アサルトリリィ-Deus EX Machina- 作:揺れる天秤
二水のスキル『鷹の目』で見えていた【ソレ】がなんなのかはわからなかった。ただ、よくないものなのは間違いない。
───それは人としての何かがそう告げていた。
「皆さん、気をつけてください!何かが来ます!」
二水だけが【ソレ】を見れていたからだろうか。ソレはヒュージをも飛び越えて海へと着地する。激しい水柱が上がり、直後、遅れて海が爆発する。
「ちょっ、なんですのっ?!」
「何か、飛んできた…?」
濃霧のような海水の霧が晴れていき、一柳隊は息を呑む。現れたのは四足の獣。
「なんだあいつ!?」
「ヒュージではなさそうじゃが…」
「友好的でもないな」
獣は強靭な前肢で地面を叩く。顔を天へと向けて──
《ウオオォォォォォォン!!》
──吼え、一瞬のうちにヒュージへと飛びかかった。
ヒュージは獣の飛びかかりに耐えきれずに横倒しになり、獣はその発達した前脚でヒュージを押さえつけ噛みつこうと口を開く。
ヒュージは負けじと触手を動かして獣を放り飛ばした。獣は中空で体勢を立て直して着地、すぐさまヒュージへと距離を詰めるように走る。
「め、めちゃくちゃだ…!」
「お姉さまは…」
梨璃の視界の端、二体の衝突によって夢結は空へと吹き飛ばされていた。梨璃は助走から跳躍、落ちてくる夢結を抱き止めると廃墟の方へと下りていく。
「すみません!お姉さまと話す時間をください!」
「わかった!夢結を頼むぞ、梨璃!」
「はーい!…っ?!」
廃墟の方へと梨璃が姿を消したところで派手な土煙があがる。どうやら梨璃が着地を失敗したようだ。
返事は聞こえてきたから大丈夫だと判断した梅達は一度集まる。
「さて、時間を稼ぐわけだが…」
「あれ、放っておいてもいいのではありませんか?」
楓がそう言う先ではヒュージへと幾度も飛びかかる獣の姿。
「そういうわけにもいかんじゃろうな。いつ学院の方へ流れ弾が飛ぶかわからんぞ」
ヒュージは迎撃するために四つの触手を振り回し、まともに制御できていないCHARMを使って光線を四方八方へと放っている。
対する獣も今は肉弾戦を仕掛けているが、異形の獣が遠距離技を持っていない方がおかしい。
「というか、あれはなんなんだ?」
「わかりませんわね…。誰か知っている方はいらっしゃいません?」
「…あっ、皆さん。追加で来ましたーっ!」
二水の声に全員が振り返る。その上空を二つの影──蒼士と美姫が飛び越え、ヒュージと獣…アラガミへと駆けていく。
「今のって…!」
「伏柴美姫さん、でしたね」
「っていうことは、あれはアラガミとやらか?」
「あっ…」
二水の驚く声と見守っていた楓達の方へアラガミが飛ばされてくるのはほぼ同時だった。だが、それを真下から跳躍してきた美姫が神機で吹き飛ばす。
「──っぁ、重た…っ」
獣のアラガミは木々を薙ぎ倒して転がっていく。美姫はこちらを一瞥するも、すぐにアラガミの方へと飛んでいった。
「こちらは眼中に無し、というところでしょうか」
「そういうわけでもないんだがな…」
神琳の言葉に返事をしたのはこちらへと歩いてきた蒼士だ。
「すまないな。あのヒュージ、討伐中かなんかだろ?」
「いえ。いろいろとあってすぐには倒せませんの。それで。今まで私達とはあまり話そうとしなかったそちらがここにきて急に話しかけてきた理由を聞いてもよろしくて?」
「手厳しいな。あのアラガミ──マルドゥークは今までこちらへと現れたアラガミとは別格だからな。対抗策のないお前達が不用意に突っ込んでこないように注意しにきただけだ。あれは、俺達でも骨の折れる相手なんでな」
そういって見る先──マルドゥークと美姫の戦闘は苛烈ではあるが、どうにもマルドゥークの攻撃には精彩を欠いているように蒼士には見えた。
「──?」
「どうかしたのか」
「いや、気のせいだろ。とにかく、お前達はそっちのヒュージをどうにかするといい。あれは俺達がどうにかする」
言うだけ言って蒼士もすぐにアラガミの方へと飛んでいってしまった。
「…こっちもあれをなんとかするぞ」
「そうですわね。あれをなんとかしてくれるのでしたら私達が巻き込まれる心配もないでしょうし」
ヒュージへと飛ぶとヒュージは迎撃せんとばかりに触手を振り回す。CHARMで弾き、撃ち、的確に距離を詰めていく。
「まずはあいつに刺さってるCHARMの回収だな!」
「梅様、道はつくります!」
振り回す触手を鶴紗と楓が弾き、遅れて放たれた光を神琳と雨嘉が盾となって止める。
「ナイスだぞ!『縮地』」
わずかに開いた空間をレアスキル『縮地』をもって梅が駆ける。ヒュージに刺さるCHARMに手をかける、が──
(──っ、かた…っ!!)
よほど深く刺さっているのか梅の力だけでは抜けそうにない。とはいえ、ヒュージに肉薄できているのは梅だけだ。
(く、っそ…。ぬ、け、ろ、…っ!!)
CHARMを引き抜こうと悪戦苦闘するが微動だにしない。その梅の背中に1本の触手が振り抜かれる。
(まず…っ)
「何してますの!?」
触手を横合いから弾いたのは楓。遅れて鶴紗、神琳の二人が刺さっているCHARMに手をかける。
「引き抜きますっ!」
「おうっ」
「ああっ」
三人がかりで引っ張るとようやくCHARMが引き抜けた──と同時、ヒュージから無数の光が放たれ、三人はすぐさま後退する。
「…大丈夫でしたか、皆さん!」
離れて状況の把握に努めていた二水が駆け寄ってくる。梅は建物にCHARMを突き立てるように置くと、もたれかかりながら一息吐いた。
「これ、やっぱり夢結のダインスレイブだ。いくつかの傷に見覚えがある」
「となると、やはりあのヒュージはレストアで間違いないわけじゃな」
「問題はどうやって倒すか、ですが…」
『皆さん、遅くなりました!』
全員が振り返ると、ちょうど夢結と梨璃の二人が着地したところだった。
「梨璃さん、夢結様」
「皆さん、時間稼ぎありがとうございます!」
「あれくらい問題ありませんわ」
「ああ。こっちもCHARMを取り返したところだぞ」
「しかし、あれはどうやって倒しましょうか。CHARMを抜いたことで活性化し始めているようです」
神琳のいう通り、ヒュージは身体を再生しながらマギを集めているように見える。
「皆さん、ノインヴェルト戦術、やってみませんか?」
「ノインヴェルト戦術、ですか?」
梨璃がポケットから取り出したのはノインヴェルト戦術用の『戦術弾』と呼ばれる弾。
「確かにノインヴェルト戦術であれば倒せるかもしれませんけど…」
「私達、まったく練習したことないよ?」
雨嘉の懸念ももっともなのだ。ノインヴェルト戦術とは何なのかを今日見たばかりで、パスの練習もしていない。ノインヴェルト戦術は隊員九人でマギの弾を受け渡し合う戦術である以上、練習も無しに成功するようなものでもない。
「ん~。まあ、物は試しだしな。二水、ほいパス」
梅は梨璃の手から戦術弾を取ると指で弾いて二水のCHARMへと弾込めする。突如として弾込めされた二水はパニックになったのか大慌てだ。
「な、何するんですか。いや何するつもりですか、私はどうしたらいいんですかっ!!?」
「難しいこっちゃあない。今、弾は込めたんだからそれをそのまま私に撃ってこい!」
「いいんですか?!危なくないんですか?!」
「はーやーくー。撃てっ!!」
「は、はいぃぃっ!!」
梅の気迫に負けて二水が至近距離で梅を撃つ。放たれたマギの光を梅はCHARMで受け止めた。
「…っ、すごいな。これが、二水のマギか!」
薄い水色のマギが徐々に黄緑色へと変化するのを見ながら、梅は雨嘉の方を見て──目が合うと口角を上げる。
梅の表情にただならぬものを感じた雨嘉だが、雨嘉が反応する前に梅はCHARMを振り上げていた。
「雨嘉、CHARMを構えろ!」
「え、ええっ!?」
構えたCHARMめがけて、梅はマギの弾もろともに自身のCHARMを振り下ろす。弾を中心にぶつかり合うCHARMが火花を散らしながら──
「これならパスを失敗する心配もない、ぞっと!」
「む、無茶苦茶ですよ梅様!」
黄緑色から黄色へと色の変わるマギの光から梅のCHARMが離れる──と同時に跳んできたミリアムが光に向かってCHARMを振り下ろした。
「次はワシの番じゃ!」
「焦らなくても渡すから…っ!!」
光は紫へと変わりながらミリアムがCHARMを横凪ぎに振るう。その先にいたのは、鶴紗。
「これで、パスじゃな!」
「無茶苦茶なやり方もあったもん、だっ…神琳!!」
赤へと変わる光を鶴紗はCHARMを構えて待っている神琳へとぶつける。
「確かに、受け取りましたっ。楓さんっ!」
「任せてくださいまし」
神琳が上へと振り上げたCHARMに楓のCHARMが受け止める。光は瞬く間に白銀へと染まり──
「さあ、あとは梨璃さんですわねっ!!」
「お願いしますっ!!」
楓が腰だめに構えたCHARMと梨璃が受け取ろうと構えたCHARMが当たる。光が桜色に変わりながら──梨璃のCHARMが折れ、マギスフィアが宙を舞う。
「マギスフィアが──」
「──大丈夫よ」
宙を舞うスフィアを夢結が拾う。
「来なさい、梨璃っ!!」
「っ、はい!」
梨璃が飛び、二人で一つのCHARMを構える。ヒュージが気付き、触手が全て二人に向かって振るわれようと──
「させるかよっ!」
「これでもくらえぃ!!」
横合いから神機によって吹き飛ばされたマルドゥークがヒュージにぶつかり、もみ合うように二体が転がっていく。
その二体めがけて梨璃と夢結がマギスフィアもろともに落ちる。
「梨璃…、私は、貴女のことを信じるわ」
「…お姉さま?」
マギスフィアが閃光を放ち、巨大な爆発による光が辺りを包んだ。
──光が晴れた景色の中、梨璃達は地面に寝転がっていた。
「お姉さま」
「なに。梨璃」
「これからも、よろしくお願いします」
「…ええ。私からも、よろしくお願いするわね」
幻想的な光が舞う中で、彼女達はしばらくの間寝そべっていた。