TSロリ化ランドルフ将軍 作:村娘
「君をこの様な姿にしてしまったこと、
本当に申し訳なく思ってる。許してくれ
とは言わない。…だが、俺達にも
余裕がない。早めに“協力”してくれる
と嬉しい。」
ランドルフの頭は自分の身体に起きた変化を把握することも、それを受け入れることもできなかった。目を見開き、姿見越しに変わり果てた自身の肉体を目に穴が開くのではないかと言う程にじっと見つめ、しかし眼の焦点は合っておらず、その姿は『心ここに在らず』を体現していた。
瞬間、右頬に衝撃が走る。停止していた脳が再起動し、痛みをランドルフに伝えた。
「最初に『手荒な真似はしたくない』と
確かに言った。俺としては不本意な行いだ
が、これも皆の為。…次はこの程度
ではすまない。」
「これから、よろしく」
ー
まだ目を覚ましたばかり、自身の状態を把握できていない等の理由から、この日は3発ビンタを受けただけで終わり。出された冷たいスープを飲み干し夜になった。
「…ァ、う…ふゥ、ぅぅぐ…」
ランドルフは泣いていた。ベルグリーズの男が意味のない涙を流すなど、情けないッ!そう胸の内で叫びながらも、眼の奥の熱さは引いてくれない。
あれから、自分は女になったのだと再認識する羽目になった。濡れたままの身体から水分を拭き取る為にあのものに脱がされたのだ。そこで初めて自らの服の下を見ることになる。
腹を護る強固な腹筋はそこらのネコの様にやわらかく、銀の斧を軽々と振り回せていた屈強な腕は、まるまるぷにぷにとしたスライムBのごとく。
それに二十数年、ともに育った相棒はそこになく、毛も生えていない。
何よりも脱がされることに羞恥心を抱いてしまったこと。それが自分が真に女になってしまったのだと思いしらされた。心まで女になっているのか、そう思ってしまったことが惨めで、情けなかった。
頬は紅く腫れ、ヒリヒリと熱い痛みを騒ぎ立てる。しかし、冷たい夜の風が身体の上を滑り、頬以外の肉を冷やす。『熱さと寒さ』二つの温度が己の上で縄張り争いを起こし、それ故に眠れなくなっていた。
心が落ちつかなかった。
母親の事、後方に置いてきた妹の事、帝国軍の仲間の事。二度と見られないかもしれないその顔を思い浮かべ、自分の存在の確立を謀るも、やはり現実が邪魔をする。自分は今後どうなってしまうのだろう、その一点の不安がランドルフを蝕む。
だが、それ以上にランドルフの内側に刻み付けられた顔、【ベレト】を名乗るものの顔が彼にとって恐ろしかった。
美しく透き通った翠の髪、シミ1つない綺麗な肌、最高点に整った顔のパーツが当然の様に混ざり合わさり、まるで女神の再臨を表す程の美しさを持っていた。
だがランドルフは深淵を覗いてしまった。
身に纏う雰囲気は魔物を彷彿とさせ、人の、親の庇護が必要な女子となってしまったランドルフの恐怖を煽り立てた。
体が震える。明日もあの怪物の前に立たなければならないことに恐怖を、生殺与奪の権を相手に握られていることに対する不安を抱いて。
どうやら身体は正直な様で、優しくも強烈な睡魔が身を襲う。『いまなら眠れるだろう』彼は捕虜が使うには少し上等な毛布に身をくるみ、固い枕を濡らしながら、意識を底知れぬ暗闇に落としていった。
「震える姿も、また良い。おやすみ」
ー
〘ベルグリーズの男たるもの、
何事にも手を抜かず常に励め〙
先代ベルグリーズ伯が祖父から受けた教えであり、現ベルグリーズ伯は勿論その息子達、そして後妻の連れ子であった己が受けた教え。故に寝過ごした事など一度もなく、今日も決まった時間に目を開ける。
「これが悪い夢であればよかったのに」
朝の陰鬱な気分が言葉となって、吸った息を吐き出す様に口から漏れ出した。
だが『こんな調子ではいけない』とすぐに自らを律する。
ベッドから起き上がってしばらく、【
「おはよう。今日は陽が出てなくて外は結構寒いよ。ベルナデッタみたいに1日中、部屋に引きこもりたくなる日だ。」
「…」
「『おはよう』くらい、返してほしかったな…」
中から水の跳ねる音がした。
「それじゃあまず、顔を洗おうか。」
コツコツとブーツの踵を鳴らし近づいてくる姿にランドルフの頭は昨日の顔をフラッシュバックさせる。反射的に左目を瞑り身構えるランドルフのサラサラとした髪ごと後頭部を掴み、水の張る桶に顔を押しつけた。
「ォコ゛?!…ッ──ッ!」
混乱。自分が何をされているのか理解が数瞬遅れる。その数瞬で酸素は水に変換され、焦った脳が『酸素を取り込め』と命令する。
しかし、目の前に広がっているのは空気ではなく水。目から鼻から口から多量の水分を取り込み、苦しみが増す。
勿論人は苦しみを感じると、それから逃れようとする。ランドルフの場合は手を、足をひたすらに暴れさせることだった。だが、
気泡の数がかなり減ったことを確認し、
「──ッかは、ハァ゛ー゛ッ、フゥ”ー”ッ、ハァーックァハッ!ケ゛ホッ、カァッポゥ…ヒュス、スン、フゥーッ…」
時間にしておよそ三十秒。それだけでランドルフから暴れる程の体力を奪った。
水が涙腺を刺激し涙が溢れ出す。ついでに眼球に沁みて目を開けられない。鼻は水に奥地まで攻め込まれ、大きな被害を受けた。口から入った水は気管を攻め呼吸を困難にする。妹似のキレイな顔は見ていられない状態となった。
「ん、まだ足りないな。
もう一度行くぞ。」
「─え?いや、待って、ま」
息も落ち着かぬまま“洗顔”を再開する。
だが、先程の体験からランドルフは水に対して身構えていた。結果的に洗顔時間が倍に増えただけであったが口や鼻に攻め込まれずに済む。
「『おはよう』を言えるようになるまで、毎日この洗いかたをするからな。変な意地は張らない方がいいぞ。」
ー
「朝食だ。残すことは許さない。」
ランドルフの分の朝食を机の上に並べると、
手は届かないが見ることはできる。
鳥肉や野菜の素朴な味が染みる暖かい料理は、この季節には大層ありがたいだろう。
対して自分の朝食は、机の上に置かれた見るからに固そうな黒パンに湯気の立たないスープ。それも量は少ない。
ただ惨めな思いをするだけ、とランドルフは自分と相手との『差』を見ることをやめる。
「物欲しそうなその顔が、愛らしい」
例えどんな状況であろうと腹は空く。食べなければ生きられない。湯気の立つシチューから目をそらし、黒パンを手に取り口に放り込む。やはり外も中も固く、氷を削る様な音が鳴る。
『あのシチューにつけて食べれば、少しはマシになるのだろうか』
などと想像をする度に更なる食事を求め、腹の虫が自己主張する。
ふと
「もし、もしも君が俺達に少しでも“協力”してくれたのであれば、その食事を改善すると約束しよう。どんな些細な事でも構わない。話の重要性を判断して、その分だけグレードを上げる。欲しい物だって用意しよう。どうだ?」
「…」
「…そうか、残念だ。はやく食べてしまえ。」
そのまま、お互いに何も喋らずに食事を続けた。
冷たいスープを飲むランドルフの心に甘い誘惑が入り込む。しかし『帝国を裏切る行為はできない』とこれを斬り捨てた。
「いまはそれでいいよ、将軍」