勇者リンクS’の人理修復配信RTA   作:はしばみ ざくろ

87 / 117
二息歩行

「カルナ…!」

「カルナさん!」

 

ごうごうと風が吹き荒れた。

迅雷のごとく大地を走り回る魔力が、やがて空気に溶けて消えていく。

陥没した大地に足を取られながらも、できる限り近くに走り寄ってきた少女たちを見て、カルナはわずかに―――(アルジュナにも辛うじてそうとわかるレベルで)ほほ笑んだ。

 

「やはりランサーは燃費が悪いな。次はセイバーかランチャーにしよう」

「この状況でそれを言うの、カルナなりの慰めだってわかるよ」

「大丈夫です、カルナさん。わたしたち、貴方が居なくてもちゃんと勝って帰ります…!」

「――――ならば、オレが心配することはなかったな。さらばだ。マスター、マシュ」

 

伸ばした手が血に濡れていることに気づいてひっこめた、カルナの右手を掴む。少し豆ができた少女の手の暖かさよ。

真似をするように手を出したマシュの掌を左手で包んで、不格好な握手を交わした。

 

「お前たちに、太陽の加護があらんことを」

 

雲一つない空に消えていくエーテルが、まるで光を反射したガラスのように光っていた。

 

「……アルジュナ」

「……彼の心配はいらないでしょう。望んでいた決着はつきました。妄執に囚われることもなく、後悔に精神を侵されてもいない。私達は先に進みましょう」

「うむ。シータのおかげで神聖な決闘が邪魔されることもなかったからな。シータのおかげで。さすが余のシータ!目の前に居たらすぐに抱きしめて称讃の言葉を浴びせていたのに…!ええいすぐに終わらせて帰るぞ!シータが余を待っているのだ!」

『なんかおかしなテンションになっちゃったな』

『やる気は出たからいいんじゃない?』

 

喧喧諤諤、遠ざかっていく声を背中で聞いた。

アルジュナの目に映る、世界はいまだ鮮やかで。

 

「(―――――――カルナ)」

 

しばし目を閉じて、感情の波に身を任せることを許してほしい。

ここに一つの戦いが終わり、戦況はまた動いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――欲しい。

欲しいの。

あの男が。

 

手に入らなかった。

私のものにならなかった。

心は堕ちずに、体は離れ。欲望は弾け、果実は落ち。

恋は何処に?愛をあげる!どうして、どうして――――!

 

声を掛けたのに!誘ったのに!

許せない…!許せない許せない許せない許せない許せない!

アルスターのクー・フーリン!

その視線が欲しいの!その心が欲しいの!体が、思想が、主義が、貴方を構成するすべてが!

絶っっっっ対に、屈服させてあげる!

 

「クーちゃんを王にして!私と並びたてる程に、“邪悪”で“逞しい”王に!」

 

願望の杯は満たされた。

表面張力でなみなみ揺れる、魔力のワインを飲み干して。

王は産まれた。女王は笑った。

 

「さあ、蹂躙を始めましょう!見せて、クーちゃん…!あなたという王様が、この世界の何もかも滅茶苦茶にするのを…!敵も、味方さえも、その死棘の槍(ゲイ・ボルク)で殺しつくす様を…!」

 

希望も奇跡も正義も宝も夢も未来も全て全て全て全て全て!!

無様に惨めに呆気なく!粉々に壊して殺しましょう!

だから――――――――――。

 

 

どうして邪魔するの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

生きることと戦うこと。

それがクー・フーリンにとっての至上の喜びだった。

 

得難い強敵との死闘で死力を尽くすこと。

望むままに、望む相手と、技を交わしあうこと。

なんのしがらみもなく、遠慮もなく、惰性もなく、義務も無い。

ただ、ただ、純粋に戦うこと。殺してもなお殺せない相手との死闘!これだけを望んで座に至る。至ったのだ。

 

「最短距離で王になり、最短距離で支配する」

 

生前存在しなかった望みが生まれるなど、サーヴァントにはよくあることだ。

王を望まれ。

王になった。

――――だが、王意がない。理想がない。

 

「ならば全てを破壊して、目についた敵はブチ殺し、誰も居ない荒野に立つ」

 

己の道は真っ直ぐだ。

寄り道している余裕もなく、誰かの荷物を担ぐ余裕もない。

我欲で槍を振るい。余分を捨てて愉悦を捨てて。世界を滅ぼすに足る力を得た。王は君臨する。

 

角笛を鳴らせ。

天高く飛ぶ鴉を撃ち落とし、敗者の血で大地を染めろ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろ来るわね、王様。体は大丈夫かしら」

「修復は完了した。二度も無様は晒さねぇ」

「もしもの時は、こっちにアレ(・・)を持ってくるわ」

「……必要ねえ。オレ一人で十分だ」

 

ホワイトハウスは悪の巣窟?

排他的で閉鎖的。刹那のしじまに佇んで。

 

「連中は全て北部戦線に叩き込め。それで戦争も世界も終わりを告げる」

「……勇者は?」

「ヤツが出るのは最終手段だろう。さっきの一矢で確定した。少なくとも北部のサーヴァントが全滅でもしない限り、巣から出てくることはねぇだろう」

「そうね。――あーあ、楽しい女王ごっこもこれでおしまいかぁ」

 

チェリーピンクの髪を揺らして、メイヴは甘やかなため息をついた。

それは彼女に気を惹かれている者が見れば、一気に引き込まれ目を離せなくなるほど婀娜っぽかったが、ここにいるのは狂王だけである。

 

「楽しいか?」

 

真顔は崩れない。永遠結氷よりも凍える声が、ただ冷徹に女を見ている。

 

「ええ、とても楽しいわ。予想外のこともあったけど。だからこそ、最後の最後まで楽しみたいものね」

 

見上げる女の蜂蜜のような瞳が、愛しい男をとらえてとろんと蕩けた。

 

「クーちゃんは楽しくないのよね」

「どうだかな。おまえは勝手に楽しめばいい」

 

不吉なほど明るいカーマインが、からからの返事を打ち返す。

それにだって女は嬉しそうに、――――嬉しそうに、言うのだ。

 

「……ん。クーちゃん、愛してるわ」

「そうかい」

 

椅子から立ち上がって、白いバトルドレスの裾を直す。

一般的な人間から、平均的な思考から、逸脱した倫理感を持った女であるが、これでも根は乙女である。

死んでも愛を謳い、恋を叶えるために努力した。永久の貴婦人。女王メイヴ。

悪辣なのは生まれつき。ありのままであるが故の無垢。勇者を待つのではなく、我が物にするために戦車を駆る少女!

 

「さあ、終わりの戦いを始めましょう。みっともなく足掻いて、もがいて、立ち上がって。決意の眼差しでこちらを睨みつける彼らを。造作もなく踏みつぶしてあげましょう」

 

――ああ、最高に楽しみ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

太陽があくびを繰り返し、寝返りを打つように沈んでいく。

強い日差しに目を奪われている暇はない。

大地を駆けて、駆けて、走る。西部の領土を飛び出して、東部のワシントンへ急ぎ足。

 

『ここからはもう女王の領地だ!リンク君の援護も届かない!最大限の警戒を!』

「了解!」

『北部戦線も健闘している。これなら何とか――』

「来ちゃったのね」

 

いたずら好きの子供を咎める母のように感じたのは、はたして立香だけだろうか。

女神のごとき完璧な肉体から、清廉で包容力に満ちた女王の気品を漂わせて。

 

「おまえは――」

「女王メイヴ。ケルトの勇者たちを産み続ける女王ですね」

「あなたが……!」

 

事前情報と妙にチグハグで、戸惑っているのは立香だけ?

一片の穢れなど存在しないような、自信満々で勝気な笑みを浮かべて、女王は高らかに宣誓した。

 

「アンタたちのガラクタ兵隊と私の可愛い坊やたち――果たしてどっちが強いのか」

 

途端血だまりから飛び出した、怪物たちのカプリチオ。

 

『竜種に、シャドウサーヴァントに、キメラ…!?』

「……勝って見せるわ。王様に全てを託されたのは、この女王なんだから……!」

『スプリガンまで!?無茶苦茶だな…!』

「大丈夫、行くよみんな」

「はい!」

 

覚悟を決めた者は強い。

それは古今東西。今も昔も変わらない。

高く跳躍したラーマが竜を撃ち落としても。

マシュが叩きつけた盾でキメラが押し潰されても。

ナイチンゲールがスプリガンの顔に拳を叩き込んでも。

メイヴは一切の動揺を見せなかった。

 

『何だ…?やけに冷静だな……。何を企んでいる…?』

『聖杯は持っているようだけど……。ただの時間稼ぎかしら』

「オルタ、お願い!」

「戦だ。蹴散らすぞ、ラムレイ」

 

じわじわと湧き上がる不安をロマニとオルガマリーが分析している間にも、敵はどんどん消滅していく。

渦巻くように発生したアルトリア・ペンドラゴン[オルタ]の魔力の濁流に、飲み込まれて崩壊していく。

それでも、混濁とした血液から蠢く影は途切れることなく。

 

「無限とは言い難いですね。時間をかければ無限というだけで、ここまでくれば、減速の速さが勝る。魔術においても、科学においても、彼女は追い詰められていると言っていいでしょう。ただ――」

「――ハ、ハハ。ハハハハハ!」

 

ナイチンゲールの分析に、無邪気な笑い声が重なった。

 

「…追い詰められている?私が?逆よ、逆」

 

血泡とともに浮きあがり、ぱちんと弾けるように目を覚ます。兵士の士気は右肩上がり。

 

「追い詰めているのが私なの。ホワイトハウスにいらっしゃいな」

 

肉壁に庇われながら優雅に背を向けた、女王は去る姿も美しい。

 

「チッ……間合いに入らなんだ。羅刹を穿つ不滅(ブラフマーストラ)は投擲武器ということ、知っていたか」

「行きましょう、皆さん。……間に合わないかもしれませんが」

「間に合わない?」

 

槍を振るうたびに敵が吹き飛んでいく。その中心でランサーに守られながら、立香はナイチンゲールに振り返った。

 

「……分かりません。ただ、彼らは秘密の刃を隠し持っています。彼女(メイヴ)の笑みは余裕から出たものではなく、こちらを嘲弄(ちょうろう)したものでもありません」

 

あっという間に静かになった。ラムレイが悠々と主人を乗せて戻ってくる。

 

「あの笑みは略奪の笑み。こちらが大事にしていたものを破壊するときの、たまらない嗜虐の笑みです。我々ではない。我々なら、すぐにその切り札を出している。ならば――」

「うむ。ナイチンゲールの言いたいことは分かる。すぐに追うぞ!」

「うん、行こう。ホワイトハウスへ」

 

なにが待っているんだろう。

つぶやきは胸の中。立香は足を動かした。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。