「山手線って覚えられんよなぁ。東京、神田秋葉原御徒町上野までしかわからん。」
「私高田馬場までしか覚えてない。」
ダメじゃん。
下らない話をしながら3人はゆったり悪魔に揺られながら上野公園に向かう。
武器と戦闘の基礎を僅か30分で教わっただけなのだがこんなので大丈夫なんだろうか。
そう聞いたらこう言われた。
「どうせみんなカタ無しの我流ばっかやもん。実戦でごちゃごちゃ言うとる暇あると思うか?」
無いと思います。けどそういうことじゃない。
「そもそもスポーツどころか対人ですらないし。」
先日バイク相手に無双したの誰だっけ。
いや、あれも対人とは言わないか...?見てないからわからない。
「上野は前言ったみたいに安全地帯やから大丈夫やよ。下手に暴れたら妖精共に死ぬまでオモチャやし。」
怖すぎる。
「まずは慣らしよ。慣らし。妖精ならいい感じに相手してくれるし制止がきくし...。」
「妖精ってどんな悪魔なんですか?」
「敬語が抜けへんね〜お弟子君。セヲリくらいとは言わんけどもっと砕けてええのに。」
双頭の悪魔の上にだらりとひっくり返りながら(悪魔は嫌そうだ)へらへらイサカは笑う。
「妖精ね~妖精はセヲリのと会った事あるんちゃう?あの口悪ダルマ。」
「一番大事な
口悪でどの悪魔か分かってしまうのが恐ろしいな。
「ジャックフロスト?」
「あれのもうちょっと可愛いのがいっぱいいる...みたいな?」
「可愛いっていうか無邪気っていうかガキ...だと表現があれだから子供っぽいというか...。」
「行きゃわかるやろ。」
適当な人ばっかりだ。
「はいとーちゃく。」
ひょいと悪魔から飛び降りるとよしよしと2つの頭を撫でまわし(微妙そうな顔だ)イサカは伸びをする。
「上野は緑があってええね。」
「緑...。」
独特の赤茶色っぽい殻に覆われた世界に木だけが現実そのままなのであろう色をしている。そう、色だけ。
はっきり言って気持ち悪い。(頭重そうだし)なんでここだけこうなんだ。
「桜の時期はピンクになるで。」
絶対行かない。
「じゃあ、交渉と戦闘のの実践といきますか。」
「ちょっとフィールドワーク行ってくるわ。」
自由だな。あの人...。
木々の間の道を2人で歩く。
「なんにもいない...。」
「見えないだけであっちこっちでうずうずしてるよ。さて、」
入口から結構歩いたかなと思った頃にセヲリは立ち止まって振り返る。
「では、お弟子君には今からさっきのこの公園の入り口まで来てもらいます。」
「え?」
「妖精の方には話をつけてあるからギリ容赦ある程度に相手してもらいます。仲魔を作るなりバトルするなりで私の所まで来ること。これをうまく使って頑張ってきてね。」
と、セヲリは僕に1000マッカとマグネタイトを渡した。
「そんなスパルタ!?」
「まずは悪魔が何たるか身をもって知ってもらわなくっちゃね。魔石も傷薬も考えて使いなよ。1日経っても来なかったら助けてあげるから。」
待って、いきなりすぎる。
何か言い返そうとしたが、セヲリはふっと煙のように消えてしまった。
「うっそぉ...。」
自動車教習所だって隣に乗って教えてくれるのに無茶苦茶だ。
でもまぁ、うだうだ言っててはどんなレベルかは知らないがイタズラの餌食だ。
やるべき事は大まかに仲魔の確保と入口まで戻ること。戦闘はその過程で起こるというわけだろう。
今手元にあるのは武器と攻撃用の魔石(どうやって使うんだ?)、傷薬にセヲリからもらった魔貨とマグネタイトこれが交渉と進行の要だ。
よし。
とりあえず来た道を戻ってみよう。
ガサガサ...くすくすと茂み(これもコーティングされていて素人の砂糖菓子みたいだ)に潜む何かが僕を煽る。
なるほど、これが妖精のイタズラか...。
歩けど歩けど全く進んだ感じがしない。
上野公園は来た回数こそ少なかれ迷うような事は今までなかったしそもそも僕は地図が読める人間なので道順通り進んで辿り着かないのは明らかにおかしい。
周りの連中をなんとかすれば通れるよ系なんだろうけどどうやって仕掛けたもんか...。
とりあえず腰に佩いていた刀を振り抜きの勢いで音のした茂みに切り込ませる。
「わぁ!?」
「なにこいつ!いきなりすぎ!」
ぱっ、とふたつの影が飛び出した。
青のレオタード(レオタード着るんだ...)に赤毛、虫の羽、第一号妖精と第二妖精発見だ。
まずはどうしよう。怒ってるから交渉は無理かな...?
「もーくらえっ!」
バチバチしだした妖精の指に危険を感じぱっと飛び退る。
小さな雷撃が走ったかと思うと元いた場所には小さな黒こげが出来ていた。
怖。
「よけた!」
「よけるな!」
無茶を仰る。
これ斬っちゃっていいんだろうか?スッパリいって輪切りの妖精とか僕は嫌だ。
「うー!ダメだって言われてるにんげんを、黒こげにできるチャンスなのに!」
あ、ダメだ。輪切り嫌だとか言ってたら死ぬ。
基礎も何もわからないので片手で振り上げた刀を第一妖精に向かって振り下ろす。
悲鳴を上げる第一妖精。アレで生きてるの!?
「いったぁ...。」
「しっかりしてよ、もお。ほら!」
第二妖精が手を掲げると第一妖精のケガ(向こうからしたら巨大な刃に斬られたろうにケガなのはなんでだ)がみるみる小さくなった。
これは大変面倒だ。
考え事をしていたと思ったら突然振り抜いてくる主人公。中々ヤバい。
真知子巻のピクシーも好きです。
上野恩賜公園:西郷像とパンダで有名な台東区の恩賜公園。
異殻では妖精達のテリトリーとなっており、妖精王国の別称を持つ。
3年前にニューエイジと交渉、理由なき戦闘禁止の土地となった。
恩賜公園とは、皇室から下賜された土地に作られた公園という意味がある。
1873年開園。