わあわあと騒ぐランサーは二騎。額に手を当ててため息をつくエクストラクラス・ブレイヴが一騎。
見た目だけなら最年少の少年は、残念ながらこの場どころかこの特異点でもっとも年長だった。
ぱちん!と手を叩いて討論を終わらせると、すぐに振り返った二人に提案を投げ掛ける。
「わかりました!そこまで言うのなら一戦交えましょう。ただしお相手は一人だけです。わたしも忙しいので」
「その一人はどうやって決めるんだ?殺し合いか?」
「思考回路闘神なんですか?闘神だったな・・・・・・。じゃんけんしてください」
スカサハと李書文がじゃんけんを始めて一瞬で終わった。もっと3ターンくらいしなさいよ。こっちにも心の準備とかあるんですけど。
「勝ったぞ」
「ぐあああああ」
「こんなことで崩れ落ちないでください」
○奏者のお兄さん 一応伝えておくけどその闘神ルーン使ってるよ
ズルじゃん・・・。いやなんか発動したとは思ったけど。じゃんけんに勝つためのなりふり構わなさが潔すぎる。クソッルーン禁止って言っとけばよかったな。
「では勇者よ、がっかりさせてくれるなよ」
「どうぞ」
獣が獲物に飛びかかるときにも、きっとこのような殺気を放つのだろう。
下段から真っ直ぐに振るわれた槍を、体をわずかに反らすことで避ける。戦士の着地から踏み込みはコンマよりも速い。二撃目を振り返らずに躱して、上から振り下ろされた槍を剣で受け止めた。双方の得物がぶつかった衝撃は魔力の波となって地面を走る。
「(重・・・!?)」
さすが人を超え、神を殺し、影の国に君臨し続けた女王だ。大地の勇者を焦らせる剛力など、生前にどれほどいただろうか。
理想的な女性を想像したときに真っ先に頭に浮かぶような豊満な肉体美など、彼女の魅力の一片にしかならぬ。
朱槍が二本に増えた。スカサハが左手にも呼び出したのだ。勢いのままに回すことで生まれる残像は死の車輪のごとく。下から上から、刺すというよりは叩きつけるかのように襲い来る赤槍を大回転斬りで捌ききった。一歩飛び退いて空中に止まった、女王の瞳に愉悦が浮かぶ。
当然のように空中にいないでほしい。リンクの中でも自力で飛べるのは少数なんですよ。そんな思考が横切って、しかし体は危機を察知して動いている。
「そぉらっ!」
両手と合わせて七本。槍はさらに増殖した。天から四肢を、心臓を貫くために落ちてくる。
そしてその内の一本たりともリンクの体に触れることは叶わなかった。サンドロッドによって発生した厚い砂の壁に、すべて受け止められたからだ。
着地したスカサハの槍の穂先に、影の中でなおも輝く赤光の魔力が集中する。それは空気を震撼させ、大地の精の肩を竦ませた。
弾丸の如き射出。投槍は五芒星を描くように砂の壁を砕き、中心にいる獲物を嬲らんと飛び交った。瞬きよりも速くリンクの頭上に移動したスカハサの手に槍が戻る。
目に見える負傷、無し。砂塵が舞ったせいで視認しづらかったが、剣と盾を持っているということは上手く凌いだのだろう。すばしっこいことだ。
では、これはどうかな?
「耐えて──みせろっ!」
亡霊を屈服させる赤雷が膨らんで、轟音。クレーターのように抉れた大地は悲しそうに亀裂を深くした。
槍が落ちてきたのか、雷が落ちてきたのか?ただひとつ分かることは、仕留め損なったということだけ。リンクが無事だということだけ。
嗚呼――――素晴らしい!
「(あっっっっぶな・・・・・・!紫の薬飲んどいてよかった、)」
さて、大地の勇者はなぜ今の攻撃を防げたのか。砂の壁に守られている一瞬の間に紫の薬を飲んで死に戻ったからではない。
答えはロコモの剣に宿る光のパワーを防御に回し、己は全力でその場から離脱した、である。ロコモの剣はマスターソードや夢幻のつるぎと比べて目立たないところもあるが、間違いなくこの世に一振りしかない聖なる剣だ。
その刀身に宿る聖なる光は悪しき思念に乗っ取られたファントムを下し、魔王の野望すらも打ち砕くだろう。
そして魔力の波動で視界が塞がっていたとはいえ、スカサハの射程圏内から逃れられるリンクのその身体能力。どう考えても“弱く”はない。弱いわけないのだが、大地の勇者は己を限りなく凡人に近いものと認識している。他のリンクの水準が高すぎるせいで、感覚が麻痺しているから。
言わずとしれた大空&大翼。フォーソードを持つ創剣、四星、聖光。魔王ガノンドロフ/魔獣ガノンを倒した時、目覚め、光、風、息吹。世界を渡った理、次元。回生ですら魔法使いだ。しょうがないといえばしょうがない・・・・・・かもしれないが、ハイラル時代の人間とそれ以降の人間では根本的な
住んでいる世界の環境が違う。魔法と幻想の近さが違う。並べて比べる時点でナンセンスなのだ。
そもそも神の声を聴ける長い耳を持つ時点でただの人間じゃないんだからもうちょっとこう・・・偉そうにしていいんじゃぞ?とは先代である風の勇者の台詞である。
「(長引いたら不利ですね・・・)
「ほう、来るか?
広がる魔力は眩しい鮮緑。食い入るように見つめていた李書文もはっとするようなグラデーション。
剣はさらに輝いた。主の意志に答えるように。
「はあっ!」
「力を示せ!このスカサハに!」
女王の命に従って襲い来る無数の槍を、突進する速度を落とさぬまま剣で弾き進む。ほんの数メートルの距離が一瞬で詰まった。途切れぬ舞がごとき連撃、少年の体躯とは思えぬ力強さ。金髪の隙間から見える黒い瞳が太陽を反射して、深い湖底のようにきらめいた。
魔王が現れなければ開花しなかっただろう天賦の才からくる技の冴えは、死後出会うことになった歴代リンク達の教えを受けて更に高まった。本人も流石にこれは自覚している。恐らく生前より強い。
足捌きから腕の動きまで、まさしく伝説に謳われる勇者よ。スカサハは両手に携えた朱槍で相手取りながら、うっとりとしたまなざしを抑えきれない。
槍と剣がぶつかる硬質な音と風切り音が混じり合って、空気を花火のように震撼させた。
距離をとったのはほぼ同時、宝具の発動はまったく同じ。
「刺し穿ち、突き穿つ──!」
「
氷に浸ったような女の声と、どこか甘やかさの混じった少年の声。
双槍を構えて踏み込んできたスカサハを待ち構えるは、剣を構えた大地の勇者。
「
胸を貫く激痛にわずかに動揺した、女王を刈り取る剣の追撃。霊核が砕け散った。
思わず見下ろした心臓に、突き刺さるは光の矢。境界の向こうから射貫く狙撃宝具。
「――――――ゼルダ姫は、居ないはずだが・・・・・・」
「ええ。ですがこの宝具は“勇者、もしくは姫を囮にして弓を引いた”逸話の具現なので。貴女がわたしを狙う、一瞬だけあればいい」
「・・・・・・成程。あの詠唱は嘘か。すっかり真に受けてしまった」
宝具・
敵襲を想定して魔力充填や真名開放を済ませていたのが功を奏した。人目がなかったらガッツポースをしていた。
スカサハの霊基が崩れていく。霊子の粒に還っていく。
魔王を射貫く光の弓矢、魔境の女王も例外ではない。勝敗は決した。敗者は大人しく去るのみだ。
「大地の勇者よ」
「何でしょう」
「・・・不肖の弟子だが、頼む」
「ええ、しっかり躾けてあげます」
浮かぶ笑みは安堵。
突風が髪を散らして、緑衣をはためかせた。天高く鳴く鳥の声は、伸びやかに。
○りっちゃん 乙
○いーくん 頑張ったじゃん
○Silver bow 初見殺し宝具持っててよかったね
「勇者よ。このままお主と共にいけば更に強き者と戦えるか?正直今すぐここで襲いかかりたいのだが」
「狼だってもう少し“待て”ができますよ。・・・そうですね、少なくともわたしの好感度は稼げます」
「稼げるとどうなる」
「他のリンクとの遭遇率がアップします」
ランサー・李書文が仲間になった!中国武術が得意なフレンズだぞ!
○海の男 よしよし 頑張ったな
このあと戻ったエジソンの宮殿でカルデア一同が来てすぐにラーマと一緒に出かけていったこと知り、慌てて追いかけることになることをまだ――リンクは知らない。