アサルトリリィ-Deus EX Machina-   作:揺れる天秤

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第08話 理事長室にて…

 百合ヶ丘女学院、理事長室。日も落ちた部屋の中、高松 咬月(たかまつ こうげつ)は最近起きている出来事をまとめられたレポートを読みながらお茶をすすっている。

 理事長の机の先にはソファが一つとテーブルが一つ。そこには百由が座り、紅茶を飲んでいた。

 

「──なるほど。つまり、あの『伏柴美姫』は確認できているかぎりでは『本物』で間違いないということか」

「はい。ただまあ、DNA検査などはしておりませんから、100%の一致ではありません。あくまでも過去に残っているデータとの照合では『本人』であるとしているだけです」

「そうだとしても有意義な話ではある。彼女は少なくともこの学院に在籍している生徒達からみれば言葉通りの『英雄』だ。彼女の成し得た功績はあの『G.E.H.E.N.A.』からももたらされたが、あれは私達をも驚かせることにはなった」

「治験薬のことでしょうか」

「ああ、あれも彼女がもたらしたものだったな。彼女は一人で多くの成果を生み出している。百由君、君のように」

「お褒めにあずかり恐悦至極にございますが…、未だに開発にすらたどり着いていないものもありまして…」

「うん?」

「レポートの最終ページに詳細を載せてあります」

 

 咬月はレポートをめくり、最後のページの資料を読み込む。眉間に皺を寄せ、資料に視線を落としたまま──

 

「これは、ケイブの資料?」

「いえ、正確には『人造ケイブ』と呼称する世界を渡る技術になります。どうやら彼女はコレを使ってこちらへと赴いているようなんです」

「ふむ。資料を見るかぎりでは…製作は試みているといったところか」

「いいえ、物は完成しています」

 

 咬月が資料から視線を上げた。その表情は驚きに満ちている。

 

「完成させた?となれば、もう試運転なども行っているのかい?」

「いえ、それは難しいかと…。起動するだけでもノインヴェルト戦術級のマギが必要になりますから」

「…それは難しいな。しかし、物は完成しているのであれば生徒達の手を借りて実験しようとは思わなかったのかな?」

「いえ、それはいつでもできますから。それよりは、もう一つの方を優先するべきかと思いまして」

「もう一つ?」

 

 改めて資料を読み進めると『ソレ』はあった。

 

「これは…CHARMの強化案?」

「そうです。それこそが今まさに必要なものであり、開発が難航しているものでもあります」

「これは具体的にはどういうものなんだね?」

「簡単に言ってしまいますと先頃現れた『生物』を倒すための強化機能が入ったマギ仕様強化案になります。ただ──」

「ただ?」

「ソレを組み込むには現状のCHARMでは強度不足となり、かといって強度を上げる方策はそちらの強化と相性が悪いらしく…。現状、行き詰まっています」

「ふむ。強度不足というが具体的には…」

「そちらの強化を入れたままですとノインヴェルト戦術におけるマギスフィアを受け止め切れなくなります」

「受け止め切れない、とは?」

「受け止めた瞬間にチャームが自壊します。パスを回す余裕すらありません」

「それは…確かに困りものだね」

 

 お互いにお茶と紅茶を飲みながら咬月は資料を見ながら思考を巡らせる。

 先頃の『生物』はスモール級のヒュージサイズでありながらその外格の強度はラージ級のそれと同等に近い数値がある。現状存在するCHARMであの生物を倒すのであればノインヴェルト戦術で一網打尽にするのが最善策だろう。だが、資料に付随している一柳隊の戦況レポートを見るかぎりでは不可能に近い。

 ──となれば、やはり強化は不可欠のようだ。だが、そうすると今度はノインヴェルト戦術が使えないという。こちらは基本的に使えなくても問題ないといえばない。しかし、ノインヴェルト戦術はリリィ達の『切札』であることも事実なのだ。それを安易に諦めてもらうわけにもいかない。

 

「我々だけでは答えは出せそうにないね。現場の生徒達にも広く意見を募ってみてはどうかな?実際に相対した一柳隊や壱番隊であれば良い案を出してくれると思うよ」

「そうですね~。三人寄れば文殊の知恵ともいいますし、集められるだけの頭を集めて考えてみることにします」

 

 ブツブツと呟きながら部屋から出ていく百由と入れ替わりに生徒会の出江 史房(いずえ しのぶ)がはいってきた。

 

「お話は終わりましたか?」

「うむ。しかし、これは由々しき事態といえる。ヒュージだけでなく新たな脅威とは…」

「そのわりにはあまり驚いている様子がありませんでしたが…」

「…そうだな。君や生徒会の者が知っていても大事に繋がることはなかろう。こちらを見るといい」

 

 ソファにすわった史房の前に一つのディスプレイが現れる。そこには映像が流れ始める。

 単なる定点カメラなのはわかるが少々画質が粗い。民間のものだろうか…と眺めていたが。

 

「──これは」

 

 そこに映り込んだのは先日姿を現した謎の生物。さらに、ソレと戦うのは──

 

 

「ヒュージ、でしょうか…?」

 

 丸い外格に鎌のようなものを振り回す生物。その映像はまさしくヒュージと謎の生物の交戦映像だった。

 

「理事長代行、これはいったい…?」

「それは我々のもとにあの生物が出現するよりも一年以上も前の映像になる。東京のエリアディフェンス外縁部のヒュージ接近を知らせるカメラの一つだそうだ」

「一年以上前の映像!?」

 

 戦っていた二体のうち、手前にいたヒュージが喰らいつかれ破壊される。雄叫びをあげていた生物もそのまま横倒しに倒れたかと思えば黒い霧のようなものを一瞬残して消滅する。

 

「これはいったい…」

「詳しくはわからん。だが、生物はヒュージを討った途端にその場で死亡、霧散し、生物としての死骸すら残っていなかったそうだ。その映像の地点には複数のヒュージの死骸こそあれど、他の生物らしきものは居らず、また対応に遅れていたとの話からどこかしらのガーデンが対応したとも難しいとの話だそうだ」

「理事長代行はこの映像から何をお考えで…」

「少なくともかの生物は散発的に出現していると考えている。しかし、リリィの交戦記録はここの一戦しかないところと先の映像から考えるに、あの生物は元々短命である可能性がある…と、思いたいが…」

 

 上に立つ者が希望的観測をすることは許されない。少なくともあの生物は散発的に出現はしているのは確かである。

 

「何もなければそれで問題はない。だが…」

「そうはいきそうにないでしょうね」

「うむ…」

 

 二人がため息をつく。そこへ、理事長代行の元に一つの通信が展開される。

 

『───夜分遅くに申し訳ない、高松理事長代行』

「これはこれは。君の方から私への連絡とは珍しいことがあったものだ」

『すみませんね。本日、旧友と顔を合わせまして。そちらの耳にも入れておこうかと』

 

 『SOUND ONLY』と表示されていたものが眼鏡をかけた青年へと切り替わる。

 

「顔を見せて通信をするのは二年前以来だね、晴臣君」

『ええ、この回線は私物ですから。普段のG.E.H.E.N.A.の回線では顔見せ厳禁ですのでご容赦を』

「いや、それは各組織の体面もある。君と私が個人的に親しくなっていることを組織が禁止できないようにね」

『はははっ。高松理事長代行も言いますね』

「それで、旧友と会ったということだが…どうしてそれで私に連絡を」

『そちらにも関係するからですよ。『英雄』についてのお話です』

「…ここでも彼女か」

 

 咬月は苦虫を噛み潰したように顔を歪める。その表情に晴臣は片眉を上げる。

 

『どうやら、すでにそちらにも接触は図っていたようですか』

「ああ。一部のリリィとは言葉を交わしている」

『なるほど。これほどまでに精力的に動く理由があいつにはあるということか。言い方が適切かはわかりませんが、あいつがこれだけ精力的に動いているのなら何らかの理由があると私は忠告しておきましょう』

「ふむ。例えば、だが…。どのようなことが考えられる?」

『さて。あの変人の思考をトレースできるのなら便利ではありますがね。あいつは常人とは違うので、普通に動くことはないでしょう』

「そうか…」

『ただ、一つだけ。あいつとやり合うことは無いように願います。おそらく、今のあいつには百合ヶ丘女学院の全リリィを投入でもしないかぎりは倒せる可能性はありません』

「…それほどとは思わないが」

『いいえ。本日こちらであったことですがエリアディフェンスを越えてきたヒュージの大群をただ一人で蹂躙していったリリィがいたとエレンスゲより情報が上がってきているようです。今のあいつがもし【OF】を保有しているのであれば、対抗できるものではありません』

「わかった。頭の片隅にでも留めておこう」

『そうしてください。あいつは──すでに『甲州撤退戦』の頃とは比べものにはならないほどの化物になっているかもしれませんから。あと──…いや、これは俺から貴方に漏らすわけにはいかない情報ですからやめておきます。とりあえず、伏柴美姫には気をつけてください』

 

 通信が切れる。一部始終を静かに聞いていた史房は閉じていた目を開ける。

 

「まさか、理事長代行にそのような特別な情報網があるとは思いませんでした」

「はははっ。彼とは彼女のことで相談を持ちかけられてね。それからは時折こうやって連絡し合う気安い相手だよ」

「G.E.H.E.N.A.の研究者のようですが…」

「ああ。こちらで一部のリリィを預かっていることも言ってはみたがね。彼は『自分の案件ではないので気にしません。うちも一枚岩な組織ではありませんから』だそうだ」

「なるほど。異端者、とでも呼べるような研究者ということですか」

「いや、彼もG.E.H.E.N.A.の人間ではあるよ。他の所属者とは少し違いはあるようだがね。しかし──」

 

 ここでも『伏柴美姫』の名を聞くことになるとは思っていなかった。いったい彼女はどれほど動いているのか。姿を見せてまだ数日のはず──

 

「考えることが多いね。まったく…」

「はい。懸念材料は増える一方です」

 




【OverFlow】
 通称【OF】。伏柴美姫が開発・監修を担当した『ルナティックトランサー』専用の薬剤。

 通常、『ルナティックトランサー』発動中のリリィは敵味方の区別がつかなくなってしまうが【OF】はその状態を強制的に解除し、また体内で精製されるマギの量を爆発的に増大させる薬として製作された。
 しかし、その副作用には多大なリスクが複数存在しており、通常のリリィでは運用するのは危険が大きすぎるという…(晴臣談)。

 こちらの薬剤を通常のリリィでも使用できるレベルにまで落とした薬が晴臣の手により生み出され、現在は『G.E.H.E.N.A.』の強化リリィ達に対してのみ試験的に運用されている。
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