。
「わーってるよ。ったく」
「『
「あ?何だって?」
「いいえ。ただ、思い浮かんだ言葉に過ぎません。なかなか悪くないものを見せて戴けました」
○フォースを信じろ なんかこの人だけずっと楽しそうだな
「吾輩が目にしたのは一端だけですが、かの魔術師殿。なかなか良い
「・・・・・・うん。私にも」
最後、消えていくキャスターが、余りにも小さく見えて。
立香は少しだけ、さみしい気持ちになった。
「そん、そんなに泣く?」
○奏者のお兄さん 泣くでしょ
○ウルフ 泣きすぎて死ぬんじゃねぇの
「う、うっ、うう゛。えほっ、~~~~~~~~っ」
「むせてるじゃん!」
「おゆ、おゆるしください。おゆるしください。おゆるしください。わが師。尊きあなた・・・!」
「怒ってないって。よしよし。大丈夫だから」
号泣。
子供のように蹲って泣きじゃくるパラケルススの背中をさすりながら、リンクは慰め続ける。
自責と懺悔で押し潰されている姿は、とても伝説的な錬金術師には見えなかった。
「パラケルスス。ぼくはきみを責めにきた訳じゃなくてね」
「~~~っ。、はい。はい・・・!申し訳ございません・・・!」
「どうしても己の所業が許せぬと言うのなら、ぼくがきみを許そう。――――顔をあげなさい」
涙に濡れる金瞳は、青い瞳に見つめられて固まる。
月からこぼれ落ちた雫のよう。生前でも、こんなに美しいものを目にしたことはなかった。
「
「――――」
「我らを師と仰ぐ偉大なる英霊よ。倫理を外れがちな魔術師の身でありながら、人を救い、子を慈しみ、医療の発展に尽くした気高き
体が震える。
言葉の意味を理解して、熱い涙が溢れた。
「パラケルスス、今日ぼくが来たのはね。きみの使っていたあの剣・・・アゾット剣といったかな。あれ、ぼくも欲しいな」
「・・・・・・・・・・・・ぇ、・・・と」
「マスターソードは出せないし、かといって手ぶらなのも落ち着かないし・・・。あれならぼくが持っててもおかしくなさそうじゃない?」
「私がつくるんですか・・・・・・?」
「うん。お願いできる?・・・あ、というかぼくがカルデア側にいたキャスターだってこと言ったっけ?ほら、金髪の」
○騎士 キャパオーバーの顔してる
○奏者のお兄さん 呼吸が荒くなってきましたね
「そんなに高性能じゃなくても、軽く使えるくらいで」
「いいえ!!!!!!貴方様にそのような物渡せません!!!私の全力をもって製作させて頂きます!!!!」
「じゃあよろしくね。出来たら彼女に渡してくれる?」
「彼女?」
「ファイ。呼べば来るから」
その言葉通り、剣の精霊が現れる。
伝説を次々と目の当たりにして、パラケルススの動悸が激しくなっていく。
「あとは・・・パラケルスス。こちらへ」
「? はい」
すっ、と頬に触れる。
それだけで男は肩を大きく震わせた。
「きみの信念が報われることを、ぼくは祈ろう。決して、愛を諦めてはいけないよ」
「――――・・・もう、報われています・・・・・・」
そう言ってまたほろほろと泣いた。
胸中を埋め続けていた、暗い気持ちはもう無い。
ようやく、朝が来たのだ。