その人は私の出した求人を受けて
外来人向けの日雇いの求人で来たのだから一定の知識量が約束されているだろうから本を傷付けないように注意して早速本棚の掃除と整頓をお願いした。
「え、いきなりですか? …まぁ構いませんけど」
初対面の印象としては不健康そうな顔色の優男と言った感じだ。睡眠不足か何かは分からないけど目の下に隈は出来てるし肌は青白く見える。慧音先生が連れてきたけどあんまり期待できないかな、と思っていたけど思いの外手際良く作業していた。
「慧音先生、あの人ってどんな人なんですか?」
「ん? あぁ、誠実…とはさっき会ったばかりだから言いにくいが貸し借りの清算はきっちりしようとするしっかりとした人だぞ」
「へー……」
灰色のよれよれの服……多分外の世界のファッション雑誌に載っていたスーツという物に身を纏い、死んだ目で本を黙々と片付ける彼を見ながら頬杖をつく。
確か名前は望歩と言ったっけ、背の高さはそこそこあるから上の方まで掃除してくれているし、あのペースなら今日中に全部終わりそうだから明日用の給料も含めて渡してしまおうかな。
「おい、人に手伝わせておいて何リラックスしているんだ」
「あ、はは…ごめんなさい!」
「まったく……」
慧音先生の言う通りなので自分も黙々と作業を進める。
今木版を作っている本は地底に住んでいる古明地さとりと言う妖怪が書いた本らしい。らしいというのは持ってきた人物が言っていただけで信ぴょう性のはないのだけど……本から漂う妖気のようなものからこれはもう妖魔本で間違い無いと確信して殆ど反射的に仕事を受けていた。幸いにもページ数が少なく期限もほぼ無制限だというのだから今ある写本の仕事と並行して事を進めれると考えていた。
……その目算がかなり甘かったから今こうなっている訳だけど。
まぁ、これを持ち込んだ人物が料金代わりに置いていった宝石が幾つかあるので今度魔理沙さんが来た時にでも売りつけてやろうと考えている。それに作った木版も幾つか刷った後買い取ってもらえることに成っているのでこれが終わればまたゆっくりと本を読む生活に戻れるだろうという考えもある。
お母さんが居たらここまで大変にはならなかっただろうけど……今代わりに来てくれている彼を見る。
あ、またせき込んだ。
――――――――――
「あのー大体は終わったんですけど……」
あれからまた少し掘り進めているといつの間にか近くまで来ていた外来人の望歩さんが傍に立っていた。
じーっと木を見つめて集中していたからか目が痛い……
「大分疲れてるみたいですし…休憩しません?」
「あ、うん……そうだよね、休憩しないと……」
彫っていた木版から手を放して椅子にもたれこむ。
ここ最近ずっと彫ったり書いたりで眠気も来てるし……
「うん? あぁ、休憩か……んーー!」
慧音先生が休憩すると聞いて背伸びをする。すると同時に存在感あふれる二つの山が激しく自己主張していた。
女性の自分でも目が行くようなソレは目に毒だろうと視線を望歩さんに向ける、だけどその視線は私たちが作業していた木版や写本に向けられていて何かを考えているようだった。不思議に思っていると彼が作りかけの木版を指さし口を開く。
「本居さん? だっけ」
「あ、そうですけど…小鈴でいいですよ。望歩さんの方が年上ですし」
そういえば挨拶も一瞬でその後直ぐに仕事に移ってもらったからね、慧音先生も同伴だったから完全に浮かれてしまってたわね。
「じゃあ小鈴ちゃん」
急に馴れ馴れしくなりましたね……
「素人目から見ても仕事量が多すぎて手が回ってない様に見えるんだけど……いつもこんな感じなの?」
ドキっと嫌な事を突かれたのをできるだけ隠しながら答える。
「いやぁ……普段はそんなことないんですけどね? 写本の依頼とか滅多に来ませんし、来たとしても予約制ですから」
「そういえばそうだったな……しかもかなり期間がかかるからそれに付きっきりになる分他の写本とバッティングするなんてありえるのか?」
「いや無いでしょう。個人営業……それに委託とかも無いんでしょう? なら狙ってやったとしか……」
うん…これは隠しきれないかなぁ…? 慧音先生にはもう手伝ってもらってるしもう白状しちゃおうかな……
「やるとしたら経営がギリギリでやむを得ないとかですかね?」
「なんだと!? 鈴奈庵はそんなに切羽詰まっているのか?」
あぁ…話が変な方向に転がっていく……もう言っちゃえ!
「…………写した本はそのまま持ってていいって言われたから……希少な本でこんな機会二度とないし、それが二つ同時に来て……」
私の残念過ぎるカミングアウト……慧音先生が頭を落としてうなだれている。何だか乾いた笑いが漏れる……
「おいおい……それに私が巻き込まれたのか……」
望歩さんは……呆れてる? ちょっとわからない表情で私を見てる。それが何だか無性に責められているように見えて思わず反論してしまう。
「だってだってぇ! この木版で今刷ってるやつとか地底の妖怪が書いたここだけにしかない希少な本だって言うんですよ!?」
「地底の妖怪が?」
「妖怪の書いた本?」
これにはびっくりしたみたいで二人とも驚きの表情を浮かべている。けれど望歩さんの方はすぐに表情が疑いに変わっていく。
「妖怪の書いた本ねぇ~」
「あっ! 本物か疑ってるんですか!?」
「いやいや! そんなことないよ! ただ僕は妖怪の書いた本とか見たことなくてね……どんな人が持ってきたんだい? やっぱり妖怪らしく小豆洗いとか河童とかかい?」
どんな人が持ってきたか…? あれ…どうだったっけ……
「うーん、なんだか姿がぼんやりしててあんまり覚えてないんですけど……緑色の髪をした大きな帽子をつけた女の子だったような……」
あれ、なんでこれくらいしか覚えてないんだろう……こんな貴重な本を持ち込んでくれたお客様の事なのに。
「ふぅん……あ、作者の名前だけ見せてよ」
「あ、それは私も知りたい。一体誰が書いたかによっては博麗の巫女を呼ぶ必要があるかもしれない」
「え!? そんな大層な事にはなりませんよ! 名前なら…ほら、ここに『古明地さとり』って書いてあるでしょう!?」
作者不明でもなく古明地さとりって危険な妖怪とか聞かないし……
「古明地さとりと言うと……地底の覚妖怪か心を読むという」
「多分そう、で慧音先生にやって貰っているのが本来のお仕事でとあるおじいちゃんから頼まれた写本」
そうやって説明をしていると望歩さんが休憩にするならお茶を汲んできていいか? と聞かれたので許可をする。
直ぐにお茶を淹れてきてくれてゆっくりお茶を飲み始めるけど……どうしてか望歩さんの視線がずっとその古明地さとりが書いた本から何かじっとりとした目線を向けていたように見えた。
――――――――――
あれから一悶着有って……望歩さんが何故か古明地さとりが書いた本に執着を見せてどうにかして読ませて欲しいという願いを何とか乗り切って本を死守した……疲れた……
慧音先生がお帰りになって、その後直ぐに望歩さんも外来人用の長屋に帰っていった。
一人になった
最近は阿求も忙しいのか来ないし…魔理沙さんや霊夢さんも来ない……いや霊夢さんは仕方ないか。”お得意さん”もどういう訳か最近来てくれない。
おかあさんも流行り病にかかってしまい、命に別状は無いがしばらく入院が必要だという。おとうさんは仕入れの仕事で忙しくて家を空ける事が多い上で最近はおかあさんのお見舞いや入院費の為に帰る頻度が更に少なくなった。
最近この家は私一人だ。それが嫌だという訳ではない。本さえあれば退屈は紛らわせるし、自分はそれだけで生きていけると豪語できる。
けど……今日みたいににぎやかに会話した後だと……
「………話過ぎて……ちょびっとだけお腹すいたし……ちょびっとだけ、さびしい、かな?」
あ、そういえば望歩さんにお給料払い忘れてる……まぁ、それなら明日にでも来るでしょ。
………なんだかやる気でないし、今日はもう寝ちゃおうかな?
うんと背伸びをして体をほぐしたその時、店の暖簾が目に入った。そういえば暖簾を片付けるのを忘れていた、もう店じまいの時間も過ぎてるし早く片付けないと……そう思って入口の方へ駆け寄る。
すると暖簾は勢いよく開かれて……
「あ、小鈴ちゃんまだ居る~?」
うぇ!?
へ、変な声が出た……というか
「何々!? 帰ったんじゃなかったの?」
「誰も帰るなんて言ってないでしょ? まだお給金も貰ってないのに……」
そう言うと彼は唇を尖らせてすねたような顔をした。それが何故か面白くて少し噴き出してしまう。
「笑わないでよ……君はまだわからないかもしれないけど、お金って大事なんだよ?」
「いや、そんなつもりは無かったんですけど…ごめんなさい」
「まぁ、いいけど……はいこれ」
まだすねた表情が治ってない望歩さんはそう言ってその手に下げた袋を差し出した。タレのいい匂いが鼻孔をくすぐり、もともと感じていた空腹が鮮明に感じる。
「とりあえず小鈴ちゃんの分も買ってきたんだけど……夜まだ食べてないよね?」
焼き鳥だけど良かったかな? とちょっと遠慮気味に渡すその袋を受けとって……ありがたくいただくことにしました。
望歩さんはそれを見て、じゃあ外で食べるからとさっさと出て行ってしまいました。
……まぁ、外は冷えますし見たところ飲み物も無いようなのでお茶を淹れて持って行ってあげましょうか。
別人視点こんな感じでたまに書いた方が良き?
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良き(欲しい)
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良かない(本編!本編!)
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あく(言語焼失)