アサルトリリィ-Deus EX Machina- 作:揺れる天秤
──雨が降る…。一人、草原を歩くその少女は手に握る武器を引きずりながら…。
「──あった…。これを、壊せば…」
空間に開いた大穴。少女はそれに向かって武器を振り上げ──
「あ、…れ──?」
視界が揺れる。身体が倒れていくのを感じながら、少女の姿が穴とともに消滅する。
☆
一人の少年が荒野を走る。息が切れ、汗が額から滝のように流れ落ちる。
「くそ…っ!このままじゃ、追いつかれる!」
少年は転身する黒塗りされた双剣を構える。土煙が近づいてくる。
現れたのは獅子。マントのようなものをまとい、強靭な四肢で地を駆ける。その体躯には駆ける度に蒼電を撒き散らしており、それが普通の生物ではないことを告げている。
「…まさかとは思ったが、ヴァジュラか」
『……っと繋がった!?』
耳につけていたイヤホンから突如として大声が響き思わずイヤホンを外す。音が落ち着いたところでつけ直した。
「うるせぇ…。聞こえてるよ。ようやく灰域から出てきたんだ。通信も回復しただろ」
『そういうこと言ってんじゃなーい!灰域は三十分以上の滞在はするなってあれほど口酸っぱく言ってんのにどんだけ潜ってるつもりよー!?』
「あーあー、マジでうるせぇ。たかが一時間の超過じゃねーか。ギャーギャーわめくなよ、イヤホン越しだからマジでうるせぇ」
『一時間も超過すればわめきたくもなるわ!』
「そうかよ。俺は今から目の前に走ってきたアラガミ狩らなきゃいかんから通信閉じていいか?」
『いいわけあるかー!?…捕捉したわ。なんだ、ヴァジュラじゃない。あんた相手なら五分要らないでしょう』
「残念だが、神機が不調でな。ブレードから切り替えられなくなった」
『はあ?!』
「死んだら神機くらいは拾いに来いよ?」
『縁起でもないこと言うなー!?なんとしてでも帰ってきなさいよ!』
「わーったわーった。俺の反応が消えないのだけは祈っといてくれ」
イヤホンの通信のボリュームを最低まで下げる。まだなにかわめいているのは聞こえているがそちらに意識を向けている余裕はない。
いくら戦いなれているヴァジュラとはいえガンもシールドも使えない状況ではなかなかに厳しい相手と言わざるをえない。しかも自分は灰域で心身ともに激しく消耗している。油断すれば喰われる。
「…さあて、お仕事だ。俺の糧に沈め」
ヴァジュラが咆哮をあげて跳びかかってくる。双剣を跳びかかり振り抜いてきた前脚を弾きその場から跳び下がる。着地と同時にヴァジュラに向かって転身。しかし、ヴァジュラの周囲に稲妻が走る。
「チッ…」
すぐにヴァジュラへ接近することを止める。ヴァジュラの咆哮とともに周囲に雷撃が展開される。
「…ちょっと黙れ」
腰のポーチから『ソレ』を取り出すと安全ピンを引き抜いてヴァジュラの顔辺りに投げる。雷撃がやんで一拍開いて、閃光がヴァジュラの視界を焼く。
《ゴアァァ…!!》
ヴァジュラが体勢を崩して伏せたように倒れる。少年は双剣を構えてヴァジュラへと接近すると──
「喰らえ──」
双剣を一つに束ねると同時に神機は
少年は立ち上がれずにいるヴァジュラへと双剣を振るう。
《…──ッ!!》
「チッ」
ヴァジュラが立ち上がり雷撃の球を少年に向けて次々と撃ち出す。少年は強化された身体能力を発揮して雷撃の球を避けていく。
「そこ──!」
振り抜かれた双剣がヴァジュラの前脚を結合破壊する。ヴァジュラが再び伏せたように倒れる。同時にバーストが切れるが動きを止めているヴァジュラを再び捕喰、バーストを切らすことなく連撃を加えていく。
「…──ッ」
何度も同じ行動を繰り返すうちに肉体の疲労が先に限界がきた。跳躍しようとした足から力が抜けてその場で膝をつく。
「…くそ、あと少しだってのに…」
《グゥゥ…》
ヴァジュラがゆっくりとこちらへと歩いてくる。頭は割れ、前脚が砕かれてなおヴァジュラは退くことなく立ち向かってきた。こちらを迎撃できる距離だけを開けてヴァジュラの前には極大の雷撃の球が形成されていく。
(…あー、これは、助からんかも。…わるい。俺はここまでみたいだ)
球が完成する。ヴァジュラが頭をこちらへと押し出すように雷撃の球が飛来する。神機を盾にしたところでどうにもならない。少年は諦めて目を閉じようとした。
───その空気が突如として歪む。
「っ。なんだ?」
球が何かに当たって炸裂した。土煙が視界を被う。わずかに吹いた風が土煙を退けた先には何かの武器を持った少女と、青い渦のような大穴。
渦のようなものはゆっくりと消滅すると少女だけがそこに残された。少女はわずかに頭を上げたように見えた。ヴァジュラが咆哮する。
「…チッ!」
少年はポーチから取り出した注射器を腕へと突き立てると中身を身体へと流し込む。すると肉体を強制的にバーストモードへと移行させると少女の前へと躍り出て双剣をヴァジュラが振り上げた前脚へと振り抜いた。
双剣の一つが砕ける音とヴァジュラの前脚が吹き飛ぶ音とヴァジュラが倒れ伏す音が被る。ヴァジュラはそれだけで動かなくなった。
「お互いにギリギリだったわけか…。わるいな。運は、俺にあったようだ」
少年は突如として現れた少女へと向き直る。少女の姿はこの荒廃した世界には似つかわしくなかった。
どこかの学校を彷彿させるような紺色の制服。しかし、手には神機に似た武器を持っていた。少女はわずかに身動ぎしたかと思うと──ゆっくりと倒れてきた。
「ッ、おいっ!」
少女は目を閉じてぐったりとしている。少年は抱き止めたがその手に触れる感触に違和感を覚えて手を見る。手は真っ赤に染まっていた。
「…っ。おい、大丈夫かっ!?」
少女からの返事はない。ただ、二人の足元にゆっくりと血溜まりが広がっていく。
『コラー!聞こえてんなら返事しろ!もうすぐみんながそっちに到着するから帰還しなさーい!』
「それはわかったからそっちは医務室を用意しとけ!緊急の患者ができちまった!」
『なにー!?大ケガしたんかバカ!!』
「俺じゃねーよ!だが、俺の命の恩人になっちまった!なんとしてでも救わなきゃいけない命だ!」
『りょーかい!!あんた用に準備してたから一人や二人増えたところでなんとかできるからとっとと帰ってこーい!』
「言われるまでもねーよ!」
遠くから駆動音が近づいてくる。
「…どこの誰かは知らないが、絶対に死なせねーからな。俺の命の恩人」
少女からの返事はない。少年は痛む身体に力を入れて駆動音が響く方へと少女を抱えて歩き出した。
──これは、世界を越えた一人の少女と少年のが紡ぐ物語。