勇者リンクS’の人理修復配信RTA   作:はしばみ ざくろ

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「君は涙を拭い」

「――来たか、カルナ」

 

民草の見上げる空の先。手を伸ばしても掴めぬ大渓谷(グランド・キャニオン)

大陸中で巻き上がる粉塵と絶えぬ剣戦を見下ろしながら、アルジュナは待っていた。

 

「来るとも。いついかなる時代とて、お前の相手はオレしかいるまい」

 

宿敵の相対は静謐。

どんなに離れていてもお互いの声だけは届くだろうという確信をもって、言葉を続けた。

 

「聖杯戦争にサーヴァントとして召喚されるたび、私は貴様の姿を探し続けたのかもしれない」

「それはきっとオレも同じだろう。再び巡り合い、言葉を交わす束の間があったこと。大地の勇者に感謝しよう」

 

アルジュナ。インド古代叙事詩「マハーバーラタ」の大英雄。

万民に好かれ、神の寵愛を受け、天賦の才を持ちながら努力も欠かさない。正義がそのまま形になったような誠実な男。

まさしく大英雄。非の打ちどころがない――――という姿を求められ続けて答え続けてしまった、半神の男。

 

けれど、カルナを殺さ(と戦わ)なければならない、と決めたのは自分だ。

時の勇者がガノンドロフを殺したように。たとえその後、どんな人生を歩むことになろうとも。

そしてカルナはそれを許した。宿敵の決意に、誇りと称賛を向けて。

ガノンドロフが時の勇者に、奇妙な連帯感を感じながら称賛を与えたように。

それだけは運命ではなく、己で選んだ(カルマ)だった。

 

「おまえがそこに立った時点で、他の全てのものが優先事項から滑り落ちた。だが…」

「この宿痾は癒えるものだ。オレもお前も、気づいていなかっただけで」

「――そうだな。この決着をもって終わりにしよう。殺意だけが、我らの会話ではなかった」

「異論はない。エゴイズムを押し通して、己も世界も救うのが英雄というものだ」

 

アルジュナは正しい人になりたかった。

カルナと出会ったとき、確かに夢見た正義の心を感じたのだ。初めて己に匹敵する技量をもつ男を見つけて、嬉しかったのだ。

だから友達になりたかった。声をかけた。立場なんて知らなかった。そんなものは魔物にでも食わせておけばいい。勇者リンクだってきっとそう言うから。

そこからの日々は、あまりにもかけがえがなくて。二人はあっという間に距離を縮めていった。

武を競うことも、跡がつくほど繰り返し繰り返し本を読みあうことも、くだらないことを話しては笑いあうことも、なにもかもが幸せだった。

ただ、世界がそれを許さなかっただけで。時代がそれについていけなかっただけで。

 

戦争は回避できず、大地は血と敗者の呻き声に満たされた。

多くの命を奪い、奪われ。憎悪と怒りが重なり合う。二人の声は喧騒に拒まれ、かき消されては望みも潰える。

カルナはドゥリーヨダナへの元へ戻り、アルジュナは兄弟たちを選んだ。

二人の間に流れる絶望の川は速く、亀裂はもはや超えられない。それでも――という願いを否定する謀略が、義務が、体を動かし弓を引き絞る。

苦悩と愛。悔恨の決着。残ったのは神話だけ?

 

「この世界に神はなく、呪いもなく、宿命すらもない。あるとすればそれは大地の悲鳴を聞き届けて現れた、勇者の意思だけだ」

「ああ――行くぞ!」

 

再演ではない。

これは終わりであり、始まりである。

燃え尽きた焔が再び点るための序奏。大地に捧げる雷炎のデュオ。

 

梵天よ、我を呪え(ブラフマーストラ・クンダーラ)!」

 

様子見など不要。初手から全力全開の投槍。

灼熱の炎をまとった黄金の槍は、まるでスプーンでケーキを抉るような簡単さで山を陥没させた。

座っていた体制からあまりにも素早く回避を選択したアルジュナの手に、神弓が呼び出される。矢を番えてから討つまでの速度はさらにそれよりも速い。

スキル「千里眼」により透視すら可能としているアルジュナに、撃ち落とせぬ獲物などごくわずか。

常人には到底目に追えぬ。達人でも不可能。だが英雄なら対応する。

 

「ハアッ!」

「せえっ!」

 

流星よりも凶悪な矢の雨嵐。

回避、迎撃、焼き尽くす!すり抜けた数本は黄金の鎧に阻まれて、しかしカルナの頬に赤い線を作った。

生前ならばこの程度、かすり傷にだってなりはしないが。そこはサーヴァント。マスターとの魔力供給をカットして、アルジュナと対等になるためにリンクの援護も受けていない今では、わずかな油断が致命傷になり得るだろう。

魔力放出で距離を詰める。アルジュナは焦らず、上段から振りかぶられた槍を弓で受け止めた。

青い炎と赤い炎。混じりあうことはなく、ただ幻想的な色彩を観客に見せる。まだ青い空の下で行われる灼熱の交錯は、網膜を焼くほどの輝き。

アルジュナの背後に展開された魔力の矢が、丸い軌道を描いてカルナを襲う。回避後の軌道すら予測された絶技。

しかしカルナとて超絶の戦士。天を縫うように振るわれた槍が、赤金の軌線を残して矢を叩き落す。

 

「頭上注意だ、悪く思え」

「狙わずとも!」

 

炎の槍が落ちてくる前に、さらに上から落ちてきた青い矢にかき消された。

アルジュナは弓の名手。その技量は、射る際に極度に集中することによって時間感覚操作を行えるほど。

魔力が乗ることによって加速した矢はさらに速い。場合によっては、ビリーの早打ちをも上回るだろう。

だが、マスターからの魔力供給を断っているのはカルナだけではない。アルジュナもだ。残量はどんどん枯渇していく。肉体も徐々に脆くなっていく。

それで構わない。もとより長期戦など望んでいない。

ただ、全力で。全霊で。この歓喜を分かち合いたい!

 

「…………すごい」

「……カルナのほうがわずかに圧していますね」

「ほう、分かるかナイチンゲール」

 

軍の先頭を走り続けていた立香たちは、わずかな休憩時間に背後を振り返って、圧倒されていた。

こんなに離れているのに、ここまで届く戦闘音。甲高い金属音。空気が焼き焦げる鈍い音。豆腐を握りつぶしたかのように崩壊していく山々。融けていく大陸。血潮を滾らせて吠える戦士たち。――――それはまさしく神話だった。

 

「やはり弓兵は遠距離戦こそが華。あそこまで接近されていては、さしものアルジュナでも手に追えまい」

『というより、本来ならばカルナが圧倒していて然るべき状態だ。それをほぼ互角に見えるところまで待ちこむとは……。さすがアルジュナ、大英雄だね』

「だが、決着は近いだろう」

 

拳がぶつかる。

高速で展開する攻勢は交唱。雄弁な瞳が決着を予感させる。

伝えることなく熟れて潰れた言葉を、振り返ることはもうない。新たに芽吹いて花咲いて、時の流れに乗って行くだろうから。

風向きが変わる。笑みを作る口元を隠さずに、声を張った。

 

「――――此処に、我が宿業を解き放とう」

「神々の王の、慈悲を知れ――――」

 

それは、世界そのものを破壊する(やじり)。破壊神シヴァから授けられた、滅ぼしの兵装。

それは、たった一度だけ使える神殺しの槍。雷神インドラから授かった、高潔の証。

 

――――長い、長い日々だった。

カルナが実兄であることが判明した日から。ヒマラヤで生涯を終えた日から!渇望していた時が来る。邪魔をするものは何も無い!

霧が晴れたように澄んだ心のまま、宝具を放ち――――――。

 

 

破壊神の手翳(パーシュパタ)!!」

日輪よ、死に随え(ヴァサヴィ・シャクティ)!!」

 

 

この瞬間。この空間。この大地に存在するあらゆる生命が、二人を見ていた。

宮殿に残っていた二人も、東軍の王と女王も、見ていた。

…鮮血が散る。

倒れた人影を認識した者たちが、驚愕を顔に浮かべて。

 

「―――――え?」

「……!」

「な、に――――」

 

崩れ落ちたのは狂王、クー・フーリン。

直後、宝具がぶつかって――――――。

 

『何が起きた!?サーヴァント反応と…、ああもう宝具の衝撃で計測器が大騒ぎだ!』

『映像戻ります!……これは…!』

 

砂塵が晴れた。

煌々と視界を覆っていた光が収まる。

まず立香たちが見つけたのは、ぜいぜいと荒く息を吐き、負傷した体を気力で保ちながらも眼光鋭く立っている戦士の二人。

鎧と霊基を代償に宝具を放ったカルナに対して、スキル「単独行動」を有しているが故わずかな余裕があるアルジュナ。……雌雄は決したようだ。

そしてその傍に居る、腹に穴を空けたクー・フーリン。

 

《……令呪を以て命じます。クーちゃん、私の元へ帰りなさい》

「チッ……!」

 

屈辱……!

隙をついたつもりで、完璧にカウンターをくらった。

この土地が勇者リンクに管理されているからとか、そういうレベルのタイミングじゃない。こちらにだって聖杯がある上に、必中必殺の呪いの魔槍だ。

放つ前に止められるなんて、予想されていた(・・・・・・・)以外にない……!

脳内に響いたメイヴの命令にも己にも舌打ちをしながら、狂王は撤退した。

 

「えと、なにがあったの?」

「わ、わかりません。ドクター!」

『……シータの宝具!?宮殿から!?こんな、よく届いたな!?』

「シータが…?」

 

そう、超遠距離狙撃こそ弓兵(アーチャー)の華。

誰も戦力として数えていなかっただろう少女の、渾身の一矢。力と勇気を試すためにジャナカ王の祖先に授けられ、この弓に弦を張ることが出来た者がシータ姫の花婿に相応しいと謳われた神弓。

追想せし無双弓(ハラダヌ・ジャナカ)

 

「……や、やった!やりました!勇者様!ありがとうございます!」

「いえいえ、わたしは少しサポートしただけですよ。さすが羅刹の王、ラーマの伴侶。見事な一撃でした」

「はい、はい…!」

 

 

いーくん 弓、こんなにデカくなるんか…。姫様全身で引いてたぞ

うさぎちゃん(光) ギリッギリで心臓を避けたのはさすがですね

小さきもの ようやく余裕が崩れたんじゃない?いけいけー

 

 

うたた寝していた夢魔が思わず飛び起きて、「えげつないなぁ…」とつぶやきながらまた横になった。

獅子王軍、オジマンディアス軍、山の民、ゼル伝の悪役達の四つ巴で、混乱と混迷を極めているキャメロットとは大違いだ。

やがて勇者リンクとカルデア一行がたどり着いたとき、果たして原型は残っているだろうか……。

星見にできることは余りに少なくて、いっそ笑いがこみ上げてくるくらい。

 

最果ての島から出る日は近い。

それまでにどうか…なんか……うまい感じにいってくれよと、花の魔術師は思った。

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