アサルトリリィ-Deus EX Machina- 作:揺れる天秤
ケイブを使えば本来は遠く離れた場所にでも一瞬のうちに到着できる。美姫は高いビルの立ち並ぶ街中を歩いていた。
「懐かしいやつから連絡がきたわね~。あいつ、私と連絡取れるとは思ってないんじゃないかなぁ」
美姫がたどり着いたのはとあるカフェのテラス席。イスに腰を下ろし、店員にコーヒーと簡単な軽食を頼む。
注文が席に届けられてから数分。向かいのイスに一人の男性が座った。
「…久しぶりだな、伏柴美姫。まさか、再び連絡が取れるようになるとは思っていなかったぞ…」
「そうでしょうね~。私もまさか貴方から連絡が来るとは思ってなかったし。──で『G.E.H.E.N.A.』はどうなの、晴臣」
向かいに座った男性──
「またコーヒーだけ?胃、荒れるわよ?」
「君に心配されるようなことではない。しかし、また君はわずか二年ほどで見違えるほどになったな。女性らしくなった」
「…あ~、撤退戦から数えると二年か。ややこしい話にはなるんだけど、私これでも撤退戦から四年生きてるんだよね」
「は…?どういうことだ」
「うーん。かなり突飛な話になるんだけど──」
美姫は撤退戦において自身の身の上に起きた事態を説明すると、晴臣はコーヒーを飲もうとしていた手を止めることになった。
「ケイブをくぐったら別の世界にいた、だと。お前、頭大丈夫か?」
「まあ、そう言いたくなるのはわかるわよ。でも、私は事実しか話してないわよ」
「うちに売り込みにきた頃から思っていたが…、お前やたらと波乱万丈な生き方してるな。そういう性分か?」
「うっさいなぁ。『G.E.H.E.N.A.』に所属してるようなやつにヤイヤイ言われたくないわ」
お互いにコーヒーで一息つく。
「それで、私の作った【OF】は完成したの?実験することなく私自身は実戦投入したわけだけど」
「ああ、一応完成した。お前が当初出していた仕様からは幾分かグレードダウンはしたがな」
「どれくらい?」
「並のリリィに投与できるくらいには、だ。あの薬を俺に任せてくれたお前のおかげで今の俺は『G.E.H.E.N.A.』の中でもそれなりの地位にいられるようになった」
「あら、出世おめでとう」
「ああ。だが、お前が目指していた仕様だが…あれは無理だろう」
「なんでよ」
「『ルナティックトランサー専用の薬』としてお前はあの【OF:OverFlow】を作り上げるつもりだったのかもしれんが、あれは劇薬を超えている」
「そう?でも、あれさえつかえるようになれば『ルナティックトランサー』使いは『
「あのな~。命に関わりかねない薬物使ってまですることじゃないって話だ」
「でも私をモニターしてた『G.E.H.E.N.A.』としては有用性は認められたんじゃない?」
「有用性があることと危険性が高過ぎることを同列に語るな。実際、お前の言うことが本当であるなら、あの薬物が使えばケイブを越えてしまえるリリィが出来上がるんだぞ。そんな人類にとって危険性の高いリリィ、どこが保有しようと思う!?」
「その時は私の今の上司に言って引き取るわよ」
「おい…」
「まあ、その辺りは追々私の方で研究を続けるしかなさそうね」
「そうしてくれ。俺はあの薬の研究はもう終えた気でいたんでな」
軽食を食べ終え、二杯目のコーヒーを頼む。
「…で、私は何のために呼ばれたの?」
「…エレンスゲ女学園の『ヘルヴォル』というレギオンがあるのは知っているか?」
「ええ。エレンスゲの序列一位とやらが毎年レギオンメンバーを選出して組まれるやつよね」
「ああ。今年はその『ヘルヴォル』に対して『G.E.H.E.N.A.』からは俺がいろいろと指示が出せることになってな」
「へぇ?それで?」
「お前には近いうちにヘルヴォルのメンバーと顔合わせしてもらいたい。俺の実験の助手役としてな」
「私みたいな変人を一般的リリィと引き合わせて大丈夫?」
「お前、自分で言ってて空しくならないか?」
「いいのよ別に、自虐する分には…」
「そうかよ」
けたたましい音が鳴り響き、にわかに周囲の人々の動きが慌ただしくなる。
「…ヒュージの出現警報。東京ってエリアディフェンスなかったっけ?」
「ケイブが現れにくいだけで完全に封殺できるわけじゃないからな。つーか、その辺りはお前も勉強してるはずだろ」
「興味はなかったから軽く流してたかも。にしても、ここの人達、慌てすぎじゃない?」
「さっき言ったエリアディフェンスの関係で東京──というか関東圏はヒュージからの襲撃頻度は鎌倉府などとは比べ物にならないくらい少ないんだよ」
「あー、防衛策の弊害なわけね」
「俺達も避難するか。お前もさすがにCHARMは持ってきてないだろ?」
「そうね。CHARMは無いけど──好都合といったところかしら」
「なに…?」
足元に置いてあったケースを蹴り倒す。蓋が開き、美姫はそこにある神機を持ち上げる。
「ちょうどいい獲物が来たのだし、他のリリィが来る前にどれだけやれるか試してみるのもよさそう」
「…お前、それ、なんだ?」
「…神機。渡った世界で私に与えられた新しい力」
神機を肩に担いで立ち上がる。遠くに白煙がたなびいている。
「あっちか。あんたの提案、また今度にするわ。時間も押してるから、今日のところは私の実験だけで終わるわ」
「わかった。またこっちに顔出した時にでも連絡くれ」
「ええ。了解よ」
白煙へ向かって跳躍する。ビルの壁面を蹴りながら中空を駆ける。
「さて、まずは通常で暴れてみますか!」
見えてきたヒュージを飛び越えて群れの中心へと着地する。ヒュージが次々とこちらへと向き直り、砲台型はこちらへと攻撃を射ち出してくる。
美姫は一歩で目の前に居並ぶヒュージの一団を斬り裂く。スモール級を斬り飛ばしながらその身に攻撃が当たるが──
「痛いは痛いけど…」
美姫は軽く肩を回しながら腰のポーチから一本の注射器を取り出す。
「──さて、ゴッドイーターになってから初めての【OF】を使ってみますか」
首筋に突き立てて中身を押し込む。
「相変わらず、入れてすぐは身体に影響出ないわね…」
首筋を撫でながら身体が熱くなるのを感じる。瞳がうっすらと紅く変わるのを感じながら、神機を構え直す。
「──さあ、第二ラウンドといきましょうか」
美姫の見据える先──ミドル級を多数従えてラージ級が接近してきていた。
★
『ヘルヴォル』の初鹿野瑤と飯島恋花は道路をひた走っていた。
「一葉は相変わらず人使いが荒いよねぇ」
「でも、今日の場合は仕方ないと思う」
「まあねぇ…」
ヘルヴォルは出撃任務を受けて現地へと来ていたのだが、相澤一葉、佐々木藍、芹沢千香瑠の三名は市民の避難を優先しつつ、周辺に出現しているスモール級を討っている。
恋花と瑤はリーダーである一葉の指示で最前線に出現しているだろうラージ級の侵攻状況を把握してほしいとのことで、最前線へと来ていた。
「…ミドル級が全然いない」
「いや、いないわけじゃないみたいよ。瑤、あそこ」
恋花の指さした先には真っ二つになったり、バラバラ死体のレベルで斬り刻まれたスモール級やミドル級のヒュージが転がっている。
よく見渡してみればあちらこちらにヒュージのバラバラ死体が転がっている。
「誰かが戦っている?」
「そうみたいね。念のため、一葉には報告しとくか」
通信を開き一葉と連絡する。どうやら誰かしらがヒュージと戦闘していること、かなりの数のヒュージが出現していること。
通信の向こうはまだ避難が完了していないのか、騒がしくはあるが一葉は命令しながらこちらと話している。
『もうすぐこちらも片付きます。すぐに合流しますので危険を感じたらすぐに撤退を』
「はいはい。わかったわかった~」
通信を閉じると恋花と瑤は再び走り出す。
「一葉はああ言ってたけど、ラージ級を拝むくらいはしとかないと戦術の立てようもないしね」
「…でも、いったい誰が戦っているんだろう」
「一葉がエレンスゲに聞いたみたいだけど芳しい返答は返ってこなかったみたいだし、もしかしたら偶然に巻き込まれたリリィがいるのかも」
二人の耳に戦闘音が響く。二人は顔を見合わせると足を速める。
「瑤、近いよ!」
「わかってる!」
比較的開けた場所にソレはいた。横倒しになったラージ級にトドメの一振を振り下ろし、ラージ級が真っ二つに割れて動きを止める。
周囲にはいくらいたのか、夥しい数のヒュージの死体が転がっている。そこに立つ一人の女性はあちらこちらにヒュージの体液をつけながらも、ラージ級にCHARMを突き立てた体勢から起き上がる。
「…あれ、ヤバくない?」
「…普通にヤバいと思う」
その所業は『異業』としかいえないほどの有り様。無数のヒュージをただ一人で殲滅、ラージ級すら一人で仕留められるリリィなど聞いたことはないし存在しないと思いたい。
そんな化物が『自分達の目の前にいる』。あまりの惨状に二人は知らず知らずのうちに木々に隠れていた。
こちらの気配に気づいたのか紅の瞳がこちらを射抜く。強烈な殺気を孕むソレに二人は思わず完全に隠れてしまっていた。思わずお互いの口を手で塞ぐほどに焦っている。
しばらく殺気はこちらを射抜いていたが、こちらが姿を見せなかったからかソレの気配は遠ざかり、やがて感じなくなった。
「「…はぁ~…」」
お互いの口を押さえていた手をどけると二人はそろって息をはいた。手は冷や汗をかいている。
「あれ、ヤバくない…?」
「うん…。一葉にもだけど、エレンスゲにも報告した方がいいと思う」
「同感…」
二人は木々の陰から出るとラージ級の死体が転がる広場へと足を踏み入れた。
「…ラージ級以外、全部一撃で仕留めてる」
「そのラージ級も的確に部位を破壊してる。相当にヒュージの構造をわかってないとこんな戦いはできない…」
死骸を確認していくがその強さを再確認するだけだった。確実に仕留めるための効率性を最大レベルで行えるだけの腕前を持つリリィがどこかのガーデンにいる。
「…まだまだ精進だね」
「いやー。この強さになる特訓とか一葉の練習メニューでも無理がありそうなんだけど…」
【
エレンスゲ女学園に出資している組織【G.E.H.E.N.A.】に所属している研究者。美姫の旧友。
美姫が完成させようとしていた試薬【OF:OverFlow】を通常リリィに投与しても問題ない薬に作り替えたことで組織内ではそこそこの地位に就いている。
リリィを実験体と見ていることに変わりはないがリリィを『使い潰していい』とは思っておらず、G.E.H.E.N.A.という組織にしては比較的真っ当な人間。