「・・・・・・あんたが、ランサーのマスター?」
ざわざわ。さわさわ。
冷え切った音が木の葉を叩く。
夜の森は物寂しげ。
「その名代として聖杯戦争を請け負った者だ。そちらは間桐雁夜、バーサーカーのマスターだな?」
「ああ。約束の条件、本当に守ってくれるんだろうな?」
「無論だ。アーチャーは我々にとっても由々しい難敵」
合流場所で待っていたのは白髪の男と、プレートアーマーのサーヴァント。
幸いにもカルデアはこのサーヴァントを知っていた。円卓の騎士の中でも最強と謳われた、湖の騎士。ランスロット。
なぜアーチャー陣営を目の敵にしているのかは知らないが、単純戦力としては心強い限りだ。・・・・・・ただ。
「(ねぇ。あの人大丈夫かな)」
「(今にも倒れてしまいそうな顔色の悪さです。・・・ですが、止める術がありませんね)」
死相が浮かんでいる。
まるで適合していない臓器を移植されたかのよう。ちぎれた血管をツギハギに接合されたかのよう。
間桐雁夜。
間桐家に養子に出された遠坂桜を救う為に、自ら忌むべき実家へ戻った男。
それだけ聞けば素晴らしいが―――悲しいかな。間桐家を牛耳る真の当主は、彼の苦悶に満ちた顔が見たいだけでバーサーカーを召喚させるような人物だ。
たとえ勝利できたとしても、望む結果は得られないだろう。
○フォースを信じろ ワーーー!!!蟲がい゙る゙!!!!!焼いて!!!!
○奏者のお兄さん だから言ったじゃん!だから言ったじゃん!
○小さきもの まことのメガネか
○りっちゃん 始祖様の火力で焼いたら本体ごと逝くだろ
○災厄ハンター ていうか蟲??????いやなんでもない聞きたくない
「(いざとなったら私が割って入るから大丈夫だ。おまえたちは目の前のことに集中しなさい)」
「(うん。ありがとうランサー)」
○フォースを信じろ ぞわぞわする よくない キミにも見せてあげよう
○Blue ウワーーーーーッッッ!!!!!!
○ウルフ 何やってんだバカ共
○バードマスター おや珍しい子が
何か勝手に正気度ロールし始めた後輩どもをスルーしつつ、夜間ライトが照らす方向を目指す。
「他の邪魔が入らない環境で、遠坂のサーヴァントと一対一・・・。そんな状況を誂えてくれるっていうのか?この森で?」
「正しくはこの森の奥にある洋館で、ね。今そこにはアーチャーの他にセイバーとライダーが集合して睨みあっている」
「あの、ロード。それでは邪魔どころか乱戦になるのでは?」
ざくざくと落ち葉を踏みしめながら進む一行を阻むものはない。
警報や防御用のトラップは根こそぎ破壊されており、木々はなぎ倒されて俯いている。
「いいや、そうはならない。この三騎は揃いも揃って戦略よりも優先せざるを得ない拘り処があるのでね。王様としての意地、ってやつのはずだ恐らくは。恐らくは」
「自信を無くしてる」
『予想外のことが起きすぎたんだ。そっとしていてあげよう』
白光を浴びて光る、明るい庭が見えてくる。
闇夜に慣れていた目をぱちぱちと瞬かせながら、立香達は身を潜めて様子を窺った。
『ところで、サーヴァントが三騎も集まって一体なにをしているんだい?』
「ああ、聞いて驚くな」
夜露に濡れた風に髪を靡かせながら、Ⅱ世は言った。
「ただの飲み会なんだよ。これが」
「ほう?こりゃまた珍妙な取り合わせだな」
面白がるような声色を隠さずに、ライダーが言った。
長い柄のついたコップ――柄杓で、樽のワインを飲んでいる。どういう知識をインストールしたのだろうか。
「おや。貴方たちですか。働き者ですね」
「貴方達は・・・、バーサーカーと手を組んだの?」
呑気に酒を呷るのはセイバー。少し身構えた様子で尋ねたのはアイリスフィール。
「こ、ここでボクらを襲う気なのか?」
完全に戦闘態勢に入っているバーサ―カーを見て、反射的に身を竦ませたウェイバー。
そして。
「――――――来ると思っていましたよ」
「は?」
「ん?」
「子供・・・?」
―――――幼い、そう、子供と言って差し支えないサーヴァント。
金色の髪、赤い瞳。紅顔の美少年は、立香達を見てにこりと笑って――――。
ぷらぷらと揺らしていた足を地面につけて、座っていた椅子から立ち上がる。逸る気持ちを堪えぬまま、少年は心のままに動いた。
「お兄ちゃん!」
「は???????」
「えっ」
「ご兄弟・・・?」
「知らん知らん知らん知らん!」
若返りの霊薬を口にして幼くなった、ウルクの英雄ギルガメッシュ。霊基名は子ギル。
は、リンクのお腹にぎゅうっと抱きつくと、その場にいる全員が固まる台詞を言い放ったのだった。
「もー酷いですよお兄ちゃん!ボクを置いて何してたんですか!」
「いや違っ・・・まてマトウ私は無関係だ!落ち着け!」
「アンタも遠坂のサーヴァントだったのか・・・?バーサーカー・・・!!」
「Arrrrrrr!」
しっちゃかめっちゃかである。
激痛と憎悪で正常な判断が出来なくなっている雁夜が、今更ここで止まるはずもなく。
赤黒い魔力を纏った剣が脳天目がけて振り落とされるのを見て、リンクは仕方なく子ギルを抱えて回避するのだった。
「先生!どうしよう・・・、先生?先生ーーーー!?」
「ドクター!エルメロイさんが膝を付いて顔を覆ってしまいました!それにランサーさんが・・・!」
『どうしたら良いと思う?はいダ・ヴィンチ』
『とりあえずランサーくんはほっといても死ななそうだし、他の陣営に協力を取り付けたら?』
『採用』
バーサーカーの攻撃で、美しく整えられていた花壇がぶち壊れていく。
ニヤニヤと眺めているライダーの横をすり抜けながら、飛んでくる瓦礫を回避。赤いマフラーが翻って風に揉まれる。
舌打ちは騒音に呑まれた。肌を灼く魔力の余波を捌きながら、胸元にしがみついてる――――。・・・顔をうずめている元凶に、抗議をするのも忘れない。
「おい、お前ギルガメッシュだろう。何を考えてこんな真似を・・・」
「ふへへへいい香りする。勇者リンク、勇者リンクに抱えられてえへへへへ」
「ぶん投げるぞ」
「ボク気づいちゃったんです。子供の姿になれば合法的に抱きつけるんじゃないかと。勿論全力の貴方と戦える機会を逃すのも惜しいんですけど。気づいちゃったのでもう、やるしかないなって」
○Silver bow 真顔で言うじゃん
○Blue 変態・・・・・・?
「Arrrrrr!」
「ぐ、ゔ・・・。・・・何してるバーサーカー!早く仕留めろ!」
「先にあっちが倒れそうだな・・・」
魔力を消費するたびに視界が霞んでいく。全身を痛みが走る。上ずる声を漏らしながら、それでも敵を睨めつける。
遠坂時臣に対する憎しみが、膝を折ることを許さない。ここで死ぬことを許さない。ささいな嫉妬から発芽した感情は、虫の餌となりさらに燃えあがる。
決して高潔とは言えぬ、愚かな男の背中よ。
「・・・はぁ、仕方ない。マスター!」
「はーい!」
「一時離脱する!許せよ!」
「気を付けてね!」
返す微笑ですら麗しい。
即座に身体は急旋回。バーサーカーの横をすり抜けて、雁夜の体を担ぎ上げた。
「あぐっ!?」
跳躍。暗転。
気絶。
リンクは軽やかに洋館の屋根に降り立つ。
エレベーターよりも荒い浮遊感に耐えきれず、雁夜の意識が途切れた。ぶちん。バーサーカーの制御が外れる。
鎧の隙間から見える目がふらり、と辺りを見渡して。――赤く染まった。
「Aaaaaaa、uaaaaaaaッ!!」
「なっ・・・。今こっち完全に関係ない感じだったじゃないですか!」
「セイバー!」
突進してきた狂犬を受け止めて、鍔迫り合ったのはほんの一瞬。
天から落ちてきた閃光に、バーサーカーは蹴り飛ばされた。
「今度は何かな」
『新手のサーヴァントだよ立香ちゃん』
「またか~」
舞い散る羽根は魔力の具現。遍く全てを照らす聖光。
「ルーラー、カール大帝。またの名をシャルルマーニュ。聖杯戦争の監督者として参上した。総員、武器を降ろすがよい」
千変無限の彩りを携え、最後のサーヴァントが参戦した。
「(今のうちだぞ。リンク)」
「(おっ、ナイスタイミング)」
こっそりウインクを受け取って、リンクは庭園を後にした。
目指すは雁夜の実家。間桐家である。
「・・・・・・と、まぁ、俺がバーサーカーのマスターになった経緯は、こんなところだ」
「なるほど。で、どうするカリヤ。アーチャーを倒すか?」
閑散とした間桐家の門前。敷地外であるはずなのに蟲の這いずる音が聞こえた気がして、雁夜の鼓動が早くなったのはわずかだ。
リンクの問いかけに意識を引き戻される。深い湖から浮上した時のように、その声は鮮明に耳に届いた。
「・・・・・・・・・・・・」
美しい男だ。食い散らかされて破壊された身でもなお、つくづくと感嘆する。
どうして初めに会ったときは気づかなかったんだろう。隣の、この子供も。見た目だけなら至高の――。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
リンクと雁夜が横目で見れば、ぺかっと輝く笑みが返ってくる。リンクの方に。
カリヤは静かに項垂れた。戦意はとうに折れていた。もう桜ちゃんさえ無事なら、それで。
「カリヤ。話を聞くかぎり、サクラはもうだいぶマトウの魔術に影響されている。元凶たるゾウケンをどうにかしたところで、サクラ自身を治療せねば助からん」
「そんな・・・。・・・いや、でも、聖杯があれば・・・!」
「残念ながら、冬木の聖杯は汚染されています。どうにもなりませんね」
「――――――」
青ざめ、血の気の引いた男のなんて小さく見えることか。
「カリヤ」
語りかける声は優しい。
泥沼の中で蹲る死骸を、抱き上げた妖精のように。
「サクラを連れて逃げなさい。どんなに彼女に恨まれても、憎まれても、救う意志がまだあるのならば」
顔をあげた男の奥底にある、惨めな矜持でさえも。
燃えよ。輝け。命の煌めきと共に。
リンクに出来るのは最後の一押し。勇気が宿るかは本人次第。
「・・・・・・ある。チャンスが、まだあるのなら・・・!俺は・・・桜ちゃんだけでも救いたい・・・」
「いいだろう。では、対価として令呪を差し出せ」
突き出された右手から令呪を剥がす。
驚きに目を見開く雁夜を余所に、握りしめて魔力に戻した。
「Flames」
子ギルですら、
ただ確かなことは、燃え広がる炎が屋敷を飲み込んでいったこと。
熱風が敷地内を荒れ狂い、灼熱は蟲だけを焼き尽くし、歩むリンクの道を開く。
「当主は留守か。・・・む」
○バードマスター その子がサクラちゃんか・・・
○奏者のお兄さん うわ気持ち悪よくこんな下手な調整できるな燃やしてください全部
○Silver bow 落ち着いてください。燃やすなら当主ですよ。念入りに炙りましょう
『調整』がまだ初期段階でよかった。リンクの宝具で生命力を引き上げれば、桜本来の色が戻るだろう。
抱き上げた身体は軽く。魘されて流れただろう涙の跡を、優しく拭って退出する。
「ほら」
「桜ちゃん!」
「もう帰ってくるなよ」
「ああ、嗚呼・・・。ありがとう、ランサー・・・」
もつれる足を夢中で動かしながら、桜を連れて、雁夜は闇に去って行った。
それを見送ってから口を開いた、子ギルはどこか嬉しげで。
「なぜ、助けたんですか?ここは特異点。実際の歴史ではありません」
「見た目の錯覚は素晴らしいな。お前が完全に無害に見える」
「無害ですよ!貴方に危害を加えるようなことはしません!」
「何故、だと?徒労だからしない、という
戦って戦って戦って戦って、無惨に殺された。故に構築された人生観。
大翼のリンクは、他人が思うよりもシビアでドライだ。
「令呪だけでなく、刻印虫も回収しましたよね」
「餞別だ。そのくらいの報酬はあっていい」
「間桐臓硯を相手取るつもりですか?」
「かつては理想を抱いた求道者に、引導を渡してやらなければな」
でも、本人が思っているよりは、深い情を抱えている。
「間桐臓硯に怒りや嫌悪を感じている訳ではない、と?」
「苦痛に耐えきれないことは罪ではない。魂が摩耗し、意志と記憶を失ったことは、同情すべき事実だ。あの男が不幸を連鎖させる怪物であることと、救われるべき人物であることは両立する」
子ギルを見つめる二つの瞳は、冷たく清い水底の青。
守護女神の心すら溶かす、透き通った優しい温度。
「・・・人を恨むのは苦手なんだ。怒りを抱え続けるのは疲れる。あの黒き者でさえ、
その魂こそ勇者。
その姿こそハイリアの誉れ。
貴方から始まった、貴方が教えてくれた、人間の強さだから。
「――――――――尊い・・・・・・・・・・・・」
「ん?」
「想像以上に・・・・・・格好良すぎて・・・・・・。待って、待って。ちょっと・・・、ちょっと待って涙が・・・止まらない・・・・・・。というかさっきの言語まさか貴方の時代のハイリア語・・・?ああああ生で聞いてしまったすみませんどういう意味なのか後で教えてもらっていいですか・・・・・・」
「何を待つんだ・・・?」
「一゙生゙推゙ず」
「ああ、はい」
○いーくん 今世紀一感情の籠もってない「はい」だったな
○災厄ハンター 人んちの玄関先で泣き崩れるな
○Blue この人はいつもこうなの?
○災厄ハンター こうじゃない時見たことない