ふんわりと意識は浮上する。
量産型の安いリネンでも長時間くるまれていれば暖かくなるものだ。顔だけが少し冷たくて、立香はしぶしぶ目を覚ました。
「よしよし・・・。フォウさんも立香さんが心配なんですね」
「フォーウ・・・」
瞬く隙間から照明が差し込みまぶしさに目を擦る。その下から、しとやかな声が聞こえた。
「理想的な女性」を形にしたらこうなるのだろう。
肉付きのよく、しかし品を纏う体をカルデアスタッフの制服と白衣で包み、温かな微笑みと穏やかな佇まいがその美貌をより際立たせている。
まさしく聖母の再来。どんな残虐な悪人だろうと足を止めてしまいそうな、慈愛の化身がそこに居た。
「・・・貴女は・・・?」
「私は殺生院キアラ。カルデア専属のセラピストです」
マイルームのベッドから起き上がる立香にペットボトルの水を差しだし、膝に乗ったフォウくんをあやしながら彼女はそう名乗った。
こんな絶世の美女がいるとかカルデアスゲー。立香の視線は顔と豊満な胸を行ったり来たりした。まごうことなきセクハラである。寝起きだからってやっていいことと悪いことがあるぞ。
しかしキアラは寛大だった。
「立香さん。あなたの目が覚めたら管理室に案内するように言われています。歩けそうですか?」
「大丈夫です。ところで何を食べたらそんなに豊かな体型になるんですか?詳しく聞いていいですか?」
「まぁ・・・」
真顔で繰り出されたギリギリ発言にも目元を赤らめるだけで済ました、キアラは大変に器の大きい女性である。
「おはようございます先輩。無事で何よりです」
「マシュ!マシュも無事でよかった」
再会を喜ぶ2人にスタッフ達の温かい視線が向けられる。
この極限の状態でも、否。だからこそ喜ぶときは喜ばねばならない。それが人の心を捨てないということだ。
カルデアの幹部メンバー達もそれを噛みしめた。この光景だけは失ってはならない。
「コホン。再会を喜ぶのは結構ですが、まずは会議を進めましょう」
オルガマリーの声に視線が集まる。
「まずはマスター藤丸立香。ミッション達成、ご苦労様でした。そして――――ありがとう。貴女が聖杯に願ったおかげで、私は今こうして生きています」
「マシュが聖杯の使い方を教えてくれたおかげです。マシュにも言ってあげてください」
「・・・そうね。マシュ、あなたもありがとう。そして、よく頑張りました」
「・・・! はいっ」
オルガマリーの透明な笑みがとても美しかったことを、マシュはきっと忘れない。
また感情が一つ生まれた。心の棚に並べていく。
「カルデアスの状況から見るに、レフが敵の手先であることは確定でしょう。外部との連絡も取れない」
「・・・人類は滅んでいる。そう断言するしかないだろうね」
人類を滅ぼす。
そう宣言する悪役は物語に数多く登場する。そして実際に滅ぼしかけたものも多く居るだろう。
だが「既に人類は滅んだ」という状況はそうそう無いだろう。
それでも直視するしかない。特異点Fでの戦いは、まだ生々しく記憶に残っている。
「よく過去を変えれば未来が変わる、というけれど、ちょっとやそっとの過去改変じゃ未来は変革できない」
「そうなんだ・・・」
「歴史には修正力というものがあってね。たしかに人間のひとりやふたりを救うことは出来ても、その時代が迎える結末――――決定的な結果だけは変わらないようになっている」
しかし、人理にはターニングポイントが存在する。
“この戦争が終わらなかったら”“この航海が成功しなかったら”“この発明が間違っていたら”“この国が独立できなかったら”
そういった現在の人類を決定づけた究極の選択点が。
「それが崩されるという事は、人類史の土台が崩れることに等しい。この七つの特異点がまさにそれだ」
ロマニが努めて淡々と話す。
目眩がするほどの事実に、それでも立ち向かわなければならないから。
「マスター適正者48番、藤丸立香。貴女はレイシフト可能なたったひとりのマスターとして、この七つの人類史に挑まなければなりません」
「・・・っ」
「もちろん私たち司令部、そして残ったスタッフ達の全力のサポートを約束しましょう。――――共に、戦ってくれますか?」
「・・・もちろん。私にできることなら」
その一言で緊張感が溶けていく。
彼女がこれから背負うだろう運命を、覚悟を、皆で支えていこう。
「――――ありがとう」
一人で戦わせたりなどするものか。
無力な人間は無力なりに、あがき方を知っている。
「これより英霊召喚を行う!」
「誰!?」
話が一段落した後飛び込んできたのは、かの有名な絵画モナ・リザに酷似した長い黒髪の美女。
だがそれは彼の生来の姿ではなく、生前の作品の女性を再現したものである。
モナ・リザが好きすぎてモナ・リザの姿で顕現した。だいぶ筋金入りの変人。
「私のことは気軽にダ・ヴィンチちゃんと呼ぶように」
「ひえ・・・変態だぁ・・・」
英霊召喚例第三号、ルネサンス期に誉れ高い万能の発明家、レオナルド・ダ・ヴィンチ。その人である。
「英霊召喚・・・カルデアの戦力の増強をはかるのですね」
「そうそう。サーヴァント達は基本的にはカルデアで待機してもらい、戦闘時に必要に応じて呼びだす感じかな。レイシフト以外でも人手はいくらあっても足りないし」
英霊を呼び出すための触媒であり、召喚サークルの燃料となる霊子の結晶。聖晶石を3つサークルに置く。
冬木で落ちていたのを集めて9つ。三回の召喚が今回は行われる。
「物欲センサーは敵。みんなもう知ってるね」
「早めにお願いしま~す」
ガチャに関しては立香は歴戦の猛者だった。
無欲!無心!回すぞオラーッ!
紫電が縦横無尽に走り、魔力が空間に満たされていく。現れたのは――――。
「おっと、今回はキャスターでの現界ときたか。・・・ああ、あんたらか。前に会ったな。クーフーリンだ。また頼むぜ」
「ヤッター!!!」
冬木でも大層世話になった青髪のキャスターだ。これはなかなかの好スタートダッシュ。
「説明は後で。先に召喚を終わらせてしまおうか」
「うん。ちょっと待っててねキャスター」
「おう」
再び光が膨れていく。二体目の召喚は――――。
「サーヴァント・アーチャー。召喚に応じ参上した」
「!」
真っ赤な衣装を翻したアーチャーのサーヴァント。
冬木では敵として対峙し、そして今は味方として現れた。
名をエミヤ。顔の無い正義の代表者であり、集合無意識が生み出した防衛装置である。
「おや・・・。また会ったな。今度こそは世界のために、正しく戦うことを誓おう」
「うん。よろしくね」
泥の呪縛から放たれた、彼は柔らかく微笑んだ。
後ろに控えていたキャスターを見て一瞬微妙な顔を浮かべたものの、大人しく部屋の端に寄る。
最後の召喚。
バチバチと魔力が活性化し、召喚サークルの円に沿うように光輪が紡がれる。
魔力反応による煙が視界を覆い、しばしの間を置いて晴れていく。現れたのは――――。
「ふはははは!この
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「ほえー・・・」
なんかすごい金ぴかな人来たぁ・・・と立香は思い。
お前来んの早すぎねぇ?とクーフーリンは思い。
アーチャー二体とかバランス悪くないか?帰ってほしい。とエミヤは思った。
配信中です。 | 上位チャット▼ ○バードマスター え?何で?英雄王なんで? ○小さきもの 勇者の代わりって言った?頼んでないです・・・頼んでないよね? ○ファイ どうやら自ら降りてきたようですね。やる気があるようで何よりです。 ○奏者のお兄さん ところでいつ合流するかそろそろ決めないと。・・・英雄王がいるならしばらくは大丈夫そうだけどさ ○災厄ハンター 限界ファン筆頭のギルガメッシュさん!限界ファン筆頭のギルガメッシュさんじゃないか! ○Silver bow 勝手に勇者の代わりとか言っちゃう辺りが嫌ですね・・・。合流は当分先でもいいんじゃないでしょうか ○ウルフ 蔵を開けさせろ ○うさぎちゃん(光) 次の特異点の様子を見てからでいいんじゃない?行きたい人~ ○騎士 次の特異点の情報はまだ出てないんだったか?出たら教えてくれ。俺はスプラトゥーンで忙しい ○海の男 @騎士 対戦しよ。そっちの座遊びに行くね ○いーくん イカより優先順位低いのかわいそう |
カルデア中継なう 15人が視聴中 | |
もう勘弁してほしいなぁ・・・。と時の勇者は虚空を見つめた。予想外のことが起こりすぎている。
勇者達は相変わらずカルデアの様子をリアルタイムで視聴していた。頭を抱えているのは時の勇者だけである。
キアラさん何でいるん?もうわからん・・・知らん・・・なるようになれ・・・。
それにいつぐっちゃん先輩を違和感のないタイミングで起こそうかなぁ・・・。精霊には優しくしろってデクの樹さまも言ってたし。
第四特異点までに出るのは不味いか?でも英霊として降りるのとカルデア召喚式を通るのではかなり能力に差が出るんだよね。召喚されなければいいか・・・?
なんて呑気に――――そう、この時までは確かにまだ余裕があったのだ。ミルクティーを啜りながらキーボードを叩くくらいには。
「・・・・・・・・・・・・は?」
本能が飛び起きる。警鐘、警戒、警告!
指先の力が抜けてマグカップが落ちた。鈍い音。ぶちまけられた液体の甘い香りがただよった。
「・・・・・・・・・なんでお前まで起きてくるんだ・・・・・・・・?」
闇と混沌を従えて、黒き王は鎮座する。
虚空の狭間で赤髪が揺れた。ここは世界の底であり、裏である。
「マスター、いかがされました」
主君が目を覚ましたのを察知して、白銀の精霊が膝をついた。
ここ数年は静かに眠っていらしたが、何か気を引くことでもあっただろうか。
「・・・クハッ」
「・・・?」
思わず、といった風に漏れた笑い声が玉座に響く。絢爛な一室は彼の趣味ではなく、彼の事を思った精霊を筆頭に部下達が設えたものだ。
「面白いことになっているじゃないか。小僧ども。どれ、
その微笑みに反応できたのは、表にいる運命の片割れたちだけ。
かつて魔王と呼ばれた彼の対にして正反対。勇者たちだけが気づけてしまった。
「ギラヒム」
「はっ」
「出かける。貴様らは好きにしろ」
「マスターの御心のままに」
黒き砂漠の王、ガノンドロフは立ち上がる。余興にはちょうどいいとマントを翻し。
黒幕とカルデアに盛大にちょっかいをかけるために。
世界の命運など今さらどうでもいい。欲すものなどなく。渇望は癒やされた。
ならばなぜ目を覚ますのか?そんなことは決まっている。
何人もいる“ガノンドロフ”もしくは“ガノン”という存在の、現在の主人格は歌うように言った。
「
その気配が自分の時代のガノンドロフであることに気づいた時の勇者は、無言でベッドに突っ伏した。
来んなし・・・・・・・・・・・・。