「…う…」
掠れた声が口から出る。
喉が痛み、体がだるい。極めつけは腰が痛い。
「屠自古、おはようございます」
「んぇ…?」
目を開けると、目の前にはにこやかに笑う神子がいる。
それも至近距離である。
「…………〜っ!!!!」
昨夜のことを一気に思い出した。
屠自古は顔を一気に真っ赤になり、布団を顔まで隠した。
「屠自古、とてもかわいかったですよ」
「…もういわないください……あとおはようございます……」
こんなに清々しい神子の笑顔は見たことがなかった。
屠自古のいる場所は、神子が作らせた邸である。
日がよく差し、木々は揺らいでいる、とても居心地のいい所である。
飛鳥時代は現代と違い、通い婚である。
なのでこうして屠自古はいつも神子を待つことになる。
「屠自古、お願いがあるのですが」
「なんでしょう、神子様」
「この屋敷を道教の修行に使いたいのです。なので、ここに霍青娥を呼びたいのですが…いいでしょうか?」
「ああ、それなら。いいですよ」
青娥が居ないと話にならないのだ。
尸解仙になるには、彼女を利用するしかない。青娥に会ったことがないが。
どうも知識通りの仙人らしい。
「ですが、なるべく彼女に接触しないように。話がある場合は私か布都に通してください」
「布都もですか?」
「ええ。話した時は驚かれましたが…でもまあ大丈夫でしょう」
「分かりました」
屠自古は考え込む。
神子のことは愛している。だが尸解仙になるかと言ったら…
「あら私のことがなんですか?」
「…!?」
後ろを振り向くと楽しそうに笑う青娥がいた。
「はじめまして、蘇我様。私は霍青娥といいます。豊聡耳様からあなたの事をよく聞いておりますわ」
「…どうも…」
青娥は屠自古の手を取る。かなり友好的に見えている。
(なぜよりによって…!)
神子は苦虫を噛み潰したような顔になりかけたが、笑顔で取り直した。
「青娥、屠自古は…」
「ええ、わかっておりますわ、豊聡耳様。あくまで協力者、ですよね?」
「まあ…」
「………」
屠自古は少しだけ後ろに引く。
これ以上話したら、いけない気がした。
「それにしても流石、豊聡耳様のお眼鏡ですわ。こんなに綺麗なお嫁さんを貰うなんてね」
「当たり前です。屠自古は私の愛する妻ですから」
「っ……太子様…!」
「でも一緒に尸解仙にはならないのですよね?」
「…そうですが…青娥、いったいなにを考えているんですか」
「?いえ…てっきり豊聡耳様は蘇我様と一生そばに居るものと思っていたのですが」
当たり前の事だろうと、青娥は首を稼げる。
「確かに一生そばに…いや、死んでも居たいと思っています。でも、屠自古には意思があります。屠自古の意思を無碍にする訳にはいきませんよ」
神子は屠自古を肩に寄せる。
屠自古の耳に、神子の心音が聞こえた。これが、いつか聞こえなくなるのだろうか。
(…私だって…)
神子のそばに居たい。ずっと。
「蘇我様は、どうしたいのですか?」
青娥の青い目が覗いてくる。こちらを、見透かすように。
「屠自古、あまり無理は…」
「甘やかしてはいけませんよ、豊聡耳様」
「………私だって、太子様のそばに居たい」
「ふぅん、それで?」
青娥の目には、特に何も映されていない。
ただ、純粋に貴方はどうしたいの、と聞いているだけだった。
「本当は怖い。だけど、私は…なります。やってやります。尸解仙に…!」
「屠自古、それは…」
「無理して言っている訳ではありません。…あなたへの思いを自覚して、ようやく決心がついたところです」
「へぇ…」
屠自古はじっと青娥を見つめ返した。
「…霍青娥殿。私にも、仙術の手ほどきを受けたい。…お願いしても?」
「ええ、かまいません。歓迎しますわ、蘇我様」
三日月に曲がる目。
まるで面白いおもちゃが増えた、みたいな。
「屠自古…」
だが、神子の胸中は複雑である。
これから、屠自古は危険な道に入ることに。
「…太子様、あなたの言いたいことはわかっています。でもこれは私の意思。…大丈夫、無理はしません。よ、世継ぎも産まなければいけませんし…」
最後は完全に声が小さくなったし、俯いた。
青娥はあらあらと面白そうに笑い、神子も一旦納得した。
(…そうだった)
ただ神子の方は、今が充実しすぎて、忘れていたが。
主人公を尸解仙にする?
-
プロローグ詐欺になるし亡霊で
-
尸解仙にする
-
その他(感想の方に必ず記載)