アサルトリリィ-Deus EX Machina-   作:揺れる天秤

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第09話 ヒュージとアラガミ

 ──数日の休暇が明けて。

 

 一柳隊の面々は壱番隊──アールヴヘイムによるヒュージ討伐の観戦をしていた。

 

「いいんでしょうか」

「いいのよ。こうやって別の隊の戦術を見ることも勉強になるわ」

「まあ、ヒュージの強さによっちゃあ見たいはずのノインヴェルト戦術を見る前に終わっちゃう可能性もあるけどな」

「…始まったみたいね」

 

 海上から姿を現したヒュージに壱番隊が矢継ぎ早に攻撃を加える様子が見える。その光景を眺めていた一柳隊だったが──

 

「なんか、えらく苦戦してるな」

「あのヒュージ、レストアね」

「レストア、ですか?」

「最近多いよなぁ。この前のやつもそうだったけどさ」

「どうやら最近はレストアの数が増えてきておるようじゃな」

「そんなにリリィが負けているようなお話は聞きませんけど…」

「レストアとは何もリリィを倒したヒュージがそう呼ばれているわけではないわ。リリィと交戦し、そこからネストへと帰還したヒュージを総じてそう呼ぶのだから」

「とは言いましても、それでも多すぎではありませんか?」

 

 視線の先──壱番隊の隊長、天野 天葉(あまの そらは)の号令を皮切りにノインヴェルト戦術の要であるマギスフィアが射ち出された。

 的確に、それでいて苛烈なほどの速さでマギスフィアをパスしていく。

 

「私達も、あれくらいできるようになれるんでしょうか」

「なれるのか、ではなく『なる』のよ、梨璃」

 

 マギスフィアが最後のリリィ──天葉へと渡り、眩く光るマギスフィアをヒュージに向けて放つ。スフィアはそのままヒュージを吹き飛ばす──はずだった、ヒュージがマギを使い、盾を展開するまでは…。

 

「なっ──」

「ヒュージが、マギを使った!?」

 

 壱番隊も動揺しているようだが天葉は未だに健在であるマギスフィアに向かってCHARMを振り下ろす。マギスフィアそのものの威力に上乗せされた一撃がヒュージの盾を砕き、スフィアがヒュージに直撃──大爆発を起こした。

 

「やった?!」

「──いいえ、ヒュージは健在のようね」

 

 退いていく壱番隊を見送りながら、夢結は足下に置いていたケースからCHARMを取り出す。マギスフィアによる爆炎の中、ヒュージの影が揺らめいている。

 

「壱番隊の尻拭い、といったところでしょうか」

「楓さん、少し下品です」

「うるさいですわよ、ちびっこ一号」

「にしても、あのレストア。マギを使ってたぞ、どうするんだ?」

「どうするもなにも討伐するわ。幸いにも壱番隊の攻撃によってヒュージも疲弊しているはず。今なら、私達でもいけるはずよ」

「はい。お姉さま。皆さん、力を貸してください!」

「まっ、隊長の命令だからな」

「やってやるとするかの」

「いこう、神琳」

「ええ、頑張りましょう雨嘉さん」

 

 それぞれにCHARMを構えて一柳隊がヒュージへと向かっていく。接近していく中、夢結の眉間に皺が寄る。

 

(なにかしら…。何か、違和感のような…)

「お姉さま?」

「っ…!」

 

 気がつけば夢結は足を止めていた。梨璃の声で改めてヒュージへと向き直り、ヒュージの違和感に気がつく。

 

「あのヒュージ、割れて──」

「えっ?」

 

 夢結の声に合わさるようにヒュージの身体からマギの光が溢れる。中央から二又(ふたまた)に割れたヒュージの中央──光の中心には…。

 

「あれは、CHARM…?」

「あ、れは…。あの、CHARM…、は…」

 

 夢結の脳裏には『その光景』が次々とフラッシュバックする──

 

 血に濡れた両手、シルトである姉…美鈴を貫いた感触、ヒュージに斬り裂かれた美鈴、落ちていくCHARM──

 

 夢結は胸元を押さえて(うずくま)る。呼吸は荒く、しかしそれは酸素をうまく取り込めず…。頭が鳴る、視界が揺れる。

 

 次第に夢結の意識は『今』を理解する。そして、知らず知らず口から言葉がもれる…──

 

「そう、か。お前、が…」

「お姉さま、大丈夫ですか?!」

 

 梨璃の目の前で蹲っていた夢結の髪が白に染まる。

 

「これは──」

「まずい、離れろ梨璃!」

「お前が──ッ!!」

 

 瞳を紅に染めた夢結が傍にいた梨璃を突き飛ばしヒュージへと翔ぶ。マギの軌跡だけを残して翔びたった夢由はヒュージから伸ばされた触手を弾きながらヒュージへと斬り込んでいく。

 対して、一柳隊の面々には何が起きたのかわからない。わかるのは突如として夢結が『ルナティックトランサー』を使って暴走を始めたことだけ。

 

「お姉さま…」

「いったい何が起きたんですの?」

「ヒュージからの光を見た途端におかしくなったようだけど…」

「二水さん、何が光ったのか見えませんか~?」

「ちょっと待ってください!」

 

 『鷹の目』で状況を見ていた二水には『ソレ』が見えた。

 

「CHARMです!ヒュージの身体にCHARMが刺さっていて、それが光っているみたいです!」

「CHARM?二水、そのCHARMって種類わかるか?」

「えっと、ダインスレイヴだと思います!」

 

 二水の返答に梅は納得したようにヒュージへと視線を投げる。

 

「ダインスレイヴ、そしてレストア…。たぶん、間違いない。あいつ、甲州で夢結のシルトである美鈴様を殺したヒュージだ」

 

 梅の答えに全員がヒュージへと視線を向けた。ヒュージの周囲ではマギの閃光が次々と煌めく。

 

「…お姉さまを止めないと」

「待てっ、梨璃!今の夢結に敵味方の区別がつくとは思えない!」

「それでも──!」

 

 梨璃はまっすぐに夢結を視界に納めている。

 

「それでも、お姉さまを止めます!このままお姉さまを戦わせてはお姉さまが壊れてしまいます!」

 

 それは梨璃の勘でしかない。だが、どちらにせよこのまま独りで戦わせてはいけない。それだけはわかる。

 

「はあ…。梨璃さん、私達はヒュージを引きつけますから夢結様はお願いしますわね?」

「そうですね。夢由様をどうにかできるのは梨璃さんだけでしょうから」

「梨璃、ヒュージは私達に任せて!」

「はぁ…。この隊、梨璃に対して全権の委任っぷりがすごいぞ」

「梅様、当たり前です。言い出しっぺが夢結様で集めたのは梨璃です。当然の流れですよ」

 

 梅以外の全員がCHARMを構え直す。

 

「行ってください、梨璃さん!背中は私達に任せて!」

「ありがとうっ!!」

 

 梨璃が夢結に向かって飛び出す。

 

「お前ら、普通止めないか?」

「何言ってますの?梨璃さんは隊長、命令は絶対遵守ですわ!」

「いや、さすがにそれはどうなんだ?」

「まあ、それを抜いても夢結様をどうにかできるのは梨璃さんだけでしょう。梨璃さんは前回夢結様を止めた実績がありますし、今の夢結様に私達は下手に近づけませんから」

「…そうだな。じゃあ、あたし達はあのヒュージをどうにか引き付けることに終始するかっ!!」

 

 一柳隊がヒュージへと向かって跳躍していく。二水は一人、『鷹の目』を使い戦局を見る役目を負っていたが、その視界に【ソレ】が映る。

 

「──あれは」

 

 それは、まっすぐにこちらへと向かってきていた──

 

 

 

 ★

 

 

 

 

 時は少し巻き戻り、ヒュージに対して壱番隊が攻撃を始めた頃。その戦闘域とは少し離れた場所で、それ等は対峙していた。

 

《ウオオォォォォォォン!!》

 

 天に向かって猛り吼える【ソレ】は誰が見てもわかる異形である。岸壁のように発達した前脚、狼を体現する体躯。【ソレ】──アラガミ・マルドゥークは周囲を見渡している。

 そのマルドゥークを観察するのは蒼士と美姫の二人。近くの木々に姿を隠しながら、マルドゥークの様子を見ていた。

 

「強力な反応が出たって月華がいうから渡ってきてみれば…」

「まさかのマルドゥーク…。ただ、やりやすくはあるわね。他のアラガミの姿が見えない」

 

 マルドゥークはアラガミの中でも《感応種》と呼ばれる周囲のアラガミを強化し、その恩恵を自身に付与する特性を有している。さながら、群れを統率するリーダーのように。

 しかし、今目の前にいるマルドゥークの周辺にはアラガミの姿は無い。マルドゥーク相手には小型のアラガミ──オウガテイルが一体いるだけでも脅威になりかねないが、どうやらマルドゥークは突発的に此方へと放り出されたのだろう。

 

「あれなら、俺達二人でなんとかできそうだな」

「ええ。いくわよ、蒼士」

「遅れるなよ、美姫」

 

 マルドゥークはまだ気づいていない。二人は木々を足場にマルドゥークに向かって跳躍、その体躯に二つの神機が突き刺さる。

 

《───ッ!!》

「うおっ?」

 

 マルドゥークが身体を振り回し、二人は地面を転がる。立ち上がると即座に退避。一拍遅れて二人がいた場所にマルドゥークの前脚が叩きつけられる。

 何も手応えがなかったことでマルドゥークが周囲を見渡している。二人は別々に木々をブラインドに駆けているため、気がついてはいないようだ。

 

「意外に気がつかないもんだな」

「そうだけど、あれで狼みたいに鼻が効くような動きをする時もあるわ。油断はできない」

「そうだな。しかし、あいつ…。なんか様子おかしくないか?」

 

 マルドゥークは周囲を警戒していたようだが不意に顔を上げた。そのまま固まったように空を見上げている。

 二人もそれぞれマルドゥークが見上げている方角へと視線を向けるが、特に何も見えはしない。

 

《グルウゥゥ…》

 

 頭を下げ、四肢を盛んに動かし、イラついているようにも見える。

 

「何してんだ?」

「わからないわね…」

 

 二人も見たことがない行動だった。そもそも、一撃を入れられたアラガミがこちらへ一切警戒を向けていないことも気にかかる。

 

「美姫、警戒は解くなよ?」

「わかってる。…でも、本当にどうしたのかしら?」

 

 マルドゥークが身体を深く沈める。前脚が開き、灼熱の炎が吹き出し──

 

《ウオオォォォン!!》

「「なっ──!?」」

 

 ───咆哮。

 

 身体を沈めたのは力を溜めるため。マルドゥークの体躯はその最初の蹴り出しから最高速に載る。二人の視界からあっという間にマルドゥークの後ろ姿を残して地を駆けていく。

 

「ちょっと!?」

「追うぞ!」

 

 二人は木々を渡るように駆ける。幸いにしてマルドゥークは森の景色には溶け込むこともなく駆ける姿が見えていた。

 

「あいつ、いったいどこに向かってるんだ…」

「進行方向って何かあったかなぁ?」

 

 駆ける二人の上空を二条の雲が現れる。

 

「あれは──」

「戦闘機ね。マルドゥークを捕捉したから哨戒機が飛んできたんでしょう」

「へぇー。あんなの紙の書物の空想上の代物かと思ってたぜ」

「まあ、蒼士の場合はそういう答えになるわよね」

 

 戦闘機はマルドゥークを観察するように空を旋回はしているが攻撃を加える様子はない。

 

「さすがに攻撃はしない、か」

「まあ、通常兵器はヒュージにも大したダメージ無いしね。しかし、あのマルドゥーク、どこまで走る気よ。かなりの距離走ってない?」

「美姫、俺がお前を空に打ち上げるから上空からスナイパーで確認してくれるか?」

「いいけど…。マルドゥークに追いつけなくならない?」

「大丈夫だろ。あいつの走った跡は丸わかりなんだし」

 

 マルドゥークの駆けた森は木々を薙ぎ倒されている。見失ったところで丸わかりである。

 

「確かにそうね。じゃあ──いくわよ」

「おう」

 

 着地した美姫が神機を銃形態に切り替え木を駆け上がる。先に蒼士が跳躍すると美姫は一拍遅れて蒼士めがけて跳ぶ。

 蒼士はバイティングエッジを交差して構え、美姫はそこへ着地する。

 

「「せーのっ!!」」

 

 美姫の跳躍にあわせてエッジを振り抜く。通常以上の跳躍をもって美姫はスコープを覗く。

 

「───…あれ?」

 

 そこで美姫はようやく自分達の出現した場所を理解できた。マルドゥークの駆けていく先、そこには──

 

「──ヤバイ!!」

「見えたかっ?!」

「急いで、蒼士!」

 

 着地した美姫は剣形態に戻すと駆け出す。蒼士は急に加速した美姫に一歩出遅れたが、すぐに隣へと並んだ。

 

「何が見えたんだよ?!」

「…学院」

「はっ?」

「百合ヶ丘女学院!!」

「──っ?!」

 

 蒼士は前に向き直る。そして腰のポーチから注射器を取り出すと迷わず首筋に打ち込んだ。

 

「蒼士?」

「神機開放しろ。最高速でいく!」

「──っ、了解!!」

 

 美姫が注射器を取り出す傍ら、蒼士が淡く輝き加速する。美姫も輝きを纏うと蒼士に並ぶように駆け出した。

 

 

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