時は少しさかのぼり。
ホワイトハウスは一触即発。対してリンクは侃侃諤諤。
表面上は喧騒から遠い、白壁の宮殿にて通信中。
〇奏者のお兄さん 北部でなにかしらの召喚術が動いてない?
〇いーくん これは……ハァ?なんだこりゃ
〇うさぎちゃん(光) どうすんの大地~~
目を閉じて、探知を迸らせる。
大陸を覆う宝具のお蔭で、魔力の道ができていてよかった。わたしこれでも素人ですからね。北部の様子を精査して、異物たる術式を読み取っていく。
聖杯をこう使うとは――。なるほど。敵ながら天晴。これが女王メイヴですか。
〇騎士 詳細は省くがサーヴァント全キルした
〇うさぎちゃん(闇) この人は何?????
わたしたちの始祖がマイペースすぎる。
いけないいけない、集中して…。……ああ、でもこれ用は召喚術ですね。なら、確かまだアルジュナがいたはず……。
〇騎士 お前は多忙で二窓できていないだろうし、読者にも忘れられかけていそうだから……
不自然に乱れる魔力が大地の秩序を絡めとり、ごうごうと荒ぶり始めた風が金髪を乱す。
ピンと張った布に突き立てられたナイフを幻視して、リンクはため息をついた。
月面顔負けのクレーター荒野。佇む白だけが光を反射して。
きらり。
風に吹かれた綿毛のようにほどけていくエーテルは、天を仰ぐアルジュナの輪郭をぼやけさせていく。水に溶ける絵の具のように、境界線をなくしていく。
悪くない。
心は澄んで静謐を取り戻し、闘志はそっと仕舞われた。
最後に、この「新生ハイラル王国」という大地に受け入れてもらえるのならば――――。
「感傷に浸っているところ申し訳ありません。アルジュナ。今よろしいですか?」
「…はい? ………………………!?!?」
〇ウルフ やんのかステップ
〇災厄ハンター エビ
キュウリを背後に置かれたネコみたいだなぁと大地は思った。
カッ!!っと見開かれた目が驚愕を表して、体重移動に失敗した足元がふらつく。無様!アルジュナの脳内に一瞬で嵐が吹き荒れる。恥!リンクはまったく気にしていないし、なんなら初見の時の方が荒ぶっていたが、とりあえず消えなくては――――と混乱した思考が逃亡を図った。お手本のようなパニックである。
「すみません。ちょっと還るのは待ってもらえますか?あと大丈夫ですか」
「ハイ……(小声)。大丈夫です。元気です(震え)」
「そうですか(全てをスルー)」
なんとか腰を抜かすのだけは回避したようだ。英雄…!私は英雄……!頑張れアルジュナ……!
(そういえば今ここはハイラル(仮)なんですから、
「では改めて。お願いがあります、アルジュナ。最後に一度だけ、わたしに力を貸してください」
「……ぇ」
「貴方の宝具が必要なんです。カルデアに、この世界に――」
見つめる眼は黒曜石。鋭い切っ先を内に隠し、少年はか弱く訴えて。
憧れの勇者に頼られるという予想外の展開に、インドの英雄は象に轢かれたような衝撃を受けた。
〇ウルフ 押せーっ!
〇災厄ハンター いけーっ!高い壺とか売れーっ!
〇いーくん 売るな
〇うさぎちゃん(光) 買いそう
「――アルジュナ」
真っ直ぐに、差し出された手は余りにも少年だった。こんなに、小さかったのか?
すこんと押し出された思念が言う。豆がつぶれた掌を見下ろして。他人事みたいに感じている。
まだ騒いでる頭から滑ってつるん。スピンしそうな言葉尻を捕まえた。行くな行くな待て待て。今なんて言った?反芻。お構いなしに流れていく全身の魔力が、光の粒子となって視界を遮る。消えて、いく――――。
「はい!!!」
からまだよくわかっていないけれど返事をした。大きな声だったので、わりと響いた。
「ありがとうございます。では先ほど線路から塔に集まった魔力を回収してきたので、貴方に譲渡しましょう。これだけあればもう1発撃てますね」
「2、3発撃てそうです」
「1発に収めてください。わたしが今から指定する場所へ赴き、召喚された"モノ"。――魔神柱を完全消滅させる。それが貴方の、この特異点での最後の仕事です」
「よろしいですか?」と猫目が言う。できないなんて思っていない、確信に満ちた笑みがある。
アルジュナはもう夢中で頷いて、ぎゅっと握りしめた両手から流れてくる暖かい魔力に、なぜだか泣きそうになって。
振り返ることを我慢して一歩を踏み出せば、背中をぽんと叩かれる。友のように軽快に。仲間のように気安く。
――――それで十分だった。
同意のチャットが流れ、アルジュナの好感度が上がった。
「エレナ君」
「何かしら」
「アレは何かな」
「そうね。世界の終わりに見えるわ……」
北部戦線異常アリ。
その禍々しさは、観衆の目に焼き付いた。不本意に。
地を割り血を吸い世界に割り込んで!肉の芽が芽吹く。肉の目がひらく!――――咆哮。
ビリビリと大気が震えて伝わるのを、エジソンとエレナは受け止めて。見上げるままに呟く。ああ、空が見えない。
「全軍、撤退!!てったーーーい!!人間の兵士は下がれ!」
「残ってたケルト兵も
「やばぁ……」
引いていく人波。駆けつける英霊。近づくほどに圧が増え、口数は少なくなる。静かなる対峙。
魔神柱がハイラルの大地を穢しては、かき消していく。むき出しにされたアメリカを踏みにじり進軍する。
李書文とベオウルフは顔を見合わせて、勝負の続きに戻った。管理者たるリンクが気づいていないわけがないし、本人が即座に出てきていないのなら、
「とはいえ流石に気が散るな。あれが噂に聞く魔神ならば、この戦いも終盤のようだ」
「やれやれ、リンクとの戦いはお預けかねぇ。――とはいえ」
構えを直す。極限まで引き絞られた弓の弦のように。
鍛え抜かれた鋼の肉体が、今か今かと、獲物に食らいつくのを待っている。
「相手に不足は無し」
「然り。戯れは仕舞いだ。我が絶技、その真髄以て――貴様を、殺そう」
闘争心は振り切れた。次で、全てが終わる。
「上等!――
「
雄叫。
振動。
打撃音。
混じりあって、
「――――お待たせしました」
川のせせらぎのような、声。
「えっ」
「えっ」
「アルジュナじゃん」
涼やかに、男は降り立った。
深い青が視界を泳いで、すぐに彼のマントだと気づく。
「あの魔神柱は、私にお任せを」
霊基が再臨している――?
集った英霊たちを庇うように現れたその背中を、ジェロニモは無言で観察した。そして息をのむ。
アルジュナの身体を満たし、爪の先までめぐる、濃厚な魔力を。
「…味方かね。」
「ええ。大地の勇者が私を使わせました」
「じゃあよかった。貴方に任せるわ。お願いね、アルジュナ」
エジソンとエレナが肩の荷を下ろし、ロビンとビリーは安堵の息を吐いた。
もちろん、増援が来なくても死ぬ気で抵抗する気ではあったけど。
いざこうして的確な采配を見せられると、さすが勇者リンク…!の気持ちが無限に湧いてくる。今ボルテージは最高潮!そうだね…。わかる。サーヴァントたちはアイコンタクトで通じ合った。
ふわりと、気負いも殺意もなく、アルジュナが一歩を踏み出して。
「神性領域拡大。空間固定」
託されたことを、託されたままに。
必要なのは、誇りだけ。
「神罰執行期限設定――全承認」
光球―――、下から見上げるサーヴァントたちには、眩しい白にも、
「シヴァの怒りを以て、汝らの命をここで絶つ」
魔神柱を見下ろして、光はさらに天に上る。
地を這いずる触手にも、命を潰す死線にも、決して届かぬ次元へ。
「
飲み込んで押しつぶして広がって巻き込んで――――。大地を揺らす。
魔力の突風が突き抜けた。
〇奏者のお兄さん しゃーないて
〇いーくん あんなに広く宝具を展開してたらね
余波は地鳴り。光は雲を晴らして。
無残に崩れ去ったホワイトハウスに、君臨するのは狂王だ。
七十二柱の魔神が一柱、ハルファス。それすらも噛み砕いて、取り込んで、まだ強さを求めている?
「貴方の命を救いたい。――貴方の命を奪ってでも」
瓦礫まみれの戦場に立つ、天使は凛と宣言した。
一足早く復帰したラーマと、カルデアの面々は釘付けになる。
ごうごうと燃えさかる、ナイチンゲールの瞳を見て。
「…ハッ!先輩!先輩!ご無事ですか…!」
「うん…なんとか。マシュが庇ってくれたから――」
嗚呼!魂が叫んでいる!
「全ての毒あるもの、害あるものを絶ち! 我が力の限り、人々の幸福を導かん!
幻にしては鮮やかな、白衣の女神。
戦場を駆け、死に立ち向かったナイチンゲールの精神性が昇華され、「傷病者を助ける白衣の天使」という看護師の概念さえもが結びつき誕生した宝具。効果範囲のあらゆる毒性と攻撃性は無効化される。
振り下ろされた剣は傷を癒すために、貴方を、治すために――!
「――マスター。さあ、救命の時間です」
「傷が……!魔力も……」
「ええ、私が癒します。何もかも全て、元通りにします。何度でも何度でも何度でも」
鎖で身体を雁字搦めにされたような息苦しい拘束を受けてもなお、狂王――魔神クリード・コインヘンは揺らがない。
「理不尽を踏みにじり、絶望を踏破して」
剣は手から落ち、銃は弾を吐き出さず、爆弾は化学反応せず、魔術は組みあがらず、宝具は真名解放されない。強制的に作り出される絶対安全圏の中でも。
魔人の殺意は消えず、ただ冠を抱いた。
矜持によく似た、心持ちで。
「その為に、私は全てを捧げましょう」
〇海の男 勝負が長引くことはないだろう。最終決戦ってやつさ
シールダー、マスター、ソルジャー、ナース。
誰も彼も、怯むことなく。
魔神クリード・コインヘン。
姿形が変質しても、どうしようもなく、クー・フーリンだった。
立香の知る、真面目で義理堅く、最後まで格好いい英霊だった。
「だから」
右手の甲が光る。
「だから、絶対に、負けない…!」
正々堂々叩き潰して、貴方の冠を砕いてあげる!
ちょっとティーチャーたちの教えが良すぎて、好戦的に育ってしまったマスターなのだった。
「令呪をもって命ずる――――!」
次はエピローグです。