呪術師・碇シンジはエヴァパイロットである   作:けし

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今作のシンジ君は戦闘面では強メンタル。エヴァの楽しみの一つであるチルドレンの心の揺れが、このシンジ君には起きにくいんです(起きないとは言ってない)。

それはそれとして、シンジ君に無下限はやりすぎたかなぁ?()


『序』章
弐. 血縁の父、紫苑の福音


「来ないじゃん…」

 

 常夏の季節が延々と続く。慣れはあるけれど、待ち続けるのは辛いものがある。携帯を持たないシンジは、近くの公衆電話に駆け寄り、手紙の中の電話番号にコールをしたものの。

 

「繋がらない……」

 

『特別非常事態宣言のため……』云々。何かヤバいことが起きてるのだろうと察せはするものの、その危機感は感じられない。妙にがらんどうな街並みにポツリと佇むシンジは、公衆電話ボックスを出て、手慰みとばかりに自身の呪力を弄ぶが、飽きが来るのも早かった。普段から付けているサングラスを弄るのも、もう飽きていた。

 父親からの手紙に同封されていた、恐らくは女性と思われる人物の手紙。曰く『迎えに行くから待っててネ』と書かれたそれは、この辺りで待ってればいいことを示してはいたが。

 

「先生よりも酷い遅刻癖かぁ…」

 

 五条サトルは責めるでもない微妙なラインの遅刻をするが、この手紙の贈り主──葛城ミサトなる人物は、なんとなくだが生活から適当そうな気がしてならなかった。

 そんな時耳に届いたのは、爆発音だった。それも人間がその手で扱えるものではなく、戦術兵器レベルの代物か。

 

「っ…、これって…」

 

 シンジは知るはずもないが、落下してきたのはVTOLだった。カタパルトによる加速なしに、垂直方向で離着陸が可能な機体だが、見るも無惨に破壊されていた。電柱は倒れ、車は潰され。

 

「? …なんだよ、あれ…」

 

 ビルの隙間から見えた、黒い何か。呪霊との戦いにより研ぎ澄まされたシンジの五感は、間違えようもなくそれを捉えた。

 断片的だが、それは敵だと分かる。断片的だが、それはあまりにも巨大だと分かった。

 即、シンジは判断した。勝てないと理解した。今の自分では勝てない。

 そうして飛来する破片から身を守る最中に。

 

「ゴメーン、お待たせ!」

 

 突然降って湧いた女の声に、シンジは顔を上げた。

 

「あなたが碇シンジ君ね? …サングラス? 割と似てるわね」

「とにかくここから離れましょう!」

「わーってるちゅーの!」

 

 出会って5秒で発進、最高記録更新。補助監督なら少し慌ててただろうかと、やはり過去に想いを馳せる。

 一方運転手の葛城ミサトは、そんなシンジの様子を見つつ、アクセルベタ踏みで逃げおおせていた。

 なんとか戦闘領域から離れられたミサトたちは、双眼鏡で覗いた山越しにキラリと光るのを捉えて。

 

「まさかっ! シンジ君伏せて!」

「ぇ」

 

 瞬間襲った衝撃波は、車ごとシンジたちを煽り、シンジとミサトは痛い目に遭うことになった。

 

「ペッ、口の中砂だらけ…」

「あーあ、N2地雷使うなんて…。地図書き直しだわこりゃ」

 

 サングラスのおかげで目は痛くないが、さんざん打ちつけた身体の痛みは治らない。特級呪霊を相手取らされた時の痛みに比べれば痛痒だが、痛いものは痛いのだ。

 その後、横転した車をシンジが呪力で強化した蹴りで強引に元に戻し、なんとかエンジンを回して、目的地にたどり着いた。

 蹴りを入れた時のミサトの目の剥きようは、シンジが驚くほどだったとか。

 

「さーて、改めて自己紹介よ。私は葛城ミサト、よろしくね」

「碇シンジです」

 

 ハイテンション気味な自己紹介に押されながらも自己紹介を済ませ、車ごとエレベーターで降りていく。曰くNERV(ネルフ)本部に来たらしいが、車を降り、歩くこといくら経っただろうか。

 シンジは溜息をついた。

 

「ミサトさん、地図は」

「うーん、あと少しで着くはずなのよ」

「…はぁ」

 

 この手の馬鹿はあまり言うことを聞かないのは、シンジの経験上あからさまだった。

 内心馬鹿扱いされてることを知らないミサトは、迷いに迷いつつ、結局電話で案内されることになった。

 

「初めからこうしてればよかったんじゃ…」

「うっ…。け、結果オーライってやつよ」

「ま、その通りですけどね」

 

 なんかみょーに大人びてるわね、とはミサトの心中である。まさか目の前の少年が、10年間を呪いとの戦いに費やしたとは思うまい。

 

「そのサングラスは、父親の真似?」

「…、いや、対策というか、習慣みたいなものです。父さんは関係ありません」

「ふーん、そ」

 

 呪霊対策とは言えるはずもなく、テキトーにはぐらかすシンジ。大した意味は無かったのか、あっさり流すミサト。

 どうやらこの近辺に呪霊はいないらしい。シンジはサングラスを外し、着ていた制服の胸ポケットにしまった。

 そうして迎えに来たという同僚らしい女の博士、赤木リツコさんというらしい女性と共に、目的地へと向かう。

 たどり着いたのは、真っ暗な部屋。

 

「何もないですけど」

「今明かりをつけるわ」

 

 ブゥゥン…という、機械作動音。天井からぶら下がる無機質な蛍光灯に照らされた。シンジは自分がいるのが橋の上であり、ようやく自分のいる場所が理解できた。

 

「ロボット……?」

「見た目はね。汎用人型決戦兵器・人造人間エヴァンゲリオン。これはその初号機よ」

「はぁ…」

 

 サブカルチャーに触れる機会など無かったからか、シンジは妙に関心が薄かった。だが、シンジはうっすらながらここに呼ばれた目的を理解できた。

 

「乗れ、と」

「あら、物分かりがいいわね」

「まあ…」

 

 目の前の、紫の巨人。近未来的なカラーリング。ほぼ黒一色な呪術界と違うのがいやでも分かる。敵はおそらく地上にいる黒いデカブツだ。スケールが同じになったらば、いくらか勝ち目はあるだろうか。呪術が使えればいいのだが、使えれば怪しまれることは必至。残念ながら使わずの戦闘が求められる。

 武器とかあるのだろうか。剣ならまだしも、銃の類は扱えないだろう。

 考え込んだシンジに、ふと影がさす。

 

『…何をしている』

 

 シンジが見上げると、VIP席じみた窓ガラスの奥から男の声がふってくる。幼い記憶が、この声の正体を知っていた。

 

「父さん…」

 

 碇ゲンドウ。自分を捨てた男。シンジの中での父親とはそういう扱いだった。だが憎むほどではなく、また無力ではない少年の中では、愛を乞う対象ではなかった。

 

『久しぶりだな、シンジ』

「10年ぶりくらいかな? いきなり呼び出しておいて、何の用なのさ」

『…出撃』

「や、人の話聞けよ。ていうかせめてチュートリアルくらいはやって」

 

 尤もなことだが、ゲンドウは何も返さない。横に立つ冬月コウゾウはその表情の意味を理解したからか、苦笑を漏らす。

 

『もういい、レイを起こせ』

「や、誰だよ」

 

 ドアが開き、ストレッチャーに乗せられて女の子が運ばれてきた。薄い水色の髪、病的に白い肌。レイ、というのはこの子だろう。へんてこな服をきて、あちこちに怪我を負っているのを見て、思わず眉根が寄る。

 

「この子がこのエヴァなんちゃらってのに乗るの?」

『そうだ。お前が乗らないのなら、その代わりだ』

「この子が動かせるなら、僕いらないじゃん。なんで僕を呼んだのさ」

『……』

 

 呆れたようなシンジの声だけが残響する中、大きな揺れが地下を襲う。

 その揺れで上の蛍光灯が落下し、シンジの近くに落下した。だがシンジはそれに驚くことはなく、父を睨んでいた。

 ゲンドウは何も言わない。シンジは何度目かもわからない溜息をついた。

 

「…分かった。乗るよ。乗れば分かるんでしょ? 父さん」

『…………。ならば良い。詳しいことは赤木博士に聞け』

 

 赤木リツコと葛城ミサトは、その言葉にようやく準備をしだす。

 

「このエヴァなんちゃらっての、武器とかあるんですか?」

「エヴァンゲリオンよ。武器は肩部にナイフ、地上に銃火器があるわ。けど基本は手足で近接戦ね」

「ふーん。操作方法は?」

「イメージを反映するの。あなたのイメージが、そのままエヴァの行動になる。特殊な操作は必要ないわ」

 

 そこまで聞いてあっさりと頷いたシンジは、さっさと終わらせよ、などと言ってエントリープラグに乗り込んだ。

 

「さっさとって、シンジ君、怖いとか思わないの?」

「…それこそ、今更ですよ。ミサトさん」

 

そういったシンジの声は、恐ろしいほどに無感情だった。

 

 

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