「さて、次の一手を打とう」
エルメロイⅡ世の唇から細い紫煙が燻る。
今日の夕飯は全国チェーンのハンバーガー。やはりたまにはジャンクなものを食べないと。
立香は満足げに口元を拭って、Ⅱ世の話を聞く体勢に入る。
「誰かを納得させるためにはな、その人物にとっていちばん都合のいい虚構を用意してやるのが早道だ。その点、ケイネス卿は『世界が自分を中心に回っている』という前提に基づいた話であれば・・・」
「あれば?」
「何の疑いもなく信じてくれる。実に御しやすい人物だ。これ何もかも人の心を流し動かす策士の技なり」
「詐欺師の間違いでは?」
不敵に笑ったⅡ世に立香がツッコミを入れる。
というか、どれほどちょろく見られているんだあのロードは。確かに魔術師たちは魔術に傾倒しすぎて少し、いやかなり感性が特殊なことがあるが・・・。まぁ、Ⅱ世が相手の性格を知り尽くしてるのもあるだろう。
一同は再び、冬木ニュータワー最上階へ。
天を衝く楼閣の腹中で、ケイネスは手元のワイングラスをくるりと回した。
「君の提案の通り、昨夜のうちに間桐邸へ使い魔を送り交渉を行った。バーサーカーは共闘に応じるそうだ。遠坂家のサーヴァントと対決する機会をこちらで設える、という条件でな」
「恐れ入ります。しかし残念ながら、その件についてはお手間をとらせるだけの甲斐があったかどうか・・・」
「なに?どういうことだね?」
少し芝居がかった仕草でエルメロイⅡ世は切り出した。ケイネスが素直に疑問を口にする。
「こちらでも大きく進捗がありました。いや、決定的な成果とも言えましょう。いくつかの不確定要素について観測がつき、パラドックスを回避しつつ開示できる情報が大幅に増えました」
「・・・ほう」
「結果・・・今こそ私は貴方にすべての真相を語ることができます。この冬木市における聖杯戦争の真意を」
まるで封印の解けた扉を開くような慎重さで、Ⅱ世は語り出した。
一体なにを言い出す気なのか。少女たちは首を傾げ、フォウくんはぴこんと両耳を立てる。
「そもそも奇妙だとは思いませんでしたか?万能の願望器を奪い合うなどという大仰な大儀式が、時計塔を遠く離れたこのような僻地で開催されたこと。七人を募った参加者のうち、魔術協会のために用意されたのがたった一枠限りしかない点・・・」
「うむ、まぁ、だからこそ然程のリスクもない、評判倒れの遊興であろうと見越して参加した訳だが」
「評判倒れどころか、その実態は有名無実。ここ冬木での聖杯戦争とは、実は虚構でしかありません」
これにはケイネス陣営だけでなく、カルデア陣営も驚いた顔をした。
もっとも、その形で感情が発露されただけで、呆れているか苦笑しているかの違いはあったが。
「全ては我がアーチボルト家の政敵、トランベリオ一派による陰謀なのです!」
『(ダ・ヴィンチ。私、仮眠とるわ)』
『(了解所長~)』
「ある期間だけロード・エルメロイを時計塔から引き離し、その留守の隙に乗じて一気に魔術協会内部の勢力を拡大しようという企みなのです!」
「な、なんだとぉ!?」
付き合いきれないとばかりにオルガマリーが退出した。
ダ・ヴィンチを除く他の職員たちは、羨ましそうに所長の華奢な背中を見送っている。
「我々は御身がトランベリオ派の陰謀で罠に嵌められる、という結果だけを知って過去干渉に踏み切りました。ただし未然の出来事について警告はできない」
「・・・・・・そうだな」
「未来の知識を貴方と共有するためには、干渉先の過去時間で確かに陰謀が存在するという明確な証拠を観測する必要があったのです」
『(うわ~口から出任せでよくもここまで・・・)』
感心するやら感服するやら。ロマニの呟きに、管制室中から同意が返る。
ここで霊体化して散歩していたリンクが戻ってきた。扉をするりとくぐり抜けて、立香の側に侍る。
「昨夜ようやくその証拠を掴みました。聖杯戦争の関係者たる御三家のひとつ、遠坂家から直々に証言を得ました」
「ど、どうやってかね?」
「この街の霊脈を手当たり次第に破壊してやったのです。もちろん聖杯戦争という枠組みとは何の関係もない破壊活動ですが、だからこそ遠坂は音をあげた」
机におかれたワイン瓶の中で、赤い液体が波紋を起こしている。
まるでケイネスの動揺を表しているようだ。水銀よりも雄弁に、苛立ちの逆波を起こしている。
「狂言の聖杯戦争のために管理地の支配権を奪われたのでは、たまったものではないでしょうしね。遠坂はトランベリオ派と共謀し、四度目の聖杯戦争をでっち上げてロード・エルメロイに誘いをかけたと白状しました」
「(そうだっけ?)」
「(いいえ、遠坂のマスターとは初日以来会っていません)」
「(霊脈の件しか事実がないな)」
しかしケイネスはそんなこと知りようもない。
軍師の策略に、ぐるんぐるん回る口車に乗せられていく。
「研究者としてではなく実践、『武勲』を求めていたケイネス卿が、まんまと誘いに釣られるような絶好の闘技場・・・。それがこの冬木の儀式の正体です。招かれた他の参加者も、監視役として引き入れられた聖堂教会も、すべてこの狂言に真実味を持たせるための囮に過ぎません」
「なんと周到、なんと悪辣・・・」
わなわなと震える主君を案じながら、ランサーがグラスにワインを注いでいく。
ぐいっと勢いよく呷ってから、ケイネスは空気を切り裂くように叫んだ。
「だが民主主義に傾倒した愚者ども、トランベリオ派なら、やる!確かにやりかねない!・・・私は・・・いったい私は何のために、貴重な時間を割いてまでこのような徒労を!」
「(釣られちゃった)」
「(釣られちゃいましたね)」
「まぁ、とはいえ。キャスターを倒したお手並みは実に見事でしたし、ソラウ嬢もあらためて貴方の頼もしさに惚れ直したのではないかと」
「そ、そうかね?フム・・・」
○守銭奴 そうかね?
○フォースを信じろ そうだぞ。信じろ
「間違いありません。私は女性のその手の感情の動きには敏感なのです。あれは、そう――――。“今までまったく興味がなかったけれど、今回の頼れる一面がギャップになって嫌いが好きに反転した” それぐらいの心の変化ではないでしょうか」
「なんという・・・・・・!いや、その前提はなんという?まあいい、結果は素晴らしいものなのだからな!」
「(ギャルゲーじゃないんだから・・・)」
『(ちょっとボク、この人に同情しちゃうなぁ・・・)』
○災厄ハンター シャルルが手伝いたそうにこちらを見ています
○りっちゃん かわいいね
○海の男 その理由でええんか
○Silver bow まあ多少事情を分かってくれてる方が
「ともあれ、事は一刻を争います。どうか急ぎロンドンへと帰還しトランベリオ派の陰謀を阻んでくださいませ!」
「当然だ!ええい、小癪なトランベリオめ、バリュエレータめ!目にもの見せてやるわ!ソラウ、急ぎ身支度を!」
「新たなる戦場は海の彼方・・・マスター、不肖このディルムッドもお供させていただきます!」
色めきだった展望の客室。窓から差す月光が、室内の照明に溶けて混ざる。
「(Ⅱ世。そのランサーもロンドンに返していいぞ)」
「(ッ!?わ、わかった。貴方が言うのなら・・・)」
脳髄に響く念話。意識を掴んで離さない、甘い低音。Ⅱ世は動揺を隠して受け入れた。
たかだか数日行動を共にしただけでも、このサーヴァントのステータスの高さを十二分に理解している。
それに・・・何というか。
Xを名乗るセイバーはアーサー王。ならば彼は?どこの王、騎士、偉大なる英霊?
あえて明かさぬ辺りは事情があるのだろう。エルメロイⅡ世に宿る軍師は言う。ロードとしてのⅡ世も頷く。
このサーヴァントは強く、信頼できる。現状はそれでいいだろう、と。
「もとより聖杯に託す願いなど持ち合わせぬ身。主の望む戦場こそ我が槍の見せ所です!」
「おお、それは心強い。サーヴァントまで同伴させてきたとなると、いかなトランベリオ派でも臆する気持ちを隠せないでしょう。このような卑劣な行いをロード・エルメロイが許すはずがないことを、どうかロンドン中に知らしめてくださいまし」
満足そうに頷き立ち上がったケイネスは、すぐに立ち去ることをせず、Ⅱ世に向き合った。
「・・・・・・ああ、最後にひとつだけ。君は私の書斎で恋文の下書きを見つけたと言っていたな」
「・・・・・・?はい。それが何か?」
「その私がそんな迂闊なものを残したまま、他人の手で部屋を漁らせるなど、断じてあり得ぬ話だ。――思うに、未来の君が検めた私の書斎というのは・・・主がついに戻らなかった部屋ではないのか?」
息を呑んだのは誰か。
ぱちんと割れた風船のような沈黙。目が覚めるような問いかけ。
「・・・・・・はい。仰せの通りです」
「ふむ。その一点についてだけは、礼を言っておくべきなのだろう」
「・・・・・・勿体なきお言葉、恐縮です。わが昔日の師。私が目指したロード。偉大なるエルメロイ」
心からの賞賛だと理解して、ケイネスはそれを受け止めた。
「御身の才能は時計塔の誇る至宝です。どうかくれぐれもご自愛なさるよう」
『ロード・エルメロイ・・・ここは改まってⅡ世と呼ばせてもらうけど』
「何かね?」
ネオンライトに引き出された影が、生きているかのように伸びていく。
口火を切ったのはロマニだった。Ⅱ世の返答は短い。
『釈迦に説法だとは思うけれど、キミが先代に吹き込んだ虚偽は・・・。そもそもの根幹においても全くの虚偽だということを、キミ自身もきちんと理解しているんだよね?』
「どういう意味ですか?ドクター」
『カルデアスはタイムマシンなどではないし、君たちもまたその時間における未来人という訳じゃない』
特異点というものは、焼却された歴史の中にたまたま浮かび上がった泡のようなもの。ごく限られた領域でしかない。
出現の原因となった異変が解消されれば消えてしまう、史実とは無縁な夢のようなものだ。
『故に、キミがどんなに骨を折ろうと、実際の歴史が改編できるわけではない。たとえこの場で誰かを救済しても、その救いはこの場限りのものだ』
「フォ~ウ・・・」
『もといたキミの時間軸においては、死者は死者のまま、悲劇は悲劇として確定したままだ。レイシフトで過去に干渉することは、理論上不可能なんだ。キミの行いは・・・全て無意味なんだぞ?』
「それがどうしたというのだ?ドクター」
カルデア医療班トップ。現在は実質カルデアNo.2。
言いづらいことをいうのは自分の役目。
その言葉に小石を蹴るような気軽さで、Ⅱ世は返した。
『これがまったくの徒労だということをキミ自身が自覚しているのか、確かめておきたかったのさ。どうにもキミはこの局面を可能なかぎり穏便かつ円満に解決しようとしているようだけど』
そこまで徹底しなくても、より単純で手間のかからない方法だってある。
なぜ、こんな手段をとるのか。
何故?
―――――本当は薄々、分かるような気もするけれど。ロマニ・アーキマンは知りたいのだ。
「徒労か・・・傍目にはそう見えるかもしれない。だが私にとっては大きな意味のあることだ。実際には救えないとしても。私は、今この場でできる最善をなし得たかった」
「最善・・・」
「かつてできなかった事への償いではない。同じ間違いを二度も看過する――――。そんな弱さを、私の心が許さなかった。それだけの話だ」
「・・・・・・」
○小さきもの ふぁぼしました
○銀河鉄道123 高評価押した
○バードマスター いまⅡ世に対する好感度上がってきてるよ
「ただの自己満足と笑ってくれて構わんよ。私はたんに、自らの無力さを思い知らされるような展開を、再び味わわぬよう避けて立ち回っているだけの話だ。もちろん、悔恨の痛みは私だけのもの。他の誰かにとっては
「笑わないよ。先生」
「はい。良くないことが起こるのを黙ってみているのは、何か、人間として間違っていると思います」
「結果がどうなるかなど、したいことをしていれば自ずと決まる。私もロードの方針に賛成しよう」
「フォウ!」
顰めっ面がようやく崩れた。
卑屈と自己嫌悪と不器用な真面目さの底に確かにある、ロード・エルメロイⅡ世としての誇りが燃えている。
――――こういう魂を応援するために、リンク達はいるのだ。
「ありがとう。そう言ってくれると助かる」
『・・・そうか。人間らしい、という事だね。OK、この件に関してはボクはもう何も言わない』
『もとよりこの件はⅡ世に一任しています。それで、次の計略はあるのかしら?』
『所長!?仮眠から戻ってきてたんですかいたたたた耳を引っ張らないで!パワハラ!パワハラですよ!』
『ロマニは本当に心配性だね~』
「・・・よし。じゃあバーサーカー陣営と合流してアーチャー陣営を落とそうか」
『全スルー!?!?』
○銀河鉄道123 アーチャーだれ?
○奏者のお兄さん ギ ル ガ メ ッ シ ュ