呪術師・碇シンジはエヴァパイロットである   作:けし

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アニメ呪術廻戦、不義遊戯と虚式と五条先生でお腹いっぱいですねー!

あと、呪術廻戦から五条先生以外で出演希望者を考えてます。是非ご一票を。


拾. 体育の時間

 

「IDカード?」

「そ、レイちゃんのね。あの子のやつが期限切れてるらしいから、学校でついでに届けてあげちゃって」

「別にいいですけど……」

「じゃあはい。これ、レイちゃんのカードね」

 

 ほい、と手渡されたIDカードは、NERV本部へ入るための許可証である。本人の名前や顔写真などが載せられており、身分証明書としても使える代物だ。

 いうなれば学生証や免許証のようなものだが、それをホイホイ簡単に扱うミサトに少し呆れの意を表しつつシンジはそれを受け取り、財布の中に仕舞った。

 

「それじゃ、行ってきます。ミサトさんの弁当はキッチンのとこに置いてありますよ」

「やたっ、さっすがシンちゃん! 気をつけていってらっしゃーい!」

 

 テンションが目に見えて上がったミサトに苦笑して、シンジは葛城家の戸を閉めた。

 現在葛城家の台所の支配権だけでなく、およそ家事の全てはシンジの手にある。すなわちミサトの衣食は完全にシンジの掌の上である。シンジにもやることは多々あるために週3ほどになるが、特製弁当を拵えている。その中身はかなり彩りに富んでいるらしく、ミサトの胃袋は捕獲済みのようだった。

 

「さて、行きますか」

 

 常夏の朝は、まだ涼しいものだ。シンジはそんな中を1人、歩いて行った。

 

 

 

 

 

 シンジにとって学校とはまさしく学び舎。呪術界では得られなかった一般知識をまともに学べるところだ。大人の汚いところを色々と知っているシンジにとって、いろんな意味で明るい場所だ。

 国語、数学、理科、社会、そして必要かと疑問に思う英語。シンジは文系人間の気があるので、得意なのは国語である。呪術において言霊というのが大切なものだからだろうか。日本語は古語も含めてシンジは明るかった。数学と理科は同年代の平均程度に留まるが、素行も含めて普通に優秀な生徒であるというのが、教師側から見た碇シンジという少年だった。

 昼休み。食べ盛りの子供たちは早々に弁当箱を開けて、ゲームやら遊びやら流行やらの話に花を咲かせつつ箸を動かしていた。そんな()()()子供たちの様子を見渡して、シンジはあの日見つけたベストプレイスに行こうと椅子から立ち上がる。

 

「転校生」

「……ん? 僕?」

 

 声をかけられ、動きを止めた。顔を向けると、そこには鈴原トウジが立っていた。すこしばつが悪そうな表情からは罪悪感のような感情が見えた。その背後にはカメラを持った相田ケンスケもいた。

 

「何か用? それならご飯食べに行くから、そこでいいかな?」

「あ、あぁ」

 

 淡々とそう返すシンジに、トウジはどうも調子を狂わされる。自分のペースが作りにくいからか、鈴原トウジはこの碇シンジという少年がどうにも苦手だった。

 上履きを履き替え、外に出る。シンジの後ろについてくる形でやってきたのは、あの日シンジをトウジが殴った場所だ。当てつけかとトウジはシンジを見やるも、シンジは鼻歌混じりに弁当箱を開けており、トウジは毒気を抜かれる思いであった。

 

「で、どうしたの?」

「……すまんかった」

「何だって?」

 

 シンジが話の続きを促した。トウジがボソっと漏らすように紡いだ謝罪の言葉は、シンジに届く前に解けてしまっていた。

 

「あん時、殴ってもうてすまんかった!」

「……殴ったことだけなのか」

「避難命令破ってあそこにおったことも、悪い思うとるけど、先にこっち謝らんとワシの気がすまんかった」

「殴った云々より、僕は抜け出したことの方が大事(おおごと)だと思ってたけど」

「その件についても、ほんますまんかった!」

 

 シンジは意外に思っていた。素直な人間はシンジの好むところだ。感情を素直に表に出せる人間は呪いの世界にはそうはいない。そんな人間とばかり過ごしてきたし、何より大人というのはそういうものだとシンジは思っていた。

 

「……やっぱり、鈴原君は『いい人』だよ。……それで? 君は鈴原君にだけ物言わせて、頭下げるだけ?」

「うっ、ご、ごめんなさい!」

「ま、言いにくいのは分かるけど」

 

『謝る』という行為が難しいということは、シンジも知っている。だからこそ、こうして謝りに来た2人をシンジは『いい人』だと思った。

 

「今度は危険なこととかしないでよね」

「わーっとる。ワシも転校生があんな危険背負って戦っとるとは知らんかったんや。それに、あの後しこたま怒られたしな。もうコリゴリやで。なぁケンスケ」

「うん、流石に堪えたよ」

「……さて、僕はもう君たちを許したことだし、弁当、持ってきてる?」

 

 あっさりそう言ったシンジに、トウジたちは相好を崩して昼食を摂り始めた。

 

「なあ、転校生」

「ん? どしたん?」

「その弁当、自分で作っとるんか?」

「そうだけど、それが?」

 

 シンジは目線を広げた弁当箱に落とした。卵焼き、たこさんウィンナー、ミニトマト、ほうれん草のおひたし等々、少々物足りなさもあるが、弁当の鉄板もので固められたラインナップである。

 トウジとケンスケは昨日の残りやらを適当に詰め込んだだけのためか、余計にその彩りが目に鮮やかに感じられる。普通の男子中学生ならそれだけでも十分な気がするが、悲しいかな、シンジは普通ではないのだ。

 

「えっらい手の込んだ弁当やなぁと」

「僕たちなんて適当だよ、ホラ」

「ま、家事の類は僕がやってるからね。必然的にこうなった」

 

 ミサトの絶望的な家事スキルは見るも無残なものだったのは言うに及ばずである。

 トウジとケンスケが知るはずのないことだが、2人は親が家事ダメ人間なんだと勝手に結論づけた。大当たりである。

 

「トウジ君とケンスケ君……って勝手に呼ばせてもらうけど、2人は自分で?」

「構わへんで、ワシもシンジて呼ぶで。せや、まぁゆーてワシもケンスケもてんで料理はできひんさかい、余りもん詰まったタッパーみたいになっとるけどな」

「トウジに同じく。でもトウジはたまにタッパーごと持ってきてるよね」

 

 ありありと浮かぶ情景にシンジは少し苦笑した。それを見てトウジもケンスケも笑う。最近笑うことが増えたシンジだが、本人がそれにあまり気付くことなく、時間は昼休み終わり間際まで進んだのだった。

 

「トウジ君、次の授業なんだっけ?」

「ん? 確か体育やった気が」

「……あと5分で昼休み終わるけど」

 

 ハッと顔を見合わせるトウジとケンスケ。かちゃかちゃと口に詰め込んで、2人は走り出した。

 

「「飯食ってる(食うとる)場合じゃねぇ!!」」

 

 まさしく脱兎のごとくにと呼ぶべきか。そんな中でシンジは呑気にしていた。

 

「シンジ! 体育の先生な、遅刻には厳しいで!!」

「知ってるよ〜」

「ホンマに知らへんからな!!?」

「急いだ方がいいって!?」

「お先にどーぞー」

 

 2人の姿はあっという間に消えてなくなった。シンジは『脱兎』の影絵を組みながら、のんびり過ごす。それから数分、チャイムがなるまでシンジは影絵で遊ぶことにしたのだった。

 

「あ……、教室の鍵閉まるんだっけ」

 

 

 

 

 

 

 体育の授業は当然、炎天下の中である。男子は運動場、女子はプールという風に分かられ、フェンスに寄りかかる水着姿の女子を、男子は鼻を伸ばして見ているのが日常だった。

 

「何が楽しいのかね」

「シンジってさ、なんていうか枯れてるよな。お、綾波さん」

「盗撮は犯罪だよ、割とマジで。てかカメラどこに持ってんのさ」

 

 ギリギリで間に合ったトウジとケンスケは普通にサッカーに興じ、間に合わせる気もなかったシンジは普通に遅刻して怒られた。初犯だからか少しの説教で済んだのは幸いだろうか。まぁ面倒な時はサボろう、などと思っているシンジには馬の耳に念仏というものだ。

 そんなシンジはペナルティで課せられた運動場5周──1周200メートルほどなので約1キロのランニングを適当に終わらせて、トウジやケンスケと同じくサッカーをしていた。

 

「教室の鍵、閉まってなかったっけ」

「開いてたよ」

「マジか」

 

 大嘘である。窓越しに見ながら極小出力の『蒼』で鍵を動かした。セコい呪術の使い方である。

 3人はワンバウンド以内でパスを続けるゲームをやっていた。慣れているのかケンスケはそれなりに上手だが、トウジは見た目とは裏腹に運動が苦手らしかった。

 

「なんでトウジ君って毎回ジャージなわけ?」

「汗かいても気にならへんからな」

「……なるほど」

 

 シンジは一理あると思い、何なら朝のトレーニングも学校のジャージなら着替えなくてもよくないかと考えた。

 

 ──体育がある時だけかな。

 

 シンジはこの件についてとりあえずそう決め、回ってきたボールを強めに蹴り返し、ダイレクトにトウジに返した。

 

「うおっ」

「シンジって何気に運動できるよね」

「まあね。スタミナだけなら負けないよ。僕はそれよりもトウジの運動音痴ぶりにびっくり」

「それは仕方ない」

 

 はは、と笑いあう2人。トウジはトラップし損ねてあらぬ方向に転がったボールを追いかけていた。

 

「にしても、シンジと綾波さんって付き合ってたりするの?」

「何で? 藪から棒にどうしたの」

「や、よく一緒に登校してるから」

 

 ちょっと休憩しよう、なんて言ってボールを追ってるトウジを眺めつつ木陰に座り込んだ。強く蹴りすぎたかな、とシンジは内心で思っている。

 

「んー、そういうのじゃないよ。あんまし話さないし、いいとこ知り合いのラインかな」

「ふーん、確かにあんまり話してるの見ないし、シンジがそういうならそうなのか」

「それに僕、綾波さんの事少し苦手なんだよね」

 

 シンジがそういうと、ケンスケは大層意外そうな顔をしてみせた。

 

「あんなに可愛いのに?」

「そうだとしても無表情過ぎない? 前まで感情が無いのかと思ってたけど、ここ最近やっと分かったんだよ。感情はあるけど薄いんだってさ」

「それが苦手な理由?」

「まあそんなとこ。なんていうかこう、まさしく人形みたいだなって」

「人形みたいっていうのは分かるなぁ。肌真っ白だし、髪とか目の色も普通とは違うし。可愛いけどクラスじゃ浮いてるのは確かかも」

 

 ケンスケはどさりの大の字に寝転がってそう言った。その目線はコンクリートの石垣の上にあるプールの方に向いており、フェンスによりかかるスクール水着姿の女子を下心満載に見つめていた。

 

「シンジィ、ケンスケェ……、いいご身分やなぁ……!」

「あ、やっと戻ってきた。随分遅かったけどどこまで行ってたのさ」

「自分が強ぉ蹴っ飛ばすからフェンスの方までやわ……! 覚えとれよ……!」

「はいはい。ほらケンスケ、そんなんだと女子から刺されるよ」

「待ってあと少し」

「ほら行くで。ワシも刺されるんは勘弁や」

 

 シンジとトウジはケンスケを引きずって運動場内に戻っていった。シンジにとっては学生らしい、最も平和な時間であった。

 

 

 

 

「ったく、男子ってほんっとサイテー」

「みんな猿だもの。碇君はそんな目で見ないから安心よね」

「碇君いいよねー」

「カッコいいしね」

「ちくわ大明神」

「運動もできるみたいだし」

「誰よ今の」

 

 フェンス越しに見下ろす運動場。向けられる子供らしい下心に塗れた視線は、やはり年頃の女子には嫌悪感のあるものだった。

 シンジの視線にはそんなものが全くなかったためか、シンジの人気はそのルックスと相まって比較的高い。

 

「ねぇねぇ、綾波さんって碇君と付き合っちゃったりしてるの?」

「……私と彼はそんなのじゃないわ」

 

 よく2人揃って昼頃に登校することがあるためか、そういう噂がなかなか絶えない。美少女と美少年──本人にその自覚はないが、そういう2人だからか噂の尾ヒレは増える一方だった。

 

「なんで一緒に学校くることがあるの? それも昼に」

「……偶然よ」

 

 流石に無理があるだろ、とは誰も突っ込まなかった。綾波は再びプールの水の中に飛び込んでしまい、それ以上の追求は無かった。

 蝉の声と沈黙が、水を掻く音に飲まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

「で、ここが綾波さんの家と」

 

 体育の後、綾波レイにIDカードを渡すことをすっかり失念していたシンジは、わざわざミサトに綾波の家の場所を聞き、暑い中そこまで足を運ぶ羽目になった。

 教えられた場所に赴くと、そこはまるで廃墟のようなマンションだった。電線は繋がっているが、果たしてインフラが生きているのだろうか。

 部屋の前まで来てもその疑問は拭いきれない。壁にヒビは入り放題で、人の気配などない。見たところメーターは動いているため、住める環境はあるようだった。

 

「綾波さーん。あーやーなーみーさーん」

 

 ドンドンとドアを連打する。隣近所への迷惑などは考えない。インターホンは生きてるかもわからないのだから、こうして叩くのが早いと判断した。

 

「反応なし、っと。お、開いてるじゃん」

 

 ポストに突っ込もうかとも思ったが、流石にこれは手渡しが妥当だろう。シンジはノブを回して部屋の中に踏み入った。

 

「んー、なるほどシャワー浴びてたのか。そりゃ出れないね」

 

 リビングと思しき部屋。生活感は皆無で、ミサトとはまるで真逆の部屋だ。片付けるものなどなく、そもそも物が少ない。台所に至っては使われた痕がない。

 そうして見渡した部屋の中で1つ、シンジの目に止まった。

 

「これ、父さんの……?」

 

 古びたサングラス。特徴的なことは何もないが、シンジはそれが誰のものなのかを理解できた。

 それと同時に背後で音が鳴った。シンジの目に飛び込んできたのはタオルを首に巻いた、ほぼ全裸の綾波レイの姿だ。

 

「……あー、勝手にお邪魔してるよ」

「返して」

「へ? ああ、これのこと?」

 

 手に持っていたサングラスを指してシンジがそういうと、綾波は頷いた。シンジは特に拘りもなく、それを元の場所に戻して綾波に向き直った。

 

「湯冷めするから、さっさと髪乾かして服を着るのをお勧めするよ。あとコレ」

「これは、私の?」

 

 シンジの本来の用事はこちら。綾波の裸体に興味を示すことはなく、シンジは財布から新しい綾波のIDカードを取り出して手渡した。

 

「そ。今使ってるのが期限切れるんだってさ。ミサトさんに言われてね。あと、どうせこの後本部に行くんなら一緒にどう?」

「……それは命令?」

 

 綾波の返した言葉に、シンジは瞠目する。少し間を置いて、シンジは言葉を紡いだ。

 

「命令のつもりはないけど。暇だし、少しは綾波さんのことを知っとかないと」

「……そう」

 

 綾波は平坦にそう返した。結局は一緒に行くでなく、シンジが勝手に付いていく形に落ち着いた。

 

 

 

 

 

 

 

「へっくしゅ!」

 

 山に囲まれた盆地は、夏でも比較的涼しい気候だ。だが寒いというわけではなく、また決して風邪をひいたわけではない。

 

「んあー、誰か僕のことを噂してんのかね」

 

 ずず、と鼻を鳴らしているのは五条サトル。現代最強の呪術師と呼ばれる男である。いつもの黒服に黒い目隠し。銀髪がよく目立つ出立ちである。

 

「にしても、暇だぁ──」

 

 京都や日本に現れる呪霊は、今のところ五条以外の呪術師で対処可能なものばかり。わざわざ最高戦力である五条を出すようなことはなく、急な事態に備えて五条には待機するよう命令が降りていた。

 仮にその命令を破って遠出しても、五条ならすぐにその場に駆けつけられる。正直な話、待機命令を守る必要などないのだ。

 

「ん──、みーんな出払ってるし、シンジは便りも寄越さないし……、あっ」

 

 ふとニヤリと笑みを浮かべて。ぽん、と手を叩き合わせる。

 

「そうだ、シンジのとこに行こう」

 

 いつかの旅行のキャッチフレーズの如く、五条は行動を起こし始めた。

 少なくともシンジが大変な目に遭うのは確定である。

 

 

 ──五条サトルとNERVの邂逅まで、あと少し。

 

 





五条先生がついに動き出します。
現状唯一、使徒と生身で単騎戦闘が成立する化け物です。果たしてNERVはどうなる? シンジ君の(胃の)明日はどちらだ!?
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