呪術師・碇シンジはエヴァパイロットである   作:けし

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相変わらず心身不調ですが、これを書いてる間は心が落ち着くけしでございます。
碇シンジの領域展開。散々悩んだ挙句こんな感じに。詳細は後書きにて。
感想や評価の方、ありがとうございます。もらうだけでも嬉しいものです。

薄々お気づきの人もいるとは思いますが、シンジ君の愛読書は『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズです。5→4→7→……の順で好き。荒木先生なら二度のインパクトだって生き延びてるはずです()。



弐拾漆. 極致、領域展開

 

 

 ある日、夏油にアスカたちを任せた五条に連れられたシンジは、どことも知らない山奥の空の上にいた。ボコボコにやられたともいう。

 

「いやぁ、強くなったねぇ〜」

「ハァッ、ハァッ、嫌味ですか、コノヤロウ……」

 

 あからさまな力の差。呪術師としての格の差。数少ない特級術師である五条サトルと、最年少の一級術師でしかない碇シンジでは、これほどまでの差がある。

 

「シンジの成長も凄いし、そろそろいけると思うんだけどね」

「いける……? 何がですか?」

 

 ようやく息を整えたシンジが、疑問の視線を向ける。五条のおどけたような仕草は相変わらずで、飄々としているのも変わらない。それでも信じている人間に嘘はつかない。そのあたりの信頼は互いにしていた。しかしそれはそれとして、突拍子もない言葉には驚愕するものだ。

 

「ん? そりゃ決まってるでしょ。()()だよ」

「!? いやいや、そんな一握りの人間(天才)しかできない芸当、僕にはとても」

「シンジも大概自己評価低いよね〜。その辺はユウタとそっくりだ」

 

 そう笑う五条の前で、シンジはあり得ないという顔をしていた。

 領域とはすなわち、()()()()のことに他ならない。術式を付与した生得領域を、莫大な呪力で以って現実に反映する術。だがそれはシンジの言う通り一握りの天才が至る、文字通り呪術の極地である。

 目の前の五条サトルもそこに至った1人であり、噂では夏油もまた、それを修得したと言われている。

 他の術式に対して、無下限呪術は少々特殊だ。六眼が無ければまともには使えず、六眼なしで使えたとしても、それは五条サトルの下位互換でしかない。

 だからこそ、五条サトルはシンジにそれを会得させようとしている。シンジが潰されないためにも。

 

「呪術戦の極致。術式の極致。領域展開と極ノ番。実のところ、無下限呪術に限って言えば、会得するなら極ノ番の方が難しい。なにせ今以上に精密な呪力制御を要求される。でも今のシンジは、きっかけさえあれば領域展開を会得するところまで来てるはずだ」

「はぁ……?」

「いやね、というか無下限呪術の極ノ番ってどうやら失伝しているらしくてね。スグルの術式の極ノ番『うずまき』とそろって、2人で『極ノ番!』ってやってみたいんだけどねぇ」

 

 心底個人的な理由で極ノ番を探していたらしい。シンジは肩の力が抜けて、呆れたような笑いを漏らした。それを見た五条は、頃合い良しとみたのか、真面目な口調で話を切り出した。

 

「いいかいシンジ。呪術師にも成長はあるけど、その伸び方は学力みたいに緩やかなモンじゃ無い」

 

 シンジは別に、死にたがっている人間ではない。死にたくないし、生きようとしている。幼い頃から置かれてきた環境にもまれたからか、多少の狂いはあるかもしれないが、それでも呪術師としてはありふれた死生観の持ち主だ。

 死ぬ時は1人だと、理解している。どんなに仲間と手を繋いでも、協力して立ち向かっても。結局は1人で死ぬ。それが呪術師という人種の宿命だ。だが、生きようとするのならば1人ではないとも理解しているのだ。

 

「シンジはこれまで死ぬほど努力してきた。工夫も小細工もしてきた。それは僕やスグルが、みんなが保証する。才能もある。六眼なしでここまで無下限を使いこなした時点でそれははっきりしてる」

 

 だから、と五条は一つ区切った。

 

「確かな土壌と、一握りの才能は揃ってる。あとはきっかけだ。ささいなものでもなんでもいい。それさえ有れば、君は変われる」

 

 それが畳み込んでくるなら尚更グッドだね! などと口にする五条。

 シンジは自分の掌を見た。ぼろぼろに汚れた、小さな手だった。だがそれでも、掴めるものはある。取りこぼしても掬い取る。──そのために手にした力なのだから。

 

「というわけで、改めて僕の領域を肌で感じて、参考にしてみよっか!」

「はぁ!?」

 

 一瞬でシンジの首根っこを掴み、目隠しを下ろした五条は、にやりといつもの笑みを浮かべた。

 

「領域展開──」

「あんたのやり方が参考になるかぁ!!?」

 

 その真剣で悲痛な叫びは、大地の木々しか聞き届けるものはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──あぁ、やってやるよ。だって僕が、そう決めたんだからな!」

 

 パァン! と勢いよく両手を合わせる。師である五条サトルの掌印を思い浮かべ、それと少しだけ似た形の印を結んだ()の人差し指を、()手で握った。覚悟を()ねて、少し笑いながら自らを律して。

 それは新たな印。他でもないシンジが掴み取った、呪術の極致。

 

「領域展開────」

 

 呪力が空間を覆わんと、初号機と使徒を空間ごと飲み込んでいく。七海と乙骨は心底から祝福するような笑みを浮かべ、一方のマリはいきなりのことに驚いたのか、機体ごと後方へ飛んだ。

 至近距離で発動したのは、展開範囲を可能な範囲で小さくするため。内外で空間の体積が違うとはいえ、発動においては呪力でもって現実空間を侵蝕しなくてはならない。

 復活した初号機とのリンクを辿り増幅したその呪力を存分に利用してもなお、領域展開は凄まじい呪力消費をもたらした。

 空間が閉じ、堆積した世界が開けた。

 赤とも青とも取れない、不定の色。機体の腰ほどの高さの瓦礫がいくつか、まるで浮かんでいるかのように漂っている世界。それはまるで海の中にいるような。明るいわけではないが、しかし互いの存在をはっきりと認識できていた。

 

 

「『無辺識処』」

 

 

 これがシンジの領域──無辺識処。第二天の界の名を冠したその領域が何をもたらすのか、気づけば離れたところにいた初号機へ向けて、使徒は知らぬままに体を動かそうとして──。

 

【────】

 

 動かない。声も出ない。否、動いているはずだ。なぜなら、その感覚があるのだから。

 

「動けないかい? そりゃそうだよ。動けたらびっくりだ」

 

 シンジがそう言うと、初号機はゆっくりと歩みを進め始めた。一歩一歩、使徒へと近づいていく。

 

「ここに在ることができるのは、(こころ)のみ。身体は動かせず、魂の動きに完全に置いていかれる。でも身体がなければ魂は何もできない。動こうとすればするほど、肉体と魂は無限に乖離していく」

 

 ついに使徒(アスカ)の目の前に、初号機が立った。

 術者として領域内の魂を認識できるシンジは、3号機からエクトプラズムのように抜け出ている使徒の本来の姿()を、鋭く睨みつけた。この領域において、魂は肉体の形に引っ張られる。だがその使徒の魂は3号機の形ではなく、しかしシンジは、それをどうでもいいと吐き捨てた。

 

「どんな気分? 動いているのに動いていないってのは。感情のないお前たちは、その矛盾を機械的に処理できるのかな?」

 

 当然のように、シンジは領域内の魂に干渉することもできる。触れないのに触られる。その得体の知れない感覚に、使徒は抗うすべを持たない。

 それにしても、とシンジは安堵した声音で言った。

 

「アスカの魂が見えないところを見ると、()()()()()()()()()()()()()()()ようだね。ほんと、安心したよ。ま、仮にほんの一部だけ残ってたとしても、全身くまなく呪力で洗い流せばお前は死ぬんだけど」

 

 それも全て、アスカが呪力を練り続けたために得られた結果だ。努力の賜物とはまさしくこれであり、式波・アスカ・ラングレーが確かにやり遂げたものだ。

 

「さて、時間がないんだ。お前にはここで、消えてもらうよ」

 

 粘菌の姿が本体。その使徒が、目の前にかざされたシンジの左掌に発生した青いナニカに、引き摺り出されていく。

 

「術式順転『蒼』、最大出力。照準《魂》」

 

 ゾーンの状態に入り最高の集中力を得たシンジは、掌印の省略こそ出来なかったが、澱みのない呪力操作を以って、かつてないほどスムーズに術式を使いこなしていた。

 今のシンジならば、その『蒼』の出力により使徒をすり潰すことも容易だ。さらにはこの領域内において、『蒼』の作用対象の選定も可能にした。

 声も出せず、止まることもできないまま、使徒のみが、なされるがままに引きずり出される。蒼へ向かって引っ張られ、粉々に、鏖にされてゆく。

 そうして感知が出来なくなるまですり潰したシンジは、腹いせとばかりにそれを握り潰した。そして、すでにアスカを残してもぬけの殻となった3号機から、呪力塗れの手で最後の力を振り絞ってエントリープラグを引き摺り出した。手にしたエントリープラグには何も付着しておらず、わずかなアスカの呪力を感じたシンジは、ホッと息をついた。そして同時に、一瞬意識が遠のいたのを感じた。

 

「これで……、限界、だ」

 

 すると、世界に罅が入り、領域が砕けた。隙間から沈む間際の夕日が差し込んできて、シンジはその眩しさに、目を細めた。そしてそのまま、糸が切れた人形のように力を失い、シンジは初号機と共にその動きを止めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それはゾッとするような、嫌な感覚だった。

 3号機の試験起動の日。妙に透け透けな新作プラグスーツを着込んで。バカシンジがいつもやってるようにして腹の底から呪力を生み出す中、乗り込んだ3号機が起動して。

 

 次の瞬間には、私は悪夢の中にいた。

 

 きっととんでもない何かが起きたんだと理解するまでに、そう時間はかからなかった。でも、こんな異常は見たこともなければ、聞いたことすらもなかった。思い当たるものはなかったから、それが余計に恐怖を煽った。

 3号機とのリンクはわずかに残っていたらしく、声は出ないけど、目と耳ははっきりと機能していた。

 それを知って、ふと自分の状態を見た。

 

(ひっ!?)

 

 粘菌が視界中に張り付き、あたしすらも取り込もうと脈動している。幸いにも致命的なラインには至っていないらしい。よく見ると、無意識に練り続けていた呪力が、最後の防衛ラインになっていたようだった。

 この時点で、すでにシンジに助けられている。シンジと出会わなければ、()()()()()()()()()()()()

 身体は動かない。五感は外からの一方通行。呪いを教えてくれる2人の呪術師と、あたしの乗っていた弐号機が、あたしと戦っていた。

 その光景に、あたしは死を覚悟した。だって、この身はもう使徒に取り込まれちゃいそうだから。ダメージもフィードバックされるわけだし、それはもう秒読みになっているはずだった。

 

「…………ぁ」

 

 その時、目の前に現れた光景に、あたしはか細い息を漏らした。

 一際、比べ物にならないくらい大きな、黒い打撃をあたしに与えて。

 

『歯を食いしばれよアスカ。無理矢理にでも、君を引き摺り出す!』

 

 助けて、くれるの……? こんなになってしまったあたしを、アイツは助けて、アスカと呼んでくれるの……? 

 ──涙が、こぼれた。

 悲哀のそれではなく、歓喜のそれに近いものだった気がする。胸が痛くて、ザワついたのを覚えている。

 涙で滲む視界で、動かない手を伸ばそうとして。あたしはそこで、意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある病室で、碇シンジが目を覚ました。

 身体中が重く、わずかに頭痛もするが、大まかには問題ない。外傷は自身に作用する反転術式で粗方治るものであるから、きれいなものである。

 

「僕は、助けた……んだよね」

 

 掌をまじまじと見て、握っては開く。確かに、成し遂げたはずだと。

 黒閃と領域展開。前者は偶然だったのだろう。しかし、だからこそ後者をやり遂げた。

 

「あれが、僕の……」

 

 領域展開。碇シンジの、たった一つの領域。折れかけた心を繋いで、覚悟を貫いて手にしたもの。

 

「やった……っ」

 

 色んな人に助けられたけれど、それでもこの手に残った結果に、珍しく拳を作り、小さく打ち震えた。

 その時、人の気配を外に感じ、慌てて佇まいを取り繕った。

 スッと病室の扉が開いた。

 

「シンジ君!」

「目を覚ましましたか」

「乙骨先輩、七海さん。なんでここに?」

 

 シンジの反応に2人は顔を見合わせて、近くの椅子に座った。

 

「シンジ君、君は3日もの間意識を失っていたんだ」

「3日? ……3日!?」

「外傷に致命的なものはなかったので、精神干渉か、呪力枯渇のどちらかと思われます。とにかく、大事がなくて安心しました」

 

 事務連絡のように淡々と告げる七海。感情豊かに心配したという乙骨とは見事に対象的だが、言葉の端々に安堵の気持ちが感じられた。

 

「さて、ここから本題になりますが」

「シンジ君、領域展開を会得したんだよね!」

 

 再び淡々と告げる七海を遮るように乙骨が割って入ってきて、些か興奮気味にそう言った。シンジはその言葉にいよいよ実感を覚えたが、同時にそれの不完全さも理解した。

 

「すごい、すごいよ! 僕もまだまだなのに! 先越されちゃったぁ!」

「ちょ、乙骨先輩」

「落ち着いてください乙骨君。話が進みません」

 

 うっ、と申し訳なさげに分かりやすく凹むその様に、シンジはぷっと吹き出し、七海はやはりあの人の教え子ですね……とため息をついていた。

 そうして一頻り笑った後、病院特有の消毒液の匂いを間に挟んで、七海が話を進めていく。

 

「ひとまず、おめでとうございますと言っておきましょう。私が至らなかった極致です。その年でそこに至ったのは、君の成した成果と言えるでしょう」

「……ありがとうございます」

 

 あの七海からの素直な賞賛に、すこし照れ臭そうに礼を返したシンジだが、直後にコツンと頭を叩かれた。

 

「ですが、それと説教は別です」

 

 七海の目は本気である。ガミガミではなく正論で理屈攻めにしてくるタイプであるから、心にクるというのはシンジの弁である。

 一通りの説教を受け、グロッキー気味のシンジだが、これも自業自得だと受け入れた。色々と言いたいことはあったし、仕方ないと思わなくもないが、それはそれ、である。

 

「というか、説教が本題なんですか?」

 

 わざわざそう言ったのだから、何かあると思ってシンジが尋ねると、七海はメガネの位置を直しながら、その本題について話を始めた。

 

「本題は、君の立場です」

 

 シンジは、目を逸らしたりはしなかった。衰退する呪術界において、派閥争いなどする意味はないのだが、呪術界上層部は未だ過去の栄光に縋っている。政府とのパイプもおさえたままだ。そんな中、強力な術師はその大半が『最強』の一角たる五条サトルの側にいる。

 

「黒閃を経験し、さらには領域展開すらモノにした君を、放っておくなどあり得ません。まだ報告はしていませんが、目をつけられるのもそう遠くありません。五条さんという強力なバックがいても、です」

 

 七海は一旦そこで話を切った。チラリと乙骨を見ると、やははと苦笑いをしていた。乙骨はどちらかと言えば厄ネタの爆弾扱いをされていた身だが、紆余曲折あってそれを克服、最強格の特級術師として活動するほどになった。

 シンジと乙骨は、色々と似たところがある。五条も夏油も、七海もそれは知っていた。急激に頭角を表すということは、保身を図る身としては恐ろしいことこの上ない。ましてや目の上のたんこぶのような五条サトルの側の術師である。

 

「当然、五条さんは君たちを全力で守るでしょう。それは私も灰原も、夏油さんも同じです」

 

 そう言って告げられたのは、昇格意思の確認だった。もしそれができるなら、という仮定の上でだが。

 シンジは少し考えて、辞退の意を示した。

 

「いいんですか?」

「僕の実力は、まだまだ七海さんにだって及びませんよ。領域展開だって、今の僕だと5秒と維持できるかどうか。それに、身の丈に合いませんし」

「……分かりました。とりあえず五条さんには今回の件も含めてそう伝えておきます」

 

 特級術師、という肩書きは、今のシンジには重すぎるらしい。そもそも知る限りの特級術師はみなバケモノじみた強さである。シンジはそこに自分が並ぶイメージが浮かばなかった。

 

「さて、その調子だと明日にでも退院できるでしょう。私たちは報告のために一度高専に戻ります。まあ、楽しめた休暇でしたよ」

「ははは……、まあ色々ありましたからね。リカちゃんも久々に動けて喜んでますよ」

 

 シンジも、2人と共に肩の力を抜いた。しかし、2人が病室を出る間際に、こんな言葉を残していった。

 

「そういえば碇君、式波さんについてですが」

「っ、アスカは無事なんですか!?」

「と、とりあえず命に別状はないって。ただ……」

「ただ……?」

 

 乙骨の少し意味深な間に、嫌な想像が脳裏をかすめる。

 

「まだ意識を取り戻せてません。加えて、使徒とやらの影響を考慮して、現在隔離状態で経過観察中とのことです。私たちにはそのくらいしか知らされていません」

 

 乙骨の言葉を引き継いだ七海が、やはり淡々と告げるその言葉に、シンジは安堵と不安が同居するため息をついた。

 

「分かりました……」

「では、これで」

「またね、シンジ君」

 

 そうして病室を辞した七海と乙骨。だが七海は、閉められた病室のドアのすぐ外で立ち止まった。

 

「……七海さん?」

 

 乙骨がそう言いながら振り返ると、七海は力無く、しかしなにかを悟ったような眼差しで上を見ていた。

 

「私は、大人は君や碇君のような子供を優先し、守るべきだと考えています」

「七海さんの、いつもの考えですよね」

 

 そこそこ七海との付き合いの長い人間なら知っている、頑なな七海のスタンスだ。

 

「そして、君や碇君のような子供は、私のような大人になどなってほしくないと思います」

 

 七海の考えは至極正しいと思うのに、ゆえに七海の言葉に乙骨は首を傾げた。

 七海はNERVの人間(大人)が、シンジやアスカに求めていることを目の当たりにして、ひどく苛立ってしまったのだ。

 

「なんでですか?」

「大人なんて、クソだからですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 NERVの人間は、その光景に理解が及ばなかった。

 

「またしても、呪術師というやつか……」

 

 そしてその光景は、以前に見たものと同質のものであることを、誰もが感じていた。使徒の反応は消え去り、戦いの終わりを告げていた。

 突然空間が歪んだかのような現象の直後、薄れていくようにその姿を消した。同時にアンビリカルケーブルが切れ、カウントダウンが始まった。しかし初号機と使徒の反応は忽然と消え失せていた。

 

「一体、何が……」

 

 オペレーターも困惑に染まる。リツコやミサトがいたとしても同じだったことは、想像に難くないだろう。

 呪いは、科学の手にない。観測も何も彼らには出来ない。二度、見守ることしかできなかった。

 だがそれから1分と経たずに、初号機と使徒の姿が戻ってきた。

 オペレーターは使徒の反応が消失していることに気付き、その直後、膝をついていた初号機の手に、3号機に搭載されていたはずのエントリープラグが握られているのを確認した。

 

「3号機パイロットのバイタルを確認! ……生きてます!!」

 

 ワッ、と盛り上がる司令室。生存を諦めていた分、その喜びはひとしおというものだろう。

 しかしその傍らで、上からその光景を見ていた人間は。

 

「碇……、これではもう……」

 

 シンジは絶望を知りながら立ち上がり、あまつさえ結果すらも掴み取った。

 

「……っ」

 

 冬月の言葉の意味を、碇ゲンドウは正確に理解していた。彼らの計画はもはや、致命的な破綻の寸前であるのだ。そしてその破綻の原因は、計画の中核である初号機とそのパイロットであるのだから、尚更たちが悪いと言わざるを得なかった。

 しかしそれでも、立ち止まることなど出来ない。

 

「私はもう、止まれない。分かっているだろう、冬月」

「ああ……」

 

 綿密な過程は、自身が人間性とともに捨てた子によって壊されようとしている。シンジから全てを奪っても、全てを取り返そうとするだろう。もはやシンジは、それほどの壁となっていた。

 

「懐柔も排除も出来ないのなら、その時まで拘束しておくしかあるまい」

「可能なのか、それは……」

 

 陰湿な大人の悪意は、守るべきであるはずの子供を飲み込もうとしている。

 冬月が垣間見た酷薄な笑みは、もはや人のそれと同じには見えなくなっていた。

 

 

 

 

 

 




ナナミンたちは一旦退場。まあ出番はあると思う。

領域展開『無辺識処』
効果は本編に書いてある通りだが、実際は領域内に入った時点で肉体と魂は無限に乖離している。というかそれが必中効果。領域内では乖離した肉体と魂にも同じ時間が流れていて、肉体と魂が揃って一切の動きをしなければ、領域解除後も数秒で復活する。分かりにくいが、要するに領域内で肉体が蓄積した情報(=動かなかったという情報)と、魂が蓄積した情報(=歩いたり、動かしたりしたという情報)の差異の大きさが、領域外での行動不能の原因となる。
魂への一方的な知覚や干渉も可能となるが、相手によっては干渉が困難になる場合もある。
掌印はいわゆる『智拳印』である。
名称の由来は、無色界第二天『識無辺処』から。

なんか真人みたいなことし出したぞこの主人公。


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