こういうのは守護輝士の仕事だと思う   作:シャケ@シャム猫亭

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気合は最後のひと押しであって手段じゃない

「おーいミズーリ、こっちだ」

 

 ミズーリが目的地に着くと、ザンバが近くの崖の上から声をかけてきた。

 

「何とかと煙は高い所が好きってわけ?」

「違う違う。ここからなら見やすいから、上がってこいよ」

 

 何がとは聞かない。どうせ行った方が早いから。

 ミズーリはひとっ跳び地を蹴り、ふたっ跳び空を蹴り、ザンバのいる崖の上へと上がる。

 

「遠くに壊れた建物があるだろ? あそこだ、ダーカー反応があったのは」

 

 ザンバが指差す方を見れば、峠の下に教会のような建物があり、制服着た人達が囲んで何かしている。

 近くには赤色灯を付けた車両が何台も停まっており、どうやら立ち入りを禁じているようで、何人か野次馬がその車両によるバリケードの外にいた。

 

「この惑星の警備隊かしら?」

「多分そんな感じだと思うぜ。アレのせいで近づけなくてさ」

 

 言葉も通じないのに、下手に接触して揉め事になったら面倒だ。

 実際、前の任務で面倒なことになった。具体的には、助けた子が特級の犯罪者だったというやつ。後悔はしていないが、面倒だったことには変わりない。

 とはいえ、ダーカー反応については無視できない。

 

「ここから調べられるか?」

「そんなの残留因子の濃さによるわよ。まあ、やってみましょ」

 

 ミズーリは自分の仮想端末を立ち上げ──すぐに閉じた。

 自分の端末は、その計算領域を言語解析に回しているため、ダーカー因子解析まで行う余裕が無くなっていた。

 

「ザンバ、アンタの端末貸して。私のいっぱいいっぱいだったわ」

「ほい」

 

 ザンバは腕につけていたバンドを外すと、軽くミズーリに放った。

 それを取り付け端末を起動し、さっそく解析を開始する。

 

「……時間が経ったせいか、だいぶ散っちゃってるわね」

「いけそう?」

「ギリギリセーフってとこ。これ以上遅かったら、ダメだったかも」

 

 ミズーリが端末を操作し始めてものの十分で、簡易的な解析結果が出た。やはり、今までに確認されたことのないダーカー反応だ。

 蟲型、魚介型、有翼型、玩具型、そのどれにも属さない。

 

「亜種かしら……新種だったら大問題ね」

 

 亜種なら眷属が増えただけだが、新種となれば、それはすなわち新たなダークファルスの誕生に相違ない。

 星一つを易々と破壊せしめる存在だ。二人で対処するには荷が重すぎる。もしそうならば、どうにかしてアークスシップと連絡取らなければ。

 目下、その手段が思いつかないのが悩みだが。

 

「……はい、端末返すわ。ついでに、今出来たところまでの言語解析結果入れておいたわよ」

「おー、サンキュー。どのくらい通じる?」

「簡単な単語くらいなら。慣用句は全く通じないと思って」

 

 ザンバは返されたデバイスを取り付け、早速翻訳機能をONにした。

 とはいえ確かめる相手はいないので、上手く翻訳されているかは分からない。

 

「ところで、着替えたのね」

「ん? ああ、スーツ? 枝に引っかかったりして走り難かったからな」

 

 そう言いながらも着ているのはジャッジメントコートCなので、コートの裾がむしろ引っかかり易い気もするが、まあ着慣れた服装の方がいいということだろう。

 防御力には全く関係ないことであるし。

 

「ミズーリは着替えねえのか?」

「……そうね。地球じゃないなら地球向けの服着てる意味はないわよね」

 

 ミズーリは端末を操作し、アイテムパックに入れていたウェアへ切り替える。

 瞬く合間にミズーリのカジュアルスーツがソフィスレーナルへと変わった。

 

「お、新作?」

「今度出来る新しいクラスの戦闘服。使い勝手とかのデータ取る必要あったから丁度いいわ」

「へえ、その頭のうさ耳みたいなアンテナいいな、可愛いぞ」

「かわっ──またそうやってさらっと…………これは集音器。この首元にあるヘッドフォンと合わせれば、微かな音も拾えるらしいわ」

「……使う機会あるか?」

「無いからほとんど飾りよね」

 

 アークスの戦闘服は、割とそういうところが多い。

 極寒地帯用の戦闘服は断熱機能により体温が下がるのを防ぐ機能があるが、別に体内フォトンを活性化させれば寒さなんてへっちゃらだし。むしろ肌が覆われるせいで大気中のフォトンを吸収しにくくなって、逆に寒いなんて声も聞かれる。

 因みに猛者は、マイナス50度にもなるナベリウス凍土地帯だろうが、溶岩が川のように流れるアムドゥスキア火山地帯だろうが、赤褌一丁で行く。ミズーリは真似する気には全くならないが。

 

「さて、これからどうしようかしらね。私は下手に現地民に接触するより翻訳機が完成してから────ザンバ?」

「肌がビリビリする……湖の方、戦いの気配だ」

 

 その言葉にすぐさまミズーリは双眼鏡を取り出し、湖の方へ向けて覗き込む。

 大自然の美しい景色が見えるが、感嘆の声など全く出てこない。目的はそれではない。

 右へ左へと双眼鏡を動かし──見つけた。

 

「街道から外れた森の奥、上空で戦いが起きてる」

 

 一対一……いや、人影はないが、一対二だ。

 

「行くぞ!」

 

 言うか早いか、ザンバは崖から飛び降り、戦いの方へと走り出した。

 慌ててミズーリも飛び降り、追いかける。

 

「ちょっと、どっちが善悪かわからないのに」

「行けばわかる!」

「この行き当たりばったりめ…………わかったわよ」

 

 戦いになるかもしれない。

 ミズーリはアイテムパックよりガンスラッシュを取り出すと、いつでも抜けるよう腰のホルスターに収めた。硬い鞘のようなもので覆われたそれは少々無骨であるが、性能は折り紙付きである。

 ザンバも同様に、その背に大剣を背負う。

 こちらもミズーリのガンスラッシュと同じく鞘のようなもので覆われている。

 

「アンタが前衛(フロント)、私が遊撃(フォロー)、いいわね」

「逆でもいいぞ?」

「剣で切り結んでたから、おそらく物理系よ。なら腕取れても平気なアンタが前の方がいいでしょ」

「違いない」

 

 ザンバは笑って頷くと、走る速さを一段上げた。

 ミズーリも遅れず付いて行き、二人は戦いの場へと一直線に向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シグナムが戦ってるだって!?」

 

 第三世界ヴァイセンにあるカレドヴォルフ社を訪れていたヴィータ二等空尉は、リインフォース(ツヴァイ)司令補佐官からの知らせを受け、驚きの声を上げた。

 そしてすぐさま次元港へ向かうべく、建家の外へと走り出す。

 

「アイツの武装、まだ出来てねーのに!」

『捜査の途中でフッケバインと遭遇したらしいです。それでやむなく───』

 

 次元港は近くにあるため、車を用立てるよりも飛んだほうが早い。緊急時以外は街中での飛行は禁止されているが、その緊急時なのだから何も問題ない。

 

「出撃命令は?」

『すぐ出ます』

 

 状況の如何によっては、八神はやて司令が艦長を務めるLS級艦船ヴォルフラムの出撃もありえる。

 フッケバイン一家は、次元航行戦艦を一艦用立てるほどの相手なのだ。

 

『フェイトさんとティアナも現場に向かってます。現地で合流してください』

「了解!」

『AEC武装の方はどうです?』

 

 通常の魔法が効かないEC適合者(ドライバー)への対策として開発されている、対エクリプス(Anti-EClipse)武装。その動作テストが、今回ヴィータがカレドヴォルフ社を訪れていた理由だ。

 

「あたしの03とスバルの07はもう現場に出せる。なのはの00と02は今──」

『ちょうど最終調整(ファイナライズ)終わったよ』

「なのは!」

 

 試射室から通信を繋いだ高町なのは一等空尉が、ヴィータの言葉を引き継いだ。

 

『といっても、CW-AEC02Xの『ストライクカノン』だけだけどね』

『大丈夫です。当面00は、なのはさんしか使いませんから』

 

 ストライクカノンの最終調整(ファイナライズ)が終わったのは僥倖だ。これでエリオを前線に出すことが出来る。

 ECディバイダーが『魔導殺し』と呼ばれる由縁。それは、魔力エネルギーの結合分断が行えるからだ。

 アンチ(A)マギリング(M)フィールド(F)に近いが、あれとは違い任意に(アクティブ)発動することができる分、強力だ。そのため、一方的に魔力によって生み出された弾丸やシールドが全て無力化されてしまい、ECディバイダーとの戦いにおいて魔導師は生身の人と変わりなくなってしまう。

 

『それじゃあ02は現地に直接持ってくから、先行して武装の説明だけはしておいて。今のエリオならそれだけである程度使えると思うから』

『わかりました! ──あっ、今出動要請(スクランブル)でました! 魔法使用、全面許可します』

「了解、それじゃ現地で!」

 

 言うか早いかヴィータは通信を切り、バリアジャケットを装着して飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 森の上空で騎士と剣士が切り結ぶ。

 一合打ち合う度に火花と魔力光が激しく明滅し、夜の帳を剥ぎ取っていく。

 

「いるものだな、強者という奴は」

 

 シグナムとの鍔迫り合いの最中、サイファーは笑みを浮かべて言葉を漏らす。

 日々戦いを求めていたサイファーであるが、その実、強者と相見(あいまみ)えたことは少ない。

 それは単にサイファー自身が強者であり、彼女と対峙する者の多くが彼女と比較して、戦いにすらならない弱者だったからだ。

 本当に久しぶりな、自分と同じかあるいはそれ以上の手練との戦いに、サイファーは楽しくて仕方が無かった。

 

 一度二人は離れ、また同時に踏み出す。

 今度は互いに手数で押すため、鞘すらも使って激しく打ち合う。瞬く間に数十合が打たれるが、互いに皮は切れても肉は切れず。

 このまま切り結んでいても埒が明かないと判断し、シグナムは一枚手札を切る。

 

『Schlange form』

 

 レヴァンティンが剣から連結刃(チェーンエッジ)へと変じ、それまでの直線的な剣筋から変則的かつ伸縮する間合いへと変わる。

 サイファーは咄嗟に守りの型へと構えを変え、数合剣尖(けんせん)を弾くが────

 

「ッ!」

 

 あまりの速さに目が追いつかず、気付いた時には目の前に剣先が迫っていた。

 慌てて首を捻ることで致命傷は避けられたが、頬を肉まで切られる。

 ECドライバーにとってこの程度傷は何の意味も持たないが、剣士としては先に一撃を入れられたことで、相手が自分よりも一歩先にいることを、はっきりと自覚した。

 

『Schwent form』

 

 それはシグナムも同じだ。

 しかし連結刃も、その速さに目が慣れてしまえば対処されてしまう。

 レヴァンティンを剣へと戻し、仕切り直しのために一度距離を取る。

 

(フィールドエフェクト分析完了! 行けるよ、シグナム!)

(良し────来い、アギト!)

 

「「ユニゾン、インッ!!」」

 

 アギトがシグナムの胸へと飛び込み、その本来の機能を発揮する。

 激しい炎が二人を包みこみ、そしてそれが内側から弾け、融合を果たしたシグナムが現れた。

 その背にある二対四枚の炎の翼は、辺りを昼間のように煌々と照らしだす。

 明らかにそれまでとは違うことをサイファーはすぐに感じ取る。一歩ではなく、一段ギアが上がったのだと。

 

「最後に聞いておく。その刀はEC兵器の一部(ディバイダー)で、貴様は凶鳥(フッケバイン)の一味だな?」

 

 だがすぐに斬りかかってくる様子はない。

 ならばとサイファーは刀と一度鞘に収め、その問いに応じる。

 

「確かにこいつはディバイダーNo.944で、私はフッケバイン一家の最初期からのメンバーだ。それを問うということは、我々に何か因縁でも?」

 

 首元にある(あざ)、フッケバイン一家である証を見せ、サイファーは逆に問うた。

 

「三ヶ月前──第14無人世界の開墾地。その地で貴様らが殺した人々、民間人67名と局員12名を覚えているか?」

「ああ……そんなこともあったな」

 

 シグナムは以前、そこに部下と視察に行ったことがある。平和で穏やかで、みな生き生きとしていた。

 何か特別な物を持っていたわけでもない。只々、穏やかな開拓者たちの姿がそこにあった。

 

「そんな人々を貴様等は虐殺した。理由は、何だ?」

「つまらん殺しは私の本意ではないが、色々必要もあってな」

 

 だがまあ、喜べとサイファーは言葉を続ける。

 

()ったのは私だ。あの日あの地で、大人から子供まで皆殺しにしたのは────間違いなく、この私だよ」

「────そうか」

 

 刹那、シグナムの姿が消える。

 サイファーがそれに反応できたのは、己の本能に従ったからだ。命の危機に対する反射的な行動。

 一瞬で間合いまで踏み込み振るわれた横薙ぎの一閃を、サイファーは刀に両腕を添えて受け止めた。ゴキリッと添えた腕から骨の砕ける音がする。

 このまま受け止めていてはマズイと判断し、サイファーは受けた衝撃を下方へと逃がすことで自ら弾かれて距離を取る。

 だがシグナムの手は止まらない。むしろ、次が本命だ。

 

紫電(しでん)──」

 

 上段へと振りかぶった剣が、高密度の魔力により豪炎を上げる。許容量を超えて溢れた魔力が稲妻へと変わり、バチバチと音を立てる。

 

一閃(いっせん)ッ!!」

「ッ!」

 

 対するサイファーは、居合抜きによる最速の刃にてその一撃に迎え撃つ。

 しかし、態勢を崩した状態からの一撃は、全力を込めたシグナムの一撃の前では刹那の均衡しかもたらさず、サイファーは爆炎と共に地面へと叩きつけられた。

 あまりの衝撃に地が揺れ、土煙が舞い上がる。

 

(やったっ!?)

「いや、腕一本だ(・・・・)

 

 頭の中天から両断する気でいったが、刹那の均衡の内に身を捻り躱された。

 その切った時の感覚に違和感を覚え、シグナムはレヴァンティンに目を落とす。

 刀身にはあちこちに(ひび)が入っていた。防御や武器の硬さではない。サイファーを切ったことの結果だ。

 シグナムは油断なく落下地点を見つめる。

 魔力の炎と土煙が収まったとき、そこには巨大なクレーターが出来ていた。

 

「凄まじいな……! 分断(ディバイド)がまるで間に合わなかったぞ」

 

 クレーターの中心で片膝を付くサイファー。その右腕は根元から無くなっていた。

 生身のままなら、間違いなく死んでいたことだろう。片腕で済んだのはECディバイダーになったお陰だ。

 

「どうやら久しぶりに、本気を出せそうだ」

 

 サイファーは切り飛ばされた右腕の付け根に魔力を集める。

 回復魔法で傷口を塞ごうとしているように見えるが、ECディバイダーとなるとその行為の目的はまるで違う。

 

「──ぐッ!!」

 

 ずるりと傷口から右腕が生え(・・・・・)、その痛みにサイファーは思わず声を漏らす。

 中期以降のエクリプス感染者の症状だ。腕の一本程度なら瞬時に再生できる。

 手を握ったり開いたりしてその具合を確かめ、サイファーは空にいるシグナムへと向き直る。

 

「おい、騎士! お前が言っていた開拓地の連中だがな、最初の10人あまりはこの刀で切った」

 

 先ほどから手にしている刀を見せつけるようにして言った。

 そして更にサイファーは続けて言う。

 

「残りの全員はこれから見せる武装で喰った」

 

 サイファーはベルトにつけていた黒いナイフ型のデバイスを抜くと、それを自分の手のひらに突きつける。

 

『Engage König 944』

 

 そして躊躇なく、手のひらへと突き刺した。

 

React(リアクト)

 

 シグナムがユニゾンした時のように、魔力の奔流がサイファーの姿を隠す。

 そしてそれが内側から弾けたとき、サイファーの手には二刀一対の黒刃が握られていた。

 これこそが、サイファーのEC兵器(エクリプス)の機動状態。ディバイダー944、ケーニッヒ・リアクテッド。

 世界を殺す猛毒である。

 

「さあ、第二ラウンドと行こうか」

 

 空へと戻ってきたサイファーに対し、シグナムは油断なくレヴァンティンを構える。

 

「アギト、行けるか?」

(捕獲システム、セット完了。接触状態を0.2秒もらえれば掴まえられる!)

「良し──」

 

 互いに隙を窺いながら、じりじりと距離を詰めていく。

 だが、そこでシグナムにとって想定外の事が起こる。

 サイファーのリアクトに共鳴するかのように、稲妻のような魔力の奔流が森より上がった。

 

「どうやら、あの少年も目覚めた(・・・・)ようだな」

 

 不完全ではあるが、間違いなくリアクトの反応。

 それは、先ほどリアクトプラグと共にいた少年が、EC感染者(キャリアー)から、EC適合者(ディバイダー)へと成ったということだ。

 

「EC感染者は発症すれば元には戻らん」

 

 魔法を基盤に置いている世界にとって魔導殺しは天敵であり、そんな世界では少年はもう生きられない。

 

「どうする、公僕? 私もあの少年も、社会の毒と斬って捨てるか?」

「…………」

「だが我々、フッケバインは彼を見捨てんぞ」

 

 同じ病に感染し、世界に憎しみを抱くならば。

 彼はもう、フッケバインの同志だからだ。

 

(──アギト、融合を解いて下の子供たちを頼む)

(なっ、ひとりで相手するなんて無茶だ!)

(わかっている。だがどうにかして、どちらも捕獲しなければならん)

(~~~ッ! 遅延魔法を置いてく。左手に火炎弾、右手に捕獲輪だ!)

(ああ、心得(こころえ)た)

 

 それまでじわりと距離を詰めていたシグナムは、一拍の溜めを置く。

 サイファーはそれを一気に距離を詰める前動作と受け取り、自身もまた溜めを作る。

 

((ユニゾン、アウトッ!))

 

 融合を解く際に発する眩い光を目くらましにして、アギトは森にいる少年の元へと飛ぶ。

 それにぴくりとサイファーが反応し、隙が生まれた。

 シグナムは左手に込められた火炎弾の魔法を発動し、十数もの火炎弾をサイファーへと放つ。

 

「ふん、無駄だ」

 

 己へと迫る魔法に対し、サイファーはひと振り黒刃を振るった。

 たったそれだけで魔法はその構造を分断され、霧散する。

 シグナムとて、火炎弾で仕留められるなど思っていない。あくまでアギトから自分へ攻撃の矛先を変えるための牽制であり、同時にシグナム自身が間合いに飛び込むための囮だ。

 

「ッ!」

 

 サイファーがシグナムを視界に捉えた時には、すでにレヴァンティンは振り下ろされていた。黒刃で受けることは間に合わない。

 首筋へと迫る剣に対し、サイファーは左腕で受け止めるべく構えた。

 シグナムは腕ごと落とす気で剣を振るい────

 

 レヴァンティンが砕け散った。

 

「なっ!?」

「残念だったな。私じゃなきゃ、腕くらいは落ちていただろうさ」

 

 EC感染者の肉体は、様々な『病化』を起こす。

 特に肉体強度の病化は、感染者の肉体そのものを兵器へと変貌させるが、そのことはシグナムも知っている。知っていて、斬れると踏んだ。

 誤算を生んだのは、サイファーの病化は単なる肉体強度の上昇ではなく、対物理攻撃機能というべきものだったことだ。

 

「さらばだ、公僕(こうぼく)

 

 驚愕によって生まれた隙を、サイファーが見逃すはずがない。

 シグナムは咄嗟に後方へと跳ぶが、サイファーが二刀を振るう方が速い。

 右肩から左腿までの袈裟斬りの一刀、左肩から右腿までの袈裟斬りの二刀が、シグナムの肉を深く切り裂き、血飛沫が上がった。

 糸が切れたかのようにシグナムの身体からは力が抜け、重力によって地に堕ちる。

 

「シグナムッ!?」

「そうか、小蝿(こばえ)もいたな」

 

 視界の端でそれを見ていたアギトは、シグナムが堕ちたことで足が止まった。

 サイファーはその声で居たことを思い出し、右手の黒刃をアギトに向けると、力任せに魔力を放出する。

 

「しまッ!」

 

 轟音と共に放たれた魔力砲はアギトを捉え、数百メートル先の地面へと叩きつけた。

 土煙が上がったせいで生死の確認はできないが、そこそこ力を込めて撃ったのだ。無事では済まない。

 

「楽しかったぞ、公僕」

 

 眼下で倒れ、ぴくりとも動かぬシグナムに向かってサイファーは声をかける。

 そうだ、ここのところつまらぬ殺しばかりで飽いていたのだ。今回も破損したプラグ一つを斬るだけで終わるかと思っていたが、思わぬ食事(・・)ができた。

 

「剣の勝負では危なかったが、殺し合いでは私の勝ちだ」

 

 それに、凶鳥(フッケバイン)に手を出すということが如何に愚かであるかを、改めて世に知らしめるには丁度いい獲物だった。

 この騎士を殺せば、フッケバインを追おうとしている特務の連中にも、それがよく伝わるだろう。

 サイファーは(とど)めを指すべく、シグナムの心臓を狙い黒刃を投じた。

 それは寸分違わずシグナムの右胸へと向かって飛び────

 

 

 

 

 

 割り込んだ大剣によって弾かれた。

 

 

 

 

「何ッ?」

『いや、恐ろしいくらいドンピシャ。足遅いミズーリ置いてきて正解だったぜ』

 

 サイファーの黒刃を防いだ幅広の大剣がゆっくりと構え直され、その影になっていた者が姿を見せる。

 コートの上からも分かる、戦いに最適化された体躯。こちらの一挙手一投足を見逃さない瞳。

 何よりも、傷ついた者を後ろに庇いながらも、全く隙を見せぬその力量。

 間違いない、こいつも強者だ。

 

「──何者だ」

「アークス────アンタの天敵さ」

 

 不敵な笑みを浮かべ、ザンバは言い放った。

 

 

 

 






Tips

アークスの服:防御力に関係ない。ファッション。

サイファー:フッケバインの一人。褐色ボンキュボンのネーチャン。巻頭カラーページがエロい。

ダークファルス:ダーカーの親玉。ほっとくと宇宙が滅びる。
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