『輪廻転生のメビウスリング』というアニメがあった
俺の住む街、『白巳津川』がスポンサーとなり、地域復興を目的として製作された。
『白巳津川』に残る伝承をモチーフにした超絶難解すぎるストーリーは一部のアニメファンに強烈な印象を残し、「結局何がしたかったの?」と高く評価された
地域復興の完全なる失敗例としてアニメ史に刻むことになったわけだが、お偉いさんはその事実を知らないのからそれとも認めたくないのか。アニメ放送から早二年。
放送に合わせて無理やり作られた春のメビウスフェスは、地元住民の圧倒的不支持を無視し、今年も開催されてしまった。
もっとも、結局はお祭り騒ぎどころではなくなってしまったが。
「皆さんスタッフの誘導に従って下さい!」
きわどい衣装を着たコスプレイヤーが、数少ないフェス参加者に向かって、そう声を張り上げる。
多数は指示通りに、筋金入りの猛者はカメラをパシャリパシャリと撮りまくっている
「あんなでかい地震があったってのに良くやるな」
「翔お兄ちゃん、絆創膏貰ってきたよ!」
視線を
「ぐっ……」
一瞬、恵里の顔と
「ど、どうしたの!? 頭どこかにぶつけて痛いの?」
「……いや、何でもない大丈夫だ。」
「そう? ……手、見せて?」
「これぐらい自分で——ありがとう」
自分で付けようとするも、その前に恵里は絆創膏を受け取ろうとした手を引っ張ると血が滲む右の人差し指に絆創膏を巻いてくれる。
「どういたしまして……結構切れちゃってるけど、大丈夫?」
「あぁ、そんな痛くない……はぁ、迂闊に触るんじゃなかった。
そういえばアレ、駄目そうか?」
「分かんない。壊れてるように見えるけど、どうなんだろ……? あ、気になるなら持ち主に、聞いてみたら?」
恵里の目線の先を追うように目を向けると。そこには一人の女性がいた。
この神社の娘さんであり、巫女でもある。そして更に俺たちが通う学校《白泉学園》の教師である。成瀬沙月、学校では成瀬先生と普通に呼ぶが、俺の両親と古い付き合いがあるため、プライベートでは沙月ちゃんと呼んだりする
「どうも、大変ですね」
「ね〜。あのアニメのせいで変な人うろつくようになって迷惑だったし、フェス中止でザマ〜みろって感じだね〜」
「はは……」
「……落書きされた事もあったし〜」
「はは、そうでしたね」
沙月ちゃんに電話で呼ばれたと思ったら落書きを消すのを手伝わされたのを思い出し、苦笑しながら答える
「消毒液持ってきたけど、絆創膏ってもうしちゃった?」
「あー。まぁ、せっかくなんでかけておきます」
消毒液をありがたくお借りし、絆創膏の上からぶっかけながら話を続ける
「神器ってやつ、修復できそうですか?」
「無理だと思うよ、完全に壊れちゃったっぽいし。これからは適当にレプリカ見繕って奉っておけばいいんじゃない?」
「えっ……と、それでいいんですか?」
「さぁ?」
一大事のはずだろうに先生は対して興味がないようにみえる。本当にこの神社の巫女さんなのだろうか……
———神器。
アニメにも登場した神様が残した秘宝。
小道具や適当に作った物ではなく、この神社に遥か昔から奉納されていたという、由緒正しいガチでマジな神器だそうだ。
そんな一品がフェスのために展示されていたのだが、さっきの地震で呆気なく粉々である
見た目だけなら丈夫そうな錆びついた鉄球だが、強度はガラス並みだったらしい
それで、危ないからと、
「さてさて、新海兄妹〜」
「はい?」
「は、はい」
「今日はありがとね〜。もうフェスどころじゃないだろうし帰っていいよ〜」
先生の予想外な言葉に二人して固まるが、先に再起動した俺が確認するように聴く
「え、マジで帰っていいんです?」
「いいんじゃない? 知らないけど〜」
「い、いつも通りの適当さ。まぁ、私はお兄ちゃんに着いてきただけだから、早めに帰れるんなら行こ、お兄ちゃん!」
「まぁ、帰れるんなら帰りたいんだが……」
「え〜と、すいませんけど今は写真は遠慮して貰えると……まだ地震があるかもしれないんで避難を……」
コスプレイヤーが、数人のカメラマンに取り囲まれて動揺していた。
「園部さん、真面目だね〜」
園部優花。
俺と同じくバイトに来ていて、しかも同じ学校、更には同じクラス。それ以外にも少なからずの接点がある。といっても話したことはそんなにないので親しい関係とは言えないのだが、真面目に働き、困っている姿を見てしまったのでさっさと帰るのは気が引ける。
「……」
「……お兄ちゃん?」
「それじゃあやる事なさそうだし帰りますね」
「は〜い。また学校でね〜」
「さようなら!」
「恵里ちゃんもバイバイ〜」
チラッと園部の方を見る
「すいませんけど、ポーズとかそう言うのはないです。私、ただの会場案内
なんとか冷静に対応しようとしていたが、流石に苛ついているのか笑顔が引き攣り、語気を少し強めている。
「…………。恵里、ちょっと待っててくれ」
「え? お兄ちゃん」
その場を離れると、園部と熱心なカメラマンの集団へと、近づいていく。
「すいませ〜ん非常時なので、避難誘導に従っていただけませんかぁ〜?」
「え、新海?」
「あ〜はいはい。ご協力ありがとうございま〜す。あちらの方へとお集まりくださ〜い」
バイトが終われば俺もただの客、先ほどまでのバイトでの鬱憤も溜まっていたので少し口調が強めになってしまったが構わず適当にあしらうと、群がっていた連中は文句を言いながら離れていく
「……はぁ、平気か?」
「え、えぇ……。ありがと」
「……俺は先に上がらせてもらうから。じゃ」
「え……ぉ、お疲れ様」
突然の俺の登場に戸惑っている様子の園部だったが……
(——っ、分かってはいたがこの衣装、露出がおおすぎないか!?)
それ以上に耐性が無い事でドギマギしてしまう翔。が、変に思われるのも嫌なのでなんとか表情に出ないように努めながら挨拶を交わすとその場を離れる
「……お兄ちゃんは優しいね」
「いや、あれぐらいそうでもないだろ。というか恵里は良いのか? せっかく遊びに来たんだから——」
もう少しいれば良いんじゃないか? という俺の言葉は最後まで言う前に恵里の言葉でかき消されてしまう
「ううん、お兄ちゃんがいなければ
「お、おう……」
ニコニコと満面の笑みでありながらサラッと毒を吐く。そんな我が妹に引き攣った笑みと共に「そ、そうか」と返して歩を進める
「ねぇ……」
「どうした?」
「えっと、その……さっきの……」
「?」
さっき? ……あぁ、まだ怪我の心配してくれてるのか?
「怪我なら本当に心配ないぞ?」
「……怪我?」
俺の腕に抱き着きながら歩を進めていた恵里が歩みを止めた事で、俺もその場に止まる。どうやらこの反応をみるに怪我のことじゃなかったらしい
「じゃあさっきってのは——」
「……怪我の心配で合ってたよ〜。それと今夜ってどうする? 外食する? それとも私が作ろうか?」
「あー、それじゃあ久々に作ってもらおうかな……でも、冷蔵庫に——」
「そういえば材料足りないかもっ! 、買いに行こ! でーt……ゴホンッ、デザートにコンビニのおやつも買って良い?」
「あぁ」
「やった!」
デザートを食べられるからか、はしゃぐ恵里を微笑ましく思いつつも、何故かズキズキと痛む頭と拭い切れない妙な違和感。そして、恵里と重なった少女の事が頭から離れないのだった
分からないでしょ〜?
「んんっ!?」ってなるでしょ〜
それでいいんです。どんどん分からなくしていきますよ〜ごちゃぐちゃです!
続きをお楽しみに〜