東方転雷録   作:龍覇

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31話

蘇我屠自古を殺せ。殺せ、殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ。

まだ、三人生きていたあの頃。

布都は疲れ切ってしまっていた。

怨念の声が布都の頭の中を支配する。支配し、今や布都は布都でなくなっていた。

「あは、あははは…」

笑いが収まらない。誰か、助けて欲しい。

それでも残っていた一欠片程の布都の理性は、止めるほどに至らない。

それ故に、苦しんでいく。

嫌だ、屠自古を傷つけたくない。

殺す。

嫌だ。

殺す。

嫌だ。

もう、やめてくれ。

神子と屠自古に、一生残らない傷をつけないで欲しい。

屠自古の依代となる壺を手に取る。

その壺はちゃんと焼かれ、朽ちることはないだろう。

しかし、落とせば当然ながら割れる。割って、用意した壺と大差ない、焼いていない壺をすり変えれば、これは終わる。

ここに来る前の神子を思い出せ。

苦痛の表情を。

待ってくれ、と言おうとした神子の伸ばされた手を。

病気が発覚した直後の屠自古を思い出せ。

苦しげに息する顔を。

余命宣告された絶望した顔を。

「…はっ、は…」

笑いすぎて、過呼吸ぎみになる。

胸の苦しみに、少しは素面に戻った。

「………」

壺を一旦置き、耳を塞ぐ。

耳障りな、怨念の声がうるさい。

「…ああ、もう。うるさい、黙っておれ」

こんなに低い声が出るのか。頭の片隅で思う。

「我はお主らの人形ではないぞ!太子様に仕え、蘇我屠自古の義母である、ただの物部布都だ!!」

持てる力の全てを、自分に向けた。

なぜ最初からこの通りにしなかったのか。

恐らく、心の底で納得しなかった自分がいたからだろう。

だが思い出せ。布都を気遣い想う、神子を。

心地よい声で笑顔を向ける、屠自古を。

「我の心は我のものだ。お主らにあげるものでは無いわ!去るがいい、過去の亡霊たちよ!!」

バシュウウ、という音を立てた。

黒いモヤが布都から大量に出る。

黒いモヤは裏切り者め、と布都に向けて叫ぶ。

「…さらばだ、同胞たちよ。…さようなら、兄上」

また更に印を組む。

さらに大きな陣が布都の手から光り、数々の怨霊は断末魔の叫びを上げながら消えていった。

「…カフッ」

消えたのを見届けた布都は血を吐き出した。

体に怨念が宿っていのと術を使用したこともあって、布都の体は完全に死ぬ一歩手前となったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

パチリ、と目が開くと、博麗神社にある宴会会場の天井が見えた。

その後からくる気持ち悪さと頭痛に、飲みすぎたと悟る。

鼻からくる酒臭さが余計に気持ち悪さを助長させる。

「…ゔ…これはまずいな…」

一旦吐かないとダメだろう。そう思い、トイレを目指した。

実は何回も下見をしたので場所はある程度覚えた。

トイレで吐いて流すと、先程まで寝ていた宴会会場を見る。

どいつもこいつも、グースカグースカと呑気に寝ている。妖怪がいるがここで退治する気も起きなかった。

寝ていた所にまた寝転がる。鼻はもうこの酒臭さになれたのか、もはや何も感じなくなった。

一通り吐いてきたので、あとはこの割れるように痛む頭をどうにかするだけだ。

ふと、隣に寝ている屠自古と神子を見る。

寄り添って寝ている。

「んふふ…」

思わず布都は笑う。愛おしすぎて。

屠自古の方を見ると、体も特に何も無い。本当に尸解仙になれたのだとつくづく思う。これから、忙しくなるだろう。

布都はもう、怨念の声が聞こえない。静かな─否、所々でいびきが聞こえるので少しうるさいが、殺せ、憎いという声が聞こえないだけでこんなにも気が清々しいとは思わなかった。

「なあ、屠自古」

屠自古は当然寝ている。

「…お主に会えたから、我は変われたし、過去と決別ができた。…ありがとう」

その布都に顔は正に、母親の顔と言っても過言ではなかった。

主人公を尸解仙にする?

  • プロローグ詐欺になるし亡霊で
  • 尸解仙にする
  • その他(感想の方に必ず記載)
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