アサルトリリィ-Deus EX Machina- 作:揺れる天秤
ところ変わって、ここは百合ヶ丘女学院『一柳隊』の控室。今日から一柳梨璃が率いるレギオンが出来上がったわけなのだが…。
「お姉さまのために集めていたはずなんですが…」
「まあ、いいじゃありませんか。梨璃さんがリーダーでも大きくは変わりませんわ」
「ええ。楓さんのいう通り、私の隊としてでなくとも問題ないわ。そもそも、メンバーを集めたのは梨璃なのだから貴女がリーダーをしなくてどうするの」
「はい…」
イスに座り、優雅に足を組んで紅茶を飲みながら梨璃を推すのは楓・J・ヌーベル。叱りながらも慈しんだ目で見ているのが白井夢結。
周囲に居並ぶ他のメンバーも『うんうん』と頷いて同意を示しているので梨璃はこれ以上固辞できる状況ではなくなってしまった。
「さすがに今の梨璃に全てを押しつけてもレギオンがきちんと機能するとは思ってはいないわ。ちゃんと私がサポートするからそこは安心しなさい」
「お姉さまのサポートがあるなら…」
「でも──」
立ち上がった夢結はCHARMを構えると梨璃の眼前に突きつける。
「私がサポートするからにはいずれは完璧になってもらうわ。そこは覚悟しなさい、梨璃」
「お、お姉さま…」
気圧されたように下がろうとして──学院のチャイムが鳴り響く。その音に部屋にいた全員が見上げる。
「出撃の準備じゃな」
「開設初日から出撃なんて…」
「諦めるしかないねぇ。ヒュージは待ってくれないぞ」
ウキウキといった雰囲気で扉へと歩いていくのはミリアム・ヒルデガルド・v・グロピウス。
不安そうに手帳を握りしめているのが二川二水。
楽しそうに笑いながら二水の肩を押すのは吉村・Thi・ 梅。
「大丈夫かな…」
「大丈夫よ、雨嘉。さすがにレギオン単位で戦えないヒュージが現れることはないと思うわ」
胸元で両手を握りしめているのは王雨嘉。
雨嘉の肩に手を置いて笑いかけているのは郭神琳。
「さっさと終わらせよう」
伸びをしながら扉へと歩いていくのが安藤鶴紗。
「皆さん、けっこうやる気ですわね」
「初出陣だもの。やる気がないと困るわ」
「いきましょう、お姉さま」
★
学院を出て海岸沿いまで来た一柳隊の面々は少々…──というか、かなり困惑していた。いつもなら『ケイブ』と呼ばれる空間の穴の近くにはヒュージがいる。
だが、今見えているケイブの近くにはまったくの別物が複数見えていた。
「あれは、なに?二水さん、ケイブは見えるかしら」
「は、はい。確かにあの謎の生物群の奥にはケイブがあります。次々に同じような個体が姿を現していますからヒュージ…だと、思うんですけど…」
ケイブの周囲には二足歩行する白い体躯の獣が複数歩き回っている。
「…あれ、木食べてない?」
「…本当ね」
獣は周辺にある木々に噛みつき、一部は半ばまで抉られた木が折れ始めている。
「ヒュージ、ですわよね?」
「そのはずなんですけど…」
「ちょっと百由様に問い合わせてみるかの」
インカムを使って百由に連絡するミリアム。二水はレアスキル『鷹の目』を使って状況を確認しているが──
「どうもヒュージにしては動きに統率が取れてなさすぎな気もします」
「雨嘉さん、一体撃てるかしら?」
「はい、試してみます」
CHARMを遠距離仕様に切り替えた雨嘉が狙いを定める。的となる獣はあまり動くことなく周囲を確認するように首を振ってはいるが、その場に留まったままである。
「───ッ!」
──射撃音。
「…嘘」
「弾い、た…?」
撃った雨嘉と観測していた二水が茫然としていた。だが『鷹の目』に映る景色には全ての個体がこちらへと向いていた。
「…っ、気づかれました!」
「仕方ないわ。それぞれに攻撃を加えましょう。状況次第では一時撤退も視野に入れるべきね」
「お姉さま…。わかりました。皆さん、いきましょう!二水さんは雨嘉さんと一緒にここで観測、適宜射撃を加えてください!」
梨璃を先頭に一柳隊が次々と森の中へと飛び込んでいく。雨嘉は構えながら狙いを定めた相手を次々と撃っていくが──
「…っ、全部、弾かれて──」
「どうしましょう…。全然効いている気配はありませんよ」
前線へと駆ける夢結はCHARMを振りかぶって振り下ろす、が──衝撃音とともに弾かれる。
「──っ!?」
《──!!》
獣の瞳が初めて夢結や梨璃達を捉える。獣達が大口を開けて噛みついてくるのを飛び避ける。
「──ッ、刃が通らんぞ!?」
「こっちもダメです!傷一つつきませんわ!?」
「お姉さま、こっちもダメです!」
「全員の攻撃が通らない…?そんなこと──」
その時、全員のインカムに通信が入る。
『一柳隊、今すぐに学院前まで撤退してっ!』
「っ、百由?」
「百由様、どういうことですか?」
『ぐろっぴから送られてきた映像から解析したけど、そいつらはたぶんヒュージとはまったくの別物よ!CHARMじゃろくにダメージが入らない可能性が高いわ!』
「別物じゃと?!」
「でも、私達が下がったら──」
『今、アールヴヘイムのメンバーにも緊急招集をかけているの!できる限りの火力を整えて圧倒的火力で押し潰すしかないわ!』
「…っ、なら──」
後退していた梨璃は足を止める。
「梨璃っ!?」
「私達が時間を稼ぎます!このままだとあっという間に学院にたどり着いちゃう」
『えっ?いや、危険過ぎるわ!相手の強さが未知数で──』
「百由、悪いけど私も梨璃の意見に賛成よ」
「…じゃのう。このままでは戦力がそろう前に学院についてしまうぞ。こやつら、思ったより全然俊敏じゃし」
「雨嘉さんは二水さんの観測の元、引き続き牽制射撃を続けてください!神琳さん、二人だと何かあった時に対応しきれない可能性があります。神琳さんも雨嘉さんとともに遠距離からの射撃に切り替えてください」
「はいっ!」「任せてください!」「わかりました」
「お姉さまと楓さん、ミリアムさんと私が前面での引き付け、梅様と鶴紗さんの二人は機動力を使って多方面からの撹乱をお願いします!」
「わかったわ」「お任せくださいな」「やってやるかの」
「そっちは任せたからな」「任せろ」
「では、皆さん。一分一秒でも時間を稼ぎます!」
梨璃の号令とともに隊の全員が動き始める。引き付けるように走り、時には木々を足場に多方面から斬りつけていく。
その隙を縫うように遠距離から撃つ二人の弾丸が当たるが、一瞬も怯むことなく喰らいつかんと牙を剥く獣達に身体中にいくつもの傷をつくりながらも梨璃達は時間を稼ぐ。
「…っ、はぁはぁ…」
「梨璃、大丈夫?」
「はい、身体はどうということはないんですけど…」
荒れた息を飲み込むように整えている梨璃を見ながら、夢結は目の前の敵を見て歯噛みするしかない。
これだけの統率が取れた連撃を叩き込んでいれば並みのヒュージであればすでに決着は着いている。だというのに、目の前の獣はほんのわずかに刃傷があるものの明確なダメージはほとんど入っているようには見えない。
「このままでは、他のレギオンの火力を借りたところで…」
『──っ、梨璃さん、新たなケイブ反応が!』
「えっ?どこに──」
『まずい、学院前よ!』
二水と百由から届いた連絡はその場の全員を絶望させるには十分な情報だった。
「百由っ!アールヴヘイムは!?」
『今、数人が出撃準備に入ったところで、今の奴等がこんな位置に現れたら…』
「そんな…」
『…えっ?あれ、だれ?』
「えっ?」
百由の困惑した通信が聞こえて──
☆
学院の前に現れたケイブからは二人の姿が現れた。
「──ここが、美姫の故郷か?」
「──ええ。変わっていないようで安心したわ。百合ヶ丘女学院、私が最初に着ていた制服の学校。懐かしいな…」
『えー、懐かしいのはわかったから通信が聞こえてるなら二人とも返事もらっていい?』
「おう」「聞こえています」
『はい、ありがとう。どういう原理だがわからないけど、二人だけが人造ケイブを越えられたみたいなの。隼人と香苗様はこちらでひと息ついているわ』
「そうか。で、こっちにアラガミは?」
『行ってるみたいね。オウガテイル通常種がざっと見た感じで二十かなぁ?あと、通常ケイブから何か出てくる気配あるからそっちも要注意』
「了解。滞在時間は?」
『こっちに表示されてるタイマーをそっちにも表示するけど30分くらいかしらね。やれそう?』
「ぬるいな」
「サクっと終わらせて昔馴染みとお話できる時間取れたら嬉しいな」
『じゃ、がんばれ』
「おう。いくぞ、美姫」
「ええ、背中は任せなさい、蒼士」
二人はそれぞれの神機を構えると森へと飛び込んでいく。斜面を滑るように駆ける二人はすぐに彼女等を見つける。
「いた、リリィってやつか」
「今は無視。アラガミ最優先」
「わかってんじゃねーか!」
二人は一切の減速をすることなくオウガテイルの群れへと突っ込む。
「手加減、無用よね。──『ルナティックトランサー』!!」
美姫の深い蒼色の瞳が濃い紅へと変質し、紅い光をその身から溢れ出す。
「更に──喰らいなさい!」
オウガテイルの頭上を飛び越えながら神機を捕喰形態へと切り替えて喰らいつく。着地と同時に
「蒼士っ!」
「ありがたい!!」
リンク弾が蒼士へと撃ち込まれ、蒼士も神機開放する。蒼士の蒼い閃光と美姫の紅い閃光が残像を残しながら瞬く間にオウガテイルの群れを駆逐していく。
周囲の音や景色を置き去りに二人はケイブへと加速していく。ケイブからはわずかに何かの鼻先が見えた、が──
「邪魔、よっ!」
飛びかかった美姫の蹴りが現れ始めていたものをケイブ内へと押し返す。
「これで、終いだ!」
一歩遅れて到着した蒼士が双剣を振るうとケイブが斬り裂かれて空間へと消える。同時に二人のバーストモードと美姫の『ルナティックトランサー』が終了する。
「終わったな!」
「状況完了!」
『早っ!?えっ、5分たってませんけど?!』
ハイタッチわ交わす二人のインカムからは月華の驚いたような声が聞こえたが二人は気にしていなかった。
「さて、せっかくだしさっきいた奴等に挨拶だけして帰るか」
「そうだね。でも、見知ったの居たかな?」
そこへ、彼女等が焦ったように姿を現した。
【
甲州撤退戦において殿を任され、最終的に大型ケイブとともに消失したとされていたリリィ。
蒼士達の元で生活するなかでともに戦いたいと願い、月華によってCHARMを基幹にした神機を保有(ヴァリアントサイス・スナイパー)、自身もAGEへと転向。
基本的に明るく陽気。髪をアップテールかサイドテールにしており、戦いは中・遠距離主体のサポーター。登場時は16歳。02話終了時は20歳。
リリィ時代に獲得したレアスキル『ルナティックトランサー』はAGEに転向してからも使用しており、戦闘能力は他のリリィでは相手にならない。