【連載】ほな男になれや!   作:酉柄レイム

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女になる?

 最初にリオスが持ってきたまともな服であるワンピースを身に纏って立つのは、アリエスがいる部屋の前。ダリアとツバキは「あとは任せた」と言って仕事に戻っていき、リオスは「抑えられそうにないわ」と別のところに行っている。あいつがセクハラをせずに我慢したことから、今回はよっぽどなんだろう。

 

 ガラになく緊張する。思えば女の子らしい格好をしたのは小さい頃以来だ。親に逆らえず着させられ、すぐに反抗を覚えたからそれも少しの間だけ。もちろん大きくなってからは女の子らいし格好をしたことは一度たりともない。

 

 リオスの前なら緊張もなにもなく、むしろ警戒心しか抱かないのだがアリエスは普通のアホな男。どんな反応をされるんだろうとそれこそ女の子みたいなことを考えてしまい、頭を振ってその考えを吹き飛ばしてドアを開けた。

 

 そこにはベッドから起き上がって、俺をきょとんとした顔で見るアリエス。黙ったままでいるアリエスに居心地の悪さを感じながら、後ろ手でドアをそっと閉じる。

 

 しばらくして、アリエスが口を開いた

 

「びっくりした。いつもと違う格好してるから」

 

「あまりにも喋らんから喋られへんくなったんかと思ったわ」

 

 とりあえず悪い感触ではなさそうなのでほっとしつつ、アリエスのいるベッドに腰掛ける。すると、アリエスはそっと俺から距離を取った。

 

「おいアリエス。それは流石に失礼やろ」

 

「わ、悪い。いやさ、いつも男友だちっぽく接してたけど、やっぱり女の子なんだなって思ってさ」

 

「……」

 

 おい普通に恥ずかしいぞ。ダリアに褒められた時は何も思わず、リオスには警戒心しか抱かなかったのに。クソ、下心のない男の言葉がこんなに恥ずかしいなんて思わなかった。元々俺は男だから余計に恥ずかしい。褒められる恥ずかしさだけじゃなく、なんでこんな格好してるんだっていう恥ずかしさも合わさるからめちゃくちゃ恥ずかしい。

 

「うん、可愛いな。いいんじゃね?」

 

「やめろ」

 

 恥ずかしそうに微笑みながら褒めてくるアリエスの顔に枕を押し当てて黙らせる。これじゃアリエスに女慣れさせるんじゃなくて、俺に男慣れさせるっていう目的に変わってしまう。というかそうだ。アリエスにまず説明しないと。

 

「あー、アリエス。今な、王様にダリアたちが説得しに行ってくれてる。見合いはちょっとストップして、まずアリエスが女の子に慣れなあかんってことで」

 

「マジか。あの熱結構苦しいからありがたいっちゃありがたいけど……女の子に慣れるってどうやって?」

 

 察しが悪いアリエスらしく、『女の子慣れさせる』ってことと『俺が女の子らしい格好をしてきた』ってことが直結しないらしい。自分から言うのは恥ずかしいから勝手に察してくれると助かったんだが、仕方ない。

 

「あー、その、な」

 

「?」

 

「俺が、その、うん」

 

「エリスが?」

 

 いまいち言い切れずにもじもじしていると、アホなアリエスには珍しく察したようで、頬をかきながら「もしかして、エリスが?」と聞いてきた。それに小さく頷くと、アリエスは何も言わずに黙ってしまう。

 

「なんやねん文句あんのかコラ」

 

「いやいや! 嬉しいって!」

 

「嬉しい?」

 

「あ」

 

 しまった、と今度は自分で口を抑えて黙り込むアリエス。まぁ俺は見た目いいから嬉しいって言うのもわかるが、まさかアリエスがそんなことを思うなんて。別に引きはしないからそんな「言ってしまった」みたいな顔しなくてもいいと思うんだが。

 

「えっと、見合いしてるとな、思うことがあるんだよ」

 

「何を?」

 

「結婚するならエリスみたいな子がいいなって」

 

 俺はすぐさまベッドから離れ、椅子に座った。このまま一緒のベッドの上にいたら何かマズい気がして。まさかアリエスに限ってそれはないだろうが、元男の俺だからわかる。男は獣だ。表面上下心が見えなくても、いやらしい気持ちを持っていない男なんて一人も存在しない。

 

 俺の行動を見て慌てたアリエスが「違う違う!」と弁明を始める。

 

「いや、エリスなら緊張もしないし、いいやつだし、ずっと一緒にいても楽しいだろうなって思って!」

 

「何がちゃうねん! まさかアリエスが俺をそんな目で見てたとは思わんかったわ!」

 

「リオスみたいな目では見てないって! それにどうせ結婚するならって話だから、距離の近い女の子を思い浮かべんのは当然だろ!?」

 

「……まぁ、それは確かにそうやけど、そんなん聞かされたらやりにくくなったわ」

 

「ごめんて」

 

 俺は男友だちみたいな感覚でちょっとからかってやろうと思っていただけなのになんだこれ。クソ、これならリオスの方がマシなまである。あいつはわかりやすいセクハラしてくるからぶっ飛ばすだけでいいのに、アリエスは何も悪いことをせずに純粋に褒めてきて照れさせてくる。

 

 このままでは俺が心まで女の子になってしまうと気を引き締め直し、あくまで俺は男だと意識した。外からどう見ても女の子でも、俺は男だ。

 

「そういうことやから、しばらくは俺と色々してもらうわ。言うても一緒に外出たり、部屋でだらだら過ごしたりするだけやけど」

 

「おー、なんか緊張するな」

 

「思っても言うなそんなこと」

 

 こっちまで緊張してくるだろ。

 

「でもリオスは大丈夫なのか? あいつのことだから、エリスが他の男と一緒にいるの耐えられないんじゃねぇの?」

 

「あー、まぁ大丈夫やろ。耐えられへんならそもそも許してないやろうし」

 

「それもそうか」

 

 そういえばそうだ。あいつ「エリスの初めては私がもらう!」っていっつも言ってるからこの状況だって許せないはずなのに、なんで許可したんだろう。いや、許可もらわなくても勝手にやるけど、何も言ってこないのはそれはそれで不気味だ。

 

 ……今あいつが俺の服持ってるけど、なんか変なことしてないよな? まさかそれができるから許可したとか? いや、あいつも流石にそこまでではないはずだ。度を越えたセクハラは絶対してこないし、多分。

 

「んー、じゃあまずは普通に触れてみるか」

 

「手とか握るってことか? ここ来るときにやったし、エリスなら別に平気だぞ」

 

「ま、形だけでもやりゃええやろ。女の子に対して耐性つくかもせんし」

 

 椅子から立ち上がりベッドに乗る。するとアリエスは俺から目を逸らして手を引いた。そして俺から避難するように壁際へ寄っていく。

 

「おい」

 

「はは、その、な?」

 

「な? って言われても。平気なんちゃうんかい」

 

「いやー、改めてエリスって可愛いなって思ってさ。いきなり顔が近くにきたからびっくりしちまって」

 

「ぉ」

 

 こいつ、俺を口説き落そうとしてるのか? さっきからひっきりなしに褒めてきて、まさか女の子らしい格好をした途端めちゃくちゃ意識するようになったとか? でも残念だったな。俺の心は男。いくら10数年女として生きたからといって、前世の男としての意思はそうそうなくなることはない。

 

「やっぱ手握るの無理かも。緊張するわ」

 

「はぁ? 別に手ぇ握るくらいそんなハードル高いことでもないや、ろ?」

 

 意地になってアリエスに詰め寄ると、突然アリエスが俺の手を握った。その手には汗が滲んでおり、高い体温が手に伝わってくる。突然のことだったからびっくりしてアリエスを見ると、俺を真剣な目で見ていた。

 

「汗、わかるだろ? これくらい緊張してるんだ」

 

 言って、アリエスはそっと手を離し、俺から目を逸らす。

 

「今まで男友だちみたいに接してたのに何言ってんだって思うかもしんねぇけど、エリスは女の子なんだから、あんまり距離詰めてくんな。俺だって男なんだぞ」

 

「……ぉぉ」

 

 蚊の鳴くような声を出して、ベッドから降りて椅子に座る。そのまま気まずい沈黙が場を支配した。

 

 いや、そんな反応すんなよ。なんだ、アリエスに女を慣れさせように見せかけた俺に女を自覚させようってやつかこれ。リオスの計画か? 俺が女を自覚した瞬間においしくいただこうってやつか? クソ、それならアリエス以上の適任はいない。俺に僅かながらある女の部分がビンビン『こいつはヤバイ』って語り掛けてきてる。頑張れ俺の中の男。俺が好きなのは女の子で、男なんて恋愛対象になりはしない。生まれてきたその時から、一族の血が絶えることを申し訳なく思いながら生きてきたんだ。今更それは変わりはしない。

 

「悪い。変なこと言った」

 

「……いや、ええよ。うん」

 

 なぜかアリエスを見れないので下に目線を落とすと、自然と内股になっていた。なんだこれ女みたいじゃねぇかと足を開けようとするが、今ワンピースだということを思い出し、断腸の思いで内股を続行する。クソ、だからいやなんだこんなひらひらしたやつ。否が応でも女の子みたいな仕草を強要させられる。

 

「そ、そういやもう熱は大丈夫なのか?」

 

 気まずさを取っ払うために話を振ると、アリエスも気まずさを感じていたのかすぐさまそれに乗っかってきた。視線はこっちに向けないまま。

 

「お、おう。ただ、まだ暑いな。──多分、エリスのせいだ」

 

 アリエスが、俺を見た。

 

「でもさ、苦しくはないんだ。心地いいっていうか、なんつーか、俺アホだからわかんねぇけどさ。こんな熱なら、ずっとあってもいいって思ってる」

 

「おい」

 

 アリエスがベッドから抜け出して、俺の前に跪いた。まるで忠誠を誓う騎士のように。そして俺の手を取って、下から俺を見上げる。

 

「だから、頼んでもいいか? 俺に女慣れさせてくれ」

 

「……しゃ、しゃあないなぁ。うん。そうせなアリエスの次の代の跡継ぎがおらんようになるし、俺が一肌脱いだるわ」

 

「……なぁエリス。俺さっき結婚するならエリスだって言ったけど」

 

「いい雰囲気台無しサンダー!」

 

 雰囲気に押されてアリエスの言葉を待っていると、突如雷を纏ったリオスが部屋に突入してきて、俺とアリエスの間に割って入った。

 

 あっっっぶな! もう少しで俺が女になるところだった! ナイスリオス! 今回ばかりはナイス! 女として見た時のお前は最低だが、男として見た時のお前は最高だ!

 

「おいアリエス! 私のエリスになんちゅーいやらしいことしとんねん! あんなメスの顔させおって! 私の前でそんな顔したことないのに!」

 

「は、はぁ!? 誰がメスの顔しとってん! てかずっと見てたんかリオス!」

 

「おー見てたわ! なんやねんおい! あのまま告白されとったら絶対頷いとったやろエリス! 私にえっちさせてって言われても絶対頷かんクセに!」

 

「純粋な告白とえっちさせてっていう欲棒を同列に扱うなや!」

 

「えっちさせてってのも純粋やろが!」

 

「欲望にやろが!」

 

 先ほどまでアリエスに対して緊張していた俺は、リオスと取っ組み合って喧嘩する。その様子をアリエスが安心したように笑ってみていたというのを、後日こっそり様子を見に来たダリアから教えてもらった。

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