呪術師・碇シンジはエヴァパイロットである   作:けし

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四捨五入したらまだ水曜日、だからセーフ()

話が進まへんが、ここら辺は日常回やから勘弁してください。
あと、ガバガバなのはご都合主義ってことで勘弁して下さい。

シンジ君の弁当、かまぼことか入ってるっぽかったから、養殖とかは内陸でやってんのかなーって。そしたら多少は魚も流通するかなと思いました。許して。



拾陸. 遺志と呪い

 

 翌朝。霧の漂う早朝に人影は見当たらない。常夏ながらも肌寒さを感じるが、これから行うことを考えれば丁度いいだろう。

 

「さて、まずは組み手から。ゆっくりギアを上げてくよ」

「無茶させないでください、ね!」

 

 近場の公園だが、広さは十分。早速とばかりにシンジは初撃を繰り出すも、五条はそれを軽くかわした。シンジはとにかく手を出し続け、合間合間に五条が攻撃をする。術式の使用はなしというルールの下、その組手は繰り返された。

 

「はあ、はあっ」

「スタミナついたねぇ。それにパワーも上がってる。真面目にトレーニングしてたようで何より」

「っ、ムカつく言い方、しますね相変わらず」

「性分なもんで。さて、じゃあシンジの今後の目標だけど」

 

 両膝に手をついて肩で息をするシンジの前で、さも余裕そうにそう述べる五条。心底から規格外なのを感じながら、シンジは自身の師を見上げた。

 

「呪力の制御をより精密かつ滑らかに行うこと。それだけ」

「今までとあまり変わらない気もしますけど……」

「度合いの問題だよ。シンジ、君の呪力量はこれから爆発的に増える。それこそ僕やユウタ以上になり得るんだ。だからこそ六眼なしで出来得る最高峰の制御を会得してもらう」

「……無理難題、はいつも通りかぁ……」

 

 シンジは遠い目をしていた。これでもかなり努力してるつもりなのだ。

 

「元々無下限呪術は原子レベルで呪力を制御しなくちゃならない。僕は六眼でそのハードルを乗り越えたし、シンジは縛りを作ってそのハードルを下げて乗り越えた。けど、シンジは今後それだけじゃ足りなくなる。『蒼』、『赫』のみならず、『茈』に領域も習得しなくちゃならないし、そうさせるつもりだよ」

「うげ……」

 

 六眼なしで辿り着くには不可能ともいえる境地である。シンジとて呪術師の中では才能アリに分類される。五条の後押しと無下限持ちであることが相まって一級の座にいるが、実力もまた十分なのだ。それでもまだ上を目指すのならその先はすなわち──。

 

「僕を、特級とかに持ち上げる気ですか?」

「んー、そこまでいけるかはシンジ次第かな」

 

 シンジは、自分がどんな人間かを理解しているつもりだ。呪術師として生きてきて少し物騒になった思考回路や、同年代と比べても老成気味な精神性、言うなれば『諦め』る類の人間である。さもありなん、種々の理不尽や不条理を知り、瀕死の重傷も知っているのだ。どうしようも無いこととは隣人と言ってもいい。

 それでも、シンジの本質は頑固なもの。やると決めたからにはやらないことを『諦め』る頑固さは、変わっていない。

 

「……僕の目標、五条先生に一泡吹かせること。やってやりますよ」

「いいね。そうこなくちゃ」

 

 それを待っていたかのように、子供のような笑みを浮かべる五条。その表情を見て、自分が間違ってないと知る。

 

「具体的な方法とかあるんですか? 同じことをやっても変わらないでしょ」

 

 五条が言う通り、縛りにも限度がある。縛りすぎれば逆に戦えなくなる。となれば、別の方法を取るしかない。

 

「縛りは作らないよ。余裕があるなら話は別だけど。とりあえず今は棚上げだ」

「じゃあ?」

 

 案の定の回答に、シンジは方法について教えるよう急かした。

 五条は人差し指を立てて、それを語った。

 

「まずシンジには、『黒閃』を決めてもらう」

「こく……せん?」

 

 初耳の単語を聞き、頭上にクエスチョンマークが浮かぶシンジ。それを見てとった五条は説明を続ける。

 

「そ。黒い閃きって書いて……って、漢字分かっかな?」

「それはそれとして。何かの技ですか? それ」

 

 どことなくバカにしたような笑みに、目の笑ってない表情で応えるシンジ。冗談通じないんだよなー、と五条はおどけてみせた。

 

「んーや。技じゃなくて現象かな。打撃と呪力が誤差0.000001秒以内にぶつかると空間が歪んで、呪力が黒く爆ぜるの」

「へー。それと呪力制御にどんな関係が?」

 

 至極当然の疑問を投げるシンジ。難易度の高さは誤差の範囲から察することはできるし、呪力制御をより精密しなければ届かない領域なのも理解はできる。しかしシンジは、その現象を起こす目的が分からないのだ。

 

「黒閃ってのは、一度経験すると自分の呪力の性質が理解できるようになる。すると今まで意図して動かしていた呪力が、黒閃を経験すると呼吸のように自然に流れて、全てが自分中心に回っているような全能感を得られる。これを経験しているか否かってのは、呪力の核心との距離に大きな差が生まれるんだよ」

「なんか小難しいこと言ってますね。分かりやすくどうぞ」

「要するにゾーンに入る。呪力とは何ぞやってのを身体が悟るのさ。考えてやってきた呪力操作が、ぜーんぶ無意識で出来るようになる」

 

 シンジはふむふむと頷くも、結局それが何に繋がるのかをよく理解できなかった。なにせ彼はまだ中学生なのだ。多少出来が良くとも、少なくとも知能面では天才型ではない。

 五条は目隠しをしたままにチラリとどこかを見やるが、シンジはそれに気づかない。少しだけ笑みを浮かべて五条は言った。

 

「ま、百聞は一見に如かず、ってね。ここからは呪力解禁だ。術式はなしね」

 

 当然ながら黒閃は起こらず。この日、シンジはひたすらボコボコにされたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 国際環境機関法人日本海洋生態系保存機構。名は体を表すという言葉の通り、かつての海洋生態系を保存、一部再現しており、現在唯一水族館らしいことが出来る場所である。尤もこの場所はれっきとした研究機関であり、アミューズメント要素は微塵もない。さらには海水の浄化研究も行うこともあるという。シンジたちは今回、加持リョウジの伝手もあって、この場所への入構を許される運びとなった。

 はしゃぐケンスケと、少しテンションが上がっているトウジ。後ろでぼーっと建物を見上げる綾波と、はしゃぐ男子2人を呆れた目で見るアスカ。そして、朝の組手での疲れを引きずるシンジ。怪我などは反転術式でさくっと治癒させるが、それらは外傷のみ。当然疲れは治せない。

 窓ガラス越しに病院着のような服装を見せる加持は、外へ繋がるマイクを手にした。

 

「喜んでくれてるようで良かった。……ま、ここからがちょいと面倒なんだが」

 

 その言葉に、シンジはさらにテンションが下降していくのを感じた。

 管理区域と書かれた扉を潜ると、なるほど加持が面倒というのも納得の流れであった。

 長波放射線、有機物電解など、様々な方法による徹底した滅菌処理。トウジとケンスケ、アスカは熱いだの冷たいだのと喚く一方で、微動だにしない綾波とシンジ。手元に抱えた温泉ペンギンのペンペンは何のその、むしろ楽しんだのではと言わんばかりのテンションだった。

 それらを抜け、加持の着ていたものと似たような服を着れば、ようやく海洋生物とのご対面である。

 

「「うわぁぁぁ!!」」

 

 ケンスケとトウジが、さらに童心へと帰っていくように水槽に突撃していく。アスカもそれに倣ったわけではないのだろうが、あからさまに目を輝かせているのが分かる。綾波も見たことのないものには興味を惹かれるのだろう。魚の動きを目で追う仕草を見せていた。シンジもまた、下がっていたテンションが上がる程度には興味を持てた。水槽は分厚いアクリル板を重ねているが、水槽内の景色が歪むことはなかった。今の世では図鑑でしか見ることのない海水魚が悠々と泳ぐ姿は、壮大、雄大の一言に尽きるだろう。

 

「想像以上……、だな」

「そう、ね」

 

 一歩引いた位置で3人を見守るシンジと綾波。気分は保護者のようでもあった。ペンペンは初めて見るだろう同類に興奮しており、アクリル越しにペンギンたちの指揮をとっていた。なお、当然のことながら全く違う種のペンギンである。指揮が取れるペンペンの摩訶不思議に、シンジは首を傾げていた。

 

「……馬鹿じゃない?」

 

 アスカはふと我に返ったのか、興味を持っていた目を引っ込めてしまった。近くの適当な場所に腰掛けて、ゲームをし出していた。

 一方綾波は、小さな水槽の中で泳ぐ小さな魚をじっと見つめていた。

 

「もう飽きたの?」

「げ、七光り」

「なんだよそれ、七光りって」

 

 蔑みを含んだ言葉なのは理解したが、どういう意味かまでは理解が及ばなかった。知能の面ではアスカの勝ちである。

 

「……何のゲーム?」

「……テトリス」

「あ、それやったことある」

 

 アスカは画面の三分の一も積み重むことなく、次々とブロックを消していく。手慣れた様子にシンジは感心した。

 

「セカンドインパクト前は、この魚たちを食べてたんだってさ」

「……マジ?」

「本人たちから聞いたから、多分ホント。焼いたり煮たり揚げたり、あるいは生で。色々と食べ方があったらしいよ」

「すごい気になるわね、それ」

 

 海洋生物を口にすることは稀にしか無いだろう。これはシンジが五条たちから昔聞いた話である。内陸では今でも淡水魚が生きているが、それらは滅多に口にすることはない。とはいえ、養殖ができる種類の魚などはたまにシンジが料理することがあるらしい。加工食品も、かまぼこなどは割と流通している。

 シンジがふと、そろそろかなと呟いた。

 

「……さて、そろそろお昼ご飯だ。今日は僕が作ったものだから、期待してね」

「……フン」

 

 よいしょ、と立ちあがったシンジを、アスカは目だけで追った。掴みどころのない不思議な少年、アスカにとってシンジは、初めて会うタイプの人間であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「うっま!!!?」」」

「うん、いい焼き加減だ。味付けもグッド。見事だ」

「それはよかった。割とベタなのを詰め込んだつもりだけど」

 

 好き嫌いが分からないため、弁当のベタなメニューをありったけ詰め込んだ形である。おにぎりは多めに。卵焼きが少し甘めに作ってあるのはシンジの癖のようなものである。

 凝り性なところのあるシンジは彩りまで重視した上で作っている。ちなみに水筒のお茶は少し温かめのお茶である。

 蓋に貼られた滅菌済の文字にここまでやるかと内心で呟きつつ、シンジは全員分の茶を注いでいた。

 

「意外な才能やなぁ。学校の弁当もシンジが作ってるんか?」

「まあね。これでも料理は小学生からやってるんだよ」

「かぁ〜、そりゃ旨いわけやわ」

「台所に立つ男はモテるぞ〜」

「加持さん立たないんですね」

「お生憎様、手先が不器用なもんで」

 

 シンジは少しだけ自慢げに語った。ふぇーとトウジとケンスケが感心する中、アスカも少し見直したような目でシンジを見ていた。

 

「…………」

 

 ふと綾波を見やると、割り箸も割らずに手をつけないままであった。

 

「綾波、食べないの?」

「肉を食べないだけ」

「ベジタリアン……って訳じゃ無いか、ごめん」

「なんで悪くも無いのに謝んのよ日本人は。てかあんたねぇ、そもそも生き物は生き物を食べて生きてんのよ、折角の命、食べ尽くしなさいよ!」

「…………」

 

 目線をアスカに向けるだけで、それ以外無反応な綾波。その様に苛立ったアスカはえこひいき! と声を上げるも、それにすらも反応はしなかった。その隙にトウジが綾波の分をかっぱらっていき、ペンペンも走り回りだしてしまった。

 シンジは小さくため息をついて、もう一つの水筒を持って綾波に近づいた。魔法瓶仕様のその水筒の中身は、手作りの味噌汁だ。

 

「じゃ、こっちならどう?」

「これ……」

「ん? 味噌汁。お手製だよ」

 

 綾波は手渡されたそれをしばらく見つめた後、湯気のたつ味噌汁をそっと口にした。

 温かさが口の中に広がる。白い豆腐がほろりと崩れ、深みのある味噌の味が舌を覆う。味覚がまともに働いた初めての感覚に、綾波は目を見開いた。

 シンジはその様子に手応えを感じ、心の中でガッツポーズ。

 

「……おいしい」

 

 綾波は自然と、頬が上がったのを感じていた。

 その後、皆が辺りを一望できる建物でテンションを上げる中、シンジは海と浄化槽の境目にある場所で風を浴びていた。生臭いが、任務で各地に赴くことのあるシンジには慣れたものだ。 

 加持はタバコを(くゆ)らせながら、皆をここに呼んだ理由を語っていた。

 

「かつてこの星は、海すらも生命に満ち満ちていた。青い海こそは本当の姿なんだと、知ってほしかったのさ」

「赤い海は、もう当たり前ですからね。海はただの赤い水のかたまりでしかない。ちょっと賢くなった気分ですよ」

「はは、そりゃよかった」

 

 シンジは笑ってそう言った。加持はタバコを咥えて空を見上げながら笑っていた。

 

「──生命がどんなに擦り減っても、呪いは決して消えない……か」

 

 シンジがぼそりと呟いた言葉は、誰にも届くことはなかった。

 

「ミサトさん、来なかったですね」

 

 沈黙を嫌ったか、シンジは話を変えることにした。こういうのを好んでるわけでは無いだろうが、ミサトが来ないのはどことなく珍しい気がした。

 加持はタバコを一息吐いて、遠くを見つめながら答えた。

 

「葛城は来ないよ。思い出すからな」

 

 セカンドインパクトを。そう口にした。

 その後聞いた話は、シンジにしてみれば所詮は他人事。よくあるとは言い難い悲劇だが、心動かされるような何かは無かった。結局は肉親を失っただけ。それについてどうこう言う権利はシンジにはないが、やはり悲劇の一つでしか無かった。

 今に至るキッカケであるセカンドインパクトは、数多くの人間に影響を及ぼした。呪術師とてソレを逃れたものはない。元通りの日常を享受している者など極々稀である。

 それから加持は語った。

 

「生き残るってのはいろんな意味を持つ。死んだ人の遺志を受け止めて、受け継がなきゃいけない。それが1人なら尚更だ」

 

 当然の持論に、シンジは青い海を見つめながら答えた。

 

「死んだ人の遺志……ですか。僕からしたら、受け継がなきゃなんてナンセンスですよ」

「……」

 

 加持は予想外な返しに顔をシンジへ向けていた。シンジは続いて空を見上げて、どこか遠くを見つめながら言葉を続けた。

 

「死んだ人の遺志なんて、それはどう転じても呪いそのものです。ましてやどう捉えようと自由なんだから、際限がない。生きた人間のかける呪いより厄介で面倒なものですよ。そんなもの受け継いだら最後、僕は僕の意志では動けなくなる」

 

 加持は重みを感じるシンジの言葉に、何も言う事はなかった。

 

「僕は僕の意志で動く。理不尽も不条理も僕の道に邪魔なら壊すだけです。だから誰かの意志を受け継ぐなんて、ごめんですよ」

 

 そういうとシンジは、展望台のついた建物の階段を登っていった。

 それを見送った加持はすっかり短くなったタバコの火を携帯灰皿に押し付けて消すと、再び手摺りに寄りかかって、今度は海を見渡した。

 

「碇シンジ……。呪術師、か。呪い……、なるほど確かに、一理あるかもな」

 

 とても14歳の中学生とは思えない発言に、加持は少し気圧されたのを感じ、彼の脅威度を改めた。

 

 ──NERV、そしてゼーレ。他の子供たちはともかく、彼だけは一筋縄では行かないみたいですよ。

 

 内心でそう呟き、彼もまた展望台への階段へ足をかけた。

 

 

 




感想とか書いてくれる人、誤字報告してくれる人、毎度毎度ありがとうございます。

シンジはこんな感じで呪術師的に狂ってます。狂気が足りない気もしますが、彼まだ14歳です。
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