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ラ・シャリテより南東、ジュラ。
このあたりの森は喧騒から離れて爽やかだ。青々しく茂り、生命の強さを思い知らせる。
霊脈を確保し終わった後、改めて両者は向き合った。
「落ち着いたところで自己紹介をさせていただきますわね」
洗練された立ち振る舞いと、魅力的な笑みを振りまくのはマリー・アントワネット。クラスはライダー。
フランス革命という時代の流れに圧し潰された悲劇の女性だ。
「マジか。真名とクラスも明かすのかい?ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト。クラスはキャスター」
舞台に立つ演者のような服装をして陽気に笑っているのは、オーストリアの偉大な音楽家。
その卓越した芸術性から、勇者リンクの生まれ変わりなんて呼ばれていたこともあったようだ。
「エリザベート・バートリー。クラスはアイド・・・ランサーよ」
『血の伯爵夫人』と呼ばれたハンガリーの連続殺人者は、吸血鬼伝説のモデルにもなっている。
・・・し、今は永遠のアイドルとして活動もしているらしい。アイドル・・・?
「清姫と申します。クラスはバーサーカー」
安珍・清姫伝説の少女は扇子を揺らして可憐に微笑んだ。
怒りのあまり竜に変化したという逸話を持つためか、嘘には大変に敏感だ。
「見ての通りセイバー(の能力も含むクラス・ブレイヴ)だ。真名は・・・・・・ちょっと言えないかな!」
○銀河鉄道123 特殊詐欺の手法
驚いた顔でこちらを見てくる面々を手で制しながら、リンクは言葉を続ける。
「まあ聞きたまえ。この世には二種類のサーヴァントがいる。真名を知られても困らないタイプと、知られたら困るタイプだ。俺は後者。なのでその辺には触れないでくれると嬉しい」
いいかな?と麗しい青年は無邪気に首をかしげた。
計算されたようにみえてその実天然でこういうことをしている。大変にタチの悪い男である。
「ええと、私達を助けてくれたのは事実だし、そういうことなら聞かないようにするよ。私は藤丸立香、カルデアのマスターです」
「はい。まだ出会ったばかりですが、セイバーさんの事は信用できると思います。わたしはマシュ・キリエライトです」
「ん?僕たちのことは信用できないって?」
「え!?いえっ、そういう訳では・・・」
茶化すように投げられた言葉にうろたえる少女を見て、マリーがアマデウスを叱る。
リンクはこの隙にちゃっちゃと着席していた。目立ちたくないでござる。
「こほん、それからこちらが――」
「ジャンヌ。ジャンヌ・ダルクね。フランスを救うべく立ち上がった救国の少女。生前から、お会いしたかった方のひとりです」
「・・・・・・私は、聖女などではありません」
胸のつかえはまだ取れぬようだ。少女は零れ落としたような苦笑を浮かべた。
「ええ。貴方自身がそう思っている事は、みなわかっていたと思いますよ。でも、少なくとも貴女の生き方は真実でした。その結果を私たちは知っています」
「そうですね。己の気持ちに嘘をつくことも、他人に嘘をつくこともなかったのでしょう?それだけでも
「そうね。国を救うとか、アタシには縁のない話だけど・・・。あの黒いジャンヌよりはよっぽど好感がもてるわ。ぶん殴るのなら手伝ってやるわよ!」
三者三様の少女の声が、感情がジャンヌを包む。
「ま、その結果が火刑であり、あの竜の魔女なワケだが。良いところしか見ないのはマリアの悪い癖だ。そうだろう、ジャンヌ・ダルク?君の人生にはいささか変調がある」
「・・・・・・・・・・・・」
ひかたが袖を揺らした。そろそろ真昼の日は落ちていくだろう。
せわしない者は夕餉の準備を始め、月光の差さぬ夜に備えている。
「生前の私はただ、自分が信じたことの為に旗を振って、その結果己の手を血で汚しました。・・・・・・もちろんそこに後悔はありません。私の死も。―――ですが流した血が多すぎた。その夢の行き着く先がどれほどの犠牲を生むものか、その時まで想像すらしなかった」
ジャンヌの心の枷は、ジャンヌにしか外せない。
その殻は内側からしか壊せない。
「後悔はなかったけれど、畏れを抱く事もしなかった。・・・・・・それが私のもっとも深い罪です。私が聖女と呼ばれたのは、あくまで結果論でしかない」
「・・・ねぇ、ジャンヌ。私はまだあの竜の魔女のことはよくわからないけど、貴女のことは少し分かってきたと思うの」
「・・・立香?」
けれど、ノックをするくらいなら許されるだろう。
大丈夫、鍵は開けずとも。ここから貴女に届くでしょう?
「なんていうか、これは私もそうなんだけど。その瞬間は怖くないんだよ。必死にあれこれ考えて何かしている間はさ。後悔も反省もしている暇がないの。ジャンヌもきっとそうだったんじゃないかなって」
「・・・・・・」
「だから今ジャンヌがそうやって昔のことを振り返られるのは、心に余裕ができた証拠でもあって。・・・そんなに悪い事ではないと思うの。聖女じゃないと思うのも」
「先輩・・・」
「けど、私はジャンヌのこと凄い人だって思ってるよ。私が信じてるジャンヌの強さを、貴女も信じてほしい。黒いジャンヌにだってきっと向き合える・・・と、思う・・・」
話している内に恥ずかしくなってきたのか、語尾はどんどんとしぼんでいく。
七人分の視線を一斉に受けて「以上です・・・」と少女は呟いた。
「素敵よ、立香。貴女もとっても輝かしいわ」
「はい!先輩のお言葉、大変心に響きました!」
「やめて!そんな大げさにしないで!恥ずかしい!」
うわーっと顔を覆った立香を慌ててマシュが宥める。
リンクがこっそり盗み見た顔を見る限り、今の言葉はちゃんとジャンヌに届いたようだ。
「ねぇ、聖女ではないのよね。それならわたしたちもジャンヌと呼んでもいい?」
「・・・え、ええ。勿論です。では私もマリーと」
「私も気軽に清姫と」
「特別にエリーと呼んでも良いわよ!」
「女性の友情は素敵だねぇ。スイーツな雰囲気が大変に甘ったるい」
「おや、ではアマデウスは俺と友情を刻もうか?いつでも歓迎だぞ」
「うーん。君個人に興味があるのは否定しないけど、うっかり噛まれたら怖いからなぁ!」
一日は優しく過ぎていく。
パラベラム、狂った聖女は歩みを進める。
「・・・うーん。ようやく寝たわね」
オルガマリーがぐんと背筋を伸ばす。
画面の向こうのキャンプ地が寝静まったことを確認して、幹部達はカップを手に取る。
南極にも夜が来た。仮眠を取る職員達のねぎらいの声は、さざ波のように遠くなっていく。
「しかしあのセイバーはどこのサーヴァントなのかなぁ。刀を持っているって事は日本人・・・?」
暖かいココアを一口。ロマニが首を傾げる。
「見た目じゃ判別できないからね~。味方になってくれるってことは秩序側の存在だろうし、そんなに心配することないんじゃないかな?」
コーヒーはブラック。ダ・ヴィンチが優雅に足を組んだ。
「見た目云々の話をアナタがするの?・・・戦闘系のサーヴァントが合流してくれたのは幸いでした。立香達もまだ戦闘には慣れていないし、なによりあのドラゴン・・・。竜殺しの逸話をもつサーヴァントでもいれば良いのだけれど」
カフェオレは柔らかい湯気をたてている。胃をほかほかと温めてオルガマリーの緊張をほぐした。
「マスターのいないサーヴァントが聖杯に呼ばれたという仮説が成立するのなら、ドラゴンに対抗できる逸話持ちが呼ばれててもおかしくはない」
「ああ、とにかく明日からの散策が重要だね。探知機能は今のところ正常だし、問題があるとすれば・・・」
「夜襲の可能性・・・ね」
スプーンはぐるぐるとカップを回る。赤い靴にとらわれた少女のように。
「向こうが積極的に殺しに来た場合、対応しきれるか・・・」
「たらればを考えたってしょうがないさ、ロマニ。信じることだけは諦めてはいけないよ」
「・・・そうね」
ミルクのドレスはドレープを揺らす。可憐にコーヒーのステージを舞う。
「すこし顔を洗ってくるわ。二人も、交代で横になるのよ」
「私はサーヴァントだから大丈夫なんだけどねぇ」
「所長命令です。トップが休まないと下が休みにくいのよ」
大げさに腰に手を当てて言い放った少女に、二人は顔を見合わせて笑った。
「・・・元気だね。もっと沈んでると思ったけど」
「レフの事かい?元々そんなに仲は良くなかっただろう。勇者リンクの件でさ」
「あー・・・。そういやレフは、勇者に対して敬意を欠いてるとか言っていたな・・・」
勇者リンクを英霊として呼び出すこと。その生涯に同情の念を向けていたこと。
その二点をきっかけに、レフとオルガマリーの仲は徐々に開いていったという。
「気づいてなかったのは君とレフ本人だけじゃない?というかレフは他の職員にもそんなに好かれてなかったように見えたけどね」
「え!?・・・全然知らなかった。勇者の件で?」
「そうそう。勇者に対して哀れみを持っていたからね。彼は」
「・・・哀れみ?」
空になったカップを机の上に置いて、万能の天才はくるりと椅子を回した。
「神に人生を定められた哀れな人の子――ってね」
「・・・・・・・・・・・・」
「ま、解釈は人それぞれさ」
ロマニの顔が明確に曇ったのを確認して、ダ・ヴィンチは机に肘をついた。
もしも勇者が来てくれるのなら、この友人を見て何と言うだろう。
照明の絞られた廊下は薄暗い。
質の良いハンカチで手を拭いながら、オルガマリーは歩みを進める。
キアラはきちんと休めているだろうか。最近は職員のメンタルケアで働きっぱなしのようだし、今のうちに休みをあげた方がいいかもしれない。
等間隔の足音は召喚ルームの前を通り、異常に気づく。・・・あの光はなに?
「召喚サークルが・・・動いてる・・・?」
慌てて扉を開け中に飛び込む。
魔力はあっという間に室内を満たした。煙が体に当たって砕ける。咄嗟に両手で顔を覆った。
縦横無尽に轟く紫電は、まるで雷王の振るう権能のようだ。
輝きの向こうから現れたのは――――。
「我が名はプロフェッサーM!職業教授兼悪の組織の親玉!そして君の為のためのサーヴァントだ!ふはははは!末永くよろしく!」
「・・・・・・は・・・・・・?」
「おや、想像していたよりも素敵なレディ。名前を聞いても?」
「・・・オルガマリー・アニムスフィア・・・。じゃなくて!アナタっサーヴァント!?なんで、
「おや、それに関してはちゃんと伝えただろう?私は君を導き、助けになるために来たのさ」
青い蝶々を伴い、老紳士は優雅に礼をする。
「安易に信用できない気持ちは分かるとも。その上で言わせてもらおう。私は人類とカルデアの未来のために、君を立派な所長にするために来たのさ。・・・こっそりね!なので私の存在は秘匿してくれると助かる!」
「・・・私の」
「ん?」
「・・・・・・私の為に来たの」
プロフェッサーM――もといジェームズ・モリアーティは自称するとおり悪の組織のボスである。
蜘蛛であり、蝶であり、しがない数学教授でもある。しかも召喚主は希代の魔王だ。悪が飽和して胸が焼けそうである。
しかしモリアーティはきちんとプランニングが出来る男である。
ここできちんとカルデアとガノンドロフに貢献し、双方からの好感度を稼ぐ方が探偵に対する勝率は上がる。
魔王に勝てるのは勇者だけ。探偵に解けるのは謎だけだ。モリアーティという計算式をほどけても、
ほんのわずか接した勇者の性格を分析する限り、モリアーティの出方によっては無干渉もあり得る。そのわずかに賭ける――――!
「――――そうだよマスター。君のサーヴァントだ。大いに活用し、成長してくれ」
優雅に舞い、冷酷に絡め取る。
差し出された手をしっかりと握って、紳士は素敵に微笑んだ。