それ私。
「よぉ広。アタリだったぜ。」
光が丘団地の駅すぐそばの道端で待っていた男性...ヒロにしたかしてないかわからない挨拶と報告と共に僕は車から放り出された。
「助かった。悪いな。...けどその後部座席の少年は?」
「巻き込まれた少年A。囲い込もうと思って。」
「囲い込んでもらいます!リオンです!今後ともよろしくお願いします!」
殴りたい。
「...任せた。」
ヒロは目を一瞬逸らして諦めたようにため息をついた。
「自己主張遅れたな。オレはヒロ。例のアプリとか悪魔の研究をしてる。技師って言えば大体わかると思うから。よろしく。」
団地までの道を歩きながらヒロはゆったりと説明を始める。
「詳しい説明は揃ってからするんだがゆうべイサカが前代未聞の大事件拾ってきてその関係でセヲリが暴れたんだがそれをオールドエイジが嗅ぎつけたらしくてな、交渉手段にお前を使おうって強行に出られたわけだ。」
どこもかしこも超不穏。
あの人達一晩のうちに何してんだ。
「そんな勝手にさせるわけにはいかないから条件をつけることで事任せるように交渉、誘拐の方もオレの仲間に頼んで妨害してもらって時間稼いで何とかしたってわけだ。で、お前連れてきたのは同じような事がまたあったら困るって言うのと巻き込んだ責任とりだな。あと、セヲリが暫くこっちにかかりっきりになりそうってのもあるからお前もこっちに入れちまえってなったのさ。」
「それいいんですか?」
色んな意味で面倒臭そうでもあるんですけど。
「最前線で何やってるかが見られるとでも思っておきゃいいんだよ。巻き込まれたからには教えておくべきだし知りたいだろ?
エレベーターを使って目的の部屋に辿り着くと既に1人待っている人がいた。
僕よりは年上だがヒロよりは下だろうか(ヒロは大変年齢が分かりづらい容姿だった)若い男の人だ。
「あ、おかえりなさい。」
「ただいま。調子どうだ?」
「大丈夫です。何もありませんでした。」
イスカと名乗った男の人はやや不安げな顔で頷いた。
「他の連中はあと1時間もすれば集まるからそれまで新人君2人にサマナーの色々教えてやるよ。イサカほど上手くはないけどな。」
そう言ってヒロはパソコンチェアに座るとタブレットを取り出して話し始めた。
「来たぜ〜。」
「何その屍は。」
僕と同い年くらいの少年を引き連れやって来たセヲリから一発目に出たのは僕とイスカの惨状だ。
僕らは2人してぐったりと地べたにひっくり返っている。
とんでもない情報量だった。
イサカが一つ一つゆっくりわかるまで教えて次にいくならヒロは大量に詰め込んで後で自分で復習して覚えさせるタイプらしい。
しかも結構専門用語がポンポン出てくる。注意深く聞いてないと話の全部がわからなくなるだろう。スパルタだ。
「オレはやっぱり人に教えるのに向いてない。」
デスクで頭を覆いながら呟くヒロ。やっててマズイと思ったらしい。
「あ〜...ヒロ専門用語が多いもん。中級者向けなら全然いけると思うけど。私よりは。」
「最後お前も傷ついてなかったか?」
「で、他の人は?」
「イサカはコイツより先に大熱唱しながらやって来て
「寝汚ねぇ〜。」
「今に始まったことじゃないじゃん。」
「俺はハヤト。普段はあっちこっちの学校とか、施設に危険な悪魔が巣食わないように見回ってる。騎兵って言ったら通じるから。よろしく。」
僕と同じくらいだがメチャクチャ強いらしい。
かっこいいな、騎兵って。
「その人が例の?」
「あぁ、名前はイスカ。」
「セヲリです。よろしく。」
各々、自己紹介を終えるとヒロはパン、と手を叩いた。
「自己紹介はこの辺だな。セヲリ、イサカ起こして来い。どうせ自分じゃ起きねぇからアレ使って起こせよ。」
「アレ?」
「それってすごい強烈な眠気覚ましみたいなヤツですよね。」
イスカは嫌そうな顔をして尋ね、頷くセヲリにさらに嫌そうな顔をした。
経験済みか、この人。
「イワクラの水、パトラストーン。どっちも状態異常回復アイテムって所かな。イワクラの水の方が安いしもっといいヤツにアムリタソーダとかある。」
そう言って妙な(少なくとも光の反射が水ではない)液体を取り出した。
「使い方は簡単。粘膜に触れさせる事。つまり顔にぶっかければ大体オッケー。」
嫌だな。言い回しもだけど変な液体顔にかけられたくない。そもそも顔にかける時点でアウトだ。
「しかもアレめちゃくちゃキツイよ。酔いがいきなり覚める感じ。」
未成年なので想像するしかないが確かにキツそうだ。
「イサカの反応面白いから来なよ。爆笑するから。」
お礼参りのない事を祈ろう。
異殻の、さっきまでいた部屋の隣ではヒロの言っていた通りイサカがフローリングの上で潰れるように寝こけていた。
「絶対体痛いのによく寝るよね。」
「だから寝汚ねーんだよ。」
「あ、光ってる。」
セヲリがイスカを見て呟いた。
確かに腕や服の下が緑のネオン色に光っている。
「あ、これは...。」
「そんな事よりさっさと寝坊助学者起こそ。」
「あ、はぁ。」
見られても大した反応のない僕らに逆に動揺するイスカ。
「セヲリはともかくお前も普通なの意外だったぜ。」
光ってるくらいなら害ないし。
大変気不味そうなイスカには悪いが今の僕としては槍を振り回して悪魔の群れや人を殲滅するセヲリや現実世界でよくわからないパワーを使って攫おうとしてくる連中の方がよっぽど不思議だし怖い。人に襲われたのを思い出すと尚更だ。
「僕にはセヲリの方が怖いです。」
「成る程。」
「おい。」
僕に刺々しい視線を向けながら(つまり見向きもせず)イサカの顔にイワクラの水の容器を逆さにした。
「なーすんねん!!」
喧嘩中の猫のような潰された蛙のような表しきれない声を上げてイサカは飛び起きた。すげぇ効果だ。
「これどこで手に入りますか?」
「悪魔が売ってたり武器屋にもいくらか。」
イサカとセヲリが騒いでるのにイスカが呆れるのを無視してハヤトに入手法を聞いておく。昨日のうちに理解したが構ってるだけ無駄だ。
「起きたな。ヤマトも他の連中も来たから始めるぞ。顔洗って来い。お前が解説役だろ。」
かなり不満そうだったがそれを聞いてイサカは一度現実世界に戻って文字通り顔を洗って戻ってきた。
先程の部屋には知った顔も知らない顔も合わせて10人ほどが4つ合わせた机を囲んで座っていた。
イサカは開けられた場所に僕とイスカはセヲリの後ろに座って知らないサマナー達の名前なんかを教えてもらう。
皆何かしら実力や能力を持つサマナーらしい。
僕の場違い感が半端ない。
「先に初めてのもおるし改めて紹介しとこか。イサカや。異殻と悪魔に関わる文化調査担当ってとこやな。学者でも通じるから、よろしく。さて。」
そう言って2枚の紙を取り出した。