呪術師・碇シンジはエヴァパイロットである   作:けし

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新劇の『序』のエピローグのようなもんです。遅くなってすみません。

あと今作のキーワードの一つ『正の呪霊』
このために呪術師と使徒が同じスケールで戦った場合、呪術師がほぼ確実に勝ちます。

次回からは『破』の章になります。

あと、誤差報告等してくれる読者の皆様、本当にありがとうございます。


拾参. 五条サトル

「で、シンジ君」

「なんでしょう?」

 

 NERV本部のとある部屋にて交わされた、緊張感のある言葉。居合わせているのは作戦課長の葛城ミサト、エヴァンゲリオン開発責任者の赤木リツコ、初号機専属パイロットの碇シンジ。

 

「この男は何者なのかしら?」

 

 そして、パイプ椅子に腰掛けて足を大きく伸ばした姿勢で上を向く目隠しの男。言わずもがな、現代最強の呪術師と呼ばれる特級呪術師の五条サトルである。ポケットに手を突っ込んだまま目隠しごしに見上げるその様子は、ミサトやリツコが眼中にないとでも言わんばかりであり、流石の2人も腹に据えかねていた。

 

「自己紹介すらまともにしない25歳児。人をおちょくる天才。言いたくないけど僕の師」

「シンジ、君僕のこと嫌いなの?」

 

 シンジの言葉にだけは即応するのだから、余計に苛立ちが募るのだ。

 刺々しさが満ちる空間に居心地の悪さを覚えるも、NERV側に対してまともな説明が出来るのは現状ではシンジのみである。呪いに関するあれやこれやは伏せるべきだろうが、先の戦闘で五条サトルがやってのけたことは流石に呪いについてある程度開示しなければ説明ができない。

 

 ──超能力って言って説明つくかな? 

 

 A.T.フィールドもエヴァンゲリオンも、あるいは使徒すらも当然ながら普通ではないが、人間が行使するとなると話は別になるのだ。ミサトやリツコらの当たり前とシンジや五条の当たり前の差が大きすぎる。どうすべきかと、シンジは頭を悩ませていた。

 

「はぁ、どうしよう……」

「バラしちゃえば?」

「……いいんですか?」

 

 なんの気なしに呟いた言葉を拾って、五条がシンジにそう言った。それでいいならシンジにとっては有り難いことだが、秘匿に反するのではないかと、その意味を含めて問い返した。

 

「別にいいさ。彼女たちが呪術をどうこうなんて出来ないし、ここの人たちを見る限り、呪術師の才能がある人はいないよ」

「僕は責任取りませんよ?」

「問題ない。今の呪術界の状況じゃあ上の連中は僕をどうこう出来ないし、僕の庇護下にある君にも手を出せやしないさ」

 

 ひそひそとやり取りする2人に訝しげな視線を向けるミサトとリツコ。その視線を流しつつ、シンジは筋道を組み立てていく。この場において、五条を交渉人(ネゴシエーター)とするには勿体ないと判断したのだ。

 五条サトルは最強の呪術師であり、その戦闘能力は先の使徒戦で見せつけた通り。初号機の援護があったとはいえ、単騎で使徒相手にトドメを刺せるのだ。そして目の前の2人は、同質の力がシンジにもあるのではないかと考えている。年不相応な成熟具合や戦い慣れした様子も、五条サトル(この男)が師であるなら納得できるようにすら思っているのだ。

 

「まあ、冗談は置いておいてと。この人は五条サトル。さっきも言った通り、向こうにいた時の僕の先生のような人です。この姿(なり)に関しては突っ込まないでください」

「普通の人ではないでしょう? 宙に立ってたし、使徒にも何らかの干渉をしたはずよ」

 

 リツコは詳細な説明を求める。分からないことを分からないままにするのを良しとしないのは、科学者の(さが)のようなものだろう。

 五条サトルは呪いについての開示を許したが、シンジはそれを最低限に留める方向で話を進めることにした。

 

「一種の霊能力者のようなものです。超能力者と言ってもいいですね。その界隈では最強と謳われる人ですよ、この人は」

「あくまでもそう言い張るのね? シンジ君」

 

 リツコはシンジが真実を口にしてないことを理解している。人生経験の差とでもいうべきか、シンジが感情を取り繕うことが上手くとも、あからさまにぼかした言葉選びでは流石に気づくというものだ。

 

「呪術師。僕もシンジも、そう言われている人種だよ」

「っ!?」

 

 五条サトルは、不意に話に割り込んでそう言った。目の前のゴタゴタは彼にとって至極どうでも良いことだったのだが、シンジが居づらくなるのは回避したい。五条は彼女らに何を追求されようと痛くも痒くもないし、監視の目が付くのならそれはそれで構わない。なにせ呪いが見えないのだから。

 

「呪術師? 随分とオカルチックね。そういうのは流行らないわよ?」

「僕からすればそっちも大概さ。それに平安の世からある呪術師という職業が廃れかけてるのは否定しないよ。けど、今回からの使徒とやらの一件で分かった」

 

 横にいたシンジはもうどうにでもなーれというような顔である。交渉の場はもはや滅茶苦茶。避けるべきデメリットを力ずくで振り払うようなこの五条サトルという男が根こそぎ壊していったのだ。この話し合いはもう交渉などとは呼べまい。

 

「──あれは、言うなれば正の呪霊。生命という存在そのものといってもいい。正の呪力で満たされているから、呪霊とはまた別のメカニズムで身体の再生が成されている」

「正? 呪霊? 呪力? 一つ一つ説明してくれるかしら?」

「どうせ理解出来ないさ。一応言っとくと、呪力ってのは負の感情を焚べて得られるエネルギーだよ」

 

 ちゃんと説明する気ねーな、とシンジは心中で吐露する。何もかもを科学的に捉えてきたリツコや、そういう視点で固定されているミサトたちには、オカルチックなこれらの事柄の理解は難しいだろう。感情を焚べる、などと言われてどうしろというのだ。

 そう思う傍ら、シンジは五条が口にした言葉の意味を考えていた。

 

 ──正の呪霊。使徒のことをそう言った。使徒とは言え呪力と同じ論理が通じるなら、使徒に呪力を纏って触れたら正と負の掛け合いでその部分は負になる。正の呪力で構成された存在なら、その部分は──? 

 

 そうして落ちて行くシンジの思考は、その結論に至る前に横合いから止められた。

 

「シンジ、僕は外にいるよ。あと任せた」

「は? いやちょっ、待てこの状況で僕に投げるな!?」

「じゃあね〜」

 

 ふざけんなぁぁぁぁ! というシンジの心中が大声と共に飛んでくる中、五条サトルはさらりと躱して部屋を出た。

 シンジは更地になった交渉テーブルに向き合い、説明を求めるミサトとリツコをどうにかこうにかするために思考を奔走させることになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ミサトとリツコが思い出すのは、あの異常な光景であった。

 

「シンジ君……」

 

 目の前のモニターに映し出される映像は、NERV職員の面々にとって信じられないものだった。

 初号機が囮になり、正体不明の男がトドメをさす。作戦自体もさることながら、それを即決したパイロットの考えも理解し難いもの。それは彼らが呪術を知らないのだから仕方のないことかもしれない。

 しかし、それでも人間が人間のままに使徒を相手どるその光景はやはり現実離れしていた。

 

「あの男は、何者なんでしょうか……?」

「あの子の知り合いみたいですけど……」

 

 青葉シゲルと伊吹マヤが続けてそう呟いた。それは司令室内の全員の総意でもあった。

 碇シンジが先生と呼ぶ目隠しをした男は、初号機が三次元機動で走り回る中、手を組んで宙に立ったまま止まっている。

 

「何をする気なの……?」

「分からないわ。マヤ、計器に反応はあるかしら?」

「感なし、使徒と初号機の反応以外存在しません」

 

 ミサトがぼそりと呟く。リツコはマヤに計器の確認を促す。しかし反応なぞあるはずもない。それは当然のことではあるが、分からないゆえに不気味さが増す。

 

『残り30秒っ、まだか……!?』

 

 焦燥を滲ませたパイロットの声が、静まった司令室内に響く。本来ならその手のアナウンスをしなければならないオペレーターは、モニターに見入ってしまいその仕事を忘れかけていた。

 使徒の放つ荷電粒子砲は、地上の構造物を容易に溶かし、破壊していく。その照準は時を追うごとに正確になってゆき、A.T.フィールドに触れ、それを少しずつ削っていく。

 

『っ、今!!』

 

 パイロットがそう声を張ったのと同時に、気付けば使徒のコアは貫かれていた。男を捉えていたモニターには、いつの間にか目隠しを外し、あまりにも端正で衝撃的な素顔を晒している姿が映っていた。パイロットと男のやり取りは当然司令室にも筒抜けであったのだが、司令室の面々は初号機と男を交互に見やり、それでも何が起きたかを理解出来た者はいなかった。

 不可視の質量『茈』が弾丸となり、コアを撃ち抜いた。事の真相はたったそれだけだ。

 使徒は光の十字架を伴い爆散した。それは見慣れた使徒殲滅の証であり、あの男が嘘偽りなく使徒を倒した証拠でもある。

 

『っはあ。さすが、僕には出来ないことを平然とやってのける。痺れはしないけど、憧れはないこともないんだよなぁ』

 

 六眼を持たないシンジは虚式を使えない。そもそも六眼を持たないにも関わらず実用的に無下限呪術を使えている時点でシンジも異常なのだが、それはそれ。

 虚式『茈』は、不可視の質量が周囲を破壊しながら突き進むものだが、五条サトルは今回のこのシチュエーションに合わせ、弾丸のように高速で飛翔する形で使用した。無下限呪術の新たな可能性を見た気がしたからか、五条サトルはどこかホクホクした表情だった。

 

「お疲れサマンサ〜。術式に趣向を凝らすのも一興、まあまあ楽しかったよ」

『楽しかったって、アンタは……』

 

 はあ、と疲れたようなため息をこぼすシンジ。その表情は心底面倒そうなものだが、元に戻ったような、側から見るとそんなハマり具合があった。それは至極当然とも言えるのだが、それほどの付き合いがあることをミサトらは知る由もない。

 五条サトルの声は拾えず、パイロットである碇シンジの言葉から推測していくしかない会話。それでもこの男が先の戦いを楽しかったなどと言い張れる異常さを窺い知れる。

 

「同じ人とは思えないわね」

「宇宙人か何かじゃないの? もー考えるのやめたいわ」

 

 ミサトは投げやり気味にそうボヤき、リツコはモニター越しに男を睨む。

 

「……碇、これは…………」

「……」

 

 サングラスの奥で、リツコ以上の睨みを見せるゲンドウ。想定外ばかりの現状に歯噛みし、ギリ、と食いしばる音が聞こえそうなほどに表情を歪めていた。冬月はそれを見て、致命的な綻びが生じる日も遠くはないと考えた。

 そもゲンドウの計画は、自身の息子を呼んだ時点で壊れ始めていたのではないか。最近になって冬月は度々そう思うようになっていた。計画に支障はないと何度もゲンドウは言うが、今回の件は明らかにカバーできる範囲を超えているはずだ。

 

 ──ゼーレの老人たちだけでなく、我々にも一泡吹かせた、か。この常ならざる感じは、どこかユイ君に似ているかもしれんな。

 

 遠い過去を回想して、冬月はそんな事を思っていた。

 それはゲンドウも同じ。見た目は自分に似ることなく育っていて、纏う異質さはどことなく母譲り。喧嘩慣れ、戦い慣れしているのは父譲りとでも言えよう。強く育ったことに父として喜べばよいのか、計画が狂ってゆくことに憤ればよいのか、ゲンドウは分からなくなっている。

 

「…………っ」

 

 それでもゲンドウは選ぶ。妻を愛した自分を信じる。計画を、必ず成し遂げるのだと。そう言い聞かせる。

 

「使徒殲滅は完了した。あとは任せたぞ、葛城三佐」

「はっ」

 

 ゲンドウは努めて平静を装ってそう命令を下し、冬月を伴って司令室を去った。司令室はその後、いつものように慌ただしくなっていった。

 

 

 

 

 

 

 

「で、どーするんです? この後」

「シンジの家に転がり込む」

「……僕は居候(いそうろう)の身なので」

「……マジ?」

「マジ」

 

 流石のガバガバ計画。金だけはあるこの男は相変わらず……、とシンジは過去最高に呆れつつも、部屋の工面に取り掛かる。呪術関連で何かするなら、葛城家とは別の住処である方が都合がいい。この場合は恐らく監視がつくだろうが、監視の人間には呪いなど見えないだろうからデメリットなどないに等しい。あるとすれば奇妙な事をする変人扱いされることくらいだ。

 金の問題ならどうとでもなるし、葛城家のあるマンションは割と空き部屋があったりするのだ。書類さえ用意してしまえばこの目隠し25歳児を放り込める部屋の完成である。

 ミサトたちNERVの面々にとっても、五条サトルという男を把握するための監視は必要だったため、渡りに船のようなもの。シンジの予想よりも簡単に工面出来てしまった。

 

「高専の寮よりかは全然広いですよ。先生の屋敷と比べるのは酷ですが」

「十分。そんじゃ、久々に組み手でもしよっか」

「僕疲れてるんで、おやすみなさい」

「え、ちょ」

 

 ばたむ。持っていたスペアキーで意味もなく鍵をかけ居候中の葛城家に転がり込む。

 

「さて、作りますか」

 

 カッターシャツの袖を捲り、エプロンを装備。これからここはシンジの領域(テリトリー)

 胃が痛くなるだろう未来から目を逸らしつつ、呪術師・碇シンジはまた日常を過ごすことにした。

 

「久々にみんなと会いたくなってきたなぁ……。誰か五条先生の手綱握ってくれないかな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 





何度も言いますが、このシンジ君だと『Q』以降の世界線が無くなりかねないです。

アンケートについてですが、流石に結果が見えてきたのでそろそろ締めますね。あと個人的な好みで乙骨先輩は出演しそう。

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