脱線その他は知ったこっちゃねぇ!
壱. 僕の居場所
母も、父も。その庇護を失った少年。幼くして天涯孤独となった彼の手を取ったのは、父方の遠い親戚という男だった。チェロなどを教えてくれる先生と、奇妙な世界を教えてくれる先生。2人の先生に導かれた彼は、彼を捨てた父の予想だにしなかった成長を遂げた。
チェロを教えてくれた先生は、一身上の都合で離れてしまった。だが、もう1人の先生は彼の手を離さなかった。常人の知らない、裏の世界。セカンドインパクトの後、大きく変わった世界でもまだ、人は変わらない。それ故に失われなかったその先生の力は、遠縁であるはずのシンジにも宿っていた。
「術式反転──『赫』」
身を置いてから早10年。先生の指導の賜物か、あるいは本人の才覚か。それはいざ知らず、その役目が薄れつつある呪いの世界でそれなりに少年は名を知られるようになった。
先生ほどではないにしろ、相伝──『無下限呪術』の使い手。多感な思春期にあり、その眼は諦観を滲ませる。子供らしい子供っぽさはないが、中性的な容姿がどことなく色香を感じさせる少年。
「ふぅ、今日はこれで終わりかな?」
碇シンジ。現在最年少の一級呪術師。中学生ではあるものの、その実力は本物だった。
「やっ、お疲れサマンサ〜」
「先生、ちょっと腹立つんでやめてくださいソレ」
上から降り立つ先生──五条サトルは、辺りの様子を見回してから目の前の弟子が仕事終わりだと理解した。
「今日はラーメンでも?」
「何でもいいですよ」
「僕の奢り」
「家系じゃないとヤです」
好きだねぇ、などと笑いつつ、自分と同じ無下限使いの弟子と共にその場を去る。それは少年の父も知らない、少年の居場所だった。
「っ…、父さん…」
自宅のソファーに沈み込んだシンジ。その目の前には端的に「来い」と書かれた手紙。いくつか言伝はあるが、ここを離れて第3新東京市に行かなければならないのだろうか。
また、1人になるのか。
身を這うのは、恐怖。10年経った今だからこそ、失うことが恐ろしい。無下限呪術を必死こいて修行して、それでも領域展開には至れなかったが、無下限における大半のことはできるようになった。
そうやって手に入れた力。居場所。碇シンジという少年にとっての全て。
「シーンジ。どしたの?」
「先生…」
机の上に置かれていた手紙を、目隠し越しにチラ見して。
「な〜るほど。今更呼ばれちゃったのか」
「…ホント、今更だよ」
「……、僕は、行ってもいいと思うよ」
その言葉に、シンジは裏切られたような目を向けた。その目を向けられた五条サトルは目隠しのせいで表情が口元でしか分からない。
「別にシンジを見捨てるわけじゃないさ。結局は自分で決めることだし。でも、ここにいてもこれ以上は変わらない」
「でも、僕はここを捨てたくないです」
涙を湛えた目で、シンジは俯きながらそう吐露する。
五条サトルはその手をシンジの頭に添えた。
「捨てるんじゃない。シンジの居場所が無くなるわけじゃない。君の居場所は確かにここにある」
「それじゃあなんで!」
「…このままじゃ、呪術師の世界は無くなる。僕はもうそれ以外の生き方はできないけれど、君はまだ変われる。居場所なんてものはいくらあってもいいんだ」
「なく…なる……?」
「ああ、無くなる。シンジは知らないだろうけど、あの大災害より前の呪霊は、今よりもっと強かった。呪術界の衰退は著しいのさ」
禪院も、加茂も。そして五条も。それは分かっている。抗うつもりはない。
「だからこそ、だよ。シンジ、新しい居場所が要る。まあ、安心しなよ」
五条サトルは雑に、乱暴にその頭を撫でる。
「どんなことがあろうと、僕はシンジの味方だよ。だから今度は自分の意思で、やりたいことをやっておいで。そのための力は、もう持ってる筈だよ」
最後に、背中を思いっきり叩いた。ぐわ、と悶えるシンジは、五条サトルをひと睨みしてから、深く頭を下げて、自室でドタバタと音を立てて荷物をまとめた。
数分後、一通りの荷物をまとめたシンジは玄関でもう一度頭を下げた。
「じゃあ、行ってきます。先生」
「ああ、いってらっしゃい」
玄関を飛び出して、脇目も振らずに走った。
「あ、たまにそっち行くかもだから、その時は宜しく〜」
「テキトーすぎるんだよ先生は!」
手紙と音楽プレーヤーと少しの荷物と、そして無限。それが、今の碇シンジが抱えるものだった。
五条先生の性格が良すぎる?生徒思いの五条先生ですよこれ()
優しい五条先生は違和感あるか?笑
(続きは多分)ないです。