しとしと、しとしと。
雨が降っている。
「・・・まさか本当に議事堂付近とは。凄い場所にあるな、リモコン。流石に中じゃないか?」
「・・・・・・ゥ、ウ・・・・・・!」
「近いようです。もう、すぐ近くにまで来ていると彼女は言って――――」
噴きあがる蒸気のような駆動音。地面を揺らす機械の足音。
雨を弾いて襲い来る、怪機械の親玉。
「来た来た、でかいのが来たぞ!フランはオレの後ろに回れ。離れるなよ!」
「マシュ、立香。あの大きいのは任せるよ。取り巻きはぼくが」
「了解しました。マスター、大型敵性体との戦闘です。指示を!」
路地から、背後から、ヘルタースケルターの集団が迫る。
パラケルススに作って貰ったアゾット剣を抜いて、リンクは襲撃を待ち構えた。
「あ?おまえそんな剣持ってたっけ?」
「ふふん。いいでしょ。作って貰ったんだ」
立香たちには聞こえないように会話が成された。
一見するとただの魔術礼装だが、パラケルススの宝具と同じく、刀身の全てを超々高密度の“賢者の石”で構成されている。これなら疑似スカイウォードすら打てそうだ。
○ウルフ 重めの感情、伝わる
○災厄ハンター 頑張ってつくったんやろなぁ・・・
モードレッドと共に取り巻きを倒していく。
魔法も悪くないが、やはり剣が一番しっくりくる。とはいえあまり剣術を見せるわけにはいかない。
え?あんなキャスターいます?みたいな空気になったときにうまく誤魔化せる気がしないからだ。
というわけで真エーテル、解放!ヘルタースケルターを砕け!
「ヘラクレス、お願い!」
後方では立香がサーヴァントを呼び出して応戦していた。
唸る偉丈夫が斧剣を振りかぶり、落とす。地鳴りがするほどの打撃。砕け散る機械の体。
「■■■■■■――!」
容赦なく叩きつけられるバーサーカーの連撃に、耐えられるほどの性能は無く。
大型の肢体を崩れさせて、敵性体は沈黙した。
「――ふう。お疲れ様、二人とも」
サムズアップ。ヘラクレスは戻っていった。
スイッチが切れたかのように、他のヘルタースケルターも倒れていく。
「サーヴァントではなかったようですが・・・。これが、他の個体を操る宝具本体だったのでしょうか?」
「・・・・・・ゥ。・・・・・・ゥ、ウゥ」
「そうみたいだな。よし、これで厄介ごとがひとつ片付いたか。よくやった、フラン。おまえのお陰で助かったぜ」
雨はすこし強くなって、少女達の体を冷やす。
さあさあ、ざあざあ。
『マシュ、立香ちゃん。念のため、その残骸の映像情報をまた送信してくれるかな?一応こちらでも解析しておこう』
「了解です・・・・・・ドクター。妙なものを発見しました。他のヘルタースケルターにはなかったものです」
「製造者の名前かな?英語だ」
「『チャールズ・バベッジ、AD.1888』」
「・・・・・・ゥ!?」
ぎくりと肩を跳ねさせたフランに、立香が驚いて声を掛ける。
「フラン?どうしたの?」
「・・・・・・・・・・・・」
「雨が強くなってきたな。とりあえず一度帰るか」
「はい。先輩、風邪を引かないうちに戻りましょう」
「うん・・・」
樹の枝状の
雨に濡れて重くなったドレスが、彼女の心境を表しているよう。
さあさあ、ざあざあ。
「・・・・・・ゥ」
「そうだね。心配だよね」
現界してもやることは変わらない。
執筆、執筆、執筆!
鬼気迫る表情でペンを走らせ、脳内に浮かぶ映像を文字に変換していく作家英霊達を横目に、リンクはフランの手を握って慰めていた。
チャールズ・バベッジはフランの知り合いだったようだ。たどたどしい唸り声で、俯きながらそれを伝えるフランに、ナーサリーが心配そうに寄り添う。
「こんなことをする人じゃない・・・ってフランは思うんだね」
「・・・・・・ゥ、ゥ・・・ウ・・・・・・」
「なら話は簡単だ。そこで働いている作家さん達の言葉を思い出してごらん。想像力を働かせて考えてみるんだ」
「ウ、ウゥ・・・」
○りっちゃん こっちすごい見てる
○うさぎちゃん(光) 作家達がすごい見てる
「ミスター・バベッジはこんな事をしない。なのにヘルタースケルターはうろうろしている、聖杯は未だ行方不明」
「・・・ゥ!」
「そう、気づいたね。こんなことをするように強要されているんだろう」
ぱっと顔を上げて、前髪がふわりと浮く。フランの青い目が照明を反射してきらりと光った。
「ウゥ・・・・・・。・・・ァ・・・ァ・・・ゥゥ・・・」
「うん、許せないね。必ず助けてあげよう」
「ウ!」
こくこくと頷く、少女の瞳は虚ろながらも強く。
真顔でこちらをガン見している、作家共の目はギラギラ。
「虚ろなる少女と、金髪の佳人。手を取り合う姿はまさしく舞台のワンシーン。
「いけないわ、いけないわ。茶化すなんて悪い人ね。現実はマザーグースのようには出来ていないのよ」
「おっとこれは失礼。絵本の概念に怒られてしまうとは。・・・それにしても、あちらのキャスターは何者ですかな?そろそろ吾輩にも真名を教えてほしいのですが」
相も変わらず、おしゃべりな作家である。
腹の底まで、裏の顔まで、暴いてしまいそうな好奇心。リンクの全身をじっくり眺める、ハシビロコウの如き目。
「きみは口が軽そうだからダメ」
「なんと!?否定できませんな!!」
「そうだろう?だからダメ」
○りっちゃん もぎゃもぎゃしてる
○うさぎちゃん(光) 活きのいい猫
静まりかえっていた扉の向こうから、生活音が聞こえる。立香たちが仮眠から目覚めたのだろう。
雨はもうすっかり止んでいた。
「――――話がある。いいかな・・・ああ、二人も丁度来たね」
「なにか分かった?」
『うん。先ほど君たちが見つけた名前についてだ。チャールズ・バベッジ。優れた科学者にして数学者、十九世紀英国の人物だよ』
蒸気機関を用いた世界初となるコンピューター「階差機関」 「解析機関」を考案した天才碩学。
現代では「コンピューターの父」とも呼ばれている。
「彼はこの時代の人間だ。僕は会ったことないけど、思い出したことがある。初代のヴィクター・フランケンシュタイン博士と、彼は知己だったはずなんだ」
「――すみません。待ってください。バベッジ氏はこの時代から数えて十年以上も前、既に亡くなっているはずの人物です」
「え?いや、それはおかしいな。老年だが健在で、碩学として活動しているはずだよ」
どうも記録と記憶が噛み合わないようだ。ジキルに新聞を持って来てもらう。
ばさりと広がった紙面を皆で確認した。チャールズ・バベッジ。生年1791年。
・・・間違いなく本人だ。
『考えられる可能性は二つだ。一つ目、ボクらの歴史的記録が事実と異なっていた。二つ目、事象に
オルレアンやローマ、世界の海でも。いずれも事象が
英霊としてではなく、事象の変化として故人が生存している。十二分に有り得ることだ。
『二十世紀の事件がこの時代にまでずれ込んでしまっている、ということなのかも知れないね』
「では、フランさんやミスター・ジキルも?」
『可能性は否定できない。誰がこの時代の人間なのか、そうでないのか。特定するのは極めて難しいだろうね』
現存する記録が存在しない場合は特にそうだろう。
ただ、今は深く考えるべきことではない。
「ん?僕の話をしているのかい?気になるけど今は後回しにしよう。緊急連絡だ。僕の情報網に引っかかったんだけど、悪い知らせだ。セイバーもいいかい、聞いてくれ」
「あ?」
「完全に稼働停止していたヘルタースケルターのすべてが――再稼働した」
それは確かに緊急事態だ。フランが唇にぐっと力をいれる。
再び霧の中へ。霧の中へ。
「――――近い、な」
「はい、わたしにもわかります。魔霧の中でも、魔力の集中がここに在ると」
聞こえる。感じる。
隠れもせず向かってくる、サーヴァントの気配を。
「そら、そこだ。もう立香にも聞こえてくる筈だぜ」
『こちらでも感知したぞ。極めて大型の反応だ。もう、目の前まで来ている。こんな場所にいたのか!』
「シティエリアの中心部とはな。アパルトメントのすぐ近くにいたって訳だ」
蒸気が噴きあがる。
王が君臨する。
「――――聞け。聞け。聞け。我が名は蒸気王」
重厚で機械的な音声が響く。
辺りを白く染めるのは、霧ではなく水蒸気。
「有り得た未来を掴むこと叶わず、仮初めとして消え果てた、儚き空想世界の王である」
立ちふさがる巨大な影。機関鎧を纏った、熱くて冷たい、鋼鉄の男。
「貴様たちには魔術師「B」として知られる者である。この都市を覆う「魔霧計画」の首魁が一人である。そして――帝国首都の魔霧より現れ出でた、英霊が一騎である」
「魔術師「B」、と・・・」
「・・・敵の親玉の一人かよ。確かに頭文字は同じだ。Bか。あれこれ考えすぎて簡単なことを忘れていたぜ」
一見は、ヘルタースケルターと同じ姿だ。
しかしギラギラと輝く赤い目が、吹き出す蒸気の熱さが、格の違いを見せつけている。
「我が名は蒸気王。ひとたび死して、空想世界と共に在る者である。我が空想は固有結界へと昇華されたが、足りぬ。足りぬ。これでは、まだ、足りぬ」
○銀河鉄道123 カッケー!!!!
○災厄ハンター イカすぅ-!!!!
「見よ。我は欲す者である。見よ。我は抗う者である。鋼鉄にて、蒸気満ちる文明を導かんとする者である。想念にて、有り得ざる文明を導かんとする者である。そして――人類と文明、世界と未来の焼却を嘆く一人でもある」
『ああ、そういうことか・・・!彼自身が既に固有結界である、ということだ!』
彼女は自らの現界のために眠りを撒いたが、彼は自らの分身をどこまでも際限なく撒き続ける。
「ミスター・バベッジ。仰る言葉が真実なら、わたしたちは対話できます。未来は、焼却されてはならない・・・!」
「誇りある宣誓は受け止めた。ミスター、今度は是非耳を傾けてくれ。きみに言いたいことがある
リンクに促されてフランが前に出た。
白いヴェールが、清廉なる天使のように揺れる。
「・・・・・・ゥ、ゥ!・・・ウ・・・ゥゥ、ァ・・・ア、ァ・・・!・・・ア、ァ、ァ・・・・・・!!」
「――おお、おお。忘れるはずもなきヴィクターの娘。――そこにいるのか。おまえは」
落雷が落ちたのかような動揺。すぐに平静を取り戻した紳士は、身を屈めて少女に向き合った。
「可憐なる人造人間よ。創造主より愛されず、故に愛を欲す哀れなる者よ。嗚呼、お前の言葉が聞こえる。嗚呼、お前の思いが聞こえる。そう、だ――。私は、我らは、碩学たる務めを果たさねば」
むせび泣いているような声。
そうだった、私は――――。
今を生きる人々の為に。未来に生きるだろう人々の為に。学びを積み重ね磨いてきたのだ。
「我らは人々と文明のためにこそ在るはずだ。故にこそ、私は求めた。空想世界を。夢の新時代を。故にこそ・・・・・・グ!?」
油の切れた歯車の不協和音。アングルボダの無粋な介入。
組み込んだ聖杯はどぷりと魔力を溢す。
「ヴィクターの娘・・・!逃げ・・・ろ・・・!」
「・・・フラン、モードレッドの後ろにいなさい。きみは言うべきことをちゃんと言った。後はぼくたちに任せて」
「・・・彼を止めよう。マシュ!」
「――はい。マスター!」
主の暴走に引きずられて、ヘルタースケルターが湧き出てくる。
剣を抜いた騎士達が介入者の気配に反応した。
舞い上がる風の一太刀。煌めく金と銀の聖剣。魔力の奔流が敵を吹き飛ばす。
「――――どうやら。このロンドンは、私の知っている世界と違うようだ」
青銀の鎧を纏いし、白馬の騎士が如き青年。
魔霧の中でも曇らぬ碧い瞳が、立香たちをぐるりと見渡した。
「だがそれでも、騎士としてやることは変わらない。助太刀しよう。勇敢な魔術師たちよ」
「なっ・・・」
「あの人は・・・?」
「・・・よし!ならばこちらは頼んだよ」
真っ先に反応したのはリンク。ヘルタースケルターの群れを抜けて、立香の方へ戻る。
立香も詳しいことは後だと判断したのか、サーヴァントを呼び出して戦闘態勢に入った。
○Silver bow アーサー王?
○りっちゃん アーサー王(真)or(偽)
○うさぎちゃん(光) へー男のアーサー王も居るんだ
○いーくん ・・・ん?んん??
「項羽、お願い!」
「其は災厄の兆しなり。故に決して見過ごせぬ」
○騎士 オーバーキルでは?
ステッキのような形状の武器と、項羽の刀がぶつかる。耳を劈く甲高い音。
重量のあるバベッジでも、覇王の腕力で追撃してくる項羽には後ずさってしまう。
だが鎧が固い。魔術の気配はしないが、特殊な科学を使用しているようだ。
「項羽、フォローする。あの鎧は固そうだ」
「
嵐がごとき連撃。リンクのスキルを受けてさらに重みを増す。
仙術サイバネティクスの粋を集めた兵器は、馬の如き四つ足で大地を踏みしめた。
地鳴り、轟音、鋭すぎる太刀筋。不利を悟ったバベッジは宝具の展開を目論みる。即座に覇王が演算を開始した。
「主導者よ。我に魔力を。ここで決着としよう」
「わかった!オシリスの塵!」
「――
無敵の守りを得た項羽が、蒸気機関を全力稼働させているバベッジに突撃した。
宝具は真名解放をして能力を発揮する。その前に叩くのはある意味正解だ。
双方の溢れさせる魔力が、高濃度の疾風となって立香達に吹き荒れる。ビリビリと鳴る空気をマシュが盾で受け止めた。
吹き出した蒸気が悲鳴のようで、崩れていく塊は鋼鉄の夢。
「あ?消えてくな・・・」
「終わったか」
ヘルタースケルターが消えていく。今度こそ。泡沫のごとく。
「・・・・・・シティの地下へ、行くがいい」
もはや身動きも取れぬバベッジに、フランが駆け寄った。
「・・・
「地下・・・」
「都市に充ちる・・・霧の、発生源・・・すなわち、我が発明・・・巨大蒸気機関アングルボダ・・・・・・。聖杯は・・・アングルボダの動力源として・・・設置・・・・・・」
冷えていく鋼の手にフランの手が重なる。
・・・アダムに寄り添うイヴのようだ。少女と紳士の、穏やかな最後
「・・・・・・すまぬ、ヴィクターの娘。お前の声は聞こえたが・・・私は、既に、正しき命を有した、人間・・・ではなく・・・・・・。妄念の・・・有り得ざるサーヴァント、と、化したのだ・・・・・・」
「ウ!・・・ゥ、ゥ、ァ・・・」
「・・・そうか、そう言ってくれるか。・・・・・・私は、嗚呼、私の世界を夢見てしまったが・・・しかし、それ、とて・・・・・・」
赤く光る瞳が、ゆっくりと立香を映した。
遠い未来を生きる、輝かしき子供よ。あなたこそが我らの希望。あなた達のために、碩学は在るのだ。
「・・・私の夢を叶えなかった世界であっても・・・
光になって消えていく。握っていた手に残るものはないけれど。
フランは顔を上げた。誇りを踏みにじられた紳士が、それでも祝福をくれたのだから。
「次の行き先、決まったな」
「はい。地下、と。ミスター・バベッジは確かにそう言い残しました」
「――行こう、みんな。これ以上、操られる人を増やさないように」
最後の戦いが、始まる。
○Silver bow アーサー王はどこから来たの?
○りっちゃん なんか僕らと同じニオイするね
○うさぎちゃん(光) 異世界に来て世界救っちゃいました系か
○いーくん 異世界トリップ系騎士王