勇者リンクS’の人理修復配信RTA   作:はしばみ ざくろ

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鬼ノ宴

『反転』

それは円卓の騎士・トリスタンが獅子王から授かりし祝福(ギフト)

読んで字のごとく、男はひっくり返ったのだ。

愛が。誇りが。特性が。存在が。

全てが。

 

 

 

 

 

鈍い金属音が大地に木霊した。鍔迫り合いのように隙のなく。乱撃のように節操がない。

トリスタンの耳が捕らえている気配はたった一つなのに、それを上回る数の真空の矢を放っても、彼女の体を傷つけることはできなかった。すべて相殺されているのだ。

刃物のヒールでグラン・ジュテ。その姿は翼を大きく広げた白鳥のように優雅であったけれど、騎士の両目に映ることはない。

ひらめく袖から青が見え隠れした。菫髪と流れるリボンは天色。スポットライトなどなくたって、水底から見上げた空のように高嶺の花。

地を蹴り飛ぶ脚。乱れない呼吸。プリマはこんなに美しいのに。嗚呼、騎士の両目に映ることはない!

 

「貴方はヒトの形をしているが、人間ではありませんね。その両脚は鉄ですか」

「ええ。私は残忍なセイレーン。アナタを刻む魔剣ジゼル。どうかした?命乞いの準備かしら」

「まさか。貴方がどれほど高く飛べようとも、私の弓からは逃げられない。撃ち落としてさしあげましょう」

 

クラウチングもなくスタートを切った、メルトリリスの蹴りがトリスタンを貫く――ことはなかった。瞬間速度では負けていない。鋭さならこちらが上。ほら、トリスタンは蹴りの重さに後ずさった。

ただ瞬時に傷は癒え、何事もなかったかのように騎士は動き出す。ブリキの兵隊かしら。

追撃せずに距離を取った、メルトを襲う音の矢。弾速が尋常ではなく速い。首を弾き飛ばさんと迫ってくる。

 

「クライム・バレエ」

 

第一に、難民を逃がすこと。

第二に、マスターを逃がすこと。

BBに後押しされて飛び出してきたとはいえ、メルトリリスは冷静だった。このスキルは、かつてムーンセルで不正入手した「絶対回避」のスケールダウン版。どれほどの切れ味を誇る剣であっても、当たらなければ意味がない。嘲るように白鳥は舞う。

 

「アナタこそ。アーチャーみたいな見た目をしておいて、中身はまったく違うのね」

「ええ、残念ながら。……私は悲しい。貴方のような素晴らしいソリストを、手にかけなければいけないことに」

「ええ、ええ。そうなのね。悲しいわ。――本当に」

 

妖弦がつま弾かれた。

竪琴のように音階をつま弾くことで音の矢を放つ、勇者リンクも持ちえない規格外の宝具。フェイルノート。

しかしそれが宝具足りえる本質は『糸』である。

ブリテンの妖精・翅の氏族の妖糸によって編まれた、竪琴の弦。

腕が動かせなくとも、指さえ動けば瞬時に真空の刃を飛ばせる、殺戮にはおあつらえ向きな武器だ。

 

「私をただのダンサーとお思い?嗚呼、本当に悲しいわ。嘆きのトリスタン」

 

対する相手の武器は脚。足そのものが刃であり矢。

腕は使わず、魔術も唱えない。

しかし速い。トリスタンと同程度に。他の円卓との相性を考えれば、ここでみすみす逃すことは避けるべきだろう。

このサーヴァントは聖都の門を越えられないだろうが、山の民を庇うということは明確に敵であり、粛正対象である。

そしてあちらはこちらに致命傷を与えられないようだが、こちらもただ撃つだけでは仕留められない。

なれば使うしかないだろう。

円卓の騎士、獅子王の配下がこの程度の敵に手こずっていてはいけないのだから。

 

「アナタにはもう、芸術を理解する感性すらないのね。目に見えずとも、アナタならわかるはずなのに」

 

“ごきげんよう。可憐なプリンシパル。佇まいだけで分かりますとも”

 

それは存在しない物語。すでに破られたページは海の底。

殺生院キアラの振りをしたとある勇者が、セラフィックスでゼパルをボッッコボコにしたとある幕間。

トリスタンと一緒に「やりすぎでは…?」「でも全部アイツが悪いし…」と引いていたことはまだ記憶に新しいけれど。

この物語(・・・・)を覚えているのは、BBとその眷属たるアルターエゴ達だけ。勇者リンク達にはまだその時が来ていないから、彼らも知らない(覚えていない)討伐譚。

ここにいるトリスタンと、メルトリリスをなにくれと助けてくれたトリスタンは別のサーヴァントであるけれど。

介錯をしてやろうと思う程度の慈悲はあるのだ。

哀れな赤い鳥。天空に憧れていた赤い鳥。勇者に会えて喜んでいた騎士は――もういないのね。

 

「祝福なきものよ。地に落ちなさい。天におわすは獅子王ただ一人」

 

構える必要はない。

この弓は必中。

ただ敵対者を屠るもの。

――己も、また。

 

痛哭の幻奏(フェイルノート)

 

竪琴が零したにぶい音色だけが、場違いに響いた。

 

「あら、怖い怖い(完全流体)

 

続いて、音の刃を吸収する海水が溢れて。

溢れた。

 

「……ッ!?」

 

ごお、と空気の圧。

トリスタンの耳を通り抜ける濤声(とうせい)。振りかざされたリヴァイアサンの権能。自身を流体に、世界を海水で満たす。これはメルトリリスそのもの。渦巻く水が水滴を飛び散らせて、騎士の全身を濡らした。冷たい。不愉快な気分が沸き上がり、不可解な感触に眉を顰める。

 

「あはははっ。効かないわ!アナタのギフトじゃ私を殺せない。殺せないのよ、トリスタン」

「……!」

「哀れね!」

 

大波が大口を開けて、騎士を飲み込まんと迫ってくる。

まさしくレヴィアタン。海中から来る理不尽な怪物。

トリスタンは反射的に顔を上げて、もう見えない両目を見開いて。逃げるために弦をつま弾こうとして――――間に合わずに溺れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

守銭奴(赤) やったか!?

奏者のお兄さん やって……ない!

ウルフ でもエグイ溺れ方してる

海の男 やられてた方がマシだった

Silver bow サーヴァントって窒息死しないんだ

 

 

そうなんだ?

 

「トリスタン……、もとい円卓の騎士たちはギフトで変質しています。もはや獅子王の魔力で動く人形、と言っても相違ないでしょう」

 

目覚めの勇者の疑問を、時の勇者がモルガン(今は妖精ヴィヴィアンが表層に出ている)に伝えたときの返答がこれである。

 

「心臓を貫くか、頭を潰さなければ終われないのです。……哀れですね」

「そうだな」

 

なるほど。あの回復力はそういうことか。

ぽちぽちと端末を操作して返信。食事中だが、行儀が悪いと咎める者はいない。

 

 

奏者のお兄さん サーヴァントっていうより獅子王の使い魔だからな。ってモルガンが

Silver bow なるほど。……つまり獅子王が倒れれば……?

海の男 そこに気づくとは……天才か?

ウルフ トリめっちゃむせてる~ 濡れ鳥

 

 

唐揚げを白米でかきこむ時の勇者には、もう後輩共の暢気な会話は目に入ってなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『BB!メルトリリスのステータスが急上昇一位なのだけれど!?』

『株価か?』

『ホットワードかもしれん』

「ご安心を!この程度のリソースなら補填可能でーす」

「ダ・ヴィンチちゃん……!速い……!速い……!酔う……!」

「ひえええ」

「フォウオウオウオウ」

 

爆走するスピンクス号!目を回す立香とマシュ!吹っ飛ばされそうなフォウくん!時速60キロでも命の危機は感じるんだぜ……!

管制室の騒ぎもそっちのけ。赤髪のアーチャーと数十キロメートルの距離を確保して、ようやくスピンクス号は停止したのだった。

 

「ふう。ここまでくれば安全かな」

「はひ……」

「ふへ……」

「フォウ……」

 

ふぃーと額の汗をぬぐったカルデアの技術局名誉顧問はくるりと振り返り、後部座席で伸びている少女たちに首を傾げた。

 

「あれ、大丈夫?ちょっと休憩する?」

「だいじょうぶ……。すすもう……」

「はい……。わたしたちはへいきです……」

 

ダ・ヴィンチちゃんが立香たちの安全を最優先して動いてくれたことは分かっているし、あのアーチャーに今の自分たちでは勝てない。

それを理解しているからこそ、不利を押して飛び出して来てくれたメルトリリスに感謝しているし、早く先に進まなければいけないという思いがある。

時計の針は12時を過ぎていた。シンデレラもベッドの中。魔女の魔法は解けていても、馬車の代わりにバギーがあるから。

 

「早く聖都に行って、獅子王とやらに会わなくちゃ」

 

マスターの意見に、星見のキャスターは頷いた。バギーは再び動き出し、夜を駆けていく。

流れ星のように闇をさいて。

水を含んだ絵筆が走るように、ミッドナイトブルーが薄れていく。

太陽が滲んだあけぼの色はなかった。夜明けでもこんなに薄暗くて、差す光はスカイグレイ。

余りにも寂しくて暗い、一日の始まりだった。

 

「――ああ、ありがとうございます。おかげで助かりました」

 

以前会った難民とは別のグループを見つけたのは、朝食を済ませた後だった。

 

「強盗達を追い払ったばかりか、護衛までしてくださって……」

「いえ、礼には及びません。こちらこそ、道を教えていただいて助かりました」

 

焼けた大地を歩む人々は、疲れた顔で礼を言う。

大所帯だ。大人も、子供も、老人もいる。どこへ向かっているのだろうか。

 

「どこって、聖都ですが……?あそこと山の民の村だけが、今は安全な場所です」

 

侵略者がやってきて、土地が燃えた。

畑も森も燃えた。

同胞が沢山死に。聖地は奪われた。

でも、獅子王がやってきた。

 

「獅子王様が非道な十字軍を蹴散らして、聖地を我々にも開いてくれたのです。どこから来たか分からない騎士様ですけど、十字軍を皆殺しにしてくれただけでありがたいじゃないですか」

 

もちろん中には聖都に恥知らずな都を建てられた、と嘆く人々もいる。

 

「でも、神の教えは不変のもの。都がどんなカタチだろうと私たちの祈りは変わりませんから」

『(……十字軍は獅子王に壊滅させられた、と。これは、ますますリチャード一世じゃないな……)』

「では、貴女がたは聖都への難民、ということかな?聖都は異民族でも受け入れるのかい?」

「ええ、もちろんです」

 

聖都では一月に一度、聖抜(せいばつ)の儀という難民を受け入れてくれる日があるという。

その日までにたどり着けば、後はもう何の心配もいらないとか。

 

「わたしたちも迷っていたのですが、村が焼けてしまったので……」

「そうでしたか……それはお気の毒に。では村の皆さん全員で?」

「いえ、半数ですよ。……村には、聖都に滞在する騎士様たちを悪く思う者もいましたので……」

 

聖都を拒む者は山岳地帯に向かったようだ。あそこには山の民の村がある。

 

「そして……エジプトの守護神・ガノンドロフ様の神殿があると言われています」

「えっ」

「えっ」

『えっ????』

「かの神殿には、今も信者が住んでいるとか。そして獅子王と同じく、誰も拒まないと……」

 

聞き捨てならない言葉が聞こえて来たので全員勢いよく集合した。

ガノンドロフってあのガノンドロフ???確かに後世の人間が勝手に作った神殿は世界各地にあるけど???こんなタイミングで名前を聞くとは思わなかったな???

 

「エルサレムにあったっけ???」

『ちょっと待って調べるから!!!』

『当時のエジプトにはあったぞ。それは間違いない』

「あの、その神殿についてもう少し詳しく聞かせてもらっていいですか」

「? はい」

 

曰く、獅子王の噂が聞こえてきたのと同時期に、山岳地帯からもこんな噂が流れて来たという。

 

“山の民とガノンドロフ様の信者が、共に難民の保護を始めた。しかし彼らは聖都の獅子王軍と対立している”

 

「だから……、どちらに行くのか、という話なんです。私達は祈りを捨てられません。だから聖都に向かうことにしました。でも、そうでない者は……。エジプトの守護神の加護を求めて山岳地帯に」

「そうなんですね……」

 

 

奏者のお兄さん そうなんですね…………

ウルフ そういや次元は?

うさぎちゃん(闇) なんかアトラス院行くって

奏者のお兄さん 自由か?

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