(※この作品は、pixivにも投稿しています)
あくまで自分の妄想ですので、なんでも赦せる方向けのお話しになります。予めご了承ください。
雪の国、ユニーリア──1年の大半を雪が降る日で占めており、当然のように毎日が寒いことで知られている。
だから今日みたいに晴れ渡った日は、子供たちは我先にと外に出て雪遊びに興じ、大人らは雪掻きに追われる光景が当たり前になっていた。
その光景を1人、離れた小高い丘から覗いている陰があった。
あどけない顔と華奢な身体は年相応の少女らしさが詰まっていながら、身に纏う服は大人びている。水色の長い髪には絢爛な花の髪飾りをし、大きめのコートからちょっとだけ出された指先は白磁のように美しい。
「…いいなぁ」
ポツリと呟く少女は、胸の前に抱えているビスクドールをぎゅっと抱き締める。視線の先には雪遊びに夢中な子供たち。自分も混ざって遊びたいのに、今日はすぐにでも家に帰らなくてはならない。それがちょっぴり寂しくて、ずれた帽子を深く被り直した。
「帰らなきゃ」
踵を返した彼女のスカートが静かに舞う。揺れた艶やかな髪から見えた耳は、人のそれとは違って少し長く、先が尖っていた。エルフに見られる特徴的な耳だ。もっとも、彼女はエルフではなく人とエルフとの間に生まれたハーフエルフだが。
とことこ歩いていくと、すぐに自宅が見えてくる。なにせこの辺りで1番大きい家──いや、屋敷だから方向を誤らない限りすぐ目につく。人里離れた白銀の大地に住む雪の一族であり、そのご令嬢こそが彼女、雪花ラミィだった。
ラミィも久しぶりの晴れ間を満喫したくて散歩に出たのだが、鼻先は寒さで赤くなっていた。すんすんと鼻を鳴らしながら、大事な友達のビスクドール、マリリンを抱え直す。マリリンを外に連れ出すのはちょっと抵抗があったが、ずっと屋敷にいても息が詰まってしまうだろうからと、こうして晴れた日に一緒にお散歩するのが日課になりつつある。
「?」
家までもう少しと言うところまで来た時、ふと足が止まる。愛らしく小首を傾げる彼女の先には、色鮮やかな青が目立つ壺が転がっていた。見たことないそれに、怖さよりも好奇心が勝り、ラミィは少しずつ、少しずつ近づいていく。
「わ、モコモコだ」
よく見ると、壺の口にモコモコした何かがはまっている。一見して雪に紛れてしまっているが、ふわふわな毛並みがうっすらと輪郭を縁取っていた。
「うんっ、しょっ!」
試しに引っ張ってみるが、雪に埋もれているせいでびくともしない。家に連れ帰りたい気持ちに突き動かされ、ラミィは駆け足で家に戻るとマリリンを暖房のきいている自分の部屋にそっと座らせると、自分でも動かせる荷車を持ってきた。
「よいしょ、よいしょ」
周りの雪を払い、壺の全体像が見えたところで荷車へ。恐る恐る持ってみるが、壺は見た目ほど重たくはなかった。しかし硬いのは変わらないようで、ゴトンと音が鳴り、ラミィは思わずびっくりしてしまう。乗せたモコモコの生物の顔を覗き込むが、寝ているのか気絶しているのかびくともしない。
「すぐ温まろうね」
優しく語りかけながら、ラミィは家路を急いだ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ピアノを弾くのは、少しだけ苦手だ。でも嫌いじゃないし、今は聞かせる相手がいるから少しだけ楽しい。
その旋律を奏でる手が、ピタッと止まる。部屋の隅っこであのモコモコが動いたからだ。ラミィがピアノを止めて駆け寄ると、モコモコがじっとこちらを見上げている。
「初めまして。私、ラミィ。雪花ラミィです」
緊張させないように膝をつき、目線を合わせてゆっくりと言の葉を紡ぐ。モコモコは続く言葉を待っているのか何も言わず、ラミィと視線を合わせてくれる。
「あなたのお名前は?」
名前が分からないのでは話ができないのではと思い、とりあえず聞いてみる。しかし、返ってきたのは首を横に振る仕草のみ。教えられないのか名前がないのかもそうだが、ラミィが1番気になったのは───。
「もしかして、喋れない?」
モコモコは小さく頷いた。
父と母に事情を話して家に入れてもらったまでは良かったが、まさか喋れないとは思わなかった。
(お父様とお母様は、分かっていたかもしれませんね)
モコモコが目を覚ますまで教えてもらったのは、その存在が雪の精霊であること。まだ幼い精霊で、親が探しているかもしれないこと。怪我をしているからそれが治るまでは家に置いて良いことだけ。
「じゃあ、ラミィが名前を付けてあげます!」
マリリンにしてあげたように、精霊にも名前を付けたい衝動から、思わず身を乗り出していた。精霊は驚いたような顔をしたものの、しばらくしてこくんと頷いてくれる。それを見て、瞬く間に顔を輝かせるラミィ。
腕を組み、うーんと唸る。ずっと家にいるわけではないにしろ、やはり可愛い名前がいいだろう。その見た目に違わぬ、愛らしい名前が。精霊をまじまじと見詰め、やがて1つの名前が頭に浮かぶ。
ゆったりと噛み締めるように呟く。
「だいふく……うん、だいふくなんてどうでしょう?」
真っ白な姿から連想されたのは、丸くて甘い和菓子。福を包み込んだその姿が、精霊にぴったりな気がした。
名前と言う概念が存在しないのか、精霊には善し悪しが分からないようだ。それでもラミィからもらっただいふくと言う名前を吟味するように小さく身体を揺らし、遂には大きく頷いてくれた。
気に入ってもらえるか不安だったラミィの表情もたちまち明るくなり、嬉しさからだいふくを抱えて部屋を飛び出す。
「お父様、お母様。この子の名前、だいふくです! ラミィが付けたんです!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
だいふくがラミィの家に来た翌日。
家の中を案内するべく、だいふくを壺ごと抱えて屋敷を歩き回る。壺は硬さこそあるものの、子供のラミィでも簡単に抱えられるのは精霊が使う代物だからだろう。今は怪我のせいで1人では動けないだいふくだが、元気になれば浮遊できるのだとか。
「早くよくなるといいですね」
頭を撫でると、だいふくは嬉しそうに目を細めた。
怪我は身体にあるものもそうだが、だいふくが入っている壺にもいくつかヒビが見受けられる。だいふく自身の怪我が治れば壺も自然と治るらしいが、いつまでもヒビのあるものに入ってもらうのは忍びなかった。
「さぁ、お絵描きしましょう♪」
そこでラミィは、だいふくのための新しい壺を作ることに。と言っても、作るのは大人たちであって、自分たちは絵柄を考えるだけだが。
画用紙とクレヨンを用意して、だいふくに渡す。そこまでは良かったのだが───
「あっ……」
───思っていた以上に、だいふくの手が短くて画用紙にクレヨンの先がまったく届いていない。その姿にどうしようとあわあわするラミィだったが、だいふくはころんと身体をうつ伏せにして床に敷いた画用紙へクレヨンを走らせていく。
「だいふく、痛くない?」
身体にはまだ擦り傷が見受けられる。床に押し付けられているほどではないが、場合によっては傷口が当たってしまうことだってあるだろう。
しかしだいふくはころころと回転して仰向けになるとふるふる首を横に振って平気だと教えてくれた。
「じゃあ、ラミィも」
机の上に置いていた画用紙を、だいふくと同じく床に。彼女もうつ伏せになって画用紙に絵を描いていく。
「ふんふふ〜ん♪」
鼻歌まじりにクレヨンを走らせるラミィ。ご機嫌なのか、足もパタパタと上下している。久しぶりのお絵描き。しかも誰かのために自分の思うままに描くのは楽しかった。だいふくの表情は大きく変化しないものの、クレヨンで少しずつ描いていくところを見るに、つまらなくはないようだ。
「だいふくは何描いてるんですか?」
覗き込むと、だいふくはゆっくりと身体を起こして見せてくれる。壺と思われる半円の中に、楕円形や三角形など様々な図形が散りばめられており、中央には波模様が描かれている。
「え、ラミィの?」
ちょいちょいと短い手が動いている。指し示す方を見ると、先程まで自分が描いていた場所を向いていた。
「じゃじゃ〜ん♪ 雪の結晶を描いてみました」
自信満々に見せてくれた画用紙には、だいふくと同じように半円形で、また端を蒼く彩られた壺が。そして極め付けとでも言うように、中央にはデカデカと雪の結晶が描いてある。
パチパチと短い手で拍手が起こる。だいふくの喜んでいる表情につられて、ラミィの顔も自然と綻んだ。
そうして再び絵を描いていく2人。時々だいふくが後ろに回り込んでくるから何かと思えば、髪飾りを見ているようだ。ラミィは髪飾りを外すと、よく見えるようにだいふくの前に置いた。
自分が身につけている物を描いてもらうのは、恥ずかしくもあり嬉しくもある。ラミィもだいふくの顔をじーっと見詰め、画用紙に描いていく。それを見て、だいふくが絵のだいふくの隣に並んだ。
「ふふっ、そっくりです」
ラミィはだいふくと画用紙を抱えると、1体のビスクドールの前に持っていく。大事な友達のマリリンだ。
「見てください、マリリン。だいふく、そっくりですよね」
マリリンからはもちろん返事はない。しかしラミィは満足そうに絵を見せては笑っている。
「だいふく、この子はマリリン。私の大事なお友達です」
マリリンを紹介すると、最初こそ見慣れぬビスクドールに戸惑っていただいふくだったが、最後にはぺこりと頭を下げる。友達が増えたことにはしゃぐラミィは、いつにも増して笑顔を見せていた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
だいふくが来て、1週間。
「できました〜♪」
新しい壺が完成し、ラミィは早速沸かしたお湯を壺へゆっくり注いでいく。どうやらだいふくは雪の精霊でありながら寒がりらしい。雪国育ちのラミィも寒さには弱いので、共通点があるのはなんだか嬉しかった。
寒がりなだいふくのため、壺にお湯を注いで、そこへだいふくがはまることでポカポカ温まれる造りになっている。1度入れたお湯は、精霊の力によって温かさをずっと保てるらしく、だいふくが弱っていたのは壺にできたヒビからお湯が漏れ出てしまったことも影響していた。
「これくらい、ですか?」
だいふくにも見てもらいながら、湯量を微調整する。どうやらそこは拘りがあるようで、精霊によってもバラバラなんだとか。
指定された湯量になったところで、だいふくが新しい壺に身体をおさめる。ぴったりはまったようで、その表情は柔らかく、嬉しそうだ。
ラミィも自然と笑みを零すが、一瞬だけ表情が翳る。だいふくの傷は癒えているし、壺も新しくした。もうここに留めておく理由がなくなってしまったのだ。きっと、明日には離れなくてはならないだろう。
「だいふく、お外に行きましょう!」
せめてたくさん遊びたい──その一心で、だいふくの小さな手を引いて外へと駆け出す。
昨日は大雪だったから、屋敷の周りはすっかり新雪が積み上がっていた。柔らかな雪に、真新しい自分の足跡をつけていく。だいふくを抱っこすると、壺を通じてじんわりとお湯の温もりが伝わってきた。まるでホッカイロみたいだ。
だいふくと雪景色を満喫し、雪だるまを作り、追いかけっこをして、思い出を築いていく。喋らないだいふくだが、何を思っているのかはかなり分かってきたと思う。楽しんでくれている──綻んだ表情からそれが分かり、ラミィも笑みを深くする。
「どうしたんですか、だいふく?」
やがてだいふくがラミィの周りばかり浮遊するようになり、何か伝えたいのだと気付いてそっと両手を差し出すと、ふわふわと着地する。そして壺の縁をぺちぺち叩いてアピールしてきた。
「そこに掴まればいいんですか?」
こくこくと頷くだいふく。いつも以上に力強い頷きに、どこか自信が窺える。いったい何が始まるんだろうとドキドキ、ワクワクしながら壺の縁に掴まる。
すると───
「わっ、わっ!?」
───身体が、宙に浮いた。
ラミィが掴まったまま、だいふくは更に上へ。ピンと足を伸ばしても届かないところまで来て、改めて自分が浮いているんだと実感する。
足が付かない感覚は初めてで、ちょっと怖い。しかしだいふくも怪我をさせないようにと考えているようで、浮いていると言っても大して高くなく、飛び降りようと思えば怖がらずに降りられるくらいの高さだから、安心だ。
「すごい……だいふく、すごいです!」
空を飛んでいるとは言いがたいが、宙を浮く体験は未知なるもので、ラミィは大はしゃぎ。だいふくも嬉しそうに鼻を鳴らしている。
そのままふわふわと浮いて、あっちへこっちへ。いつも見ている景色のはずが、だいふくと一緒だとまるで違って見えた。
しかし、浮いているのは確かにだいふくの、精霊としての力なのだが、壺の縁を掴んでいるのはラミィのものだ。当然、限界と言うものがあり、自重に引っ張られ続けているのだからそれは否応なしに近づいていて───。
「だ、だいふく、そろそろ降りてもらえると──ひゃっ!?」
遂には指が滑り、ラミィは悲鳴を上げる暇もないまま、積もった雪の中へズボッと埋まってしまう。
「ぷはぁっ!」
ラミィが落ちた先は新雪ばかり。お陰で怪我はないが、胸まで埋まってしまって簡単に出てこられない。慌ててだいふくがやってきて、懸命に腕を引っ張ってもらい、やっとの思いで抜け出すことができた。
「くしゅんっ!」
このままでは風邪をひいてしまうかもしれない。外で遊ぶのはここまでにして、ラミィはだいふくを連れて家路を歩いた。
身体が冷える前にお風呂に浸かっている間、だいふくはふわふわと浮いてどこかへ行ってしまった。さっきまでそばにいてくれただけに、いないと急に寂しくなってくる。
(ダメダメ!)
ぺちぺちと顔を叩いて気持ちを切り替える。だいふくは察しがいいから、自分が寂しそうにしていたら一緒にしょげてしまうだろう。
「だいふくー」
お風呂からあがって部屋に戻り、声をかける。するとベッドの方で何かが動いた。羽毛布団が、もぞもぞとはためいている。
「ひっ!?」
思わず幽霊なのかと身構えてしまったが、羽毛布団の端からだいふくのために作った壺が見え隠れしている。
「だ、だいふくなんですか?」
恐る恐る声をかけると、少しずつ羽毛布団がずれて、だいふくが姿を現した。
いったい何をしていたんだろうと思いながらベッドに腰掛けると、だいふくのいたところがほんのり温かい。
「もしかして、温めてくれたんですか?」
ラミィの問いに、こくこく頷く。優しい気遣いが嬉しくて、だいふくをぎゅーっと抱き締める。
「ありがとうございます、だいふく♪」
その日はマリリンとだいふくとラミィの3人でベッドに入り、色んな話をしている内に静かに眠りについた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
翌朝。
屋敷の前でラミィとだいふくは向き合っては何も言えずに黙っていた。引き留めたい気持ちをぐっと堪えて、ラミィはゆっくりと口を開く。
「もう怪我も治ったし、大丈夫ですよね?」
しかし、だいふくは頷こうとしない。怪我はないし、壺も新しくした。それは誰の目にも明らかなくらい明瞭で分かりやすい。それでも、だいふくはじっとラミィを見たままなんの仕草も見せない。
「だいふく……」
声が震えそうになる。
行かないでと言いたくなる。
ちっちゃな手を握って、屋敷に連れ戻したくなる。
せっかく友達になったのだ。離れ離れは、嫌だった。
「家族が、待ってますよ」
そうだ。離れているのはとても不安で、寂しくて。だからこそだいふくの家族だって心配しているに違いない。ラミィは髪飾りを外して、だいふくに持たせる。それを、お別れの合図として。
「たまには、私のことを思い出してくださいね」
きっと、酷い顔をしているだろう。今にも泣き出しそうなのが、自分でも分かるくらいなのだから。
押し付けるように、半ば強引に髪飾りを渡すと、だいふくは1度だけ大きく頷いて浮遊しながら屋敷を出て行く。途中、何度もチラチラとラミィの方を振り返ったものの、止まらずに去っていった。
その日の夜は、ベッドの隣にできた空間が少し大きく感じ、涙が止まらなかった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
だいふくが帰ってからと言うもの、ラミィはいつも窓の外を眺め、晴れた日には外を歩き回ってばかり。
もしかしたら会えるんじゃないか──期待を胸に、足が重たくなっても構わず探し回る。
1日が終わり、1週間が経ち、1ヵ月が過ぎた。その間、だいふくの姿を見かけることはなく、ラミィは毎日空振りの日々を過ごす。
(不思議だなぁ)
だが、何故か残念に思うことはなく、続けていればまたいつかだいふくに会えるような気がしていた。確信めいた直感が、ラミィの心を励ましてくれている。
気付けば、だいふくが屋敷を出てから1年が経過していた。青空の下、新雪によって一新された真っ白なカーペットの上を歩いていく。サクサクと小気味良い音と足跡を刻みながら、今日も予感を頼りに散策する。
「あっ」
ふと、その足が止まる。視線の先には、雪の重みで倒れてしまった看板。立ち入り禁止を記した、大事なものだ。誰かが誤って入ってしまわないよう、ラミィは看板を立て直そうと足を踏み入れる。この先は崖とまではいかないものの、急な下り坂になっていて、雪に埋もれていて深さがよく分からなくて危ないからと、立てておいた看板だ。
「よいしょっ」
ぐっぐっと力をこめて、看板をまっすぐ立てる。あとは自分が滑らないようゆっくり戻るだけ──その時だった。
「ひゃあっ!?」
急に強い風が吹き、帽子がさらわれる。両親にプレゼントしてもらった、大事な帽子だ。ラミィは慌てて手を伸ばして既の所でキャッチするが、崩れた体勢を戻せず、そのまま足を滑らせてしまう。
落ちていく感覚に、思わず目を閉じた。真っ暗な視界。凍てつく雪の冷たさ。倒れ込む勢い。怖くてなかなか目を開けられずにいたが、誰かが伸ばした手を掴んでくれた。
恐る恐る顔を上げると、そこには見知った陰が。白くてモコモコな愛らしい姿。一緒に絵柄を決めた壺。小さくて、でも優しい真っ白な手。
「だ、だいふく!」
待ち望んでいた友達が、自分の手を握ってくれていた。
だいふくはちょいちょいと手を伸ばし、ラミィの空いている手も握る。そしてゆっくりと上昇し、元の位置まで連れ戻してくれた。
「だいふくーー!」
地面に足が着いた途端、ラミィは我慢できずに無二の親友に抱きついた。柔らかくてモコモコな毛並みは肌触りがよく、壺から伝わる熱は温かい。離れる前、一緒に寝たあの時とまったく変わっていなくて、自然と笑顔になる。
友達の温もりを堪能し終えると、だいふくはラミィの抱擁から逃れて後ろに回って何かをつけてくれた。そっと触れるラミィには、覚えのある感触だ。
「もしかして、私の髪飾り?」
こくんと頷くだいふく。ずっと持っていてもらっていたのが嬉しくて、思わず目尻に涙がたまる。それを見ただいふくは何事かと慌てるが、ラミィはそれが面白くてくすくす笑ってしまった。
「だいふく、今日は遊びにきてくれたんですか?」
期待をこめた問いかけに、しかしだいふくはふるふると首を横に振って否定した。たまたま通りかかっただけなのかと再度問おうとするより早く、だいふくは転がっていた枝を取り、雪の上に何か書いていく。
それはユニーリアで使われている文字。だいふくには最低限しか教えていないはずなのに、すらすらと書き連ねていった。
何が書いてあるのか気になって覗き込むと、だいふくがサッと枝を振るう。すると、雪に刻んだ文字がパァッと蒼く輝きだした。
「すごい! だいふくはもしかして、魔法使いなの?」
精霊だと分かっていても、その力を目の当たりにして驚くなと言う方が無理だ。だいふくに促され、改めて読んでいく。
「えっと……『ラミィに恩返ししに来た』?」
ラミィが読んでいる間に、だいふくはさらに書き込んでいる。家族と再会を果たしたこと。助けてもらった恩返しがしたくてユニーリアの文字を勉強したこと。ラミィの“お供”としてそばにいたいこと。色んなことを話してくれた。
「“お供”って、なんですか?」
友達とは違う響きに、ラミィは小首を傾げる。だいふくは言葉を選びながらなのか、書いたり消したり、悩んだりを繰り返しながら続けた。
「『大事な人に仕えること』……?」
はっきりとは分からなかったが、大事と言ってもらえたのが嬉しくて、ラミィはぱあっと顔を輝かせる。
「じゃあ、これからはだいふくと一緒なんですか?」
だいふくが頷く。それを目にした瞬間、ラミィは我慢できず抱き締めていた。嬉しくて、待ち遠しくて、愛おしくて、大切な友達と、また一緒にいられる喜びに突き動かされ、だいふくを抱き締めてまま踊るようにくるくると回る。
「ふふっ!」
気付けば回り過ぎてバランスを崩し、雪のベッドへ仰向けに寝ていた。だいふくを掲げ、ラミィは満面の笑みで告げる。ずっとずっと、言いたかった大切な言の葉を。
「おかえりなさい♪」