「・・・ここまでだな。聖杯を回収したっていうのに、締まらない気分だぜ」
「・・・うん」
霊基はエーテルの光となりて。
座に戻るために、データを世界に溶かしていく。お別れの時間がやってきた。
「だよなあ。あんなにヘコんだのは、父上の槍で――。いや、なんでもない。なんでもないさ」
「・・・でも、ロンドンは救えたよ」
「ああ、そうだな。オレにしちゃあ上出来だ」
特異点は修復される。修正されていく。やがて安寧を取り戻す。
有り得ざる都市は消え失せ、霧と共に消滅するだろう。
「無念なのはここで終わりってコトだな。本音を言えばおまえたちに付いていきたいが・・・。この通り限界だ。・・・悔しいがヤツの言うとおりだ。オレたちは喚ばれなければ戦えない」
それが英霊の、サーヴァントの限界だ。
――もちろん、例外はあるだろうが。
「時代を築くのは、いつだってその時代に・・・最先端の未来に生きている人間だからな」
それはランサー・アルトリアと同じ言葉。
悲観に徹した人生論ではなく、希望と願いに満ちた前を向くための祝福。
「だから――おまえが辿り着くんだ、立香。オレたちではたどり着けない場所へ。七つの聖杯を乗り越えて、時代の果てに乗り込んで。
「・・・モードレッドさん」
「そんな顔するな、マシュ。盾ヤロウは気にくわないがおまえは別だ」
もうすっかり吹っ切れた顔をして、モードレッドは頼もしく笑った。
「――――そうだね、マシュ。マスターには君が必要だ。その盾をもって、助けてあげなさい」
「アーサーさん・・・」
「それに今回の件は・・・僕も考えさせられることがあった。もう少し、君たちの手伝いがしたい」
「え?」
にこりと笑うブリテン王の背後に、異様なオーラを感じるのは気のせいか?
なんか・・・怒ってらっしゃいます?
「僕にはまだやるべきことがあるのだけど。多少寄り道しても、マーリンだって許してくれるだろう」
「手伝ってくれるのは嬉しいけど・・・。あの、大丈夫?」
「大丈夫。久しぶりに心底合わない意見を聞いて驚いているだけだから」
なるほど。
そういうことにしておきましょう。
「では一度お別れだ。帰るよ、モードレッド」
「おう。じゃあな立香。こんなオレだってロンドンくらい救えたんだ。ならおまえはちょいとばかり張り切って、せいぜい世界を救ってみせろ」
赤と青の騎士達は、最後まで背中を押して消えていった。
『アー、テステス。よし、やっと映像が繋がった』
耳に馴染んだ女性の声。ダ・ヴィンチからの通信だ。
『二人とも無事ー?無事だね。観測数値にも異常なし。魔霧もただの霧に戻っているし、もうその時代に用はない。早速レイシフトを行うよ』
「はい。よろしくお願いします」
『二人とも、やり残したコトはない?ないね?』
「う、うん」
「ではレイシフト開始ー!お疲れ様!」
いやに急かされて帰還する。
輪郭がぼやけて、存在が移動して、コフィンの中へ。
ぬるい水に浸っているかのような、曖昧な感覚。
「(・・・・・・そうだ。アヴェンジャー)」
彼の言うとおり、魔術王と目を合わせないようにしていたけれど。
あれは何の意味があったのだろうか。
「(それを知る必要は無い。全てはもう終わったこと)」
「(そう・・・なの?)」
「(ああ。故に、今は勝利に浸っても許されるだろう。よくやった、共犯者)」
ふっ、と眠りに落ちるかのように意識が途切れた。
「お帰り、二人とも。今回も無事・・・とは言いがたいけど、とにかく良かった」
「そういえば、なんでダ・ヴィンチちゃんが?」
「ああ、それはね・・・」
やれやれと肩を竦めながら、管制室の隅を手振りで示す。
立香とマシュがのぞき見れば、項垂れているのが二人。
「なんてコトだ・・・こんな・・・・・・こんなコトが・・・・・・」
「そんな・・・そんなこと・・・・・・。うう、私、私、どうしたら・・・・・・」
「あの通り、ダメになってしまってね。キアラはもう呼んだから。立香ちゃん、気合いを入れ直してやってくれ」
胃を抑えながらぶつぶつと呟いているオルガマリーと、すっかりしょぼくれているロマニがいた。
トップとNo.2(実質)が落ち込んでいるせいで、慰める他の職員達のダメージが軽減されているのは幸いなのか。
まったく、しかたのない人たちである。
「しっかりしろドクター!」
「うぇえ!?」
「オルガマリー!私帰ってきたよ!」
「り、立香・・・。・・・そうね、うん。よくぞ無事に戻りました。マシュも、お疲れ様」
「はい、所長。マシュ・キリエライト、帰還いたしました」
ロマニの背中を勢いよく叩き、オルガマリーの正面に立って話しかける。
立香も随分、この二人の扱いに慣れてきた。
「ごめん、ピンチだったのはキミたちのほうなのに。ただ、なんていうか・・・あまりのショックで・・・・・・」
「はいはい、落ち込むのはそこまでにしなさい。いいかげん、本気で呆れられるぞ?」
「う、うん・・・。それは・・・すまない、マシュ、立香ちゃん」
先に立ち直ったのはオルガマリー。
流石、なんだかんだでもカルデアの所長だ。
挫けるたびにもっと固く、繋ぎ直されてここまで来た。彼女自身も、自覚のないままに強くなる。
「もっと早く強制レイシフトをするべきだったのに、ボクの判断が遅れてしまった・・・」
「あれは仕方ないよ」
「でも、もしソロモンがキミたちを消しにかかっていたら・・・。・・・うう、ボクは・・・。ダメな人間だ・・・」
「ロマニ、たらればの話をしていても仕方ありません。無事だったのだから、それでいいでしょう」
「そうです、ドクター。顔をあげてください」
マシュの言葉に、ぱっと彼女の方に顔を向けた。
ヘタしたら泣くんじゃないか?という落ち込みである。マシュはなにを言うのだろうか。
「わたしたちが作戦を続けることができるのは、あなたの存在があるからです。ドクターは確かに臆病な面があり、物事を悪い方向へと考えます」
「はい・・・」
「一言でいうとチキンです。男性のクセに、わりとなよっとしています。また、趣味は内向的によりすぎていて、電脳アイドルに依存している残念な研究者です」
管制室が静まりかえった。
「あー・・・」
「フォウ・・・」
「マシュ、もう少し手心というものを・・・」
「そうだよマシュ。こういうタイプの方が萌えるって人もいるんだから」
「それは何のフォローなの???」
人の趣味はいろいろなのである。
「でも――そんなあなたが頑張っているからこそ、カルデアに残された職員は頑張れます。所長も、あなたのことを頼りにしています」
「そうよロマニ。あなたが居ないと困ります」
「カルデアが爆破されたとき、炎の中で電源を回復させ、生存者を救い、指揮したのはドクターです」
ロマニ・アーキマンの短所はただ1つ。
自身を、ちょっと過小評価しすぎなところである。
「・・・・・・・・・ありがとう、マシュ。ボクが落ち込んでいる暇なんてなかったね」
ふう、と息を吐く。
大丈夫だ。ボクはまだやれる。
「何せ黒幕の正体が分かったんだ。あの異様な強さにも、きっとなにか理屈があるはずだ。引き続き、ボクらは作戦を続けよう。残る特異点を修正して、世界と未来を焼却させない」
「魔術王ソロモン。・・・自力で死の淵から蘇るなんて、少し・・・信じられないわ」
「はい、所長。まだ敵の全貌は見えていない。とにもかくにも、全ては聖杯を回収してからです」
決意新たに。
敵は新たに。
カルデアはまだ、負けていない。
「次は勝つ!」
「ヒュー!その意気だ立香ちゃん。よし、遅くなったけど、今回も本当にお疲れさま」
「後処理は私も手伝うよ。二人はもう休むといい」
マシュと共に退出する、その背中を。
どこか眩しそうに、ロマニは見送った。
「・・・部屋に到着しましたね。先輩、お疲れさまでした」
「マシュもお疲れさま」
「いえ、わたしはデミ・サーヴァントですから。体力的な問題はありません。魔力の減少や疲弊はあるので・・・疲れている・・・と、言えるのかもしれないですね」
あと一歩進めば部屋の中に入れる。ようやく身体を休められる。
けれどそれをするにはどうにも――マシュの顔色が優れない。
「・・・・・・・・・・・・あの。すみません、どうしても話したいことがあって」
「いいよ」
「・・・先輩は、ソロモンの話をどう思いましたか?人類を有効活用してやる、というくだりです」
「・・・マシュはどう思ったの?」
○厄災ハンター もちろん寝言を言っているなぁと
○騎士 神目線だな~~と思いました
○海の男 シンプルにムカつく
○奏者のお兄さん まあまあまあ
「わたしは・・・・・・。わたしは、否定できませんでした。自分でもわからないんです。でも、あの言葉には無視できないものがあって・・・・・・」
「うん」
「命は無意味で、未来には救いがない・・・・・・。そんな悲観的な主観を、彼は希望的に語っていた」
でもやっぱり主観なのだ。
それは、魔術王一個人の意見に過ぎない。
「・・・・・・・・・・・・申し訳ありません。戦いはこれからなのに、妙なことを口にしてしまって」
「・・・マシュ。あのね、たくさん考えたら良いと思う。私でよかったら聞くからさ」
「・・・はい、マスター。おやすみなさい。また明日」
第四特異点 死界魔霧都市 ロンドン 定礎復元
「アヴェンジャー、そこにいる?」
「いるとも、我が共犯者」
ぶわりと影が蠢いて。視界を覆う、優しい男の姿。
ベッドに横になった立香に目線を合わせるように、サーヴァントは跪いた。
「あと三つで・・・解決するのかな」
「さて、いくらオレでも予知夢はできん。だが悪夢を取り除くくらいはできるとも。我が恩讐の炎が、おまえの意識の底を満たすだろう」
「・・・ん、おやすみ」
安らかな寝息が聞こえてくるまで、アヴェンジャーは寝顔を見守った。
その金の瞳が柔らかく灯っていることにはまだ少し、自覚がないようだった。
次はイベント特異点→第五特異点です。