突然だが俺、カイズ・イベリスはエリス・ゼーラが好きだ。それはそうだろう。特別な手入れをしていないと言っていたのにも関わらずさらさらと綺麗な髪、透き通った美しくも可愛らしい瞳、幼さを少し残しつつも美しい顔立ち。更にパーソナルスペースが狭く、平気で隣に座ったりボディタッチをしたりしてくる。勇者という大層な役柄上女性の扱いは少々心得てはいるが、あんなことをされてしまっては惚れるなという方が無理な話だ。
「え!? 昨日アリエスとカイズと飯食ってたん!? そんなもん三人でセックスしてましたって言うてるようなもんやんけ! 私にもさせろ!」
「してへんわ!! お前みたいな欲望濡れのスケコマシとこの二人を一緒にすんなや!」
加えて、あのリオスとともにいて、まだ軍にあいつを突き出していない時点で彼女がとてつもなく優しい女性だということがわかる。あんな毎回毎回セクハラを働いてくるような男と一緒にいられるなんて正気じゃない。正気じゃないと言うとエリスがとんでもない女性だという風に聞こえてしまうが、あれを受け入れられる女神のような女性だという意味で俺は言った。勘違いしないでほしい。
ギルド内、俺とアリエスが隣に、エリスとリオスが隣に。テーブルを挟んで座り、流れで俺がこの街に滞在することを告げるついでに旅の話でもしようと思ったが、リオスのセクハラが発動してしまったためそうもいかないらしい。
「……」
「どうした? アリエス」
「ん? いや、なんでもねーよ!」
俺が滞在する理由になった男、アリエス・クロード。かなりの人格者でイケメンでしかも強い。少々頭脳が足りないところはあるがそれを補って余りあるスペックを持つ男。
この男の女慣れを、エリスが手伝うというのだからそれはもう滞在するしかない。ふざけてるのか? アリエスに女慣れさせるっていうことは、エリスが女を知るっていうことになるんだぞ? 男勝りなエリスが段々女の子になっていくってことなんだぞ? アホか。昨日ワンピース姿のエリスを見ただけで俺の心臓は解放のドラムだったっていうのに、アリエスはそれを、エリスの女の子を誰よりも早く間近で見られるということだろう?
許せん。
「あ、おいカイズ。何しとんねん」
「あぁすまない。いつもダイヤモンドで出来たグラスを使っているものだから、つい力を入れすぎてしまった」
怒りのあまりグラスを持っていた手に力が入ってしまい、グラスが砕け散ってしまった。中に入っていた水がテーブルの上にまき散らされ、ついでに俺の手からも血がしたたり落ちる。
「ったく、しゃあないなぁ。『
エリスが身を乗り出して俺の手を取り、呆れながら回復魔法をかけてくれる。
……言った方がいいだろうか。今着ているのはローブじゃないから、身を乗り出すと、その、胸がな? うん。いやぁ、俺は治療してくれてる手を見ているだけなんだけど、その結果視界に入っちゃったっていうか。どうしようかなぁ。
リオスを見る。般若。
「エリス。もう大丈夫だ、ありがとう」
「ん? おーそか。大したことなくてよかった」
にっと笑うエリス。中指を立てるリオス。テーブルの上を片付けるアリエス。アリエスほんといいやつだな。好ましいよ。
ただ、こういう時。リオスなら「あー!! カイズがエリスのおっぱい見て興奮しとる!!」って言いそうなものだが、そういうことを言わないあたりリオスも人間できているというか、人を落とすようなマネをしないところが好感を持てる。その代わりきっちり俺のことは嫌いっぽいから、そこも人間らしくてむしろ安心する。リオスは俺がエリスのこと好きって気づいてるだろうしな。
「おいカイズ。死ね」
「なんでそんなこと言うねん!」
今も死ねって言われたし。
エリスに叩かれて「あぁん!」と気持ちの悪い声を出しているリオスを見ながら、この二人はお互いのことをどう思ってるんだろうかとふと考える。見ているだけではただの友だち同士に見えるが、どうもそれ以上の何かでつながっている気がしてならない。
「……なぁカイズ」
「ん? どうしたアリエス」
エリスとリオスの関係も気になるが、アリエスも気になる。いや、そういう目で見てるとかじゃなくて。
先ほどからアリエスはふとした瞬間エリスを見ている。まぁ同じ空間にいるからそれは無理もないだろうと思ってしまうが、その目が問題だ。あれは、確実に恋する男の目。惚れた女を見る目だ。俺にはわかる。なぜなら俺もエリスに惚れているからだ。
そんなアリエスがリオスと喧嘩しているエリスを見たまま、
「エリスってさ、可愛いよな」
「はぁ!?」
俺に話しかけてきたにも関わらず、エリスにも聞こえる声で爆弾を投下した。今しがたリオスを締め上げていたエリスはリオスをべちゃりと床に落とし、暴れたことでズレた服を直し始めている。
「いきなり何言うとんねん!」
「あ、ワリィ。エリスに言うつもりじゃなかったんだけどよ。最初会った時から可愛いなーとは思ってたけど、最近そう思うことが多くなったなーって」
「……!!」
この男、天然……!! 俺は戦慄した。
世の中には、女たらしと言われる人種が存在する。あの手この手で女の子をたらし込み、自分に夢中にさせるという手腕を持つ男のこと。
しかし、その中でも天性で女の子をたらし込む者がいる。その者のことを、『天然タラシ』と呼ぶ。アリエスは、それに該当する。
今この状況がその証拠となり得る。あの男勝りでなぜか男に褒められてもどこ吹く風で女性に褒められると赤面するエリスが、男であるアリエスに褒められて赤面している。えっ、可愛い!!!!
ごほん。
……エリスと恋仲になるのは、難しいと思っている。エリス自身があまりそういうことに興味を持っていなさそうだというのもそうで、隣にリオスがいるのもそうで。ただその障害をすべて跳ね除けてしまうのが、『天然タラシ』。つまり、天性でエリスに女性を自覚させ、惚れさせてしまえばその障害はゼロになる!
「いきなり変なこと言うなアホ! そら俺かて自分のこと可愛いとは思うけど、あんま正面切って言うことちゃうやろ!」
「ハハ、悪い。でもそう思っちまったんだから仕方ねぇだろ?」
「そうやとしてもいきなりその、んな口説くようなセリフ吐かれたら嫌って思う子おるかもせんやろ! 気ぃ付けろってことや!」
「エリスは嫌だったか?」
何っ!? こいつ、『天然タラシ』の上に『子犬属性』まで持っているだと……!!?
『子犬属性』。普段は明るく子犬のようについて回り、『好意を持っている』というより『懐いている』イメージが強い。これだけだと異性として意識しづらくバッドステータスに見えるが、『天然タラシ』と合わさることでとんでもない破壊力を発揮する。その効果は、今発揮された。
『子犬属性』の真価。それは、『しゅんとした問いかけ』にある!!!!
子犬のように『ダメだったか?』みたいなことを言われて『ダメ』と言える者は存在するだろうか? いや、存在しない。更にこれがただの『子犬属性』だけであれば「もう、仕方ないわね」で終わるが、『天然タラシ』と合わさることによって「……も、もう、仕方ないわね」になってしまう!!
つまり、『天然タラシ』で照れさせた後、『子犬属性』で照れさせるという波状攻撃、二段構え、超激烈コンボが完成するのだ!!!!!
「……別に、嫌なわけやないけど」
「そっか! ならよかった」
そして、この『天然タラシ』と『子犬属性』はエリスのような女性に効果的……!! 他の属性に比べてかなりエリスの懐に入りやすい!! 俺も入りたい!!
いや、アリエスの属性を分析している場合じゃない。このままだと「女慣れしねぇとダメだし、デートでも行くか?」ってアリエスがサラって言ってエリスが連れ出される未来が訪れる!! それを台無しにするには、
《リオス! 台無しにしてくれ!》
《自分でやれやハゲ》
見放された上にハゲにされてしまった。どうする? 脳を振り絞って考えろ!
告白してみるか? 少し想像してみよう。
「エリス。好きだ」
「ん? 俺も好きやで」
ダメだ。エリスはなぜか身内からの好意は男女のあれこれじゃないと思う悪癖がある。ムードがない今伝えても俺が玉砕して惨めな気持ちになるだけだ。
リオスみたいな行動をしてみるか? 少し想像してみよう。
「エリス!! ベロチューさせてくれ!!!」
「は、え、か、カイズ? どないしたん? なんかあったん?」
ダメだ!!! ぶっ飛ばされるならまだマシだが、俺がそんなイメージなさすぎてエリスに心配されてしまう! それはそれでいいが、今後ずっと腫物扱いされてしまう!! そうなってしまえばエリスと付き合うなんて夢のまた夢だ!!
……!! 思いついたぞ。なんだ、簡単なことだ。エリスは俺のことを男だと意識していない。つまり、友だちとしてエリスをここから連れ出せば済む話だ。
「エリス。少しいいか?」
「んー?」
「買い物に付き合ってくれないか? せっかく滞在することにしたからな。どうせなら旅の準備もしておきたい。エリスの方が店に詳しいだろうから、迷惑でなければお願いしたい」
「ん、ええで。なんかリオスも静かやしほっといてもええやろから」
よし! とテーブルの下でガッツポーズ。エリスは面倒見がいい。だからこういう頼み事はリオスが邪魔をしてこなければすんなり通る。今まで旅をしてきた俺の頭脳は伊達じゃないっていうことだな「なぁ」。
?
「えっと、そのさ。なんかさっきの今で言いにくいけど、俺、今日エリスとデートしようと思ってたからさ。遠慮してほしいっつーか」
「なっ」
「……」
俺は、完全にアリエスのことを舐めていた。俺とエリスの間で約束が交わされれば「お、じゃあ俺は今日ゆっくりしとくかー」って言うか「お、じゃあ俺もついてっていいか?」って言うくらいかと思っていた。
それが、まさかエリスに対する独占欲を出してくるとは。こいつ、男だな。
さて、どうするか。事情を考えれば俺が引き下がるのが普通。ただ今のアリエスとエリスを二人きりにしたら何が起こるかわからない。俺としては非常に邪魔したい。
その答えを弾き出したのは、さっき俺を見放して傍観を決め込んでいたリオスだった。リオスはいきなり立ち上がり、雷光を放ちながら。
「せやったら、決闘や! エリスがアリエスとデートするか、カイズとデートするか、私とセックスするか! 三人で決めようやないか!」
「何自分の欲望ねじ込んどんねん!!」
「え? 肉棒をねじ込む?」
「殺す」
……なるほど、これで結果的にうやむやにしようっていうことか。流石だなリオス。色々台無しにすることに関しては右に出る者はいない。
「負けないぜ、カイズ」
アリエスはやる気になっていた。うやむやになっていなかった。周りにいたやつらも「エリスをかけての戦いだ!!」「賭けようぜ!!」と大盛り上がり。
……まぁ、やるからには負けないが、エリスこういうの嫌いだろうなぁと思いながらエリスを見てみると、額に手を当ててため息を吐いていた。勝っても負けてもあんまりよくなくないか、これ。