レポートとか何やら、まるで重石のように。徹夜なんてあったり前よ!
日常回が続く予定。呪いに触れさせなきゃ、この先は正史と同じ結末になりかねないしね!(シンジ除く)
アスカと綾波がやっているのは、呪力を込めた石を割って自らを呪力に晒すことで、呪力を身で体感し、自覚するもの。これは言わば呪術師になるための訓練のようなものである。
シンジも通った道だ。しかし、呪力の扱いに論理などない。すべては感覚に委ねられ、ゆえに教えることなど出来ない。
夜、暇な時間に響く、乾いた音。その度に壁越しから感じる苛立ちは、やはりうまくいっていないのだろうと察せられる。零から──、ではないものの、そのスタートラインは一般人のそれと同じ。シンジと肩を並べるまでに、果たしてどれほど気の遠くなる時間がかかるのか。シンジの描く未来予想図に影がさす。
「……はぁ」
そんなことを考えながら歩くシンジは、ちょうど初号機とのシンクロテストを終えたばかりである。慣れてもやはり違和感の拭えないプラグスーツから、文字通りシンジのユニフォームである制服に着替えて、1人NERV本部の通路を歩いていた。
イヤホンを耳に繋ぎ、聴き慣れたメロディーに浸りながら歩を進めていると、ふとある人物と目があった。
「やぁ」
「げ、君は……」
「そんな顔をしないでくれ。知らない仲って訳じゃないんだから」
渚カヲル。なんの脈絡もなく現れた転入生で、シンジが少し苦手な人物である。真希波・マリ・イラストリアスと揃って、案の定NERVの関係者であったため、そこそこの頻度でその姿を目撃していた。
シンジからすると妙に距離が近く、気味の悪い人物でもあった。
渋々ながら自販機のあるベンチへと赴き、シンジはどかりと腰を下ろした。
「知らない仲の方が良かったよ、僕は」
「それは残念。でもまさか、こんなふうに成長するとは思ってなかったね」
どこか懐かしむような、あるいは何かを望むような。瞳に一瞬映ったそれを、シンジは正確に感じとった。
「で、何の用なの?」
「用がなかったら話しかけちゃダメかな?」
まるで愛しいものを見ているかのごとく、その表情は温和な笑みであった。渚カヲルはまさしくそう思っているのだが、哀しいかな、シンジにとっては気味の悪いものである。
親愛、友愛。あるいはそれ以上か。渚カヲルが向ける感情は、葛城ミサトが向けているものとも違う。要するにシンジは少し当惑していたのだ。
「……はぁ。もういいよ。折角だし、僕から話をするけど」
「うん、構わないよ」
「……」
心底やりづらい。微塵の揺らぎもない好感情が、気味悪さの原因か。
シンジはそんなことを思いつつも、気になっていたことを単刀直入に尋ねた。
「渚カヲル。君はどこから来た?」
「……ふむ、てっきり『なんでここにいるのか』って聞かれると思ったけど」
「NERV本部にいる以上、どうせエヴァ関連だよ。それも十中八九パイロット。言うまでもなく厄ネタだろうさ」
「酷い言い草だなぁ。厄ネタだなんて」
「実際そうでしょ。で、さっさと質問に答えてくれよ」
答えを急かせば、渚カヲルは何か悩む様子である。端正な表情は眉根を寄せたいかにも悩ましげなものになり、うんうん唸るその姿には、シンジでなくても胡散臭さを感じるかもしれない。それが似合うように思えるのは、彼の超然とした美しさが為せるものだろう。
「日本、といったら?」
「ウソだね。完全ではないけど、ウソくらい見抜けるよ」
「うーん、ちょっと今は言いたくないかな」
「……そ。じゃあ今はそれで勘弁してあげる」
無くなった缶コーヒーをゴミ箱に放り捨て、シンジは立ち上がった。
そうして背を向けたまま、シンジは渚カヲルと話を続けた。
「正直な話、僕はまだ君のことを図りかねてる。分からないんだよ、君のことも、君にまつわる僕のことも」
「僕は、君を幸せにするためにここに来たんだよ」
「僕はノーマルだよ。男に言い寄られても困る」
「愛の形はたくさんあるんだよ」
「そうかい」
その言葉に嘘偽りがないことは、シンジにはわかる。しかし、シンジの経験が彼を普通ではないと言い張っているのだ。
柔らかな表情を崩さないまま、渚カヲルは立ち上がった。
「なんにせよ、僕は本気さ。恋愛だとかそんな次元じゃない。君を幸せにするっていうのは、掛け値なしの本気だよ」
「幸せ、ねぇ」
「今の君は、幸せかな?」
遠い目で呟いたシンジを見据えて、渚カヲルはそう問いかけた。
シンジは記憶を辿り、今を見返して、自分がそうなのかを考えた。そうしてふと、影のさす未来予想図のことが頭をよぎった。
現実になれば、どれだけ嬉しい事だろうか。そう思えた、初めての未来。
「──さて、どうだろう。今の僕にはそういうの、分からないや。けど」
「けど?」
「僕が思う幸せってやつのために、僕は進む。そのための力を、僕は持ってるから」
決意。あるいは自身をそうあれかしと定めた、呪い。
きっと眩しく見えるのだろう。しかし渚カヲルは目を背けることなく、その言葉を聞いて、さらに笑みを浮かべた。
「そうか。それが碇シンジなんだね」
「は? 何言ってんのさ。僕は僕だよ。君が君以外の何者でもないのと同じだよ」
「──ああ、そうだったね。よし、シンジ君、ピアノ弾いてみないかい?」
渚カヲルの唐突な楽器の誘いに、シンジは一瞬戸惑いながらも自分の楽器遍歴を思い返す。
そんなシンジの様子を見る渚カヲルは、碇シンジのなにかを知り、そして改めて決めたのだろう。
それは、シンジのものとはまた別の、渚カヲルという人間の意志。より強く、強く心に決めたもの。
──やっぱり僕は、君を幸せにするために生まれたんだ。
「うーん、あいにくと楽器はチェロとギターしか覚えがなくてね。鍵盤系は苦手だ」
「関係ないさ。思うがままに弾けばいい」
「そもそもピアノないじゃん」
「実は──」
その後、なぜかピアノなどの楽器が鎮座する部屋に、シンジは呆然としつつ。漏れ聞こえる音を聞きつけた青葉シゲルが乱入するのは、少し先の話である。
真希波・マリ・イラストリアス。NERV北米支部・ベタニアベースにてエヴァンゲリオン仮設5号機を駆り、使徒一体と相討ちながらも殲滅を果たした実績を持つ、優秀なパイロットである。
飄々としながらも、視野が広く、また頭の回転が早い。つかみどころのない人間であった。
そんな彼女が、碇シンジという少年と出会ったのは、ほんの数週間前の話である。
顔馴染みである碇ゲンドウの子ともなれば、さぞかしスレているのだろうと、
「うーん、あてが外れちゃったなー」
その容姿はゲンドウと似ても似つかなかった。確実に母親似であると分かる。髪を伸ばせばほとんど同じに見え、マリはその姿を一瞬で想像し、あやうく手を伸ばしかけたのを自制した。
彼の母親──碇ユイを笑うなど、マリには出来るはずもなく。
あてが外れたとは、そういう意味でもあった。
「呪術師、かぁ。そんな真っ黒なものに手を染めちゃってたなんて、おねーさんちょっと複雑にゃ」
碇シンジが呪術師と呼ばれる者たちの1人であり、使徒との戦いの情報は当然、マリも知っていた。書類上のデータであり、実際に見たことはないが、相対して感じた雰囲気はやはり、人と呼ぶには少し違和感があった。
「キミなら、ユイさんを助けられるのかな……」
らしからぬ回想。時折建物の屋上から海を眺めて、そんなことを考えるようになった。
例に漏れず訳ありの身。こうして物思いに耽るのも、1人でいるとき。彼女のそれは、他のパイロットとはまた一味違うとはいえ。
「……、ああ、やめやめ。ダウナーになっちゃった」
頭を振り払って、赤い海を見やった。碇シンジと出会ってから、ふと青く見える時がある海は、ただ凪ぐだけで何も言ってはくれない。
しばらく海をながめていると、背後から気配を感じた。
「ん、誰……?」
「なんだ、君か」
碇シンジが、ドアを開けて現れた。見慣れた制服姿で、しかし雰囲気はどこか剣呑としていた。
「……ホントはよろしくないけど、君なら問題ないか。明日には先輩つくだろうし」
「??」
抽象的な独り言は、流石にマリでも理解ができなかった。
だけど、おそらくは。マリが想像した通りだろう。
「『呪い』ってやつかにゃ?」
「その語尾はキャラ付け? 似合わなくもないけど、キッツイんじゃない?」
「うっ、人が割と気にしてなくもないところをグサリと……!」
サラリと褒めと貶しを兼ねて言葉を紡ぐシンジに、マリは畏怖を感じた。
「君の言う通り、その『呪い』を祓う。こっちが僕の本業。訳あって休業してたけど、容赦ないよあの人たちも」
「へぇ。会ってみたかったかも」
「……会わせると僕がとばっちり食らいそうな気がする」
もう胃が痛くなる日々は送りたくない。偽らざる本音であった。
「『闇より出てて闇より黒く、その穢れを禊ぎ祓え』」
シンジが紡ぐのは
上空に現れた黒い塊が、ドーム状に空間を覆い尽くす。マリはそれをかなりはっきりと知覚できていた。
「これ……」
「『帳』。これでこのドームの中で起きていることは、外には分からない。僕ら呪術師には必要不可欠なものだ。ていうか結構視えてるんだね」
「よく分からないけど、ちゃーんと視えるにゃ」
眼鏡をずらして、裸眼で世界を見上げる。呪霊が朧げに視え、世界が異物に侵されたのを理解した。
これが、『呪い』である。
偶然とはいえ、その場に居合わせてしまったのは幸か不幸か。
あまりにも異常な世界に初めて遭遇してもなお、ほとんど動揺しない胆力は賞賛に値するだろう。
しかし、ここでは彼女はあまりにも無力。攻撃手段はもとより、自衛手段すらもない。シンジにとっては『窓』と同じ扱いといえる。
「まあとにかく、そこから動かないこと。いいね?」
「はーい」
なんとも呑気な返事に、シンジはやる気を削がれる気がして肩を落とした。
しかし、それでおざなりにできるような仕事ではない。
『aaaaaaaa!!!』
「準二級って感じかな。ここらじゃ珍しい」
「あれ倒さないと拙いんじゃ」
「それはそうだけどね」
シンジが拳を構え、腰を落とす。もどきではあるが、八極拳に近いスタイル。
シンジは今、黒閃を発現させるために近接をメインにしている。『蒼』も『赫』も、今のシンジの目的やこの場所での戦いにそぐわない。
しかし、無下限は打撃強化もできる術式。呪力による強化を併せれば、その攻撃力は爆発的に高まる。
「そー、らっ!!」
「へ? は、はやっ!?」
暫定準二級の呪霊は、もろに拳を喰らって屋上に叩きつけられた。床にヒビが入り、その威力をものがたる。
マリは目の前からシンジが消えたことに驚き、次いで空中のおぼろな影の後ろに表れたことに驚いた。
叩きつけられた呪霊は即座に立ち上がり、再び空中に飛んだ。それを見上げながら、シンジは一度着地し、再び呪霊のもとへと飛び上がる。
その速度はさながら弾丸のよう。呪霊が手を出すより先に、シンジの拳が顔と思しき場所を打ち抜いた。
「チッ」
空間は歪まない。呪力が黒く光ることもない。得られぬ結果に思わず舌打ちがこぼれ、同時に今日はもう無理だと悟ることになった。
シンジは右の貫手を腹部に突きさし、左手で掌印を組んだ。呪力を制御し、手綱を握り、術式を反転させた。突っ込んだ右手の内で、反転術式が収束する。
「術式反転『赫』」
呪霊内部で『赫』が発動し、赤い光を伴って呪霊が破裂、四散した。
呪霊の破片がボトボトと落下し、霧散した。
「よっ、と」
降って着地したシンジは、呪力の流れがいつもと変わらないことにため息をついた。
「で、呪術師の世界を視ての感想は?」
「…………」
「なるほど、空いた口が塞がらない、と」
「ハッ!?」
エヴァパイロットとして見た世界と比べても殊更異質な世界は、マリから一瞬の間だけ思考力を奪っていた。それは魅入られたというより、唖然としたという言葉が適当だろう。知的な雰囲気を見せる彼女のその姿は、なんとも見応えがあったとシンジは笑った。
「君は、一体……」
「碇シンジ。呪術師、碇シンジだ。真希波・マリ・イラストリアス……だっけ。今見たことは他言無用でね。特に、上の人間には」
呪術師が何かは既にNERVの知るところである。しかし、何ができるかを知られてはいない。理解不可能な現象を起こすという、たったそれだけ。たまに見られている気はするものの、そういう人間は総じて呪いが見えない。
だが、エヴァパイロットだけは話が違う。視えているのは明白で、上に知られればどうなるか分からないのだから、釘を刺す。
モルモットは勘弁、というのがシンジの内心でもあった。
「さて、終わった終わった。ちょうど昼ごはんって感じかな。どこか食べに行く?」
「……、君の奢りなら行ってあげるよ?」
「大丈夫だけど、大食いだったりするの?」
「食べても太らないのにゃ♪」
「ふ〜ん」
「そっちから聞いたのにその反応は流石に傷ついちゃうにゃ」
真上から照らす太陽は、2人に影を作らない。どこか懐かしい感覚にペースが乱されるのを感じながら、マリはシンジの後を追った。
シンジは手持ちの現金を数えながら、まあ大丈夫か、と息を
使徒 in 3号機「出番マダーー?」
カヲル君とマリさんと無理矢理絡ませたかっただけの話。
カヲル君はカヲル君で幸せにしようとするし、マリさんはマリさんで正史よりもシンジをユイさんと重ね気味。
シンジは黒閃まであと少しって感じなのに停滞しててモヤモヤしてる。
アスカと綾波は感覚がよく分からないからモヤモヤしてる。
ゲンドウと冬月は計画が上手くいかないからモヤモヤしてる。
モヤモヤしまくりな世界線ですね()。