「フォウ?」
立香の肩に乗っていたフォウくんが、前方に倒れている人影を見つけて首を傾げる。
地面をじわりと伝う黒い染みが、既に生命が絶命していることを示していた。
「あれは・・・死んでいるな。状況から見てこいつがキャスターを召喚したマスターだろう」
「・・・そんな。サーヴァントと仲間割れでもしたのでしょうか?」
エルメロイⅡ世が近づいて死因を確認する。死体の鮮やかな橙の髪が照明に照らされて鈍く光っていた。
どうやら刃物で一刀のもとに斬り伏せられたようだ。あのキャスターがこんな芸当をこなすだろうか?
「ッ!?八門金鎖陣!」
「敵襲。新手のサーヴァントか」
ぶわりと魔術の陣が広がり闇夜からの攻撃を弾いた。リンクは既に構えている。
驚きつつも反射的に盾を構えたマシュの後ろに下がった立香は、目を凝らして通路の奧をのぞき見た。
突然現れたように見える、男から揺らぎ上がる警戒心。伸びる影だけは消えずに残っている。
「気配遮断。アサシンか・・・奇門遁甲がなければ我々も危うかったぞ」
「・・・・・・。妙な術を使う連中だ。まさか見つかるとはね」
足音もなく襲来したサーヴァントは、異様な雰囲気を纏っていた。
顔の半分を包帯で隠した上、赤いフードで更に覆っている。微塵も露出のない出で立ちと低く冷たく聞こえる声が、男が世界の暗部で生きる存在であることを示していた。
「これもまた以前戦ったアサシンの分体ですか?なんだか雰囲気が違いますが・・・」
「こいつは・・・違うぞ。私の知っている第四次聖杯戦争に、こんなサーヴァントはいなかった」
『じゃあつまり、これがキミの捜していた「異物」なのか?』
本来あるべき1994年冬木の事象を歪め、ここを特異点たらしめている原因。
たとえ元凶でなかったとしても、何らかの可能性はあるだろう。
「こちらは君たちと争う理由は何もない。大人しく道を空けてくれるならば立ち去るのみだが?」
「そうはいかん。おまえが何者で、いったい何のためにここにいるのか説明してもらわなければ。我々はそのためにここまで出張ってきたようなものだ」
戦闘態勢を解かないエルメロイⅡ世を見て、アサシンは呆れたように小さく息を吐いた。
「そんな要求に従う理由はないし、強要されるなら敵対するしかない」
「だそうだ藤丸。遺憾ながら暴力しかなさそうだ」
「遺憾だな~」
鋭い風切り音と共に投擲されたナイフを、リンクが弾き落としていく。
飛び抜けた敏捷に物を言わせて突撃してきたアサシンはしかし、エルメロイⅡ世の防壁に阻まれた。
破壊するための一点攻撃。拳銃の連射。背後の気配を察知して身体を捻る。数ミリずれた位置を刈り取る青槍のなぎ払い。
ナイフで捌こうとするも、その上から槍に絡め取られてしまう。即座に不利を悟って背後に下がった。
「ちっ、手強い・・・!」
「・・・このサーヴァント、何かが変です。この聖杯戦争に参加している他のサーヴァントとは、明らかに気配が違います」
「ああ、それでいてどこか馴染みがある。むしろ我々カルデアの側で」
違和感を口にしたマシュにエルメロイⅡ世が同意する。立香はあまりよく分からなくて、フォウくんを無言で撫でた。
「そう、どことなくアーチャーのエミヤ先輩のような・・・」
「ッ!?」
アサシンが反応したのはその言葉ではなく、ふいに轟いた雷撃の方だった。
リンクが襲いかかってきた雷の波状攻撃を払えば、地下通路を一瞬スパークが照らす。派手な横やりをしてきたサーヴァントの声よりも早く、馬の嘶きが耳を劈いた。
『みんな、気をつけてくれ!新たなサーヴァントの反応だ。真っ直ぐそちらに向かっている!」
「何だと?こんなタイミングでいったい誰が・・・。あ、まさか!」
「ッ!マスター、伏せて!」
ここが鋼鉄で構築された地下でよかった。地上だったら地面が抉れていただろう。
地響きと共に飛び込んできたのは立派な戦車。たなびくサーヴァントの赤いマントが砂埃の中でもよく見える。
戦車が着地するよりも速くマシュたちの側に戻っていたリンクは、侵入者の顔を見上げて少しぎょっとした。
「大丈夫ですか?マスター」
「うん。ありがとう」
「良かった。でも今の隙にアサシンを逃がしてしまいました。申し訳ありません・・・」
「私の金鎖陣も今の雷撃でぶち壊しだ。おのれ・・・・・・」
○奏者のお兄さん うわ
○ウルフ うわびっくりした 似てんな
「おおう?やはり既に戦いは始まっていた様子だな。いささか我らは遅参のようだぞ。坊主」
「あれ?おかしいな。てっきりボクらが一番乗りだと思ってたのに」
「あ、あれは!」「フォ~ウ!」
「あっ。あー・・・そういうことかぁ!」
赤髪の益荒男が居る。
筋骨隆々の体躯。威風堂々とした振る舞い。この薄暗い場所でも聞き逃さないような快活な声。暴れ馬すら手懐けるその器。
第四次聖杯戦争のライダーたる王。征服王イスカンダルである。
――そしてそのマスター。立香達は一目で気づいて察した。納得をもってエルメロイⅡ世を見る。
その反応を見てリンクも向こうのマスターを観察していると、立香が耳打ちで教えてくれた。その間にエルメロイⅡ世が我慢ならぬ様子で口を開く。
「何が一番乗りだこのたわけ!この場所を突き止めたのがいかに稚拙な方法だったか、貴様自身がよく理解していたはずだろう!」
「・・・・・・なるほど。青かった過去ほど恥ずかしいものはないな」
「黒歴史だね」
「あんなんで他の一流のマスターを出し抜けるものと、まさか本気で思っていたのか?」
エルメロイⅡ世の言葉に相手のマスターが驚きながら立ち上がる。
向こうからしてみれば突然怒鳴られているのだ。困惑するのは当然だろう。
「な、な、何だよオマエ!いきなり何の話を・・・」
「今回に限らず後にも先にも、貴様はことごとく幸運に恵まれ、状況を切り抜けてきたにすぎん!なのにたまたま結果が伴ったというだけで自らの状況を過信するその甘さ!そんなザマだから貴様には進歩がないのだ!自覚がない訳でもなかろう!あん!?」
「ちょっと待てよ!なんで出会い頭にボクが説教されなきゃならないんだよ!」
○ウルフ それはそうでもある
○Silver bow ある意味恥ずかしい過去を思い出すよりも辛いから・・・
「いったい誰だよオマエ!子供を攫ったキャスターとそのマスターって、オマエらじゃないのかよ!?」
「大馬鹿者!まともな状況観察もできんのか!それでよくもまぁのほほんと聖杯戦争に・・・・・・」
葉巻を握りつぶして、長い黒髪を振り乱して、心のままに叫ぶ――!
「ああもうッ!馬鹿!馬鹿!マジ大馬鹿!鰻玉丼食べ過ぎて死ね!」
「・・・何でしょう。困った方向にスイッチが入ってしまったようです・・・・・・」
「フォ~ウ・・・」
「なぜ鰻玉丼ピンポイント」
「うなぎ美味しいよね」
すっかり蚊帳の外になってしまったが、リンクは槍から手を離していない。
顎髭をさすりながら、興味深そうにこちらを見ているライダーの姿があるからだ。
「こ、このッ!いったい何様のつもりだよ!大体オマエのステータス、どう見たってキャスターだろ?オマエが聖杯戦争そっちのけで悪さをしているのは監視役が突き止めてるんだぞ!」
「ブルシット!ステータスの透視が出来ているのなら私が疑似サーヴァントだということくらい気付けこのトンチキ!」
○守銭奴 自分相手だからね。しょうがないね
○フォースを信じろ 同情の余地がありますよ
「ああ情けない!おまえなんぞの手に刻まれた令呪が勿体なくて泣けてくる!」
「な、な、な・・・何だよ疑似何とかって?だってキャスターのクラスが他に二騎も三騎もいるなんて変だろ!聞いてないぞ!」
「まぁ待て坊主、そいつのクラスがキャスターであれ何であれ、少なくともこの工房の主ではあるまいさ」
ここでようやく征服王が口を挟んできた。
辺りをさらりと見渡して状況を確認しつつ、ウェイバー同士の会話もきちんと聞いていたらしい。
「え?な、何で?」
「ここに残された痕跡を見るに、だな。どっちも地勢を利用しとらんし周囲の被害を憚ってもいない。こりゃ攻めた守ったの戦闘じゃない。逃げようとした奴と、それを阻んだ奴の戦いの跡だ」
若干不満げな顔をしつつも、ウェイバーは静かに聞いている。
「故に、我らと入れ違いに逃げたのも、今ここに居残っている連中も、我らが狙った相手とは違う。また別口だ」
「うむ、流石は征服王の戦略眼だ。一を見て十を読み取るとは」
「それはそうとしてそこの顰めっ面よ」
「な、何・・・かね?」
急に水を向けられたエルメロイⅡ世が身構える。
イスカンダルはにかりと笑みを浮かべて、菓子をつまむような気軽さで言った。
「さっきからやけにうちの坊主に因縁を付けたがっている様子だが。それはつまりこの征服王と一戦交えようって覚悟なわけか?」
「な、何でそうなる?貴方だってどちらの言い分が間違っているかの判断はついているだろうに!」
「それはそれとして、この坊主は余のマスターなのでな」
すぅ、と笑みを消して真顔になる。
その落差は確かに、武勲を立て続けた王の覇気。
「喧嘩を売られたとあればサーヴァントとして黙って見過ごすわけにもいかん」
「ライダー、オマエ・・・」
「くッ・・・それは・・・・・・」
感動したような声を溢すウェイバーと、道理の通った発言に言葉に詰まるエルメロイⅡ世。しばし天使が通る。
立香たちは顔を見合わせて、マシュが代表して声を掛けた。
「あの、ロード?たしかライダーとは戦わない方針だったのでは?」
「・・・撤退しよう藤丸、今ここでさらに事を荒立てるわけにもいかない」
「なんだつまらん。ちったぁ骨のある奴かと思ったのだがな」
「それは失礼、マケドニアの王よ。まさかこの程度で相手の底が知れたとお考えかな」
エルメロイⅡ世が反応するよりも早く、リンクが茶々を入れる。
金の双眼がこちらを捉える前に立香を抱えて駆けだした。マシュが続き、出遅れたエルメロイⅡ世が追いかける。
あっという間に見えなくなった一同を見送ったライダー陣営がその後どうしたかは、主従のみぞ知る。
「あああ腹立たしい!マスターの諍いにサーヴァントが口を出すなどと!モンペか!モンペなのか!」
「荒れてるな」
「落ち着きましょう先生」
ハシゴを登って地上へ。籠もっていた場所にいたせいか、風が妙に冷たく感じる。
ううんと伸びをした立香は、イライラとした様子で葉巻を吸うエルメロイⅡ世に苦笑する。
放っておいたら地団駄を踏み出しそうだ。
『しかしせっかく第三の保護対象だったライダーのサーヴァントと接触できたのに・・・。あんな形で決裂してしまってよかったのかい?』
「構うものか!どうせ真面目に戦うつもりなどない連中だ。放っておけば隠れ家で煎餅囓ってビデオ見て遊んでるだけだ!」
『いいのかなぁ・・・』
○Silver bow 現世を満喫してるじゃん
○りっちゃん エンジョイ勢イイゾ~
○ウルフ ガノンドロフはそんなに大人しくねぇな・・・
○バードマスター そもそも大人しく召喚されてる時点でね。話が通じる余地があるよね
「どうやらライダー絡みはロード・エルメロイさんにとって地雷案件みたいですね、先輩」
「困ったものだね」
「はい。わたしもそうおもいます。今後はLさんに対応してもらいましょうか・・・」
「私は構わないぞ?なかなか面白そうな御人だ」
にやりと笑うリンクを見上げて、立香とマシュも気が抜けたように笑った。