かつて、コードGを起因とした重桜の赤城と、ユニオンのエンタープライズ。そしてオロチの起動にによる海戦。オロチ戦役となずけられたそれは、オブザーバーの撤退と共に、痛み分けをする形に収束する。
新たに、アズールレーンに鉄血・重桜を加えて新たな形を成していく。
『戦いは、いつの世も変わることはない……』
ビュリファイアーからプロトタイプと称された、コードGを起因とする特異点。そして、オブザーバーの策略により、黒いメンタルキューブにかつて存在した天城の影を見た赤城は、オロチ計画を実行にうつす。
慕った姉の姿をオロチに投影した赤城は、長門や武蔵をうまく扇動し、セイレーンの技術を利用して天城の再臨を願っていた。しかし、黒いメンタルキューブをコアにしたオロチは天城の皮をかぶったセイレーンでしかなかった。
「あなたも、この世界でのカギとなるのね。」
そんな捨て台詞を置き土産に残し、オブザーバーほかのセイレーンたちを引き連れて海域を去っていく。後に残ったのは、起動したオロチと戦火の海だった。
天城の皮をかぶったオロチは、大ダメージを受けた重桜の基地から脱出した長門、陸奥ほかKAN-SENたちが、艦隊を組みオロチ打倒に舵を切っていた。そうしてオロチを追った長門たちと、同じようにオロチ討伐を目的として集結したエンタープライズ他、ユニオン・ロイヤル陣営の錚々たるメンバーで海域に集結したのだった。
ここに、オロチ討伐という最終目的に対し、重桜・鉄血。アズールレーンの、ロイヤル・ユニオンの大連合艦隊アズールレーンの最初の海戦が始まっていく。
~オロチ海戦~
そう呼ばれるようになったこの海戦は、それまで理念の食い違いからバラバラになっていた各陣営。重桜、鉄血、ユニオン、ロイヤルの四大陣営の共闘に至るキッカケを作った海戦として、知られるようになっていった。
オロチ海戦集結後、各陣営の主要KAN-SENたちは各々の港へ戻った後、復興へと舵を切る。そんな中、陣営の長達が大連合の会談をするために、アズールレーンの基地のひとつに集結していた。
*
セイレーンに利用され、オロチ計画を主導した赤城・加賀は、重桜の基地での一定の謹慎処分を受けたものの、その待遇は通常の謹慎とは異なっていて、重桜の港の復興を兼ね、厚遇を受けたのだった。
その一方で、ユニオンのジャベリンやラフィー。ロイヤルのユニコーンと親睦があり、オロチ海戦でもアズールレーン側で協力していた綾波は、一度重桜へと戻ったものの、それ以降は重桜の使節としてユニオンに在籍することになっていた。
「綾波ちゃんは、長門さんたちを迎えるんでしょ?」
「そうです。緊張します……」
「んー。いつもの綾波のままで…」
「そんなわけにいきません。」
海岸のカフェで話をしながらジャベリンとラフィーは、これからユニオンに集まる重桜の話をしていた。
「あぁ、確かに。長門さんも陸奥さんも、重桜のトップだもんね。」
「そ、そう。です。なので、緊張します。」
会談に先立ち各陣営からは、使節となるKAN-SENがユニオンの基地へ先行在籍していた。
鉄血からはニーミが先行して在籍し、重桜は綾波という担当分担になっていた。先行してユニオンに在籍することで、双方の橋渡しの役割と情報交流。共闘に至る橋渡しの役目を、ニーミと綾波が担っていた。
特に綾波は、先行部隊としてその速さを活かし、セイレーンの足止めなどを行っていた。しかし、外交関係は守備範囲外。まして、重桜のトップでもある長門に陸奥を出迎える必要があるため、緊張しない方がおかしい。
「き、緊張する…です。」
「あなたも?」
「えっ?」
「あっ、ニーミちゃん!」
「ん。にーみ。」
ジャベリンとラフィー。そして綾波の会話に混ざってきたのは、鉄血の出迎えをすることになっているニーミ。彼女も外交自体は苦手な部類に入る。
「オイゲンさんはともかく、ビスマルクさんまで来るんですから、緊張しない方がおかしいです。」
「ビスマルク…さん?」
「えぇ。あのお方、怖いんですよ。いつもそんなに会話をしませんし、要点を真っすぐに言ってくれる方なので……」
綾波の横に座り、ガックリと肩を落とすニーミ。ジャベリンからすれば、物知りで賢いニーミのガックリと肩を落とすその姿に、よほどに緊張していることを感じ取れていた。
「そんなに大変なんですか? ビスマルクさんって……」
「あの方は、真面目だからね。気難しいってわけじゃないけどね。」
そんな話をしていると、どこからともなく……
「なーに? 私はともかくって、どういう事よ~」
「ちょっ!! オイゲンさん!?」
あきれ顔のジャベリンを他所に、ニーミの体を後ろから抱き着いたオイゲンは、子供を愛でるようにしてニーミの頭を撫でる。
「ちょっ。オイゲンさん!!」
「あたしも、鉄血の代表みたいなものでしょう? それなのに……」
「あ、あなたは、そんなに気負わなくても……って。頭を撫でないでください!!」
「あら、いいじゃないのよ。つれないわね。」
「はわわわぁ!!」
目の前で繰り広げられる絡みに、真っ赤になってしまうラフィー。そして、その隣で真っ赤になってしまう綾波という状況に、ニーミも恥ずかしくなってしまう。
まるで子供をあやすように頭を撫でるオイゲン、それにされるがままになってしまうニーミと、微笑ましい空気が五人を包む。
「もし、あなたたちがいいなら、私も立ち会ってあげるわ。緊張するんでしょう?」
「いいんですか? 私も長門さんや陸奥さん、ビスマルクさんに会ってみたいですっ!」
「ふふふっ。いいお返事ね。」
遊撃隊の一面もあったオイゲンは、ニーミと共にユニオンに来ていたものの、あくまでもビスマルクの代わりとしての位置づけ。そのため、使節として移籍するのはニーミだけで、オイゲンは飾り見たいなものだった。
「今日の主役は、ニーミ。あなただもの、私は陰ながら見ているわ。」
「ええっ? 最後まで居ないんですか?」
出迎えのために港へ向かっていたジャベリンたちは、オイゲンと共に会話を続けていた。
「私はあくまでも、ニーミのサポートだもの。移籍もしてないしね。」
「じゃぁ、なんで来たんですか……」
呆れた表情をオイゲンに投げかけてしまうニーミ。その表情を見たオイゲンも、クスッと笑ってしまっていた。
「ふふふっ。そんな顔をしないの。使節の顔が台無しよっ。それに、綾波も……」
「は、はい。」
「緊張しすぎはいけないわ。普段ならできる、何でもないことでも。緊張するだけでできなくなってしまう事なんて、五万とあるわ。だから……」
波止場に向かって歩く、ニーミと綾波。そしてジャベリンに向かい合うようにして止まると、お姉さんらしい仕草で……
「重桜の使節や、鉄血の使節という名はたいそうなものが付いているけど、いつもの調子でいいわよ。」
「はいっ!」
「はぁ。あなたみたいに単純にできて……」
同じ陣営で見知った中ということもあり、屈託のない言葉を紡いでしまうニーミ……
「なーに? この口かしらぁ?」
「ふぃふぁいですぅ!!」
「ふふふっ。」
波止場の上を、賑やかに歩くオイゲンとニーミ。そして、クスクスと笑う綾波とジャベリンという温かな光景。
「仲良しのようだな。綾波よ。」
「えっ!? 長門さん! それに、陸奥さんも……」
「オイゲン……またニーミをいじって……はぁ。」
「これは、愛情よ。ふふふっ。」
「び、ビスマルクさん。」
ちょうど港に到着したのが同じ時間だったのか、長門に陸奥。そしてビスマルクがほぼ同じタイミングで会談に向けて、寄港していた。
「彼女たちったら、緊張しているって言ってたからよ。気負わないようにね。」
「まったく……。あぁ、そうだ。彼女が……」
「プリンツ・オイゲンよ。よろしくね。長門に陸奥。」
「あぁ、よろしく頼む。」
「よろしく頼みます。オイゲンさん。」
陣営の垣根を越え、重桜の長門と握手するオイゲンは、使節の綾波と共に会談の会場となる応接室へと向かっていく。その応接室では、各陣営の長が顔を連ねる。
ロイヤルのクイーン・エリザベス、鉄血のビスマルク。重桜の長門に陸奥。そして、ユニオンの代表として、控室では悶々としているKAN-SENが一人……
「わ、私なのか!?」
「はい。私はロイヤル所属ですし。それに、メイドですからね。あなた以外に適任はいないかと……」
「うぐっ。私は、こういった表舞台は苦手なんだ……」
「それに、先の海戦での立役者でもありますからね。これほどの適任はいません。」
控室で身だしなみを整えるKAN-SENのそばで、ベルファストがさらにそのKAN-SENの微調整を行う。長く伸びた綺麗な銀髪と、白い軍帽。黒い軍服を着流しているそのKAN-SENは、真っ赤な顔をしながら戸惑っていた。
「姉貴ほど、適任はいないって……」
「ホーネットまで……うぅっ。わ、わかったよ。行ってくる!」
応接室に通じる扉を開けると、そこでは錚々たるメンバーが顔を並べて彼女の到来を待ちわびていた。
「ようやく来たわね。さすが、ユニオンの顔といった風格じゃ。」
「長門姉、ユニオンの代表さんに、その口は……」
「よいではないか。陸奥は、まったく……」
「来たわねっ。先の海戦の立役者。」
「ですね。彼女以外にはありえませんね。ユニオンの代表は……」
「ん? 初めてお目にかかるが……ん。」
鉄血の代表から、重桜の代表。そしてロイヤルの代表と代表の会談の場に、ユニオンの代表として顔を出したのは、やっぱりこのKAN-SENだった。
「ユニオンの代表。エンタープライズだ。よろしく頼む。」
「こちらこそ。」
「うむっ! 重桜の長門だ。」
「私は陸奥。」
「我はビスマルクだ。」
「私のことはもう、知ってるわね。」
「こちらも知ってるわね。クイーン・エリザベスよ。さ、始めましょうか。大連合艦隊の会談を。」
「えぇ。」
そうして始まった大連合艦隊アズールレーンの初回会談。緊張の面持ちのエンタープライズと、各陣営の猛者たち。こと、会談といっても、そこまで難しい会談ではない。各陣営の情報共有や、陣営の垣根を越えた共同演習など、対セイレーンに対しての対策と調印が主。
連名での調印や、大連合に関する情報共有などの決まり事を、淡々とこなしていく各陣営の長達。そんな中で、鉄血の代表を務めるビスマルクは、会談に臨むエンタープライズの方を、ちらちらと眺めてしまう。
「こうして会うのは、初めてだな。オイゲンなどは、良く相手をしてくれていたが……」
「あぁ。こうして、同じ目的に向かって歩む同士になったんだ。よろしく頼む、エンタープライズ。」
「だなっ。こちらからもよろしく頼む。なにせ、ユニオンの代表と言っても、皆に推薦されたからなんだが……それでも。勤め上げるつもりだ。」
一応に会談と調印式を終え、大連合アズールレーンとなり、ユニオンの廊下を歩くビスマルクとエンタープライズ。鉄血の長とユニオンの長、陣営を越えての共闘に胸が躍るエンタープライズと、複雑な感情を抱くビスマルク。
「よろしく頼む。ビスマルク。」
「あぁ、よろしく……っっ!!」
「ん?」
廊下に差し込む光の中で差し伸べられたその手を握ろうと、エンタープライズの方を向いたビスマルクは、思わず身構えてしまう。空母のエンタープライズと、戦艦のビスマルクは、ビスマルクの方が少しだけ身長が高い。
そのため、少しだけ見下ろす形になってしまうビスマルクの陰から、光が差し込んだことでエンタープライズの綺麗な銀髪が光り輝く。
『話には聞いていたが……こんなにも……』
「ん? ビスマルク? どこか具合でも……」
「あっ、いやっ。何でもない。こちらこそ、よろしく頼む。」
「あ、あぁ。」
ビスマルクの脳裏には、もう一人のKAN-SENがよぎっていたが、それをエンタープライズが知る由もなかった。
『ん? まぁ。鉄血の気苦労もあるだろうからな……』
ビスマルクの様子に首を傾げつつも、大連合アズールレーンはこうして動き出したのだった。