「ハイ到着。毎回足役悪いな、お疲れ。」
怖かった...。
時速200キロ越えの文字通り悪魔のタンデムで連れてこられたのは元は三階建てくらいの個人ビルと思しき正面入り口。勿論あっちこっち出来損ないのクッキーみたいなでこぼこで中に入るにはなかなか度胸がいりそうだが入る感じなんだろうか。
「はいるホ。」
ですよね。
「中は普通だよ。割と。」
「割と...。」
「二ブニブ早く入るホ。重要参考人は速やかに移動ホ。」
「はいどうぞご案内。...こんばんは入るよ~。」
べしべしと僕の尻を叩く『フロスト』にお構いなしにぼこぼこの扉を涼しい顔で彼女は開くと僕を中に招き入れた。
「こんばんは〜。」
「ホ。」
「し、失礼しま〜す...。」
中は彼女の言った通り明るくて掃除の行き届いた、割と普通の内装だった。
が、パッと見た感じは小さい楽器店のくせに並んでいたのは残念なことに長ドスだったり拳銃だったりと銃刀法違反ぶっちぎりの商品たちだった。日本でこんな光景見れるとは想像してなかった。
「よぅセヲリ。あっちこっちで厄介ごと片づけてる割に拾わないとは思ってたがついに新入り連れてきたか。」
にたにた笑いながらカウンターの奥で店番していたおじさんが話しかけてきた。
「立川か国立かあたりで迷い込んでたのを連れてきた。ガキどもが20も30もやってくるし、ここなら座って話せるしイサカがいれば説明も楽だからさ。イサカいる?」
備え付けのソファに僕を促しつつ反対側にぼふっと座り込んだ彼女(セヲリ?)はおじさんに尋ねる。
「今日は課題煮詰めるってよ。明日以降だな。...で?わけもわからないいたいけな少年をアヤシイおじさんの店に連れ込んだわけか。厄日だな。」
全くです。
「さて、そのいたいけな少年に色々ご教授といきますか。長くなって悪いな。日付変わるまでには返すから。」
「二人とも言い方がヒワイホ。」
「まずは自己紹介しようか。私はセヲリ。あっちはミナモト。みんなツネキチおじさんとかじいさんって呼んでる。関東一の武器屋ね。で、この雪だるまは『妖精ジャックフロスト』。夏場とカイロが苦手。」
「今後ともよろしく~ホ。」
ヒワイ発言に蹴り飛ばされた『ジャックフロスト』がくるり~んぱ、と起き上がりながら手を挙げて挨拶。
あの毒舌を聞いてなければ素直に可愛いと思った。
「あとそこの天井にいるのがイチモクレンだ。」
「天井?」
指をさされた上を向いたら水木しげるの漫画みたいな目玉が手を振っていて思わずソファから転げ落ちた。なんであんなのがいるんだ。
「はははははははははははははははは!!!!」
そろってものすごい笑われた。さてはこれ名物だな。
「伊勢の風と海難防止の神様だ。うちの監視カメラ兼警備員。」
「ヨロシク...。」
「そろそろ真面目に行くか。...さっきアンタを襲った『ガキ』。私の相方『ジャックフロスト』。足役になってもらった『ジード』。伊勢の神様『イチモクレン』。これらは全部ひっくるめて"悪魔"と呼ばれる存在だ。ちょうどピカチュウもリザードンもコラッタもポケモンと呼ぶのと同じ感じ。人間以外ここで動くモノは真っ白い羽根の天のお使いだろうと黒山羊頭の黒ミサの司会だろうと全部悪魔だと思ってもらってもいい。」
(まだふざけているようにしか聞こえないが)大変わかりやすい例えを混ぜ込みながらさっきとは大違いの真面目な顔でセヲリは話始める。
「で、ここは
「異殻...?」
「そう。"異なる殻"で、"いがい"。細かい説明はイサカ行き、詳しい話は後に回して次はこれだ。」
と、セヲリはスマホを取り出した。
「この世界に入ると勝手に"COMP"って名前のアプリがインストールされる。見てみ、ページの端の方にあると思う。」
促されてポケットに入れていたスマホを確認すると確かに"COMP"と名前の付いたあまり愛想のないアイコンがページの端っこにひっそりと存在していた。いつの間に...。
「入ってすぐに"進入・帰還"のアイコンがあるだろ?これワンタッチで出入り可能...押すなよ。説明は終わってないから。」
わかるわかるという顔を(後ろのツネキチじいさんと一緒に)しながら押そうとした僕をやんわり止めながらセヲリもアプリを立ち上げる。
「"進入・帰還"以外にも色々機能はある。一つ目、"時計機能"。」
二つのデジタル時計が表示された画面を僕に見せる。
「現実の世界と異殻の時間が表示される。さっきの異殻の説明の時に言ったけれど現実とこちら側は時間の流れ方が違う。現実世界の月が満ちれば満ちるほど時間の流れが遅くなって欠ければ欠けるほど早くなる。数字で換算すると満月の時は八分の一、新月の時は三分の一。おかしいと思っただろ?すぐにでも帰せるような言い回しのくせにわざわざ荒川まで
」
「はい。」
つまり現実世界の一日がこの世界...異殻の五日ってことだろう。逆浦島太郎だ。
「時間の話はこれでいいか。次は...。」
「待て待てセヲリ。お前一つ一つの説明はそこそこ上手いが全体的にはなっちゃねぇぞ。第一"俺達"のことも名前だけじゃねえか。悪魔、異殻、アプリ、時間の説明はまぁ出来てるが肝心の"サマナー"の話がまだだ。機能の話もサマナーを知らんと成り立たねえ。」
「だから私はイサカみたいにそういうのは得意じゃないんだよじいさん...。ご指摘にあったから次はアプリの前に私達についてだ。」
う~ん...と、うなりながらセヲリはスマホを一度仕舞う。
「私やツネキチじいさん...ミナモトは武器を持って悪魔を仲魔にして悪魔と戦う『サマナー』。その中でも異殻での活動を専門にする『ニューエイジ』だ。」
サマナーとはいうけれどほかの呼称も結構あるらしい。
「なにがあったっけ?"サマナー"、"サモナー"、"COMPER"、"悪魔使い"、"エクソシスト"、"祓魔師"、"テイマー"...あとなんだっけ?」
「今この話いらんホ。」
「...『ニューエイジ』ってのは元々いた現実世界で『サマナー』やってる連中との区別のために使われてる呼び方だ。だからあんまり私達"は"使わない。」
"達"のところで死んだ目をしてため息をつくセヲリ。
私達以外の『サマナー』が使うってことだろうか。というか、現実世界に悪魔使いがいるのか...。
「ここに迷い込んだ人間の大体は一発目に死なない限り大抵サマナーになる。というか、私達先達がさせる。」
させる...。
「じゃあ...僕も?」
「それは勿論。」
と、セヲリは頷いた。
『ずとまよ』にはまっております。
セヲリ:『切っ先』、『六陣氷神』
19歳。中学卒業直後にこの世界に迷い込んだ。短槍を振り回して戦う女傑。
千葉県在住。理系短大生。日常生活においては就活以外は大体マトモ。
ジャックフロスト:お馴染み雪だるま型の妖精。
セヲリとの付き合いは長い模様。比較的テンションは低いがかなりの毒舌。
昔カイロをお菓子と間違えて齧ったり持ち歩いて溶けかけたことがある。
ミナモト:『武器屋』、『二兵風神』
50代前半。通称ツネキチ。
ニューエイジの中ではかなり古参。
異殻の荒川区で武器屋をやっているが現実世界の武器も仕入れているので正体が怪しまれるオヤジ。怪しいが人柄は良いので慕われている。
イチモクレン:ミナモトの仲魔の一体。
普段は武器屋で監視から製作まで色々しているらしい。
ドッキリは割と面白がってやっている。
ジャックフロスト:霜男。イングランドに伝わる雪や氷、霜でできた妖精、冬将軍。
無邪気で悪戯好きな性格の持ち主。しかし気まぐれに人を氷漬けにして殺すような残忍な一面を持つ。
その姿は小人、老人、雪だるま等諸説あるが、とあるイラストレーターの『ドラゴンクエストのスライムを目指して描かれた』姿が現在、この悪魔を形作っている。
イチモクレン:一目連。三重県多度大社に祀られる一つ目の神。
天候を司る神とされ、海難防止、雨乞いの儀式が行われていた。
元々は神社から出ると暴風を起こし暴れる隻眼の龍神だとも、天照大御神の孫であり、鍛冶・製鉄を司る神との習合存在ともいわれている。
異殻:現実の世界に膜を張るように存在するという世界。この物語の根幹。
異骸、異鎧と称する場合もある。
時間の流れが遅く、現実世界の月齢によって速さは変動する。
確認されたのは21世紀に入ってからで、侵入可能な人間が限られていることもあり、調査はあまり進んでいない。
COMP:異殻に迷い込んだ人間のスマートフォンにいつの間にかインストールされているという謎のアプリ。現実世界でならば消去も再インストールも自由に行うことが出来る。
実は数年前まではアップデートが時折行われていたらしい。
現在は有志によって解析・改良が為されている。