勇者リンクS’の人理修復配信RTA   作:はしばみ ざくろ

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はいよろこんで

「風よ、しばしその任を解くがいい。ニトクリスの名において、天空の見晴らしをここに!」

 

舞台幕が開くように砂嵐は去っていった。風はのんびり追いかけて。

しばしの静けさが青空に吸い込まれた。澄み渡る空に、太陽を見つける。

 

「嵐が止みました、先輩!」

「ふう――体が楽!やったね!」

「いい笑顔です。私も見栄を張った甲斐があります」

 

スフィンクスの上から一向に降りてこない女王は、それでもふふんと上機嫌。

まあスフィンクスが空気を読んで伏せてくれているので、そこまで見えないわけでもないのだが。

 

「でもこの時代の空にもあの光帯(こうたい)はあるんだね」

「ええ、忌々しい事に。中天に輝くものは太陽だけで十分だと言うのに」

「フォウ、フォウ」

 

天に浮かぶ光の輪は、角度によって七色に輝いた。

けれどちっとも綺麗じゃない。世界の歪によってうまれた異物のように、青空を侵食した。

 

「後はこのまま西に進みなさい。二時間ほどで大神殿に辿り着くでしょう。……そういえば、名前を聞いていませんでしたね」

 

仁王立ちでハッと気づいた顔をした。女王はドジっ子なのかもしれない。

 

「あ、そうですね。失礼しました。わたしはマシュ・キリエライトと申します。こちらはダ・ヴィンチちゃん。そしてこちらが私のマスターである」

「藤丸立香です」

「よろしい。それでは改めて、私の護衛の任を与えます。大神殿まで私を守るように」

「? 女王を守る、のですか?」

 

ふむ。と鷹揚に頷いた、女王はイマイチ説明が足りない。

 

「今までの情報からこの砂漠は貴女の領地のようですが……」

「私の領地ではありません。太陽王の領地です。そして、領地と言ってもここは終末の地」

 

始まることなどなく、進むこともない。ひび割れた時代。

 

「このように砂嵐を止めてしまえば、我らの管轄外の魔獣共がやってくるでしょう」

 

ずず、ずず、と遠くから、砂を押しつぶす規則的な音。ず、ず、ず。先に影が伸びて正体がわかる。

女王は気づかずに話を続けて、立香たちは顔を見合わせた。

 

「なので、貴方がたは万が一に備えて私を護衛し、大神殿に送り届ける義務があるのです」

「でもあなたさっき突っ込んできたよね?」

「あれは見張り台から監視していただけです。決していつ来るか分からずに毎日確認しに来ていたわけではありません」

「そのスフィンクスは?」

「もちろん戦えます。ですが、ファラオの護衛など多くて当然でしょう?わかったら早く行きますよ」

 

立香とダ・ヴィンチの疑問を難なく躱し、女王は悠然と構えた。可憐に薄く微笑んで、余裕綽綽なファラオさま。背後に迫る危険に気づいていればもっとよかったね…。

 

「ところで女王ニトクリス。貴女の背後に忍び寄っているのは、この砂漠の生物でしょうか?」

「!?」

 

にゅるっ。

と、全身触手の怪物は現れた。

 

「GuRuuuuuuuu――Zbuaaaaaaaaaaaa!!!!」

 

そして獣のように吠え。

 

「こんな魔獣に覚えはありません!!倒しなさい立香!!!」

 

ニトクリスの叫びが重なれば。

 

「ひ」

「わ」

「おお」

 

ぬるぬるぬるぬるぬるぬめぬめぬめぬめぬめ。

 

「なにあれ!?タコ!?」

「海魔…の類でしょうか!?」

「ここは砂漠だぜー!」

 

出てくる出てくる触手の群れ!

しかしやらねばならぬ。やらぬ選択肢はない。今の立香たちは護衛であるが故に!このままだと見せられないよ!な画になってしまう為に!

 

 

海の男 アレ食えるぞ

災厄ハンター マジ?

 

 

戦闘による砂煙が少々立ち上がって、どたばたどたばた。すぐに流れていった。

 

「なぜあのような魔獣が……。見た事も聞いた事もない造形でしたが……」

「んー、私たちに釣られてやって来たのかもだ。何しろ私たちは……」

「…ああ、そうでした。あなたたちは普通の客人ではありませんでしたね」

 

スフィンクスがゆっくりと歩き出す。女王を乗せる御輿にふさわしい優雅さで。

 

「というかニトクリス、君は聖杯に呼ばれたサーヴァントなのかい?今更だけど、なぜ私たちのことを知っていたのかな」

 

前方の警戒を怠らないマシュに代わって、ダ・ヴィンチちゃんが訪ねた。

水分補給中の立香が耳をすませて。揺れる水面が涼やかな音を届かせた。

 

「私は偉大なるファラオ――太陽王オジマンディアス様に呼ばれたファラオです。太陽王は私に仕えよ、と命じられました」

 

エジプトにおける王、ファラオというものは他の国の王とは権限の格が違う。

彼らは人を統べる神そのものとして崇められ、ファラオたちもそのように力を振るってきた。まさしく現人神である。

 

「ファラオ・オジマンディアスはこの時代に召喚され、瞬く間に覇権を握りました」

 

砂漠の守護こそ今世の務め。そう思ってニトリクスは身命を賭した。

しかし、不確定要素はやってくる。

 

「このエジプト領がその証です。ファラオはこの土地と共に召喚されてしまった臣民(しんみん)たちを救われたのです」

「土地と共に臣民が召喚された……?」

「そうなのです。ファラオの偉大なる威光によるものでしょう」

 

 

バードマスター へー 怖

海の男 勝手に連れてくるな(怒)

小さきもの 国王経験者ども――

 

 

「通常の英霊召喚とやらでは、呼ばれるのは英霊のみ。しかしファラオ・オジマンディアスは違います。()のお方は国そのもの。あの方が顕れるという事は、あの方の国もまた蘇る、という事なのです」

 

 

バードマスター じゃあ大丈夫か

海の男 蘇らないからオッケ

小さきもの 国王経験者ども……

 

 

「……ともかく。ファラオは自らの王威を示しました。しかし、それに反抗する勢力が現れたのです。それが土着の民――サラセンの山の民と、」

「聖都の民、エルサレムに住む人々かな?」

「……なるほど。貴方たちはそこからですか」

 

意味深長なつぶやきに立香とマシュは首を傾げて、ダ・ヴィンチは目を細めた。

 

「あんなものはもう存在しません。聖地は滅び去ったのです」

「え?」

「…それはどうしてかな?」

「――急く必要はありません。すぐにファラオ・オジマンディアスの口から語られるでしょう。私の役目はあくまでも貴方たちを神殿まで送り届けること。さあ、急ぎますよ」

 

「もうじき、ファラオとの夕べの時間です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

思い出したように強風が走り出した。午後はせわしなくって困るわ。

 

「神殿の影が見えてきました!目算距離ですが、この丘が最後です!」

「風が…また強くなって…」

「マスター、わたしの後ろに!宝具、展開しつつ正面から突破します!ここさえ抜ければ――抜けれ――え?」

 

蒼穹。

に映える絢爛豪華な王国よ。砂上に現れし楽園よ。

ここなるは太陽王の複合神殿。

この砂漠において最も栄えた理想の国。光輝の大複合神殿(ラムセウム・テンティリス)である。

 

「―――――」

「―――――」

「すっっごい神殿だ……」

 

 

バードマスター 素敵な国だね

海の男 素晴らしいのう

 

 

「まるで砂の海に浮かんだ海上都市のようです!一目で素晴らしい建造技術だと分かります!」

「マシュの表現力が突然上がった!」

「あれが太陽王オジマンディアスの居城――伝説に名高い光輝の大複合神殿(ラムセウム・テンティリス)なんですね!」

「うんうん。…ところで誰かな?いやみんな知ってる体で話進めてたから…。邪魔しちゃだめかなって……」

 

えへへと照れ笑いした立香に、ダ・ヴィンチちゃんがポンと手を打った。

 

「あー、そっか。こういう時はロマンがレクチャーしてたんだっけ」

 

太陽王オジマンディアス。正しくはラムセス二世。

古代エジプト世界に於ける最大最強のファラオである。

 

「はい。紀元前1300年、エジプトに多大な繁栄をもたらし、神王を名乗ったファラオ中のファラオ。ファラオが神と自己を同一視するのは珍しくありませんが、その中でもっとも太陽に近い王かと」

 

また、たいへんな建築家でもあり“地上の神殿はすべて私が作ったものだ――”という発言まであるほどだ。

 

「本当にそうだとしたら、人類最古の発電機、デンデラの電球も彼の逸話に連なるのかもしれません」

「太陽王の他に建設王の異名も持っているからね。あの大神殿も彼の宝具の一つなんだろう」

「デンデラの電球、とは」

「デンデラのハトホル神殿にある、石造りのレリーフとして彫られたモチーフさ。現代的な電気照明装置に見た目が似ているんだ」

「学び~」

 

外の熱気に比べれば、中はずいぶんと涼しそうだ。

さっそくお邪魔しようと日陰から動こうとするが、ダ・ヴィンチちゃんに待ったをかけられた。

 

「マシュ、その前に確認したい事がある。ロマンからの通信はあったかい?」

「フォウ?」

「あ……すみません。浮かれてしまって。ドクターからの通信はいまだ回復していません」

 

あっ忘れてたなぁ。と立香は一瞬思ったが、空気を読んで心の中にしまった。

なにやら訳知り顔のダ・ヴィンチは、「やっぱりね」と頷いている。

 

「これで私の仮説は立証された――。立香ちゃん。マシュ。我々は十三世紀の中東にレイシフトしてきた。それは確かだ。けど、ここは十三世紀の地球じゃない」

「?」

「この星の杖は魔力の測定器でもあるんだけど……。ここに来た時から魔力の質が違っている。この砂漠に満ちた魔力(マナ)はもっと古い」

 

見た目は美女の知恵者は、教え子に講義するようにすらすらと語る。

太陽の位置が少しずれて、3人が居る日陰の形が変わった。

 

「ニトクリスはここをエジプト領と言っていた。それは土地だけの話じゃない。ここは紀元前の砂漠だ。どうしてかは分からないが――この第六特異点には、オジマンディアスが支配する世界が丸ごと移転してしまっている。時空が乱れているんだろうね」

 

便利な言葉である。

世の中の不思議現象はたいがい時空か空間が乱れているで解決できる――なんて、やさぐれた顔で時の勇者が言ったのはいつだったか。

 

「エルサレムにレイシフトできなかったのも、カルデアと連絡が取れないのもその所為だよ」

「そんな……では第六特異点は聖地ではなく、この砂漠なんでしょうか?」

「んー、それはまだ分からない。ただ、このエジプト領が世界にとって異物という事だけさ」

 

ワイングラスを回すように、杖の星をくるりと回して、ダ・ヴィンチちゃんは肩を竦めた。

 

「加えて、測定機によるとこのエジプト内部に一個所、さらに時空のおかしなところがあるようだ」

「とじた砂漠の中の異物?真珠貝みたいだね」

「あっはは!その表現は悪くないね。これは予感だが、今回の探索の鍵になりそうだ」

 

まだ鍵穴すら見つかっていないけどね?では、当面の謎を暴きに行こうか。

 

「いざ、オジマンディアスの大神殿へ!伝説が本当なら、彼は気難しい美男子であるはずさ!」

 

 

 

 

 

******

 

 

 

 

 

「――戻ったか、ニトクリス」

「はい。ファラオ・オジマンディアス。このニトクリス、客人の案内を終えてまいりました」

「そうか。褒めてつかわす」

 

眠たげな眼差しの男が、玉座に深く腰掛けている。

美しい青年だった。この華美な御殿の中ですら、霞まぬほどには。

 

「……ファラオ。御身はお疲れでしょうか」

「――――うむ。少々な、」

 

恐る恐るかけた言葉がまさか肯定されるとは思わず、ニトクリスは息を飲んだ。

慌てて労うべきか休ませるべきかそれともマッサージ…!?まで一瞬で考えた女王に向かって、麗しき王は満足気な笑みを浮かべた。

 

「昨夜も遅くまで守護神ガノンドロフについてザントと語り合っていたのでな……。休むのが遅くなってしまった」

「そうですか………………」

 

不確定要素――僭王改め信者筆頭のザントがファラオ・オジマンディアスと堂々と交流を持っていることに、ニトクリスは胃痛を覚えるのだった。

もう少し警戒してくださいファラオ……!

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