七夕、願い事はありますか?シンジ君は、願うようなものがあるなら自分でどうにかするので七夕はスルーイベントです。
それはともかく、七夕だからというわけでもありませんが、今回はこんな話になりました。割と好みが分かれると思うので、予めご理解ください。
最初はこんな話は存在しないはずだったのですが、書いてたらこうなった。なぜ。
でも、エヴァの二次創作でこの系統の話ってあまりないなぁと思ったので。もし作者の解釈違いがあればご指摘ください。一考してみます。
割と原作(新劇)に沿ってるつもりですが、キャラの内面が少しずつ変わっていきます。
誤字報告や感想を書いてくださる方々、いつもありがとうございます。
凍結決定の報せは、ミサトを通してシンジたちにも伝えられた。シンジと綾波にとってはそっかで済むような事項だが、アスカにとってはその限りでは無かった。
「弐号機の人、どうして部屋から出てこないの?」
「……さて、それは自明なんだろうけど。綾波にはそれが分かるくらいには感情を理解してもらいたい、って思うくらいには分かりやすいよ」
「……そう。ならいい」
綾波はアスカの部屋の方へ目を向けながら、シンジとそんな話をした。
ある種の執着があるのを、シンジは初見で理解していた。それが深く深く根を張っていることも。
弐号機という存在、あるいはその唯一のパイロットであることが、アスカのアイデンティティだった。呪いに触れて幾許か、アスカをアスカと呼んでくれる人、認めてくれる人がいて、少し緩んだようにも思えたが、やはり短期間では変わらなかった。
「アスカ。ご飯、出来てるよ」
「……いらない」
シンジは1つ、深いため息をこぼす。そして、手に持ったお盆の上の夕食を、アスカの部屋の前にそっと置いた。
このやり取りは何日目だろうか、とシンジは肩をすくめた。もう4〜5日にはなるだろう。
「初号機の方を凍結した方がよくなかった? 父さん側的には」
そう、実績はともかく、シンクロ率などから見てもエヴァパイロットとして優秀なのは、明らかに綾波とアスカである。特にアスカは知能面においてもその思考ルーチンは既に完成に近く、パイロットとしては綾波よりも優秀だ。
にも関わらず、凍結されたのは弐号機の方。ミサトがその辺りの事情を掻い摘んで教えてくれたとはいえ、それでも上の考えることが分からない。
「おかげでアスカは引きこもるし、そのせいで呪力を練る訓練もできないし。思った以上にメンタル弱かったなぁ」
綾波とシンジは、別ベクトルながらメンタルが非常に強い。その一方で、アスカは見ての通りのメンタルである。支えがあれば強靭だが、その支えを失えば、立ち直るまでに時間がかかる。シンジ的には面倒なタイプであった。
「そして、3号機、ねぇ」
誰が乗るのかすらも分からない、不気味な存在。シンジと綾波は論外として、渚カヲル、真希波・マリ・イラストリアスの2択と思っているが、大穴でアスカとなる可能性もある。そもそもエヴァを3つしか持てないにも関わらず、パイロットは余分にいるという現状が意味不明であるのだ。
「碇君、これ、うまくいってる?」
「……ん」
横から綾波に声をかけられ、そちらへ振り向けば、あの呪骸を抱きかかえた綾波の姿が目に止まった。抱えているものに可愛げがあれば絵になるのになぁ、と考えるのも仕方のないことだろう。
葛城家にはDVDプレーヤーやその類のものがなく、とりあえずは本を読んでその代わりとしている。ぐーすか寝息をかいている呪骸を見る限りでは、割と上手く行っているのではないだろうか。
「上出来。ゼロからやると一周回って上手くいくのかな」
「よく分からないけど、大丈夫ならいい」
綾波のその様子に安堵を覚えつつ、シンジはパラパラと陰を差す電灯の下、かちゃかちゃと皿洗いを続けることにした。
「ここの電気、替え時か……」
無意識に1つ。首をコキ、と鳴らした。
僅かに光が漏れる襖から、洗い物の音がする。食器が擦れる音。スポンジを擦る音。すべてが日常を彩ってくれる。
「………………っ」
それでも、彼女の世界はモノクロだった。色があるのは自分と、その手に握った小さな人形だけ。「ASUKA」を象るヒトガタを、アスカはただ見つめていた。
「結局、あたしはエヴァに乗らなきゃダメなのよ。アスカ」
溢れるように紡がれた、蜘蛛の糸にも似た言葉。今のアスカはきっと、
いや、むしろこちらがアスカの本質なのかもしれなかった。
「…………」
目を閉じて、手に滲む青いナニカ。それは式波・アスカ・ラングレーが見出した、自分の『呪い』である。心に流れる感情に、全く同じ
「こんなモノ……っ」
迷わず手を取り、手にした力。アスカはそれを、本業の人間も目を見張るほどのスピードでモノにし始めていた。
それでも、碇シンジという存在を目にしたせいだ。呪いの世界における天才の1人が目の前にいるせいで、アスカは呪いというアイデンティティを理解できない。
さらに、エヴァパイロットが余剰にいるという現状が、アスカの精神を縄で締め上げるように追い込んでいた。
ふと差し込む月明かりに、部屋を覆う影が祓われた。
同時に、襖が少しだけ開かれた。
「アスカ、まだ食べないの?」
シンジが、流石に洗い物を残したくないと催促してきたのだ。人の心が分からないのではなく、分かっているからこそ、少しの気分転換でもと食べるように言ってきた。
「……いらないって言ってる」
「食べなきゃダメだ。このままじゃいつまで経っても憂鬱なだけさ。それに身体も弱るよ」
「余計なお世話よ、バカシンジ」
「……はぁぁ、全く。ほらアスカ、こっち向いて」
アスカは悪態をつきながらも、そう言われて首だけ振り向いた。
「むぐっ」
「とりあえず食べろ。君が何考えて、沼にハマってるのか知らないけど、せめて出された物は食べてくれ」
むぐむぐと声にならない声を漏らしつつ、冷めかけのご飯を口に突っ込まれる。餌やりのごとく、ただ口に運ばれるご飯を飲み込んでいく。
シンジは小さなため息を溢した。思った以上に堪えている。シンジですらも流石に見ていられない。そんなつもりはなかったが、と心の中で呟いて、
「アスカ。弐号機の話は正直、僕も変に思ってる。君とは別の意味でね。君が弐号機に縋ってるのも分かってるつもりだ。けれど」
「……けれど……?」
月明かりが、より一等に部屋を照らした。
アスカは、シンジの端正な顔を見つめる形になった。
「僕は、君が『式波・アスカ・ラングレー』だって知ってる。それは綾波もだし、ミサトさんもだ」
「っ……!」
シンジが、アスカの目の前で、アスカを真っ直ぐ見据えてそう言った。
──それは紛れもない、蜘蛛の糸であった。
「ほん……と、に?」
「ホントさ。優秀なエヴァパイロットで、未熟な呪術使いで、僕と綾波の友達兼クラスメイト。ほら、当たり前じゃないか。君を君たらしめるものは、こんなにある」
「あ、ああ……っ」
涙が溢れる。
こんなに縋れるものがあって、こんなにもあたしが
無機質な世界に、色がついた。モノクロに、温かさが宿った。
らしくもなくシンジの胸元に縋り付いて、小さな嗚咽を漏らした。
それは少女の産声のような一歩。エヴァの呪いから手を引っ張られる、赤い少女の姿であった。
「弐号機の人、泣いてる」
「っ、うるさいエコヒイキ!!」
そっと襖から覗き見ていた綾波が、アスカの姿をストレートに表現すると、縋っていたシンジの服で涙を拭ってそう言った。
うわ、僕の服が……、とシンジはマイペースに考えていたが、アスカはしばらく考えて綾波にこう言い放った。
「それとエコヒイキ、あたしを『弐号機の人』だなんて呼ばないでちょうだい」
その言葉に綾波は無表情。シンジは少し驚いたような表情で目を向ける。
「あたしは式波・アスカ・ラングレー。アスカって呼びなさい!」
ははっ、とシンジは笑っていた。綾波はパチクリも目を瞬かせた。
「ん、分かった。アスカ。私もレイって呼んで」
「僕もバカって言葉外して呼んでよ」
「じゃあレイ、それとバカシンジで良いわね」
「外さないのかよ……」
久しくなかった雰囲気。もう、式波・アスカ・ラングレーは立ち止まらない。
月がそれを見届けて。雲の後ろへと姿を隠した。
「さて、じゃ、もう自分で食べられるでしょアスカ。ミサトさんがダイニングで潰れてるから、あとよろしく」
「ふん、とーぜんよ! ……、ありがと」
どういたしまして、とシンジは部屋を後にした。
綾波とアスカが残されて、無表情に顔を見合わせて。少しだけ、心が通じ合った気がした。
なお、書いてたらアスカは依存系のツンデレになりそうな予感がした。なぜだ。そしてそれが恋愛とは限らないのが、このシンジ君である。
そして綾波は、シンジの味噌汁にご満悦。少しずつ料理を覚え中。恋愛?分からない。でもポカポカする。これは何?
ミサトさんは言わずもがな。きっと疲れてるんだよ察しろ()。
ナナミンは使徒戦を生き抜いたちっちゃなパン屋で美味しいカスクート見つけてご満悦。いい雰囲気の喫茶店も見つけてさらに上機嫌。
乙骨先輩は物珍しい街の様子に興味津々。しばらくは飽きもせずふらふら歩き回ってる。
『破』章も終盤。頑張らせていただく所存です。