アサルトリリィ-Deus EX Machina-   作:揺れる天秤

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第11話 顔合わせ

 大型ヒュージ及びアラガミ【マルドゥーク】討伐から一週間。

 

 理事長室に、一柳隊と理事長代行と蒼士達GE、そのメンバーが初めて顔をそろえることになっていた。

 

「初対面の人も居るだろうから挨拶を。伏柴美姫。こちらだと『英雄』が通っているかな?」

「藜蒼士だ。『AGE』という異界の戦士とでも思ってくれたらいい」

「お初にお目にかかることとなりました、金雀枝香苗と申します。こちらに控えているのは桜木月華。私の護衛兼メイド兼うちの技術主任」

 

 メイド服に身を包み軽く会釈する月華。梨璃達の紹介は笠松理事長代行によって行われ、お互いにソファへと腰を下ろす。

 

「さて、長々とお互いに牽制するのもバカバカしいとも思います。そちらの聞きたいこと、私達のやろうとしていること、話すべき話を詰めていくことにいたしませんか?」

「こちらとしては願ってもないことです。しかし、いいのですかな。話し合いの場に武器を置いておくというのは」

 

 一柳隊は笠松理事長代行の座るソファの後ろにイスを置いて座っているが、それぞれの足下にはCHARMの保管ケースが置かれている。

 いつ、何があっても即座に対応できるようにともあるが。その様相を見ても香苗は落ち着きを崩すことはない。

 

「かまいませんわ。我々との遭遇におきましてはそちらともあまり良い顔合わせともいえませんでしたし。そちらに武装を解け、などとは申しません」

「落ち着いておりますな」

「ええ。言い方が悪いですが我々ゴッドイーターは貴女方リリィとは比べ物にならない身体能力を保有しております。この場でそちらの一柳隊が臨戦態勢であればまだしも、今のように武装を閉まっている状態からであれば逃げ切る自信はあります───もっとも…」

 

 香苗が視線を横に流す。笠松がそちらへ視線を向けると、お茶菓子として出されているクッキーとドーナツに目線を固定している蒼士と美姫がいる。香苗は小さくため息を一つ。

 

「二人共、食べていていいですよ。話し合いは基本的に私がします」

「…っ、いや…、それは、悪いだろ…」

 

 視線を無理矢理外した二人だったが、すぐに視線は下がる。

 

「普段は下の子達のために我慢を強いられていますし、こういう時くらいは貴方達が食べている方が相手の警戒心を下げる意味もあります。その代わり、できるだけ大人しくしていてくれると助かります」

「わかった!」

「…すまん」

 

 喜色満面でドーナツを頬張りはじめた美姫と香苗の方へと一度頭を下げてから手を合わせてからクッキーをかじる蒼士。その様子に百合ヶ丘の面々は驚いていた。

 

「申し訳ありませんでした」

「いえ。しかし、二人は何を我慢しておられたのか」

「そうですね。せっかくですからわたくし達の世界について説明しましょうか」

 

 ───そうして香苗は語る。

 

 自分達の世界──アラガミという存在によって崩壊している世界のことを。そこで生きている人々のこと、その人々を守護するために生まれた存在──ゴッドイーターのこと。

 そしてそんな世界でも数年前に大崩壊させるような災害が起きたこと。それによって守護するための存在の在り様が変わってしまったこと。そこへ現れた異界の少女のこと。

 

「我々としてはその少女──美姫をどうにかしてこちらの世界へと帰還させるための手段を探していました。そんな折、美姫の世界に存在する人類の敵、ヒュージがこちらの世界で観測されました。我々は散発的に出現するヒュージが特質的な空間を通って姿を現していることを突き止め、またその空間を通ってアラガミの一部がこちらの世界へと移動していることも把握したのです」

「それで、貴女方はこちらへ?」

「ええ。ヒュージは我々でも倒せました。しかし、美姫は我々の世界へと来た当初にCHARMを使用してもアラガミには傷一つ付けることがかなわなかった。となれば、そちらへ移動したアラガミを倒す方法があるとは思えなかった。しかし──」

「まさか、倒していたのでしょうか?」

「そうですね。美姫だけは実験的な空間の穴──【人造ケイブ】を通って移動できました。初の実験ではせいぜいが10分程度でしたが。そこで観測できたのは小型のアラガミ二体を屠るために少なくとも数名のリリィの亡骸があり、その友人と見えるリリィ達は泣き崩れていたそうです」

 

 香苗の説明に一柳隊が息を飲んだ音が聞こえた。香苗は口を潤すために一口飲む。

 

「このままではこちらの世界にはいずれ我々の世界以上の被害が出ると判断した我々は人造ケイブ突入後の存在固定についての仕様を解析、実用段階にまでこぎ着けた時点でアラガミの移動を観測。すぐに美姫と蒼士の二人がこちらの世界へと移動したのです」

「それが、彼女達との最初の出会い、というわけですか」

「はい。しかし、実用段階にまでこぎ着けたとは言いましたがあの時点では滞在時間は一時間程度。それでは話し合いなど行えるとも思えませんでした。よって最低限半日は時間を確保できるだけの段階になるまでは貴女方との接触は最低限に抑え、アラガミの殲滅にのみ注力することにいたしました」

「なるほど。お話としてはわかりました。それでは、今であればその時間を確保できたということでしょうか」

「はい。そのためにこの席につくことを決めて参りました」

 

 笠松理事長代行は香苗を目を細めて見つめる。香苗はカップをソーサーに戻すとその瞳の質が変わった。

 その瞳に笠松は一度目を閉じる。今までは話を聞くだけだった。しかし、ここからは違う。お互いの意思に対して着地点を探さねばならない。決裂するわけにはいかない話し合いだからこそ──笠松は目を閉じて意識を切り替える。

 

「それで、そちらとしてはこちらに何を望むのですか」

 

 ここからは上の闘いになる。目を開き、笠松は香苗に対峙する。

 

「わたくし達といたしましては【人造ケイブ】の相互開通における二世界間での安定的な移動の確立。リリィ達のアラガミに対する対抗手段の確立。それらの技術供与を行う上でこちらへの物資の供出。量や質に関しては別途決める必要はあるとは思いますが」

「ふむ。こちらとしても利益がないわけではない、ということですか。しかし、なぜアラガミに対する対抗手段をリリィに求めるのだろうか」

「人造ケイブの相互開通により、リリィがもし我々の世界へと渡れるのであれば力を貸与したいと考えています。無論、貸与するリリィについてはそちらに居並ぶ方々くらいは強い方々と考えております。まあ、それは将来的な話ですぐに実現できるような話ではありませんが。我々がこちらへ開通するだけでも四年近い歳月が必要になりました。そう簡単にはできない話ですわね」

「ふむ。我々といたしましてはアラガミの対抗策を早急に進めるべき話だと思ってはいます。しかし、こちらの技術では今のところ行き詰まっているところでしてな」

「…なるほど。そちらの技術者はどなたでしょう?」

「今こちらには居ませんな」

「そうですか。しかし、早急に進めるべき話なのはこちらも同意するところですわね。そちらの開発場所へ月華を案内できますか?技術者同士が話せばすぐに進む可能性もあります」

「ふむ。そちらはよろしいのですか」

「かまいません。我々は、今以上のアラガミの被害は看過できません」

「そうですか。…白井君、案内をお願いしてもいいかな?」

「…はい」

 

 笠松の声に夢結が立ち上がると入口へと歩いていく。月華は一度だけ香苗へと視線を向けるがすぐに夢結の元へと小走りで行く。二人が部屋から出ていくのを確認すると笠松と香苗は向き直る。

 

「さて、少し息をつくとしましょう。そちらの二人には、何か甘いものでよろしいかな?」

「お願いできますか?」

 

 蒼士と美姫の前にあった食べ物はすべて食い尽くされており、二人は恍惚とした表情で一息ついていた。

 その様子に香苗はため息こらいしか出ず、笠松は口元に拳を当てて笑いを堪えるばかりだ。

 


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