やったぞシャムシエル君!!もう不遇とは言わせない!!
雑な仕上がりなのはいつものことよ。うむ()
やっぱこのシンジ君、強えわ。
赤い外殻を纏った使徒の構造は昆虫のそれと似ている。目のついた頭部、腕が生えている胸部、そこから少しだけ括れて伸びる腹部。最重要機関であるコアは、頭部と胸部の境目あたりに居座っている。
プログナイフを構えたシンジは、その攻撃手段が触手のみであると仮定した。2本増えて4本。光の鞭の体を成しているそれを掻い潜ってコアを破壊するのが今回の戦いのあらすじである。
「──戦闘開始」
A.T.フィールドを展開。正面に一つ、2時と10時の方向に一つずつ。シンジは万全のうちの突進を選んだ。腰ダメの構えが前傾姿勢へと移り、その脚が地面を蹴った。
使徒は鞭を振り回し、初号機の接近を拒もうとした。その鞭は殴打武器ではなく、もはや斬撃武器としかいいようのない切れ味を誇る。分厚いビルを豆腐のように簡単に切り落とすのだ。
だがそれでもA.T.フィールドを崩すことはできない。そもそも初号機が発するA.T.フィールドは使徒や他のエヴァが使うそれとは大きく異なる。A.T.フィールドの表面には、シンジのイメージから勝手に展開された無限が膜を張っているのだ。オートの選別はできず、シンジは初号機を操作する上で物理的実体を持つものを無限に絡めるようにしている。その他の衝撃はA.T.フィールド任せである。
その結果、使徒の光鞭はその力をA.T.フィールドに阻まれ、鞭そのものは無限に捕まり初号機に触れられないという状況が起こっていた。
「今っ!」
初号機はそのまま突貫し、一気に懐へと潜り込む。プログナイフを下から上へ。身体ごと大きく突き上げた。
使徒とてそれを易々と許すはずもない。プログナイフがどれほど鋭利なものであろうと、ただの武器ではA.T.フィールドは貫けない。
「っ、かったいなぁっ!」
コアへの攻撃を見事に阻まれた初号機は、使徒を押して突き放し、また距離を取るために飛んで下がった。使徒はその瞬間生まれた僅かな隙に、光鞭を振り回して初号機の足に絡ませた。
「しまっ、」
シンジは、使徒が声にならない叫びを上げたようにも感じた。力の限り振り回された触手は、その先に繋がった初号機を地面へ叩きつけた。無機の大地は捲れ上がり、轟音が鳴り響く。
「ぐぅ……」
ダメージフィードバックが、シンジに苦痛を齎す。呪力による強化でいくらか頑丈になっているとはいえ、初号機のスケールでのダメージは人間の比ではない。シンジの視界が弾け、目の前が一瞬白く染まった。
少しイラついたシンジは、呪術の使用を解禁しようとした。
「やって、くれた、な……っ!」
絡み付いたままの触手が再び初号機を振り回す。幾度も叩きつけられ、最後には見知らぬ山に背中から振り落とされた。
「こ、のぉ」
初号機は全高50メートル近い巨体で、腕部も相応に長く作られている。そんな長さの先、ふとシンジが目を向ける。
「っ、ちょ、ミサトさん!?」
『どうしたの!?』
「なんでこんなとこに人いるんですか!?」
『はあっ!!?』
シンジの見る先には、なんか見覚えのある顔が2つ。目の前の光景に怯えたのか、恐怖の乗った視線を向けた子供。
『ちょ、保安部は何してるのよ!!?』
ミサトは杜撰な警備体制に苛立ちを隠さず、しかし地上にこれ以上生身の人間を増やすこともできない現状に歯噛みした。
シンジは別にどうでもいいことだと思ったが、流石にここで死なれては目覚めが悪いと感じた。さらに、一般人がいるのでは下手に呪術を使えば余波に巻き込まれかねない。シンジは思わず舌打ちをした。
『そこの2人! 今すぐシェルターに引き返せ!』
シンジはスピーカーで2人にそう促したが、立ちあがろうともしない。このタイミングで腰が抜けてしまったとみた。
「ああもう! なんでこうなるんだよっ!」
ガシガシと頭を掻き、シンジは思わずそう叫ぶ。
一方の司令室では、ミサトも流石に人命無視を考えるわけには行かず、額に汗を滲ませつつ必死に頭を回していた。そんな折、司令官である碇ゲンドウが命令を発した。
「戦闘続行だ」
「碇司令!?」
「彼らがやったことだ、君たちに非はない」
「ぐっ…」
一理どころではない正論である。ミサトも何も言い返せず、司令室は沈黙に包まれた。
『父さんの言うことは分かるけど、それだと後味が悪いんだ』
「使徒殲滅が最優先だぞ、パイロット」
『それは
「そうだ。使徒を倒しさえすればいい。パイロットはそれだけを考えればいい」
『……言質はとったよ』
その言葉を待っていたと言わんばかりに、シンジは続いてミサトへ話を向けた。
『ミサトさん、彼らをエントリープラグ内に保護します。シンクロできないでしょうから、操縦に影響はないはずです』
「シンジくん、あなた本気で言ってるの?」
その言葉はリツコからのものだった。
科学者として、エヴァンゲリオンという装置をよく知る者としての異である。余計な異物は、たとえシンクロできずとも未知の影響を及ぼしかねない。エヴァの中でも特別な存在である初号機ならなおさらである。
『本気ですよ。それともこのまま庇って、倒されるのをご所望ですか?』
「そんなことはないわ。でも」
『四の五の言ってる暇はないんです。これ以上は時間の無駄だ』
そう吐き捨てたシンジはコクピット内からの操作でエントリープラグを開放し、外の2人を迎え入れた。
満たされたL.C.L.に溺れそうになりつつも、なんとか諌めて適応してもらうことに成功し、コクピットの背後にいるように指示した。カメラの事ばっかり気にしてたメガネに、カメラ叩き壊そうかと思ったのはシンジの中だけの秘密である。
「さて、あまり時間もない。出し惜しみは無しにしようかな」
「転校生、自分何する気や?」
「ちょっとした手品。ここで見たことは忘れてくれると有り難いんだけど」
「……ごくり」
「……インパクトが大きすぎて忘れようがない、か。ま、口外しなければいいよ」
「お、おお」
──鈴原トウジ、だったっけ。結構肝据わってるなぁ。
シンジはそう思いながら、レバーから右手を離し、人差し指と中指を揃えて立てた。同時に初号機も同じ構えを取る。
およそ数百メートル先に佇む使徒は、蠢く触手をこちらへ向けていた。
「ふぅ……」
初号機はほんの数歩だけ歩いて、シンジの術式の射程に使徒を捉える。そうして組んだのは掌印。シンジはまだそれを省略できるほどに熟達しているわけではなかったし、五条サトルほどの才能があるわけではなかった。とは言え、片手でそれを成している時点で十分ではある。そもそも
呪力が巡る。初号機の異常なまでの親和性は、シンジの呪力と術式のスケールを対使徒戦に堪えうるまでに引き上げる。
さらにシンジの使う術式は、同じ術式を持つ五条サトルのそれとは異なる変化をしていた。
「術式順転──」
掌印の先を使徒へ向ける。それは初号機に搭乗して初となる術式使用だ。そして初号機を介した術式使用は、通常とは異なるある変化を遂げていた。
「──『蒼』」
指先に集う呪力は無下限呪術の純粋な強化形態。収束する無限級数が、指先の呪力へと向かう。それは現実にて吸い込み現象として反映される。その出力は素のままでも莫大であり、シンジの呪力でも大地を抉り取る出力は保障できるほどだ。それがエヴァスケールとなると最早天災と言えるだろう。
使徒は唐突な力に反応が遅れ、浮遊してるゆえに踏ん張ることもできずに初号機の下へと吹き飛んでくる。だが使徒の浮遊機構はこの引力に逆らおうとしている。にも関わらず簡単に初号機に引き寄せられるのは強力過ぎる術式効果と、さらに術式発動と同時に使徒の背後に現れたA.T.フィールドが原因だ。
『使徒、初号機に接近します!』
『シンジ君!!』
「分かってますってば!!」
左手に持ち替えていたプログナイフが、その鋒を赤いコアへと向けた。
その間にも周囲のビルは一切揺れない。これがシンジの持つ術式の特異性──指向性の付与。
シンジは無下限術式のその余りの威力を制御しきれていない。ならばと五条が考案した方法が、その威力の方向を一点に絞るようにするというものだった。
その結果、シンジは無下限を六眼なしでもある程度まで使いこなせるようになったのだ。
「ぐっ、」
シンジは大量の呪力消費に歯を食いしばった。シンジの持つほぼ全ての呪力を費やしているのだ。『蒼』は『赫』と違い継続的に発動することで吸い込みを続ける。シンジにとって、『蒼』の維持は中々にキツいのだ。
「くたばりやがれ!!」
振り上げたナイフが、深紅のコアを貫いた。A.T.フィールドとの拮抗はほんの数秒。使徒は抗えない力に対して抗い続け、そして敗れた。
コアからナイフを引き抜き、一歩下がる。
「っ、」
「わ、まぶっ!?」
「わあっ!?」
目を焼かんばかりの眩い十字の閃光。コクピットの3人が揃って目を閉じた。それからすぐに、使徒の身体が赤い液体へと変換された。同時に初号機が活動限界に到達し、目から光が失われた。
『使徒、殲滅を確認しました!』
『よくやったわ、シンジ君!』
その賛美は電源の切れた初号機に届くはずもない。シンジは大きく息を吐き、呼吸を整えることに尽くした。
「はぁぁ」
──疲れた。ホント、疲れた。
こうして知られざる呪われた福音は、使徒を打ち倒した。
こんなのシンジ君じゃない!……と思う方。固定概念を払い除けて見てみましょう。これがシンジ君に見えますよ()
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誤字報告有り難うございます。調べましたところ、今回の場合は「堪」で問題ないようです。重ね重ね、報告ありがとうございます。