勇者リンクS’の人理修復配信RTA   作:はしばみ ざくろ

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世界のつづき

道行く道行く兵士は閑々。荒野をぞろ征く黒い影。

まるで亡霊のような顔をして歩く戦士達は、ただしく亡者であり、影法師であった。

首都ワシントンを拠点とする女王軍は、無限の兵士と血に飢えたサーヴァントを手足として、アメリカを東部から侵し尽くしていく。

エジソン率いる西部軍、合流したレジスタンス、そしてリンクのテコ入れによって戦況は一時拮抗したものの、それもいつまでも続くものではない。

いかに素早く戦力を集めきり、敵の首魁を打倒できるか。目下、会議は踊っている。

 

「――――――暗殺」

「いい案だ。しかし、却下する!いや、これは私の意見ではなく、リンクくんの意見なのだがね」

「なんだと?」

 

たき火の炎がゆらりとふらつく。まるでこの緊迫した空気を受けて驚いたかのように。

フェルグスの強襲を防いだ一行は、夜襲を警戒しつつも寝床の準備を整えた。避難民と交流しながらナイチンゲールの治療を手伝っていた立香とマシュは、語尾の上がったジェロニモに気づいて振り返る。

 

「君もすでに知っていると思うが、ケルトの戦士は極めて好戦的だ。そして侵攻の出鱈目さからも、彼らはおのおのが好き勝手に動いていることが理解できる」

「同意する。ケルトの戦士にとって、首都の防備は重要視するものではないと推測できるだろう」

『彼らにとって城は住み処であって、守るべきところではない。といったところか』

 

ケルトの戦士が重視するのは戦士としての力の在り方、生き様だ。

全体よりも個を尊重する社会形態であるケルトでは、エジソンのように城に多量の罠を仕掛けたりしないだろう。

 

「彼はこう言った。“誇りを重視するのならば、それを餌に引き摺り出してあげればいい。それまでに戦力を揃えておいて。全面戦争の準備を”」

「全面戦争・・・? ・・・・・・勝てるのか?」

「勝つとも。我らには、大地の勇者がついている。そのためにも君たちレジスタンスには、指定の場所へ仕掛ける罠の準備をしてほしい」

 

リンクとエジソン達が立てた作戦はこうだ。

何らかの方法をもって女王軍をあえて西部まで侵攻させ、のこのこと来たところを罠で一網打尽に。

あとは揃えていた戦力でサーヴァント達を足止めし、その間にカルデア一向を聖杯奪還に向かわせる。

・・・・・・あまりにもざっくりしすぎている。大丈夫なのか?

 

「“籠城されるとこちらが不利になる”と」

「・・・・・・私には未だ真意が読めないが、大地に生きた彼の勇者の言葉ならば、信ずる価値もあるだろう」

『ではその間に我々がアルカトラズに向かい、ラーマの奥方を探す。ということでいいかな。立香ちゃん』

「うん。明日の朝出発だね。がんばるよ」

 

話し終えるのを待ちわびていたかのように、夕餉の香りが人々を包んだ。

どんなに苦悩していても、侘しくても、腹は減るもの。眠くなるもの。それが人。

恐怖に縮こまっていた体を伸ばし、微笑みと共に食事を取る人々を見て、ようやくジェロニモは体の力を抜いた。

 

夜のカーテンが空を滑る。鉄の味がする口内で呼吸をしながら生きるラーマの汗を、ナイチンゲールが優しく拭っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ごうごうと、風が吹いている。

荒れた大地の岩肌を削り、僅かに生える植物を揺らし、洗濯物をはためかせた、朝風。

あきれかえるほど天気のいい今朝、カルデア一行は宮殿を旅立った。見送る西部のサーヴァント達に手を振り、無事を祈ってくれた兵士達に挨拶をし、朝日の眩しさに目を細めながら。

 

地面に刻まれた轍を指針にして、目指すは監獄島アルカトラズ。

アメリカ史上最も有名な刑務所であり、脱獄不可能と謳われた伝説的な島だ。

――――――などというロマニの説明を、立香の影に潜むアヴェンジャーは話半分に聞いていた。

脳内にガンガン話しかけて(愚痴って)くるアヴェリンがあまりにも喧しかったので。

 

「ラーマ、具合はどう?」

「・・・良くはない。ところでなぜこの持ち運び方法に対してはスルーしたのだ?マシュは二度見してたぞ?」

「だってそれ以外にラーマを運ぶ方法ないし・・・」

「くっ・・・、なんて冷静なマスターなんだ・・・」

 

これこそはナイチンゲールが考案した要介護者運搬装置、ラーマバッグである。

コサラの王の威厳はもうボロボロ。生きたいけど死にたい。なぜ余を背負ったまま戦闘しようとするんだ。この看護師無茶苦茶だ・・・。

 

「・・・・・・マスター。状態は良くない、という彼の自己分析は正しいようです。いよいよ以て限界が近づいてきています。出来得るだけ急ぎましょう。さもなくば、やはり患者の腕か足を切・・・・・・」

それは勘弁してほしい。ふふ、気力を出さねばな・・・」

「この患者のタフネスぶりは賞賛すべきでしょうね。常人ならば、とうに精神が参っています」

「妻と会うまで、余は死ぬわけにはいかん」

 

ああ、けれど、こうも空が青くて綺麗だと。

身動きできないまま、天を仰ぐしかできないと。

余計なことばかり考えてしまう。思考が横道に逸れてしまう。心の中の冷静な部分が、己を苛なんでしょうがない。

 

「余はコサラの王として賢政に努めた。少なくともそうしようとした。・・・・・・だが、そのために、彼女を犠牲にした」

『確か「ラーマーヤナ」によれば君は妻の不貞を疑い、二度、彼女を試したんだっけか』

「え?そうなの?奥さん怒んなかったの?」

 

まだ恋の何たるかを理解しきってない少女が、愛の話に耳を傾けている。

その無邪気とも言える疑問の声が、少し微笑ましかった。

 

「・・・・・・いや、余は妻の不貞を疑ったことは一度もない。ただ、民が承知しなかった。一度の儀式で疑いは晴れたはずなのに、民は疑念を持ち続けた」

「・・・ラーマは、信じたんだよね?」

「信じていたさ。だが、余はシータを追放した。せざるを得なかった」

「どうして?」

「それは疑った、と同義になるのでは?」

 

考えるよりも前に言葉を発した立香と、黙って聞いているマシュの視線を感じる。

ナイチンゲールの声は、背中のラーマを揺らさないように歩む足音のように静かだった。

 

『夫のくせに妻を疑うなんて・・・』

『最低ね!男の風上にも置けないわ!』

『虞美人、アルテミス。追い打ちを掛けるのは止めてあげてね・・・』

「・・・いや、全くその通り。余は最低である」

 

こぼれ落ちたのは何だ。苦笑か?

いいや、きっと嘲笑だった。立香達には、見えてなければいいが。

 

「保身、困惑、恐怖・・・歳を取ると様々なものが絡み合い、身動きが取れなくなる。余が小僧の姿で召喚されるのも自明の理だな。この頃は、ただシータだけが愛おしかった」

 

「ただそれだけで良かった時代が余の全盛期――という訳だ」

「・・・なら、その愛しい人間に会うまで辛抱なさい。愛しているのなら、愛していることを証明しなければ――」

 

一度言葉を切って、ラーマを背負い直して、ナイチンゲールは凛とした声で言った。

 

「それは、愛していないのと同じこと。言葉で伝えないかぎり、伝わらないこともあります」

「分かっているさ。さ、急ごう。余はまだ大丈夫だ」

「ええ。急ぎましょう、マスター」

「うん。シータさんに引っぱたかれても、ちゃんと受け入れるんだよ」

「はは、それは恐ろしいな」

 

さあ行こう。アルカトラズは目の前だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オケアノスとは違う潮風が立香の頬を撫でる。

冷たい水面は何も生まず、静かな孤島はただ不気味に佇んでいた。

不機嫌に門を開く監獄塔に上陸して、目指すは最奧。最短距離で、最愛のもとへ。

 

「来ました!ワイバーンとケルト兵です!」

「蹴散らす!行くよ!」

「もちろんですマスター!」

 

駆けていく。駆けていく。

己の為に、少女達が夢中で。

傷つきながらも賢明に。

――――――ああ、何と、罪深い。

 

「・・・くっ・・・・・・」

「婦長!」

「婦長!大丈夫ですか!?」

「余のためにあまり傷つかないでくれ、ナイチンゲール。余とて恥も知っておるし、何より先にお前が言っただろう。余は、お前が傷つくことを望んではいない」

「黙りなさい。私がこの世で二番目に嫌いなものは治せない病気。一番嫌いなものは、治ろうとしない患者です」

 

治癒魔術の巻子本(スクロール)を取り出して手当をしてくれたマシュに礼を言った後、ナイチンゲールは揺らぐことなく言い放った。

 

「そ、それは逆ではないか?」

「違います。治せない病気はいつか治せる。私たち医者は、看護師はその為に東奔西走し、知恵という知恵を絞り続けて居るのですから」

 

おそらく余はもう一時間も保つまい。それまでに彼女に会えるのだろうか。

 

殺してでも(・・・・・)治す。病気という病気を殺して殺して殺し尽くす。――しかしその為には、何より患者の気力が必要です。治ろうとする気力のない者を治すのは、どれほどの医者であろうと不可能。人が治そうとする意志を持つことで初めて、治療が開始できるのです」

 

いや、会えなくても仕方あるまい。それほどまでにこの大地で余は、余のわがままのために犠牲を出し続けたのだ。

 

「あなたが奥方に愛を囁けるように治す。あなたがその手に剣を持ち、戦えるように治す。その為には何よりまず、あなたの肉体が、細胞が、治すことを決意しなければ」

 

召喚されシータを探していた余は、虐殺を行なう狂王を見つけ戦いを挑んだ。それが軽率だったのだ。

結局返り討ちに遭い誰も救えなかったばかりか、余を救う為ジェロニモの部下が盾となり散った。彼らはただの人間だったのに。

 

「気力が萎えたのならば奮い立たせなさい。殺しますよ。あなたが何を深く悔いているのかは知りませんが、傷病が罰であるなどありえません」

 

・・・・・・・・・・・・だった、のに。

 

「それはあなたを治そうとする者、救おうとした者、今まさに救おうとしてる彼女達への侮辱です」

「・・・ああ、そうだな・・・。すまない、立香、マシュ」

「ううん。私たちは気にしてないよ」

「はい。身心に深いダメージを負った患者の精神が沈むのは、ある意味当然のことです。侮辱だなんて思いません」

 

森林を抜ける。

眼前にぱっと拓けた景色は、まるでラーマの心の有り様のよう。

晴天の監獄内に佇む看守は、宝を守る竜がごとし。

 

「アルカトラズ刑務所にようこそ」

 

侵入者の足音をかき消すような、男の声。

打撃音。強襲。

挨拶早々に振るわれた剣が、ナイチンゲールの頬を殴った。

一歩遅れて気づいたマシュがそれを呆然と見送る。

ラーマを守るために受け身を取らず吹き飛ばされたナイチンゲールが、衝撃で壁に激突した。

 

「入監か襲撃か脱獄の手伝いか、用件を言いな。殺した後に叶えてやる」

『サーヴァント・・・!』

「俺の真名()は“ベオウルフ”・バーサーカー。せいぜい楽しませてくれよ、お嬢ちゃん達!」

 

否、竜ではなく。

彼は竜を屠る者。

英文学最古の叙事詩と謳われる物語の主人公。戦士であり王。そして今は監獄塔の番人。“竜殺し”――ベオウルフ!

 

「おらおらおらァ!」

「・・・!」

 

ベオウルフの振るう剣が唸る。蠢く。筋肉の動きと連動せず、独自に動いて敵を切り刻まんとする。

標的にされたナイチンゲールが防御しきれず血潮を撒き散らすのが立香の視界に入った。早くなる鼓動。

 

『魔剣・・・!?血の匂いに反応して動いている・・・!』

「マシュ!婦長を!来て、ケイローン!」

「はい!」

「お任せを」

 

カバーの為に飛び出したマシュはしかし、叩きつぶすような斬撃を受け止めるのに精一杯だ。

鎖で連結されているというのに可動域が驚くほど広い。軌道の読みづらい連撃な上に、片方は剣と言うより棍棒のよう。敵を叩きつぶすことをを目的とした殴打は鈍い音を監獄に響かせて、じりじりとマシュを後ろに下がらせていく。

 

「撃ちます!」

「おおっと!アーチャーか!」

「婦長!手当を・・・!」

「ありがとうございます。マスターは下がっていてください。危険です」

 

流れ星よりも速い輝線を描いて、ケイローンの撃つ矢がベオウルフを引きはがす。

バーサーカーは俊敏な動きでそれを避け、警鐘を鳴らした直感に従って足に力を入れた。

衝撃で罅の入った床に無数の矢が突き刺さる。迷わず突貫してきたベオウルフが振り抜く剣を躱して、手首に一撃、懐に向けた足は空ぶった。

 

「ハハッ!ステゴロも行けんのかアンタ!」

全ての力(パンクラチオン)と言うのですよ」

 

背後から重量のある盾が襲い来る。前方からはケイローンが厄介な魔剣を抑えようと弓を引き絞る。

ベオウルフは振り向きざま魔剣で盾ごと少女を弾き飛ばした。そのままマシュの方に飛び退き体を横にずらす。直撃しそうな矢は叩き落として、ナイチンゲールの固く握られた拳を首を曲げることで避けきった。

 

「(強い・・・!攻めきれない・・・!)」

「(長期戦は不利ですね。ラーマが耐えられません)」

 

聖杯によって魔力を供給されているだけはある。

ただでさえ高いベオウルフの性能は更に底上げされていた。隙がない。

 

「(互角には出来たようですが、一手足りません。私の宝具なら落とせそうですが・・・。どうします、マスター?)」

 

ケイローンの宝具は強力だが、必中の矢ではない。当てられなければ状況は好転しない。マスターもそれを分かっているはずだ。

だが何もかも指し示してしまっては意味がない。

考えること。考え続けること。それを実行すること。賢者は何よりも、弟子の意志を尊重している。

 

「・・・待て、ナイチンゲール。頼みがある」

「患者は大人しくしていてください」

「いいや、治療のために必要な行為だ。余を下ろせ」

「・・・できません」

 

打開策を考え続けるマスターの顔を横目で見て、ラーマの発言に耳だけ傾けた。

どうやら状況が変わりそうだ。ケイローンは戦闘に集中しなおす。

 

「余を信じろ。患者と医者は、まず互いを信頼するものだろう?」

「・・・・・・一つだけ、訂正を。私は看護師です。医者ではありません」

 

身軽になったナイチンゲールが銃を片手に飛び出すのを、ラーマはなんだか清々しい心地で見送って。

心配している顔を隠さずに隣にしゃがみ込んだ立香に、努めて優しく話しかけた。

 

「藤丸、頼みがある」

「なに?」

「宝具を使いたい。令呪を一画くれないか」

『な・・・!無茶だよ、君の今の霊基で、』

「・・・・・・いけるの?」

「当然だ。余を誰だと思っている」

 

激痛を無視して立ち上がる。

歯を食いしばって前を睨み付ける。背筋を伸ばして胸を張る。

”英雄”が、この程度でくたばるものか!

 

「余はコサラの王、シータの夫、ラーマである!」

「――うん。やっちゃえ、セイバー!」

 

右手の令呪が光を帯びた。

息を吸って、吐く。

――――――シータ、僕は。

 

「我が(つるぎ)──烈火の如く」

 

君が透明な幽霊になったとき、君を見つけられるだろうか。

あの大地の勇者のように、君の手を握れるだろうか。

恐怖と孤独に襲われた君を、安心させられるだろうか。

 

愛しき者の手を離した後悔すら、時の流れは思い出にする。

穏やかな国、賢き治世。その代償が君との愛しい日々だとするのならば。

 

月輪(げつりん)(つるぎ)、必滅の矢。すなわち羅刹を穿つ不滅(ブラフマーストラ)。この一撃を、我が妻シータに捧ぐ」

 

ならば今こそ、剣を取らねば。

君に会うために。君に愛を伝えるために。君を抱きしめるために。二度と手を離さないように。

―――――――本当に、遅くなってしまったけれど。

 

「―――――いっけえぇぇぇぇっ!!!」

 

不滅の刃よ、呪いを断ち切れ。

――――どうか、どうか・・・!

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