「グアアアアアアーーーーー!!!!!」
「ディルムッドーーーーー!!!」
〇バードマスター ランサーが死んだ!
〇騎士 はえーよ
〇影姫 出オチがすぎる
一体何があったのか?
戦士の雄たけびは大地を震動させ、機械兵の進軍に鳥が慌てて飛び立っていく。
戦争が始まった。
ケルト兵は西軍の領地にたやすく侵入し、尊大で不遜な布告をした勇者を仕留めんと周囲をねめつけながら走り周り、爆発して炎上した。
ロビンフッド達が事前に仕込んだ破壊工作は、リンクの支配地の機能を向上させるスキルによって威力が倍増している。おまけにこの土地そのものも「新聖ハイラル王国」というテクスチャを張られているため、現在管理権を持っているリンクに「民」と認識されている者以外の能力値は著しく下降していた。
まるで子供にもてあそばれて逃げ惑う蟻のように、ケルトの戦士たちは隊列を崩し消滅していく。
女王によって無限に生み出される兵士達は、物量としての戦力は申し分ないが、知能はかなりパワー寄りだ。
進軍すればするほど弱くなることに気づけても、戦略的撤退などという選択肢はとれやしない。そうしてどんどん自慢の数も減らしていく。
想像していた以上に好調の滑り出しだ。管制室で見守っていたロマニはひとまず安心する。
『前方にサーヴァント反応が三騎!一騎はベオウルフです!』
そしてすぐに背筋を伸ばした。
たまたま目撃した職員が口の中で笑いをかみ殺して、緊張感とともに飲み込んだ。
「エジソン、指揮を頼む!」
「任せたまえ!」
リンクからベオウルフの話を聞いていた李書文が一声かけて飛び出していく。ジェロニモは返事だけ返して隊の前方に躍り出た。
視界に見えるは無数の水の球。その速度は、よく引き絞られた弓矢のごとく!
「ビリー!」
「オーケイ、任せてよ」
濁流。
まるで、川をそのまま背負ってきたかのよう。
槍とともに清き流れを振るうランサーが、戦意と共に来る。
「はーっはっはっは!ランサー、フィン・マックール。参る……」
「
宝具が放たれたことを意識するよりも先に、渦を描いて巻き上がる水がフィンを守るように質量を増した。
この反応速度はやはり大英雄。優美にして華麗なる騎士。栄光のフィオナ騎士団!
水に飲みこまれて勢いを失った銃弾は、槍に弾かれて不発に終わり。
「想定内だよ。とっておきのワン・ショットだ」
「………!?」
弾けて、中身が散布した。
弾丸に仕込まれた毒の粉は、フィンの周囲に散乱する。とっさに呼吸を止めても遅い。
「王よ!」
「(ディルムッド…!)」
「逃がすか!」
振るわれる槍の風圧が、フィンを窮地から救い上げる。
ひとまず距離を取ろうとする二騎に、アウトローたちは食らいついて離さない。
西軍にとっては圧倒的に有利なこの状況で、後手に回ることがあるとすればそれはやはり、東部のサーヴァントの存在だ。
たとえ仕留めきれなくとも。一騎だけでも。マスターが聖杯を手に入れるまでは、彼女たちのもとへ行かせはしない!
「チッ…!罠が多い…!」
「王よ!やはり
「しかしなディルムッド。だからといって引けんだろう。勇者が見ているぞ…!」
「ッ…」
リンクの挑発はよく機能しているらしい。
足元の自由を奪わんと、次々作動していくトラップを強引に破壊しながらも、二人は撤退を選べない。
それは戦士としての矜持であり、英雄としての意地であり、勇者リンクにいいところを見せたいという見栄であった。
ケルトの戦士の全速力に、ジェロニモとビリーはすっかり引き離されてしまう。
暴れる戦士たちが大地を踏み荒らす。砂埃が巻き上がる。
戦場の視界は悪く、焼け焦げたニオイが血と混ざる。
ここまでくれば大丈夫だろう――――。その思考の
「
貫かれてからようやく、痛みの走った胸を見下ろした。
遅れて驚愕がやってくる。膝から力が抜けて、ふらついて、よろける戦士に脂汗。
隣で目を見開く王にかける言葉もない様を確認して、ロビンフッドは肺からすべて空気を出す勢いで息を吐いた。
フィオナ騎士団の二人はマスターを狙って一直線にくるだろう。というのがリンクの見解であり、遠目で存在を確認していたロビンにも異論はなかった。
そこから「ではその二騎が間違えて北軍に行くように細工しておきますから、足止めよろしくお願いしますね」という流れになるのはまったく予想していなかったが。
「そのボウガンはとても素敵ですけど、あまり遠いと届かないのでは?」
「つってもオレはこれが慣れてますしね。まあ普通の弓も使えるっちゃ使えますけど…」
「わたしの弓を貸しましょうか?……そんなに勢いよく首を振ったら取れてしまいますよ」
「いいなー!ロビン!貸してもらいなよ!」
「無理無理無理無理無理無理」
話し合いの末、大地の勇者からもらったハイラル産のアイテムを使って弓矢を作らせてもらうことになり。
これのどこが妥協案なんだよ!もはや聖遺物じゃん!というロビンの叫びは全員にスルーされた。
「(よかった。当たった。マジでよかった外さなくて)」
「ロビンフッド」という名を襲名しただけの、善良で、やや小心者の青年は嘆息する。安堵したことで気が抜けたのか、いまさら手が震えてきた。
心の底で憧れていた、心の底から焦がれていた緑の勇者に顔を覗き込まれて、緊張しないわけがない。
彼と己の違いを見比べて、みじめにならないわけがない。
己の顔を隠し続け、本当の名すら失った青年が、英雄と呼ばれるわけがない。
そんな卑屈と孤独に凝り固まった思考は、“本当の英雄”にあっさり晴らされてしまったが。
だってそれは生前の話だ。サーヴァントとなった、今じゃない。
「北軍を頼みますよ。ロビンフッド。もう一人の緑衣の勇者よ」
「……………………過言です」
「いいえ。森に愛され、森を愛し、平和のために戦った。まるで時の勇者ではありませんか。あなたもまた、勇ある魂の持ち主ですよ」
「…………………………」
「顔を上げていなさい。隠したままでもいいから。わたしは貴方を応援していますよ。騎士見習いさん」
祝福は流れ星のように唐突に、薄明の太陽のように鮮やかだ。
この程度で泣きそうになるなんて!
なんと単純なのか。ぼやく心は温もりに満ちている。希望という名の、暖かい光に!
「(李書文は…ベオウルフと殴り合ってんな。なんで殴り合ってんの?槍は?アンタもバーサーカーだったか…)」
周囲を一通り確認して、ジェロニモとビリーの加勢をするため矢を番えなおすと、ディルムッドが爆発していた。
「なんで!?」
「なんで!?」
「地雷を踏んだな」
「ディルムッドーーーーー!!!」
ふらついていたときにトラップを踏んだようだ。
「おのれ…!アメリカ軍!ディルムッド、お前の仇は私が取る!」
「自分で踏んだじゃん」
「人のせいにしないでくれ」
〇海の男 毒食らってんのに元気だな
〇災厄ハンター 地雷…? アッ
「グワーーーーーー!!!!!」
「連鎖爆発したな」
「そうだここチュチュ爆弾ゾーンじゃん」
ディルムッドが踏み残していった爆発により、近くに埋められていたチュチュ爆弾にも衝撃が伝わり、発動する。
赤チュチュ爆弾は炎を、黄チュチュ爆弾は周囲に電撃を巻き起こし、うっかり立ち入ってしまったフィンを襲う!
〇ウルフ ポケモンでもこんなデバフうけねぇよ
〇いーくん 麻痺を許さない会会長です よろしくお願いします
〇りっちゃん ホゲータのぬいぐるみを買うために世界を救わなくっちゃな
「ぐ…! フフ…!この程度で私を止められるとでも! 舞い上がれ!ヌアザの清き流れよ!」
「もちろんそんなこと思っていないさ。いくぞ!」
激流が大地を抉っていく。
鋭い刺突がジェロニモの短刀を弾き飛ばし、上から叩きつけられた槍の軌道をビリーの弾丸が逸らす。
円を大きく描く動きは、見とれてしまうほど優雅な舞。下から襲い来る冷たい攻撃を、横から嚙みついたコヨーテが受け止める。飛び散る水が獣の頬を濡らした。
それなりにあった距離を一度の跳躍で詰め、穂先をビリーの心臓に食い込ませんと接近する。フィンの顔には笑みが浮かんでいた。
体を着実に蝕む毒。動けば動くほど下がっていくステータス。不可視の矢。劣勢どころの話ではない。
戦いを挑んだこと自体が間違いだといわんばかりの容赦のなさ。なるほど、これが大地の勇者か。
「(女王たちは、負けるな……)」
だが、それは己が諦める理由にはなりはしない。降参する理由足りえない。
最後まで、あがいて見せようじゃないか。フィオナ騎士団の名に懸けて!
「――――さあ、栄光と勝利の時」
『宝具が来るぞ!』
「押し返す。――ここが勝負どころだ」
魔力が高まっていく。
大地から湧き出た清流が、フィンの意思に従いあふれ出す。
巨大なコヨーテが吠えた。雲が吹き飛ぶほど高々と。
「堕ちたる神霊をも屠る魔の一撃……その身で味わえ!」
「精霊よ、太陽よ!今ひと時、我に力を貸し与えたまえ!その大いなるいたずらを……」
水の本流は穂先に集束していく。渦は加速していく。
太陽は燃え上がった。天を真っ赤に染めて、煙草を探している。
「
「
高圧洗浄機よりも高速で発射された水と、大地を炙る高温の陽光は、つまり冷えた空気と暖かい空気である。
ぶつかり合った空気が上昇する。断熱膨張によって急激に雲がつくられていく。アメリカ大陸の一角で天気が大きく崩れたのを、宮殿にいるリンクとシータが見上げていた。
ごうごうと鼓膜を揺らす空気の悲鳴。
びりびりと暴れまわる風の叫び。
暑かったり寒かったりと、めちゃくちゃになる気温。
長いようで一瞬の喧騒は終わり、やがて大地はひと時の静けさを取り戻す。
荒い息を吐いて崩れ落ちそうになったジェロニモの体を、駆け寄ってきたビリーがとっさに支えた。
「フィンは…!」
「勝ったよ。大丈夫」
「…………やれやれ。負けてしまったな。些か思うところもあるが、潔く
地面に倒れ伏すのはエリンの守護者。
ごぷりと吐き出した血が金髪をべとりと汚した。
悔しいが仕方ない。負けは負けである。
そんなことを考えながら霞む視界で空を見上げていたせいで、近づいてくる影への反応が少し遅れた。
緑衣。
「……君は?」
「ただの騎士見習いですよっと。…はい、解毒しましたよ」
「…律儀だな?」
「オレなりの、あ~……ケジメ、的な…?」
「…ふふ」
なんとも気まずそうにマリーゴールドの髪をかき混ぜる青年に、フィンは思わず微笑んだ。
うん、貧乏くじだったな。まったく。次は勇者リンクと同じ陣営になれればよいが。
いつの間にか上空に戻ってきてた鳥たちが、遠く、のびやかに鳴いていた。