アサルトリリィ-Deus EX Machina-   作:揺れる天秤

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第03話 伏柴美姫

 自分達の側を何かが駆け抜けた。それだけが梨璃や夢結、楓達が理解できた。一瞬後には目の前の獣達が次々と両断されては霧散していくのだけが映り、二つの閃光は残像を残してケイブのある方へと駆けていったことだけはわかった。

 

「百由、今のは…」

『…んな、だって、ありえない…』

「百由?」

「なんじゃ?様子がおかしいぞ」

『梨璃さん!ケイブが破壊されました!』

「ええっ!?」

「二水さん、それは先ほどの閃光が?」

『は、はい。こちらからは見えていますけど一組の男女さんです。あっ、ハイタッチしてます』

「わかったわ。こちらはその様子を確認しに行くから、そちらは学院へこのことを報告に向かって」

『わかりました!』

「いくわよ、梨璃」

「はい、お姉さま」

 

 梨璃達が駆けていった先にはこちらを待っていたようにしか思えない一組の男女がいた。その出で立ちはどこかの学院のリリィという感じは微塵もない。

 

「あの、貴方達は…」

 

 梨璃が声をかけようとした瞬間、女性の視線が夢結と梅で止まった。

 

「あー!夢結と梅だぁー!」

 

 大声をあげた女性は二人が身構える一瞬すら与えずに距離を詰めて手を握った。

 

「よかった~!あの撤退戦を無事に生き延びてるんだぁ~!あっ、他のアールヴヘイムの人達はどうだろう?二人が生きてるってことはきっと生きてるよね~!?」

「えっ、と…」

「ちょ、ちょちょちょっと、待ったー!!」

「ん…?」

 

 目の前でテンションがマックスに近い相手はどうやらあの『甲州撤退戦』での顔見知りではあるようだ。だが、夢結も梅も目の前の相手に見覚えがなければ成長しているのだとすればなおのこと誰かわからない。

 

「あー、そっか。当時は二人そろって中学生だったしわからないよね。そっかそっか。私が見覚えがあっても二人はわからないよね。当時は高等部二年だった私を見覚えなくても仕方ないわよね」

 

 うんうんと何やら納得して頷いている。当時は高等部二年?

 

「なあ、夢結。この妙に馴れ馴れしくてテンション高い先輩に一人だけ心当たりあったぞ」

「ええ、奇遇ね。私もよ」

 

 梅と夢結は一度顔を見合わせてから前にいる女性へと目線を向ける。

 

「あー、まさかとは思いますけど『伏柴美姫』さん?」

「っ!?あは~、覚えててくれたー!」

 

 喜色満面で飛びかかってきた『伏柴美姫』を梅と夢結は避ける。スッ転ぶかと思えば綺麗な側転からバク転を決めて着地していた。

 

「なんで避けるかな?」

「…本当にあの『伏柴美姫』であるという保証はありませんから」

「そっか。いや~、疑り深いね」

「疑りたくもなるぞ。『伏柴美姫』といえば当時の『甲州撤退戦』を知っている人からすればまさしく英雄なんだからな」

「英雄?私、そこまで凄いことした覚えないけど?」

「お姉さま、すみません。『甲州撤退戦の英雄』って…」

「お姉さま!?えっ、なに、この子、白井夢結さんのシルト!?」

「ええ。そうよ」

「へえー。…あれ?白井夢結さんのお姉さまって川添さんじゃなかった?」

「───っ!?」

「なっ…」

 

 梅も驚いていたが夢結自身が一番驚いていた。確かに当時の『伏柴美姫』は自分のシュッツエンゲルの誓いを知っていなければ出てこない名前が出てきた。

 対して『伏柴美姫』は何か察したように目を伏せる。

 

「私だけじゃ、ないよね。あれだけの敗戦で亡くなったリリィが一人とかはあり得ない、か。私が言うのもなんだけど、シルトは大事にね、白井夢結さん」

 

 悲しげな笑みでこちらを向く『伏柴美姫』を見ていた夢結の耳にあるインカムから声が聞こえた。

 

『夢結、そこに伏柴美姫は居る!?』

「百由?確かにそう名乗る人は目の前にいるわよ」

『その人、なんとしてでも連れて帰ってきて!』

「…は?」

『『甲州撤退戦の英雄』。そして、今なら『ケイブから帰還した者』って言えばわかりやすいかしら!?』

「──っ!?」

 

 夢結が見つめた先には先ほどまで『伏柴美姫』の後ろで見守っていた男性が何やら話しかけている。

 

「そっか。もう、時間か」

「時間?」

「白井夢結、貴女にこれを渡しておくわ。きっと、今後の貴女達に役立つはずだから」

 

 何かのメモが押しつけられた。手元を見て、視線をあげた先にはケイブへと消えようとしている二人がいた。

 

「なっ、待ちなさい!」

「また会いましょう、白井夢結。次はもうちょっと時間が取れるようにするから」

 

 二人がケイブへと消えると同時にケイブも瞬く間に消滅してしまった。後に残された梨璃や夢結達はただただ茫然としているしかなかった。

 

 

 

 

 ★

 

 

 

 

 『伏柴美姫』との接見から数時間後。一柳隊・控室には一柳隊の面々に加えて工廠科の真島 百由(まじま もゆ)がいた。

 紅茶を飲みながら話しているのは『甲州撤退戦の英雄』との呼び名を持つリリィ、『伏柴美姫』について。

 

「そっか~。さっさと帰っちゃった感じか~」

「あの、百由様。そもそも誰なんですか『伏柴美姫』って」

「あ~、梨璃ちゃんとかは知らなくても当然か。彼女はわかりやすくいうなら数年前にあった『甲州撤退戦』における撤退戦の最終防衛ラインをただの一人で支え切った挙げ句に、当時の大型ケイブを破壊することでその後のヒュージの大規模侵攻を未然に防いだ──と言われている言葉通りの『英雄』さん」

「そ、そんな方だったんですか?!」

「ええ。確か、当時のアールヴヘイム所属の『ルナティックトランサー』保有者だったはずよ」

「『ルナティックトランサー』って、お姉さまと同じレアスキル…」

「そうだぞ。あの当時の面影っていえばあのテンションくらいしかなかったけどな」

 

 呆れて話す梅に隣で見ていた鶴紗も苦笑している。

 だが、百由だけはため息をついていた。

 

「なんでため息ついてるんだよ」

「つきたくもなるわよ。『英雄』様が行方不明だった理由はCHARMもろともに跡形もなく消滅したんじゃなく、大型ケイブの先に消えて、数年の時を経て帰ってきたのよ?技術者としてはどんな方法で帰ってきたのか気にならないはずがないでしょう」

「ははは…、百由は相変わらずだな」

 

 和やかに過ごす控室の中、梨璃は夢結に視線を合わせたままだった。

 

 控室からみんなが解散したところで、梨璃と夢結、楓の三人は学院の食堂で一つのテーブルを囲んでいた。

 

「それで、私に話ってなにかしら」

「他の方は気づいていなかったようですが、私は見えていましたわよ。彼女から何か渡されていましたわよね」

「…梨璃も同じ理由かしら」

「はい。すみません、お姉さま」

「いいわ。私も中は見ていなかったし確認しておきたかったから」

 

 メモを開いてテーブルに広げる。

 

「何かの、設計図でしょうか?」

「そうみたいね」

「これは、私達では手に余るものではないでしょうか。ミリアムさんか百由様に渡すのが最善だと思いますわ」

「お姉さま、百由様に渡してみませんか。あの伏柴美姫様が預けてきたということはあの方にとってこれはきっと私達にも関係のあるものだと思います」

「…そうね。まだ、疑いは晴れないけれど。これは技術職に預けるのが最善ね」

 

 夢結は百由に連絡するとものの五分ほどで姿を現した。

 

「なんでさっきの話し合いの時に出してくれなかったのよ?」

「あれが本当に『伏柴美姫』である確証はないからよ」

「夢結は疑り深いわねぇ。にしても、このメモ…」

 

 メモを眺めていた百由は何度か頷きながら…

 

「たぶんだけど、あの謎の生物をCHARMでどうにかするための設計図と…こっちは、なにかしら。手持ちの資料とかと比べてみないと正確なことは言えないけれど、たぶん…あの謎のケイブの資料…」

 

 メモを見ながら席を立った百由はブツブツと何かを呟きながら歩いていってしまった。すでにこちらのことから意識に上がらなかったようだ。

 

「解析は百由に任せるしかなさそうね」

 

 ため息一つ、夢結は紅茶に口をつける。

 

「あの、お姉さま」

「なにかしら?」

「『伏柴美姫』…。『撤退戦の英雄』とまで言われているのは控室で説明していただいたことで本当に全部なんですか」

「どういうことですか、梨璃さん」

「何か、隠していますよね?」

「───」

 

 紅茶を口にしながら目を閉じていた夢結だったが、梨璃が退く気配を見せなかったことで折れた。

 

「…そうね。あの戦いの場にいた梨璃にはあれほどの傑物のことを知らないままというのも気になるばかりよね」

「傑物…」

「『伏柴美姫』。当時の百合ヶ丘女学院では『変人』で有名だったらしいわ」

「『変人』?」

「わかりやすく例えるならそうね。…ベースは梨璃、戦闘能力は私で機動力は梅、指揮が楓並で、百由の頭脳を有していた、と話したら貴女達は信じるかしら?」

 

 楓と梨璃は顔を見合わせて、夢結に向き直って首を横に振った。その様子に夢結は薄く笑った。

 

「ええ。そんな『化物』がいていいはずがない。でも、あの戦いにおいて、伏柴美姫というリリィはそれほどまでの獅子奮迅の働きを見せたのよ」

 

 甲州撤退戦のあらゆる戦場へとその身体能力とレアスキルで振るえるだけ暴れ回ったという。時には戦場で散っていった仲間のCHARMすら自らの武器にして、鬼神のごとき戦いぶりで戦場を支えていた。

 

「最期の撤退戦になった際にほとんどのリリィは戦意を喪失状態にあったと聞いているわ」

 

 夢結自身、シルトのお姉さまを刺してしまったという事実から茫然自失に近かった。

 あの戦場にいたリリィのほとんどはそんなありさまだったらしい。

 

 ───『鬼神』と名高き彼女を除いては…

 

「撤退戦の殿(しんがり)には彼女自らの志願によって当時のアールヴヘイムの一部が彼女のためにCHARMを進呈したとかいろいろな臆測は流れたそうだけど、実際問題として彼女の撤退戦の殿においてのヒュージの釣果は特型含めて四桁に迫ろうかというほどだったと記録が残されたそうだから一笑に付すのは難しいわね」

 

 夢結の説明に梨璃と楓は息を呑むしかなかった。少なくとも四桁近いヒュージをたった一人で駆逐し続けられるだけの集中力やマギの保有など、通常では考えられない。

 梨璃達のそんな思考など夢結もわかっていたのだろう。一枚の紙を二人の手元へと滑らせる。

 

「これは当時の『伏柴美姫』が考案したとされる薬物よ。簡単に説明してしまえば寿命を犠牲にして体内のマギの精製量を爆発的に増やすというもの。実際に完成して使用されたかは百由いわく不明らしいけど、少なくとも十年単位での寿命を犠牲にすれば四桁分を退けられるマギの量は確保できるそうよ」

「…これ、一番下に『ゲヘナ』の文字がありますが…」

「廃棄された資料らしいから漏れていても不思議じゃないらしいわよ」

 

 本当に漏れていてもいい情報なのだろうか。劇薬としては危険過ぎる薬品にしか見えないし、『ゲヘナ』の横に【機密】と書かれた印が押されているのだが…。

 

「…どちらにせよ、あの『伏柴美姫』は私とは違うわ…」

「お姉さま?」

「──なんでも、ないわ」

 

 夢結が席を立ち、離れていくのを梨璃はただ見送るしかできなかった。

 

 




 【梧桐 隼人(あおぎり はやと)
 ミナト『リーリエ』所属のAGE。蒼士と同年代の現場参謀役をよくやっている。神機はロングブレード・アサルト。
 月華の研究をよく手伝っている技術系の能力も有しており、現場での作戦立案もよくこなしている。デバイス機能を内蔵した片眼鏡をかけており、香苗などからは『執事』と呼ばれたりする。
 伏柴美姫のことは悪友のような関係となっており、蒼士とともによく問題行動を起こす彼女には日々苦労し、他のメンバーもわりとトラブルメーカーでもあるのでけっこうなレベルの苦労人だったりする。
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