絢爛豪華な王の部屋。照明を乱反射する黄金は眩し。
ノック一つでVIP待遇。砂を落とされ靴を磨かれ。お進みくださいと頭が下がる。こんな好待遇で大丈夫か?あとで落差に泣かないか?少女たちは恐々と前進。
「やっと来ましたね!客人たち!ちょっと遅かったのは気にしていません!」
「あっ入国した瞬間にそそくさといなくなった女王だ」
「砂嵐に紛れていなくなったニトクリスさんですね」
「そういう!ことは!言わなくてよいのです!不敬ですよ!」
きしゃーっと毛を逆立てたニトクリスには一瞥もくれず、男はゆったりと肘掛けに体重をかけた。
落ちそうな瞼が瞬く、睫毛は光を集めてきらきら。星をまぶしたようなかんばせ。
「と、と、とにかく。貴方たちは恐れ多くも王への謁見を許されました!さあ、そこに平伏するのです!」
褐色の肌、黒檀の髪。太陽の色を持つ瞳。黄金の鎧に身を包んだ、眉目秀麗な青年。まだ客人を見下ろしもしない。
「さすれば王は倦怠から身を起こし、貴方たちにお言葉をおかけになるでしょう!」
「ははーっ」
「ふっ……!いい光景です、我が事のように胸が弾みます!」
「立香ちゃんしか平伏してないけど」
「しかもそれ平伏じゃなくてお辞儀です先輩」
もうコントの空気になってきた。
しかしニトクリスはめげないぞ!
「この方こそ最も偉大なるファラオ。最も勇壮、最も威光に満ちた神たらんとする――ファラオ・オジマンディアス!この終末の地を平定し、救済する理想の王です!」
まさしくエジプト史に刻まれた稀男が――重い口を開いた。
「……珍しいな、ニトクリス」
自然と背筋が伸びるような、張りのあるバリトンボイス。
「そなたは大鳥とはいえ、そのように大声をあげる気性ではなかった」
片眉をあげて、猫のように目を細め。
「よほど、その者たちが気に入ったと見える。はは。それは喜ばしい。実に。実に」
「も、申し訳ありませんファラオ。昂ぶりのまま、貴方の真名を語りあげるなど……。それは本来、貴方さまの為すべき事でございました。……ニトクリス、反省いたします」
ようやく異邦人と向き合った、玉座のファラオ。
「そうだな。余の楽しみを奪った罪は重い。後ほど、片腕を切り落とし、瓶に詰めよ」
「はい。温情、ありがたく…」
「……さて。おまえたちが異邦からの旅人か」
圧を感じる。
痺れるほどきつくはなく、押さえつけられるほど苦しくはなく、凛とした王の威厳。
「我が名はオジマンディアス。神であり太陽であり、地上を支配するファラオである」
過去、現在、共にそれは変わることがない。
絶対的な君臨者の声が響く。
「ライダーだのと呼ばれるのは些か飽きもした。この小さき玉座も、所詮は余にとって
「(…ごくり)」
「――うむ、今、余は眠い。老人が死の淵から目覚めたばかりのように、だ」
「(疲れてるってこと?)」
「(ジョークなのかマジなのかわかんないなぁ)」
「そこ!ひそひそしない!不敬ですよ!」
〇オルタ 不敬ですよbot
〇バードマスター おやめ
「よって言葉は最小限にとどめる。我が玉音、心底に刻むが如く拝聴せよ」
懸命に見上げてくるのは蜜柑色の少女。まだ幼く。
「おまえたちがカルデアからの使者である事。これまで五つの特異点を修復した者である事。そしてついにこの第六の楔――砂の聖地に現れた事。すべて承知している」
驚いた顔を隠せていないのは、桃花色の少女。人と英霊の気配がする。
「なぜならおまえたちの探す聖杯は、この通り、余が手にしているからだ」
「まさか、魔神柱……!?」
「誰が魔術王なぞに与するか。これは余がこの地に降臨した際、十字軍めから没収したものだ」
魔術師の風貌をもつ女は、唯一警戒を解いていない。こやつが保護者か。
語る裏側で客人を見定めるオジマンディアスの脳裏に、ポーンと響く念話が一つ。言わずもがな信者筆頭、勝手に神殿に出入りしているザントである。どうやらどこかから覗き見しているようだ。
「(王でなければファラオでもない、ただの雛だ。裁定するには至らぬ。――故に、そうだな。試練の一つでもくれてやろう)」
ごにょごにょひそひそ。隠れた会話。やっていることはリンク達と一緒である。なので卑怯とはいうなよ!
「真の王たる余にふさわしいものとして、な。――ニトクリス!」
「は!何用でしょう、ファラオ!」
「余は寝起きだ!よって体を動かそう!眠気覚ましに火の精どもを呼ぶがいい!」
王が立ち上がる!――甲高い音。王杖が床に打ち付けられて、主の意のままに踊るのだろう。
「では行くぞ、カルデアのマスターとやら!余の運動に付き合う権利をやろう!」
「遠慮しますーー!!」
「マスター、ファラオ・オジマンディアス、流れぶった切りで臨戦態勢です!」
「よし、想像通り……ッ!この王様、完全に自分ルールで生きてきた困ったちゃんだ!」
炎が吹きあがって、円状のフィールドを作り出す。灼熱の中から炎の精――イフリータたちが泳ぐようにすいすいと飛び出して、立香たちを囲んで逃がさない。熱気が少女たちの肌を焼いた。
マシュが即座に盾を構え、ダ・ヴィンチが立香を挟むように陣取った。杖の星が魔力を集め出す。
「立香ちゃん!召喚は!?」
「大丈夫…ッ」
令呪がつなぐ、つなぐ、繋がる。辿れ。辿れ…。
通信が繋がらずとも、このパスはまだ途切れていない。
「来い!パッションリップ!」
「――――はい。マスター、無事でよかった……」
まず目に入ったのは、菫色の美しい髪。ふわりと広がって薔薇色のリボンが揺れた。巨大なカギ爪が床を不機嫌そうに叩いて、鈍い音。敵を突き刺す極寒の瞳。
「それで、くしゃっとしていいのはこの虫さんですか?……潰してあげる」
BBから作られたアルターエゴのひとり、夢見る乙女のハイ・サーヴァント。
愛憎のアルターエゴ・パッションリップ。戦線に参戦!
「パッションリップ!私が足止めする!マシュは立香ちゃんから離れないでくれ!」
「了解です!」
「わかりました」
輝線の魔弾は鳥かごを描くように。イフリータに被弾する光の数は5つ。だがほんの数秒でも動きを止められるのならば、彼女の両手が逃がさない。
「トラッシュ&クラッシュ」
スキル『怪力』から進化したチートスキル。どれほど巨大な容量であろうと“手に包んでしまえるもの”なら何であれその爪で潰し、圧縮する事ができる。アルターエゴの中でも屈指のパワーキャラと言われるのも頷ける圧殺殺法。
普段はカルデアのダストデータをにぎにぎしている働き者のAIでも、仲良くしてくれるマスターの少女を危ない目に合わせた敵にくれてやる慈悲などなく。
あっと言う間に2体が潰され、オジマンディアスの眉も上がる。残りは2体。お手玉のように投げられる火球も、マシュの盾を越えられない――どころか、吸い込まれるようにパッションリップの方へ飛ばしてしまう。
「瞬間強化!リップ、お願い!」
「悪い人たち……なら、
巨大な片手がロケットパンチのごとく発射される。ダ・ヴィンチからの攻撃に気を取られていたイフリータに直撃して――吹き飛ぶこともできず、火の粉になるほど火の精は粉砕された。
それを目撃してしまった最後のイフリータは思わず驚きに身を竦めてしまう。その隙を逃す天才ではない。
「そーれ急速冷凍☆ 相手が悪かったね」
ダ・ヴィンチの左腕に装着されている籠手から、冷気が勢いよく放出された。マイナスの空気砲ともいえる攻撃に、イフリータといえどもなすすべもなく、消滅――を確認したところで。
「うわっ!?」
「危ない!」
光の弾――否、柱だ。光の柱が少女たちの足並みを乱し、心の臓を貫こうと乱立する。
仕置者は当然、王である。イフリータをあっさり下したことで、少しは評価を上げてくれただろうか。
「フ、ハハハハハハハ!よいぞ!生き残ってみせよ!」
「殺す気!?!?」
「マスター、ファラオ・オジマンディアス、テンションが上がって攻撃態勢です!」
「もう勘弁してくれないかなぁ!」
光柱が走る――左右に展開して回避した少女たちの間を、天井に着くほど燃え上がった炎が引き裂いていく。真っ先に玉座に駆けだしたのはダ・ヴィンチだ。パッションリップは腕を構えた。ロケットパンチの用意!
「その程度で、余の玉体に触れられるとでも?」
「きゃあっ!」
こつん、と王杖で床を叩く。それだけで破裂したかのようにリップの足元から光槍が飛び出した。被ダメージカット状態だったためダメージはそこまででもないが、マシュの後ろから動けない立香は声を張り上げる。
「リップ!下がって!」
「で、でも…!」
「速いな。だが、脆い」
近接に持ち込もうとするダ・ヴィンチと、後方にいる立香とマシュに光槍が降り注ぐ。わずかな逡巡の後戻ってきたリップはマシュのフォローに入った。立香の視界を眩ませる光。光。光。くらくらするほどの王の威光。
それでも、目がくらんでも。パスが繋がっているのなら令呪は反応する。先陣切った
「応急手当…、緊急回避…!」
回避しきれずに削られていたエーテル体が回復する。靴に仕込んだ加速装置が踏み込みと共に回転、噴射、跳躍!王を見下ろす賢人の笑み。
「いっくぞー!」
構えるのは左手、籠手が…巨大化!?魔力を纏って突貫!見上げるオジマンディアスが目を見開く。
ダ・ヴィンチ版ロケットパーンチ!まさか攻撃方法が被るとはね!まあそんなこともあるかぁ!
即座に星を表す杖を取り出して振りかぶる間に、籠手はあっさり振り払われた。ちょっと強すぎるんじゃないかなぁ!
「とおっ!!」
持ち得る魔力を思いっきり注ぎ込んで――振り下ろす!杖で殴るというシンプルな攻撃は、オジマンディアスの王杖で受け止められた。魔力×筋力の鍔迫り合いは長く続かず、弾き飛ばされたダ・ヴィンチの着地で終わる。
「フッ――遊びといいつつ熱が入ったわ。多少は見どころがあるようだな。客人どもよ」
〇Blue つよ……………
〇銀河鉄道123 そりゃホームグラウンドで負けられないでしょう
〇小さき爺 というかこの大神殿自体がとんでもないぞ…なんだこの魔力は……
「……ふん。正直、第四あたりで息絶えたものと思ったがな。余の憶測も笑えぬわ」
風圧で乱れた衣の裾をさばきながら、ファラオは玉座に戻る。聞き捨てならない言葉を呟きながら。
「まったく――遅すぎる!遅い遅い、遅きにも程がある!カルデアのマスターよ!貴様らが訪れる前に、この時代の人理はとっくに崩壊したわ!」
「――――――!?」
「オジマンディアス王……!?それは一体……」
目が点になった立香の体を支えるように、リップがそーっと腕を伸ばす。鋭い爪はマスターの少女を傷つけぬように掌にしまわれている。こつんと背中に当たった固い感触に、はっと立香は現実に戻ってくる。前髪を無意識に撫でつけながら、後ろを振りかえった。
「(リップ、)」
「(マスター、大丈夫ですか?…あの人、すごく偉そう……)」
「(だ、大丈夫だよ。偉いのは、王様だからね…。とりあえず聞こっか…)」
なんだかこの子妙に口が悪いんだよな。お蔭でちょっと冷静になったけど…。
内緒話をしてる間にもオジマンディアスの話は進んでいる。やばっ初めの方聞いてなかった。集中、集中…。
「言葉通りの意味だ。この時代――本来であれば聖地を奪い合う戦いがあった。一方は守り、一方は攻める。二つの民族による、絶対に相容れぬ殺し合いだ」
その果てに聖杯はどちらかの陣営に渡り、聖地は魔神柱の恩恵になったであろう。
「――お前たちが、もう少し早くこの地に到達していれば、な」
「でもそうはならなかった。聖地奪還の戦いは起こらなかった……そういう事かな?」
回復を済ませたダ・ヴィンチが、思考の海から取り出した言葉を打ち返す。
「だって聖杯はキミの手にある、オジマンディアス王。キミはおそらく十字軍の誰かに召喚された。そしてキミは当然のように彼らと敵対した。そして聖地を己がものとした。このエジプト領はキミが呼び出したものかい?それでこの時代の人理を崩壊させたのかな?」
「ふむ。中々の知恵者のようだが、名を聞いていなかったな」
「レオナルド・ダ・ヴィンチです」
ザントwikiが注釈を入れた。王に仕える心構えをよくわかっているようだ。
「ほう。その名であれば余も知るところだ。人類史に輝く才人の一人だとか」
「成る程、成る程。天才と変人は紙一重というヤツだな!」
上手い具合に会話が成立しているため、ザントが影に居ることは光の勇者(とミドナ)にしか気づかれていないのだった。だから神殿内に入ってから二人はずっと黙っているんですね。気づいていることに気づかれたくないので。
「いやいや、偉大なる太陽王に比べれば、私の知性なんてちょ~っと上くらいさ。それで?こちらの見解は正しかったのかい?この時代の特異点はキミという事でいいのかな?」
「フ――――」
ファラオは一笑した。
「フハハ、ハハハハハハハハ!残念ながらそれは違うぞ、異邦からの賢人よ!この余が!太陽王たる万能の余が!聖杯などという毒の杯を使うとでも思ったか!」
「確かに性に合わないかも…」
「余は聖杯の持ち主であり、聖杯の守護者である!聖地になど、余はまったく興味がない!――故に、心して聞くがよい」
口元に笑みを携えたまま、オジマンディアス王は明日の天気を告げるような気軽さで言った。
「この時代を特例の特異点とし、人理を完膚なきまでに破壊した者は――貴様らが目指したエルサレムの残骸、絶望の聖都に座している!」
「通り名を獅子王。純白の獅子王、と謳ってなァ!」